理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
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4. 斜面上ではまちがえる−−−3力のつりあい



[授業のねらい]

この場合にも, まずその物体にはたらいている力を発見できなくてはなりません.
その上で初めて, それらの力がつりあっているかどうかを問題にできるのですから.

物体にはたらく3力がつりあうときには, まずその3力の作用線が一点で交わらなくてなりません. 逆にこのことから, 物体には, 力がどのようにはたらいているかがわかるこ
ともあります.



[授業の展開]

1 どの物体について, 力のつりあいを考えているのかがいえるか.

2 2力のつりあいが理解されているか.

≪問1≫ 斜面上に静止している木片にはたらいている力のつりあいについて考えなさい. 力の矢印には, それがどんな力なのか, 説明しなさい.           
                             (図p24)

ここでは,§3の≪問5≫で生徒が書いた図や, 教科書, 参考書などに載っている図を使います. 実際にこのような状態にある木片を, 机の上にセットしておきます. いろいろ
な図がでてきますが, 下のような図を例にします.

<××力>とか<××しようとする力>といういい方はやめよう, という約束は,
もう忘れている模様です. というよりも, 押されるでもなく, 引かれるでもない力―摩擦力―をどう表現していいかわからなくて, とまどっているのかもしれません.

まず, 1図では摩擦力が面に沿ったところにはたらいていないことの不備を指摘します. 摩擦力が物体の重心にはたらいているのはおかしいということは, みんなが納得
します. しかし, それでは摩擦力の作用点をどこにしたらよいのでしょう. 面に沿っている物体の中ならどこでもよいのです. 

まず, 物体の変形を心配しなくてもよいときには, 作用点はその力の作用線の上のどこに移動させても, はたらきは同じなので, 必要によってはそうしてもよいということを説明
します. これを<作用線の定理>ということも, つけ加えておくとよいでしょう.

 つぎに「抗力」が重心にはたらいているのもおかしなことです.また,生徒が抗力と書いているのは, 垂直抗力のことだ,ということを教えます.そして, その垂直抗力の作用
点は面が触れ合っている近くの, 木片の中に書かなくてはいけないことを思い出させます.

 2図は, これらの条件を満足しています. しかし, この図にも欠点があります. 重力と抗力の合力が, 摩擦力と偶力を形成して, 物体は回転してしまいます. ここでは, 偶力を
教えようというのではありませんが, このことは, 3力の作用線が一点で交わっていないことからくる不合理であることを教えます. <作用線会合の法則>とでもいっておきましょう.

 さて, それではどうすればよいでしょう.重力と摩擦力の作用線が変えられないとすれば, あと残されたものは, 垂直抗力しかありません.最後にでてくるのが3図です.
やっとできあがりました.

しかし, このようにもたついたのは, スタート点がまずかったからです. 木片にはたらく力の第一は地球が引く力(重力)で, あとは斜面から受ける力です.

どうです. 正解図がなんとすっきりしていることか! 斜面から受けるこの力を抗力といいます. 一つのものから一つの力を受ける, という原則を確認したいものです.

≪問2≫ 水平な机の上の木片を糸で水平に引いたが動きませんでした. 木片にはたらく力を書きなさい. (図p25)


木片は動きださないので, 木片にはたたいている力はつりあっています. いつものように力探しです. まず, 地球から引かれる力, つぎに糸から引かれる力, あとは面から受け
る力, これで全部です. 最後の力は, まえの2力の合力とつりあっているはずなので,
この<引き算の方法>で発見します. 図のようになります.

斜面の図を書いてみると, 斜面の傾斜が大きくなるにつれて, 抗力の作用点が先の方へ移動していくのがわかります.

≪実験1≫ 斜面の上に立ってみましょう. 斜面に垂直に立って, 抗力の作用点を足の裏で実感してください. 斜面の角度が増していくと, この作用点が親指のつけ根のあたりに移動
していくのがわかります. (図p26-1)

≪実験2≫ 次は, 床に垂直に立って, 水平に上げた手を友だちに静かに引いてもらいます. 斜面と同じように, 抗力の作用点の移動が感じられましたか.

抗力を垂直抗力と摩擦力に分けて書く習慣は, いつごろから始まったものでしょうか. この種の図は, 教科書でも参考書でも, みな同じように書かれています. 計算のた
めのものなのでしょうか.

≪問3≫ なめらかな壁にはしごを立て掛けられています. はしごにはたらいている力を書きない. (図p26-2)

「なめらかな」というのは, 摩擦がないという受験問題の<隠語>です.もちろん床には摩擦があります. そうでなければ, はしごは滑ってしまいます.

 なにはさておき, まず重力です. もうそろそろ, 地球から受ける力といいながら,
重力と書いてもいいことにしましょう. はしごが壁から受ける力は抗力で, この場合は摩擦がないのですから垂直抗力だけです. あとは床から受ける力ですが, この力の方向がわかりません.
さて?

これらの三つの力は一点で交わっているはずですから, その点は決まります. つまり, 重力と垂直抗力の作用線の交点(図のQ)がそれです. 床からの抗力はその点に向
かっています. これで図が書けそうです. 力の大きさは作図で簡単に求められます.

重力:壁からの垂直抗力:床からの抗力=QP:NQ:RQ となります. 力の矢印の長さが<うまく>書かれていることに注意してください.

 このような場合に, はしごが床から押される力の作用線をはしごの中に書く生徒が大勢います.糸のような剛性のないものから受ける力−糸の張力−の作用線は, その糸の方向にありますが, 一般に力の作用
線がその物体の中になければならない「義理」はありません.このことも, 生徒にしっかり教えておきたいものです.

≪実験3≫ 厚紙を三角形に切り, 三つの頂点の近くにあけた小さい穴に糸をとりつけ, それを3本のばね秤で引いて, 3力のつりあいの関係を確かめなさい.

≪実験4≫ 野球のバットの両端に, バットの長さの2倍くらいのひもの両端を結びつけ, ひもを壁の釘にかけてバットを吊ります. バットにはたらく力を考えなさい.   
                              (図p27)



[まとめ]

1 3力のつりあいでは3力の作用線は1点で会します.

2 力はやたらに分解してはいけません.

3 生徒が抗力だと思っていたものは垂直抗力です.

4 糸から受ける力の作用線は糸の中(あるいは、その延長上)にあります.

5 <作用線の定理>や<作用線会合の法則>を使えるようにしましょう.
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石井信也