29. 空気だって液体になる−−−状態変化
 
 [授業のねらい]
 物質の在りようには三つの型があります。固態と液態と気態です。その三つの状態の物質を固体,液体,気体といいます。この状態の変化を三態変化といいます。いろいろな物質の三態変化を調べてみましょう。
 
 [授業の展開]
 ≪問1≫ ものの状態には固態,液態,気態の三つの状態があります。液態のもの,気態のものをあげなさい。
 固態のものはその辺にいくらでもありますが,液態のものとなるとそんなに多くはありません。台所は,液体の宝庫(?)です。
 液体の例は,水,醤油,ソース,酢,洗剤,酒,アルコール,水銀,…。
 気体の例は,空気,二酸化炭素,水素,窒素,水蒸気,屁,… 。
 気体の例はあげられても,「見たこと」がないので,ちょっと心細い感じです。
 ≪問2≫ 三態変化するものの例をあげなさい。
 出てくる物質は,水とパラジクロールベンゼンくらいのものてす。この二つの物質は三態変化する例として,小学校や中学校で教えられますが,その
他の物質も三態変化することについては学んでいません。
 自然の法則は“すべてのものは××する” ”すべてのものは××である”という「全称形」で教えないと役にたたないのです。
 液態窒素を使っていろいろな物質を冷やしてみましょう。液態窒素を売っているところは,電話帳を調べればわかります。ジュワー瓶は貨してくれる
ところもありますが,学校で用意しておきたい備品の一つてす。地区の教育センターに備えてもらって持ち回りで使用できるようにするのもよいでしょう。
 ≪実験1≫ 液態窒素の温度はおよそ −190度です。これでいろいろなも
のを冷やしてみましょう。どのようなものを冷やしたいか,班で計画を立てて,そのものを持ち寄りましょう。
 水,牛乳,酒,メタノール,コカコーラ,マョネーズ,卵,ガソリン,不凍液,水銀,木の葉,タマネギ,軟式テニスのボール,なとが集まります。
これらを軒並みに凍らせます。
 大型ビーカーを発泡スチロールの上に置いて,これに液態窒素を注ぎます。
ビーカーが「熱い」ので「煙」がでるだけで,液態窒素はなかなかたまりません。外にこほれ落ちたものはライデンフロスト現象(だるまストーブの上にこほれた水が玉になる現象も同じ)で,小球になって跳び散ります。
 液体はみんな固体になります。水銀は「本当の」金属になります。メタノールの固体はメタノールの液体に入れると沈みます。水銀もそうです。とな
ると,水は特殊な物質だ,ということになりそうです。
 “氷水(あるいは水氷)は水に浮くが,メタノール氷はメタノールの水に沈む”という生徒の表現は見事です。
 この実験から,“すべての液体は固体になる”という法則を帰納しようとしたら,生徒からクレイムがつきました。“液態窒素は固体にならないから
だめだ”というのてす。それでは,というので,みんなで液態窒素を固体にする計画にとりかかりました。
P 液態窒素より冷たいものがないからだめだ。
P 空気の密度を測ったとき,空気が吹きてるとボンベが冷たくなったから,液態窒素を噴きださせたらいい。
T どうすれは噴きたさせることがてきる?               (p137 )
P 熱する(笑い)。
P 真空ポンプで真空にしたら(大気圧の測定で真空ポンプでひいたことが ある)。
 だいたいこんな調子で固態窒素をつくる装置をつくりました。真空鐘の中のビーカーに液態窒素を入れた試験管を立てました。ビーカーの底に断熱材の発泡スチロールを敷き,試験管に沸騰石を入れて脱脂綿の栓をしました。
 真空ポンプを作動すると,液態窒素は激しく沸騰しはじめました。「空気のもと」が入っているところから空気を抜いているのですから,おかしなものです。やがて,静かになったかと思うと,「突然」固体になりました。
 “これで固体か?シャーベットじゃねえか”生徒は「固い」固体を想定していたようで,アイスではなくてシャーベットであったことが不満なのてす。
しかし,この結果“すべて液体は固体になる”という法則が承認されました。
 ちなみに,後日,同僚の一人は,試験管から直接,液態窒素を真空ポンプでひいて固態窒素をつくることに成功しました。おまけがつきました。
空気中の酸素が試験管の外壁で液化して,ポタポタ滴り落ちたのです。
 この液体態酸素を試験管にとって,その外から強い磁石を近づけて,液面付近からずりあげると,液態酸素は磁石に引かれてついてきます。磁石を糸で吊って,試験管の横から液態酸素に近づけると,磁石は液態酸素に引き寄せられます(千葉の大村吉郎さんの実験です)。磁性体の学習や,作用反作用の
学習に使えます。
 液態窒素の入っているジュアー瓶に細いガラスパイプをさし込むと,液態窒素がガラスパイプから噴水(?)となって噴き出ます。どういう機構になっているか考えてみましょう。要するに,熱機関です。ガラスパイプが,十分に冷えてしまうと噴水は止みます。
 つぎは,気体を液化する番です。空の試験管を液態窒素の中に立てておくと,空気中の酸素が液体になって溜まります。空の試験管に「水」が溜まるのはマジックのようてす。
 二酸化炭素は,昇華してドライアイスになります。断熱膨張の実験器具<圧気発火器>にそのドライアイスを入れて,ピストンを静かに押すと,ドライアイスは簡単に液体になります。全体が温まってくると炭酸ガスの圧力てピストンが押しだされますから,注意します。(§34参照)
 窒素酸化物(分子名ははっきりしないが)は見事なブルーの液体になります。
 液体窒素では「手に負えない」水素でも,“激しく膨張させれば,自分で自分を液化させる”という予想が出てくるのは,先の液態窒素の経験がものをいっているのでしょう。
 ヘリウムについては,お話になりますが「アンテナを高く」していれば,大学祭のデモ実験などて,液体ヘリウムを見る機会があります。
 水攻めが終わったら,つぎは火攻めてす。
 メタルでメダルをつくる工作も,低融点のウッド合金をつくる実験もおもしろくできます。
 ≪実験2≫ 少量の食塩を高温用の試験管に入れてバーナーで強熱してみ
ましょう。食塩は,やがて透明に融けます。生徒に実験させるメリットの一つは生徒のつぶやきから生徒の自然観が知れるということてす。生徒と自然との対話が聞けるということてす。たとえばこの実験ては,液化した食塩を見て,
P この水,どこからきたのかな。
T もっと熱したら,どうなるかな。
P 水気がなくなってカサカサになって…。
T それから,もっと熟したら?
P さ−? …それにしても,わかないなー?
といった具合てす。
 できれば,もっといろいろな物質で実験をしたいものです。そうすれは,物質の共通性の中の多様性に驚かされます。となれば,上の対話が必ずしもナンセンスではないということもわかります。例えば…。
 結晶水をもった物質,たとえは硫酸銅で実験してみましょう。これを試験管で熱すると,まず分解して結晶水が出てきて,その水に塩が溶解します。水気が
なくなると,塩がカサカサになって残ります。さらに強然していくと…。
 ≪実験3≫ キャンピング・バーナーに酸素を使って,石でも金(かね)でもとんどん融かしてみましょう。
 砂岩などは,溶岩のようにドロドロにとけます。
T 石だってこんなふうに液体になります。
P これは水じゃなくって,火じゃないか。
T ??
 生徒は液体というのは<水のような状態の物質>だと思っていたのです。
たから,この赤っぽくとけた「液態」の岩石を“水じゃなくて火だ”と抗議したのてす。この生徒の表現を笑うことはてきません。
 嘗て,噴火直後の三原山を見たときの記録を,私は無意識に<熔岩>と書
いたものです。どうしても,火偏の字で書きたかったのです。熔鉱炉が溶鉱炉ではイメーシが狂ってしまうのです。やはりあれは水じゃなくて火だったのです。
ちなみに,いまこの文を書いているワープロで<ようがん>と打ったらはじめに<熔岩>と出て,次に<溶岩>と出ました。
 分子性物質については,融解するまえに分解してしまうものがあるので注意を要します。
 匂いはその物質の気態ですから,“匂いのあるものは気体になる”という法則をつくってもいいのでしょう。三態変化の学習の最後に<砂糖の綿菓子つくり>を楽しみながら,そのにおいをかいで ”砂糖も気体になる”ことをと確かめるのもよいでしょう。
 
 [まとめ]
1 すべての物質は温度が下がると,気体→液体→固体 と変化します。
2 すべての物質は温度が上がると,固体→液体→気体 と変化するが原則ですが,状態変化するまえに分解してしまうものもあります。
3 気体は激しく膨張すると,温度が下ります。
4 二酸化炭素も液体になります。
5 匂いはその物質の気態です。
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