理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
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高校物理の授業100時間
2. 力はものとものとのはたらきあい―――作用反作用


 [授業のねらい]

力学の問題では, 初めから物体にはたらく力が与えられていて, 合力を求めたり,
運動を考えたりするのが普通ですが, そのまえに, 物体にどのような力がはたらいているかを発見することが大切です. ここは力の発見の学習です.

作用反作用の法則を, 力の発見の法則として使います.


 [授業の展開]

前回の花瓶を動かす問題≪問2≫では, 力を受けた花瓶や, 手や, 縄や, 風は, みんな変速したり変形したりしています. 手の筋肉も, 伸びるか縮むか,しています. 縄はピンと張られて
伸びています. 風は花瓶にぶつかって乱れています.

ちなみにいえば, 念力でなにかを動かしたという人の良心も, どこかが歪んで, 傷んでいるに違いありません.

力はものとものとが対等に及ぼし合うはたらきです。力は相互作用なのです. この関係は, 作用反作用の法則, またはニュートンの第三法則として, つぎのように記述され
ます.

作用反作用の法則(運動の第三法則)

物体Aが物体Bに力(作用)を及ぼすと, それと同時に物体Bも物体Aに力(反作用)を及ぼす. 作用・反作用の二つの力は, 大きさが等しく, 同一直線上にあって向きが反対で
ある.

作用反作用の法則は, 作用反作用の原理,といった方がよいかもしれません.

この学習のあとで, 生徒の一人が, "作用反作用というと対等性がなくなるから,
作用反作用という言葉がよくない" といいました. もっともです. 「相互作用の原理」というべきでしょう.

 すこし長ったらしくなりますが <押されないでは押せない, 引かれないでは引けない原理>といえば, 誰にでもわかると思いますが,どうでしょうか.

 コピーライター風に生徒の知恵を借りると, もっとよい表現がでてくるかもしれません.

 書物によっては, この法則を「作用・反作用の法則」と書かれていますが, 作用反作用で一つのはたらきということを強調するために, この用語を使うときには「作用反作用の法則」と,あいだ
に「・」を入れないで書くことにしています.

≪問1≫ 手でものを押してみましょう. 手も押されていることがわかりますか. 手でものを引いてみましょう. 手も引かれていることがわかりますか.

≪問2≫ ばねばかりで別のばねばかりを引いてみましょう. 二つのばねばかりが違う値を示すように引けますか.

≪問3≫ 二本のばねばかりで, お互いに引き合ったら, 一方は20gを, もう一方は25gを指しました. どうなっているのでしょう.

さて, 上に書いた相互作用の原理は, 二段に分かれています.

前段 二つのものが同時に力を及ぼし合う.

後段 その二つの力は, 大きさが等しく, 同一直線上にあって, 向きが反対である.

従来, この原理は後半の部分が強調されていて, 前半の部分は軽く扱われていたきらいがあります. しかも, 後半の部分の記述が, 2力のつりあいの記述と同じため, 紛らわし
いという理由で, 教科書から追放されたと思われる(石井がこう思っている)節があります.

さて, この原理は "ものとものとが対等に力を及ぼし合う" という内容です. 対等性を無視したところに, 作用と反作用のタイムラグ(time lag:時間の遅れ)の問題があります.

"手が壁を押すと, 壁が手を押し返す" といういい方がよくされます. この表現では, すでに2力の対等性が損なわれています. 手の方が積極的で, 壁の方が消極的です
. 手が壁を押す力が先にはたらいて, その結果として, 壁が手を押す力が後からはたらく, つまり, 押し返すという構図です. それが教える側の指導上の配慮であても, 本
質をまげるような「配慮」はいけません. ある教科書会社の物理担当者と手紙の交換をしたことがあるのですが, "このように説明することで, 生徒の理解が深まる"というのです. 同
意できません。 <同時に>というところに注意して指導したいものです.

 そのつぎには,原理性の問題があります. 反作用の起きる訳を説明することについてです. 例えば, 手が机を押すと, 机が手に反作用を及ぼすメカニズムをつぎのようにい
います. "手が机を押すと机は変形し, もとにもどろうとして,手に反作用を及ぼし返す"というのです. この場合, なぜか, 手が変形していることについては論じません. もちろ
ん, 机も手も力を受けるのですから変形をしています. しかし, それが作用反作用を起こす原因ではありません.

 この場合にも, 手の方が積極的にはたらいているという気分が見えます. また 指導上の配慮云々については, 先に述べたとおりです. "もどろうとして" という擬人的な表現も
気になります.

もし "なぜ作用反作用の法則が成立するのか" を説明しようというのなら, 重力についても, 電磁気力についても, その他の力についても, (作用と)反作用がはたらく説
明をしなくてはなりません. その説明に力線や空間の歪みをもちだすと, つぎには歪みの起きる訳を説明しなくてはならなくなります. そのような<なぜなぜ問答>は, 物理のものではありませ
ん. 先に, この関係を原理と呼ぼうと主張したのはそのような意味です.

しかし, 実は, 別のところに, もっと低い次元の問題があるのです.

≪問4≫ "ばねを伸ばすと, ばねはもとの長さにもどろうとし, それがばねにつるしたおもりを引き上げようとする力になる. ばねにおもりをつるして止まったとき, この上向きの力とおも
りの下向きの力とは, 大きさが等しくなっている"

この記述はある教科書からの引用で, 以下の記述は筆者のものです.

1 図に書かれている<おもりの下向きの力>はなににはたらいていますか.

2 図に書かれている<もとにもどろうとする力>はなににはたらいていますか.

3 つりあっている力はどれとどれですか.

この問題には答えがありません. 記述の内容が不明瞭なため答えが決まらないのです. でも, この問題をやらせてみると, 生徒がどう考えたかがわかって参考になります
.

≪問5≫ ≪問4≫の " " 内を正しく書きなおしたらどうなりますか.

これはつりあいの問題なので, この解説は<2力のつりあい>のところですることにして, 問題になる点を指摘しておきます.

力の問題では, その力がどの物体にはたらいているか, ということが最も大切なことです. <もとにもどろうとする力>だとか<おもりの下向きの力>だとかいう表現では
, この力がどこ(どの物体)にはたらいているかがわかりません.図のたすけをかりてもわかりません.これを書いた学者さん(氏名もはっきりしています)にはその意識がないようです。

 ≪問4≫の " " 内の文章と図は, 1970年代の後半に使われていた小学校6年の理科の教科書から転載したものです.

≪問6≫ "おもりと糸でぶらさげ, おもりを静止させた. このとき, おもりと糸の結び目には, どのような力がはたらいているか. 矢印で示してみよ"

1 矢印で示した力はなににはたらいているのですか.

2 二つの力はどのような関係にありますか.

3 <おもりと糸の結び目>は,糸の一部ですか, おもりの一部ですか.それとも….

この " " 内の文章と図は, 1980年代の初めから使われていた中学校の理科の教科書の<力のつりあい>の部分の問題を, そのまま写したもので. それに1〜3の問いを加えてみました.

80年代になると, 作用反作用の概念は中学の教科書から消えてしまいます. そのためにこのような<へんなこと>になってしまったのでしょう.

解説は≪問5≫と一緒にします. (§3, p.23)

最近(1988年3月), アメリカの大学の初級学年のものかと思われる物理の教科書を見る機会がありました. それには, ニュートンの第三法則のところにつぎのような記述がありま
す.

Forces come in pairs.

  You cannot touch without being touched.

 ≪問7≫ 上の文を訳してみましょう。

まったくみごとな記述です. 触れるということは, 力を及ぼすというのと同じ意味です. しかし, つぎのようなところもあります.

If you kick a wall, the wall pushes back at you.

押し返すといういい方がここでもみられます. また, これとは別に, 力の矢印の書き方にも問題はありましたが, それでも日本の教科書から比べると, 優れていると思われます. 十年
まえのアメリカの物理の教科書から比べると格段の進歩のあとがうかがえました.

作用反作用の原理は, ものが運動している場合にも成り立ちます. 原理ですから当然です.

≪実験1≫ 力学台車の反発ばねの棒に, 適当な大きさに切った厚紙をさしこんで,
台車の壁につけておきます. 反発ばねの棒を押し込むと, 厚紙は取り残されて, ばねの縮みがわかるというものです. このような2台の台車を棒の先端でぶつけ合う(ぶつけやすいように
工夫する)と, 棒(ばね)の縮みで及ぼし合った力の大きさがわかります. どのようにぶつけても, 2台の台車のばねの縮みは同じです(ばねの強さが同じものを使います).

生徒はいろいろなパターンで2台の車をぶつけます. 台車を重くするために用意しておいたレンガでは不十分で, 台車の上に自分が乗ってしまう生徒もいます. どうにかして, 台車に
, ばねの伸びが等しくならないような押し合いをさせようとしますが, そうはなりません.

重くても軽くても同じだ. 衝突しても追突しても同じだ. 速くても遅くても同じだ.
止まっていておしつけても同じだ, どんなことをしても同じだ, といえるまで, 十分遊ばせます.

≪問8≫ (机の上のセットを見せて) 横棒を下に引いているのはなんですか.

答えはこうでした. おもり, 糸の先についているもの, 地球, 糸, 見えないのでなんともいえない.

中を見せると, 生徒は "ナーンダ" といました. 糸の先はセロテープで, 机に貼ってあったのです. 正解は<糸>です.この装置は授業が始まるまえにセットしておきます.糸
が揺れないことに気づかせないようにします.

力は<じかに触れている他のもの>から受ける以外に受けようもありません.このことを, とくに演出的に強調して, つぎの反論を誘導します.

≪質問≫ じかに触れていないのに, 地球や磁石は引きます. それはどうなっているのですか.

この質問が生徒からでてくれば, 授業は順調に進んでいます. この質問には, とぼけて, "それは, 例外です" と言い放ちます. "ずるい" や "インチキ" と生徒がいえば上出
来です.

" 重力, 電磁気力がじかに触れていないようにはたらくという例外的な位置から, やがて,例外ではなくなるというのが、物理の一つのストーリーになっています" と結びます. あとで, 場の理論が登場して,
"やっぱり, じかに触れていなければ, 力は受けられないのだ" ということが, 納得できれば, 所期の目的を達したことになります. 念力にサヨナラをする契機になるかもし
れません.

ニュートンも, 万有引力が離れている二つのものの間ではたらくことについては,「納得」していなかたので, "私は仮説をつくらない" といって, この問題を避けてとおったのでしょう. また,
アインシュタインは小さいころ, 磁石が離れている鉄を引きつけるのを見て不思議に思った, という逸話があるようです.

一つのものにとって, それにはたらいている力は, じかに触れている他のものから受けるということと, それから力を受けるとうことは, 同義だということが理解できます.

"触れているものを探せ. そこから力を受けている. ただし, 例外は… " 例外といっても, その力を他のものから受けるということに関しては, 例外ではありません. そ
れは地球であり, 磁石であり, 電子であり,…ですから.

 ≪問9≫ 糸とばねにつながったおもりが, 天井と床のあいだで静止しています.
おもりには, どんな力がはたらいているのでしょうか.

まず, 問題にしている物体を確認します. この場合にはおもりです. つぎに, 力はじかに触れている他のものから受けるのですから, それを確認します. この場合は糸とばねです. あとは「例
外」で, この場合には<地球>です.つまり, おもりは糸とばねと地球から力を受けています.

予備校で習ってきた生徒が, つぎのようなことを教えてくれました."問題にしている物体を, 目をつむって, 手で<撫で>まわす.手が異物に<こつ>とぶつかったら,そ
こでそのものから力を受けている" これを<撫でこつ>というのだそうです.このような方法をとるのは "ものが見えていても, 目がものを見ていない" からなのでしょう. 重力
は別扱いです.

さて, これであなたは力が発見できそうですか.


[まとめ]

1 力はものにはたらきます.

2 力はものとものとの相互作用です.

3 力はじかに触れている他のものから受けますが, 重力と電磁気力は例外です.

4 相互作用は同時にはたらきます.

5 作用反作用の原理は, それが成立する理由を説明しません.
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