理科実験を楽しむ会
p18 p19 p20_1 p20_2 p21_1
p21_1 p22_1 p22_2 p23
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 

3. つりあっているのはなにーーー3力のつりあい



 [授業のねらい]

物体が静止しているときには, その物体には力がはたらいていないか, はたらいている場合にはその効果がゼロになっているのですが, 実際には, 物体に力がはたらいていないということは考え
られないので, 静止している物体においては, 力の効果がゼロ, つまり力の合力がゼロになっています. このとき, その物体にはたらいている力は<つりあっている>といいます
.

逆に, 静止している物体では, 力はつりあっているので, このことを利用して, 力を発見することができます.



[授業の展開]

≪問1≫ 10gのおもりを加えるごとに1cmのびるつるまきばねがある. このばねを2本並列に使って20gの滑車と20gのおもりをつるす. 図のF1は糸がつるまきばねを引く力,  F2はつるまきばねが
糸を引く力, F3はつるまきばねがつり輪を引く力, F4はつりわがつるまきばねを引く力, であり, つるまきばねと糸の重さは考えないことにする.

(1) F1, F2, F3, F4のうち, 作用と反作用はどれか.                         (図p18)

(2) F1, F2, F3, F4のうち, つりあう力はどれか.

(3) F1の大きさはいくらか.

(4) 右側のつるまきばねののびはいくらか.

これは, 1968年の千葉県高校入試の理科の問題の一つです. 数値で答えを出す問題は, やり方さえ覚えてしまえばできるので, やさしいともいえるでしょう. (3)と(4)の
問題は, けっこうよくできていました. ところが(1)と(2)はさんたんたるありさまでした. ちなみに, 上の問題の正解は, (1)F1とF2, F3とF4, (2)F1とF4 .

この学習が終わった段階で, もう一度この問題をやらせてみましょう.

さて, 力の学習で大切なことの第一は, 目的にしている物体を明確にすることです.
どの物体について力のつりあいを考えようとしているのか? 力のつりあいが敗れれば, その物体は運動を始めるのですが, その前段としての, 力のつりあいであることを
確認しておきます.

力のつりあいの学習では, 従来, 力がはたらいている物体が示されないまま, 力だけが書かれている場合が多かったように思われます. いわば, 無国籍の力です. あるいは, 大きさがなくて, 質
量だけをもつという理想化された<質点>をもってきて, それにはたらく力のつりあいを考えています.これも, 力の学習を混乱させる一因になっています.

≪問2≫ 机の上に静止している本にはたらいている力のつりあいについて考えなさい.

"本にはたらいて力は, じかに触れている机から押される力,                    (図p19) 

例外として地球から引かれる力" といいながら, その力の作用点をグリグリと, 少しオーバーに本の中に書いていきます. 作用点のグリグリが書かれている物体に, その力は所属していま
す.

「重力」の作用点は物体の<真ん中あたり>に, 「抗力」の作用点は<面のすぐ近くの物体の中>にというように, 生徒と書き方を約束します.抗力の作用点を境界線に書くと, 力の
所属がわからなくなります.

 記号で書くときには, 本が机から押される力は「本F机」, 本が地球から引かれる力は「本F地球」と書きます. Fの左側に書かれているのがいま問題にしている物体, つまり力Fが
はたらいている物体で, 右側に書かれているのが力を加えた物体です.

図の物体の中にグリグリがある力は,その物体にはたらいている力で<足し算をしてもよい力>です."作用点が同じ物体に所属しているとき. それらの力は足すことができる" ということを<作用
点の法則>とでもいっておきましょう.物体が静止しているときには, これらの力はつりあっています.

 このことは, 次のようにもいえます."Fの左側に書かれた物体が同じである力は足すことができる" 物体が静止しているときには, これらの力はつりあっています.

  本F机+本F地球=0

本にはたらく力の合力が0という内容を, 式で表現するとこうなります.

ちなみにいえば "Fの両側の物体が入れ替わっている力は, 互に作用反作用の関係にある力" といえます.

≪問3≫ 図のように天井からばねで吊るされたおもりを床に固定された糸で下に引いています. おもりにはたらいている力のつりあいをいいなさい.         
                            (図p20-1)

"おもりが地球に引かれる力「おもりF地球」" といいながら, 力の矢印を書かせます.次は "おもりがばねから引かれる力「おもりFばね」" といいながらそれを書きます.
次は "おもりが糸から引かれる力「おもりF糸」" です.

力の作用点がはっきりおもりの中に書かれているかどうかが問題です. 天井のところで上向きの力を書いたり, 床のところで下向きの力を書いたりする生徒がいます. それらの力は
おもりに所属している力ではありません. <作用点の法則>を確認させます.

 糸がおもりを引く力が, 糸ともりの境界に書かれていては駄目です.はっきりおもりの中に書かせます.ばねがおもりを引く力についても同じです.

 おもりには全部で三つの力がはたらいています. 地球からもらう力, ばねから受ける力, 糸から及ぼされる力, この3つの力がつりあっています.

おもりF地球+おもりFばね+おもりF糸=0

これらの力は同一直線上にあります. 下向きの二つの力(地球が引く力, 糸が引く力)の大きさの和が, 上向きの力(ばねが引く力)の大きさと等しくなっています.

力の大きさが同じことを<つりあっている>と呼ぶのが一般的(日常的,生活的)です.そのように思っている生徒がいます. 大人でもそうです. しかし, <力のつりあい>という言葉は,
学術用語ですから, 厳密に使い方が定められていることを, 教えておかなければなりません.ある物理の学者さんが ”私は等しいことを,つりあっていると,言っています”というのには驚かされました.

≪問4≫ 水平な机に置かれている本の上におもりが載っています. 本およびおもりにはたらいている力のつりあいをいいなさい.                
                   (図p20-2)

 二つの物体について, 一緒に, または一度に, つりあいを考えてはいけないことを教えます. まず, おもりについてです. 本から上向きの力を受けています(おもりF本).
地球から下向きの力を受けています(おもりF地球). この2力はつりあっています(おもりF本+おもりF地球=0).

次は本についてです. おもりから下向きの力を受けています(本Fおもり). 机から上向きの力を受けています(本F机). 地球から下向きの力を受けています(本F地球). この3力のつりあい
です(本Fおもり+本F机+本F地球=0). 本がおもりから受ける力と, おもりの重力とを混同している生徒がいます. だから, 重力というように<××力>といういい方をしてはいけない
のです.おもりの重力は<地球がおもりを引く力>で, おもりから本にはたらく力は<おもりが本を押す力>ですからまったく別の力です.この場合, この二つの力の大きさは等しいのですが, そんなこ
とには関係ありません.      (図p21-1)

このようなときには, 問題にしている物体だけ別に図を書いて, それに力を記入します.これを例のアメリカの教科書では Free-Body-Diagram と呼んでいます.

ついでに, このなかで, 作用反作用の関係にある力をいってみましょう.

≪問5≫ 斜面上に静止している木片にはたらいている力を書きなさい.               (図p21-2)

この問題を正解したら, これまでの学習が成功している証拠ですが, たぶん, そうはならないでしょう. まず, 木片が地球から引かれる力を書きます. あとは斜面から受ける力で
す. この2力がつりあっているはずですから, 力は図に示したとおりです. さて, どうだったでしょうか.

一つの物体からは一つの力を受けるのが原則です. 斜面から受ける力を, 垂直抗力と摩擦力に分けるやり方は, 昔から「反射的に」そうしてきた習慣に過ぎません. 時には便利なこ
ともありますが, 初心者には混乱のもとです. これから先のことは, 3力のつりあいに関する問題になるので, 項を改めて述べることにします. 生徒は垂直抗力を抗力と「理解」して
いるので, ここで抗力について教えるのがよいでしょう.

≪問6≫ グランドに置かれた跳び箱にはたらく力をいいなさい.

もうこの種の問題は間違えることはないでしょう. まず, 地球に引かれる下向きの力です. 次にグランドから押される上向きの力です. このように書いていたとき, 生徒の
一人からクレイムがつきました. "グランドだって地球でしょう. 一つの地球が, 一方では引いて, 一方では押しています. 一つの物体から一つの力を受けるということに反し
ます" なかなかやります. 引く方は重力, つまり万有引力です. 押す方は抗力,                           (図p22-1)

つまり電気力(の変形)です. でも, あまりむきにならないで "それは                (図)p22-2)

例外だナ" くらいでパスしてもいいでしょう" そのうちに種明かしするな, きっと"
と生徒が思ってくれるようになれば成功ですが….

 二人の手が力を及ぼしあうようなとき,力に「優先性」などを考えると,押す力と押される力が同じ手の中で二つの力として誤って記述されます. 一つの物体からは一つの力を受けるとするのが妥当
です.

力のつりあいで,大きさだけを問題にするのであれば,力を直角方向の2成分に分けて処理するのが便利ですが,これについては説明を省きます.

さて,最後は<作用反作用と,2力のつりあい, の混同>の問題です.

≪問7≫ 机を手で押しました. 手が机を押す力と,机が手を押す力は,作用反作用の原理で, 大きさが同じです. それなのに,机が動きだすのはどうしてでしょうか.

つまり, 2力のついあいと, 作用反作用の混同です. <同一直線上, 向きが反対,
大きさが同じ>という記述が同じなので, 両者の区別がつかなくなってしまうのです.


 この区別については "二つの力は, 2力のつりあいの場合には一つの物体に, 作用反作用の場合には二つの物体にはたらいている" という説明が教科書や参考書にあって, それに間違いはあり
ませんが, そのような形式上の説明ではなく,もっと本質にかかわるていねいな解説が必要です.

作用反作用は<力のはたらきに関する大原理>です.これに対して 2力のつりあいは, 着目している<物体の運動がどうなるのかの判断に関する情報>です.まったく
もって別のことです.

 相互作用の原理が, 中学の教科書から敬遠(追放)されてしまいましたが, これは,
教える側の誤解あるいは無理解が, そうさせたとしかいいようがありまえん.不幸なことです.

≪問8≫ 図を見てつぎの問いに答えなさい.               (図p23-1)

1 "2力がつりあうとどちらにも倒れない"という2力を書きなさい.

2 この2力は正しくはどのような関係にありますか.

3 左の生徒について力のつりあいをいいなさい.

4 右の生徒について力のつりあいをいいなさい. (3と4は,3力のつりあいのところで扱うので, ここでは軽く流します)

この図は千葉県の理科教育部会が編集した中学校理科のワークブックから転載したものです. ここでいう2力が図のような力であれば(それ以外には考えられません), これ
は作用反作用の力であって, つりあいの力ではありません.

§2の≪問4≫の答えは

1 文章ではおもり, 図ではばね,

2 おもり,

3 どの物体についてのつりあいかわかりません. 教科書を書いた人は, おもりがばねを引く力と, ばねがおもりを引く力が, つりあっていると思っているようです. 上の≪問
8≫をつくった人たちも同じです.

§2の≪問6≫の答えは

1 上向きの力はおもりに, 下向きの力は糸に, というつもりでしょうか?

2 そうだとすると, その2力は, つりあいの力ではなくて,作用反作用の力です.

3 結び目はものではありません. ものではなくて点のような<ところ>にはたらく力ということには意味がありません. 



 [まとめ]

1 力の作用点は, その力がはたらいているものの中に書きます.

2 一つの物体にはたらく力については, 力のつりあいが考えられます.

3 物体は, 一つのものから一つの力を受けます.

4 他の物体にはたらいている力を比較することは無意味です.

5 作用反作用と2力のつりあいの区別を明確にします.

理科実験についてのお問い合わせ等はメール・掲示板にてお願いいたします。
shinya@aqua.dti2.ne.jp.
掲示板
石井信也