30. 体積とは容器の容積のこと−−−気体の圧力
 
 [授業のねらい]
 気体を分子運動論的に学習する前に,気体を熱力学的に学習します。初めは気体の体積と圧力についてです。
 
 [授業の展開]
 まず,空気から始めます。空気に重さがあることは建前としてはわかっていても,確信をもっている生徒は少いようです。それどころか,空気はものであるという認識が不確かな生徒もいます。
 ≪実験1≫ 空気圧入缶で,空気の重さを測りなさい。
 この実験を§9の≪実験1≫で終わっている場合は,ここでは省略します。
P こんな小さいところに,あんなに空気が入るとは思わなかった。
P 620ccのボンヘに3000ccの空気が入るの?
P その分,中の空気は濃いんだ。
T 620ccの体積のところに押し込まれて濃くなった空気が,外に出てくると3000 cc の薄い−これが標準なんだけど−空気になったんだ。
P 気体の体積って,気体が入っているいれものの大きさのことか?
 頑張った班は4.0gの空気を押し込んで,体積3. 5lを捕集しました。空気の平均密度は1.13g/lでした。
 “空気を入れるとボンベは温かくなり,空気を出すと冷たくなる”という経験がおまけにつきました。
 ≪実験2≫ 注射器のピストンを引いて真空をつくろう。
 学校には大小数種類の注射器(一部はかん腸器)を用意しておきます。ピストンをいっぱいに差し込んだまま,注射器の口を指で封じてから,ピストンを引きます。注射器の口は小さいので,指でじかに押さえても大丈夫です。ピストンを引き技くときには,真っすぐでないと壊れることがあります。
 P 太いのはなかなか抜けない。   
 P 細いのは老人用だな。         
 T 中にはなにがあるの?       
 P 真空。               
 T 手を緩めるとピストンが元にもどるのは?
 P 真空が引っ張る。
 T  真空って,なにもないんだろ。それが引っ張るの?
 Ps  ……? 
 T  その引っ張りの大きさを測ってみよう。
 注射器の口(針のつく側,いまは封じてある)を上にして,注射器のボディーを両手て鉛直に支えた生徒がヘルスメーターに乗り,ヘルスメーターの目盛りを読みます。ヘルスメーターに乗っていないもう一人の生徒が,注射器のピストンを持って,それを引き下げた状態でヘルスメーターの目盛りを読みます。その差を計算します。                          (p140  No1)
 ピストンはどこまて引いてもその力は同じてあることを確認します。エキスパンダーとの違いはどこか,考えさせます。
 太い注射器のピストンの直径は4.16cmてす。秤で測った「体重」の差は約14 kg でした。これから,14÷(4 16/2)^2×3 14=1.03 これて,大気圧は約1. 0 kg/cm^2とわかります。地球の表面積をcm^2て計算すると,地球上に遊離している空気の総量がわかります。
P 注射器を引く実験では,中に空気が入ってゆけないから,ピストンを引いても抜けないと思った。
P あんなに簡単に真空ができるとは思わなかった。
 ≪実験3≫ 塩ビのパイプで2階から1階の水を吸って飲みなさい。
 私は2階からでも飲めませんでしたが,生徒のなかには3階から飲める者もいました。生徒は”吸い上げている”という意識か強いようてす。
 水が飲める高さは,パイプの太さによります。“大気圧だから管の太さによらない”などと考えがちですが,そうではありません。文化祭てやるときには,塩ヒのパイプを教室の天井で吊って,そこまで往復させ,目の前の机の上に置かれたジュースを吸うという趣向はどうでしょう。パイプは細いものと,やや太いものを3〜4種類用意すると楽しくなります。
 ≪実験4≫ 真空ポンプを使って水を屋上(四階)まで上げなさい。
 校舎の階段の隙間を使って,繊維入りの丈夫な塩ビパイプ(外径1. 30cm,内径0. 90cmのものを使いました)で水を「吸い上げる」ことにしました。
塩ビパイプには巻き尺が添えてあり,生徒たちは階段の途中で,上昇する水を観測することにしました。
 1階のバケツの水の中に塩ビパイプの一端を沈め,11.1mの屋上で,塩ビパイプの他端から真空ポンプで空気を技きました。水はどんどん上がっていき,約9.8mのところで,<おいてきぼり>をくいます。真空ポンプが勤いていても,水はそれ以上には上がりません。
 真空ポンプが使えないときには,1階のバケツの水の中でパイプに水を満たしてから一方の端をゴム栓で閉じて,その端を持って階段を屋上まで上ります。水の中に溶けていた空気が,減圧で抜けだしてきてパイプの上の方にたまったら,パイプをバケツの水の中にもどしてたまった空気を抜きます。
P 9.8っていうのは,こういうことなのか(gと勘違い? )
P もっといい真空ポンプを使えばもっと上がるんだろ。(ロー・アチーバーのの学校の生徒諸君は, 理科の実験道具も, 教員も「それなりの程度」だと思っているのです)
T なにを使っても,これ以上はだめなんだよ。
P どんなことをしても? じゃ,あの松の木はどういうことになっている の(松の木は20mもの高さがある)
T ? 生物の先生に聞いてごらん。
 この実験では,最後にパイプの下端を指ておさえて水から出し,そこに薄くて丈夫な紙をくっつけておいても水が落ちてこないのを見せます。 機会をみて,浸透圧と押し上げポンプの話をします。
 ≪問1≫ 大気圧は水柱を10m押し上けます。水銀柱ならとれだけ押し上げますか。
 パイプの太さに関係ないことは<重ね合わせの原理>でわかります。
 水銀の密度13.6g/cm^3から,高さは76cmくらいになります。ちなみに,空気が地上と同じ密度1.2g/lで積み上がっているとすると,その高さは8.3km程度になります。
 大気圧を76cm・Hgと書く場合もあるという話をすると,10 m ・H20 はどうか?という提案がありました。それなら,8.3km airでもいいわけてす。
 空気はだんだん薄くなって限りなく続いているとみなして,∞km ・air と書きたいくらいの気分です。大気圧はず−っと高くまで積み上がった空気の重さのことであることをわからせます。
 ≪問2≫ 地球上の遊離している空気の総量を求めなさい。
 答 5.1×10^18kg     4π(6.4×10^8)^2×1[kg]=5.1×10^18[kg]
 ≪問3≫ 新幹線に乗っていてトンネルに入ったとき,耳にへんな感じ(圧感?)を受けますが,このとき車内の圧力は高くなったのか,低くなったのかを判定する方法を提案しなさい。
 ゴム風船を持っていく,注射器を持っていく,携帯用の気圧計を持っていく,ガラス容器を水の中に逆さに立てる,試験管にサランラップの蓋をする,…
 修学旅行の際,私がやった実験を紹介しました。駅で買ったお茶の容器は気密になっているので,蓋に穴をあけてストローを差し込み,ご飯つぶで隙間を埋めます。ストローを吹くと,容器の中に空気が入って,お茶がストローを上がってきます。でも,すぐに水位(?)が落ちてしまったのは,手で持って作業していたため,容器中の空気が温まっていたからです。その点に注意して,う一度準備をやり直しました。そして,トンネルに入るのを待ちました。トンネルに入って耳がへんになるころ,水位はどんどん上がって,ついにストローの上からこぼれ落ちました。                          (p143 No2)
 トンネルからでると水位は徐々に下って,しまいにはストローを通して外の空気がポコポコと容器の中に入ってきました。
 ≪問4≫ トンネルに入ったとき汽車の中の気圧は上ったのでしょうか下ったのでしょうか。
 ≪実験5≫ このような気圧計は簡単に作ることができるので,三角フラスコなどを使って作り,1階と屋上の気圧の差を確認しましょう。
 ≪課題1≫ 高層マンションに住んでいる生徒には<高さの差による気圧の差>という課題に取り組んでもらいましょう。
 ≪課題2≫ 自動車で山地にドライブする計画があるときには,インスタントコーヒーなどの空瓶の口をゴム風船のゴムで蓋をして輪ゴムでとめたものを持参して,それがどうなるか調べなさい。また,スナック菓子の真空パック容器がどうなるかを確かめなさい。立山の売店で売られているスナック菓子の袋はパンパンに膨らんでいます。
 ≪問5≫ 気体の体積と圧力との関係について調べる方法を提案しなさい。
 注射器とヘルスメーターで簡単にできますが,生徒の提案を待ちます。
 ≪問6≫ 圧力によって,気体の体積が変わる例をあげなさい。
 サイダーの泡,上昇気流,浮沈子,…。
 
 [まとめ]
1 大気の密度は約1g/l です。
2 大気の圧力は約1.0 kg 重/cm^2これは積み上げられた空気の重さです。
3 一定量の気体の体積は,その圧力に反比例します。
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