25. 仕事の結果はどうなったか−−−仕事
 
 [授業のねらい]
  力が時間を媒介にしてものにはたらく場合を§23で学びましたが,ここでは,力が距離を謀介にしてものにはたらく場合を学びます。この形式を仕事といいます。 

 [授業の展開]
 まえに学習した運動量の復習です。
 ≪問1≫ 運動量を変化させるはたらきをなんといいましたか。それはどのような量でしたか。運動量で大切なことはなにでしたか。
 物体の運動量を変化させるのは力積で,これは力と時間の積て表される物理量でした。運動量は保存量でした。運動量も力積もベクトルです。今回ここで学習する<物体の運動の量>は,運動エネルギーという形のもので,運動エネルギーを変化させるはたらきが仕事という物理量です。
 ≪問2≫ エジプトでピラミッドを建設したときのことを考えてみましょう。
ナイル川を船で運んできた石材は,ピラミッドの建設現場に近い所で下ろされてからどうなったでしょう。 (ちなみに,実際は,石材で船を運ぶのです) 大勢の奴隷たちが石材を建設現場まで運んだのてす。石材を運ぶときには最低それにはたらく摩擦力に打ち勝たなければなりません。そのためには,まず道の整備など摩擦を小さくする準備が必要です。日本でも<修羅>という運搬器具が発見されて,再現されたことをご存じでしょう。
 ≪問3≫ 石は建設現場まで運ばれたあとは,どうなったでしょうか。
 つぎの作業は石を積み上げることです。そのためには,重力に打ち勝たなければなりません。力を有効にするために,石は斜面に沿って運びました。緩い斜面に沿って運ぶときには小さい力で運べますが,その代わりに,長い距離を運ぶことになります。
 石を運ぶとなれば“より大きな石を,より遠く(高く)運ぶ”ことが重要で,仕事量は<力の大きさ×運んだ距離>で評価するのがよいと思われます。 サラリー(塩で支払われた故事による)もこうして決めるのが妥当です。
 物理では,このように物体に力をはたらかせて移動させたとき,その力は仕事をしたといいます。仕事は生活経験から得られた概念ですが,テクニカル・タームスとしての仕事は,日常語の仕事とは違います。
 仕事の定義がどうなっているかをみてみますと,  “一定の力Fがはたらいて,物体をその力の向きに,距離sだけ動か
 したとき,力が物体にした仕事を W=Fs で表す”(手もとにあった教科書) “力学系に力Fが作用し作用点がdrだけ変位するとき,スカラー積(F,dr)を,その力が力学系になした仕事という”以下略。(『岩波理化学辞典』第3版)“自然科学では,力がはたらいて力の向きに物体が動いたときに,その力(またはその力を加えたもの)は物体に仕事をしたという”(学習参考書)となっています。
 ≪問4≫ 上の例では,摩擦力およひ重力に打ち勝って仕事をしたのですが,そのほかに,××力に打ち勝って仕事をするという例をあげなさい。
 (1)弾性力に打ち勝ってエキスパンターを引く。
 (2)浮力に打ち勝って木を水に沈める。
 (3)大気圧に打ち勝って注射器のピストンを引く。
 (4)磁力に打ち勝って磁石から鉄片を引き離す。
 (5)電気力に打ち勝ってジェネコンを回して発電する。
 (6)質量に打ち勝って物体を走らせる。
 この(6)の例を生徒があげたとき,ちょっとビックリしました。
 ≪問5≫ “質量に打ち勝って仕事をする”ことについてどう思いますか。
 ≪問6≫ mの物体をh持ち上げた力はどれだけの仕事をするでしょう。
P 物体mには鉛直下向きにmgの力がはたらいています。これに打ち勝って物体を持ち上げるには鉛直上向きにmgの力が必要てす。
P それでは力はつりあってしまって,物体は動きださないでしょう。
T 初めに,物体はわずかな初速度をもっていたとすればいいだろ。
P それなら,ほうっておいても上がっていっちゃう。
P そうじゃないよ,重力にひっぱられてすぐ止まっちゃうもの。
T 重力で止まらないように,重力を打ち消すだけの力を与えてやれば,あとは慣性運動だ。
P 小さい初速度じゃ,遅くて時間がかかっちゃうよ。
T 仕事の概念には時間は「じかに」入ってこないんだ。物体に鉛直上向きでmgの力を与えて,その向きにhだけ持ち上げるのだから,必要な仕事量は,mghで,このN・mという単位にJというあだ名をつけました。力がはたらいた向きに物体が移動するのだから,仕事はプラスです。持ち上げた物体はそこの棚の上にでも置いておきましょう。
 ≪問7≫ この物体が棚からはずれて,もとの位置まで落ちてくると,どうなるでしょう。
 hmの自由落下で,v 2=2gh に相当する速さになります。 また,mgh=1/2mv 2 “高さが速さに変わった”というムードです。明らかに「速さは運動」ですが,「高さも運動」なのです。地球上の高い所にある物体は,いつかは運動を始める可能性を秘めています。そこにある物体には「運動が凍結されている」のです。これを物体が mgh Jの位置エネルギーをもつ,あるいはポテンシャルエネルギーをもつといいます。
 これがもとの位置に戻ると,このポテンシャルエネルギー mghは1/2mv2の運動エネルギーに転化します。この重力のはたらくところを<重力場>といいます。
 ≪問8≫ 5.0kgの物体が,地上45mの高さに静止しています。これが自由落下を始めると,位置エネルギーUと運動エネルギーKはどのように変わるでしょうか。例にならって表を完成しなさい。ただし,g=10 m/s2とします。4秒たったら困りますか? 大急きて地面に穴を掘りましょう。一般にt sたったらどうなるでしょう。                      (表p120)
 ≪問9≫ この表からどんなことがいえますか。
P Uが減っただけKが増える。
P いつでも U+K=2550 が成立する。
P 位置エネルギーと運動エネルギーは反比例する。(この誤りは多い)
P 位置エネルギーは負になるが,運動エネルギーは負にならない。
UP 位置エネルギーと運動エネルギーの和は一定です。
T これを“エネルギーは保存される”といいます。
 ≪問10≫ つるまきばねに下げられたおもりが静止しています。この状態を基準にして,この位置からおもりを手で引いて距離xだけ引き下げました。手がした仕事はいくらでしょう。                             (図p121)
 手でおもりを引くと,伸びたつるまきばねもおもりを引いて,つりあいの状態になります。このつるまきばねの力に抗して手が仕事をすることになります。
エキスパンダーで径験ずみでしょうが,ばねは初めのうちは楽に引けるのですが,だんだんきつくなります。その力をfとすると,f=kx これがフックの法則です。
f-x のグラフを書いてみると図のようになります。仕事Wはfとxの積ですから,仕事はこのグラフの面積で表されます。
fがした仕事Wは W=1/2fx=1/2kx2 そこで係数1/2がつくのです.等加速度運動のときでてきた「例の」1/2です。
 この仕事は,おもりに※位置エネルギーとして貯えられます。手を放すと,おもりは運動を始めて,位置エネルギーは運動エネルギーに転化します。 この物体には,つねに平均的にf/2の力がはたらいていて,これで等加速度運動をしたとすると f/2・x=ma・x=1/2mv2 (∵ v2=2ax) このように,物体に弾性の力がはたらく場所を<弾性場>ということにします。
 物体に与えた仕事をWとしたとき,物体の運動エネルギーをK,位置エネルギーをUとすると,W=△K+△U系外との相互作用がないときには W=0 K+U=E=一定 となり,Eを力学的エネルギーと呼ひます。これが力学的エネルギーの保存則です。
 ※ はねに,といいたいところてす。§26参照。
 
 [まとめ]
1 力が距離を媒介して物体にはたらくとき,仕事がなされたといいます。
2 物体(質量)に仕事がなされると,運動エネルギーとして発現することがあります。
3 物体にはたらく外力に抗して仕事をすると,位置のエネルギーとして貯えられることがあります。位置エネルギーは凍結された運動です。「高さ」は運動の貯蔵庫です。(外力として摩擦力を除く)
4 摩擦力に抗して仕事をすると,内部エネルギーとして発現します。
5 重力場や弾性場では位置エネルギーと運動エネルキーの和は一定てす。
6 f - x のグラフの面積は仕事Wを表します。
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