理科実験を楽しむ会
もっぱら ものから まなぶ石井信也と赤城の仲間たち 
高校物理の授業100時間
1. 力は誰でも知っているー力のはたらき  


[授業のねらい]

力はものの形を変えたり, 速さを変えたりする作用です. しかし, 生徒のなかには

"力はなにかがもっているもの" と考えている者もいます.

力は作用なので, 直接, 目にみえないのが学習の困難点です. 生徒がわかりにくいというのは, 確信がもてないという意味でしょう.

いろいろの形で, 力を体験させながら力を意識化させたいものです. また, 物理で使う力についての<約束事>をはっきりさせます. 



[授業の展開]

《問1》ものに力がはたらくとどうなるでしょう.

"力とはなんでしょう" という問はだめです. 具体的な姿がイメージできるように問いかけます.

答えはまったくいろいろです. 動く, つぶれる, こわれる, 切れる, 止まる,飛んでいく, 倒れる, 速くなる, 痛い,…. まだまだたくさん出てきます. 生徒からは, それ
ぞれの生活経験が反映された答えが返ってきます.

これらを整理して,"ものに力がはたらくと, ものは変形したり, 変速したりする" とまとめて置きます. このことを確認するために, 体育科と保健室に協力してもらって,

<力の実感>をさせましょう.

《実験1》力を意識しながら, エキスパンダーを引いたり, バーベルを上げたり, 背筋力計を引いたり, 握力計を握ったり, 卓球・テニス・野球などのボールや砲丸を, 投げたり, 転がしたり
してみましょう.

このような作業は大切です. 当たり前のことなので省略してもよさそうに思われますが, そうではありません. 実際にやってみると, 生徒たちは, 案外白けずに楽しくや
ります. エキスパンダーは伸び, バーベルは上がり, メーター類のばねは伸び縮みし,
ボールや砲丸は転がったり止まったりすることを意識化します.

《実験2》計量した砂袋を何種類か用意しておいて, <重さ当て>をさせます.

砂袋は, 2, 5, 8, 10, 13kg のものをつくりました.

10と彫ってある鉄球の, 10のところをガムテープで貼って見えないようにしたものを, 生徒に当てさせたことがあります. 多くの生徒が10kgといいました. ガムテープの
上から触ると10の数字がわかるのです. これは10kgの亜鈴のかたわれで, 5kgだったのです.

《実験3》鉛直に取りつけた(生徒机を利用して工夫します)ヘルスメーターを, 横から押してみましょう. 1kgの力, 5kgの力で押してみましょう.

生徒にはヘルスメーターの後から押させます. だから,押している生徒にはヘルスメーターの目盛りが見えません. "5kgの力で押してみよう" といっても, 20kgもの力で押す生徒もい
ます. 持ち上げる感覚はわかっても, 横から押す力の感覚はつかみにくいのでしょう.
そのような経験は乏しいからです.

あとになって "力ってなんだかよくわからない" などと, ねぼけたことをいう生徒がでないようにするためにも, この経験は大切です. もし, そうした生徒がでてきたら, このスター
ト点に戻ります.

人間は, その長くて広い生活経験のなかで, はるかな昔から, 力に関しては, 奥深く, 幅広い理解に到達していました. そうでなくて, どうしてあの壮大なピラミッドの
ような, あの繊細なパルテノン宮殿のような建造物ができたでしょうか. 古代人から現代人まで, みんなの共通経験で, 知り尽くされている力について, これから学習するのだ
ということを, 生徒に知らせておきます. "力の学習くみやすし" とまではいかないにしても, 安心して力の学習に取り組める準備を与えておきます.

《問2》(教卓のすみにある花瓶を指さして)あの花瓶をここに移したいのだがどうすればよいでしょう.

だれかが行って持ってくる. 縄を投げる, 風が吹くのを待つ, 念力をつかう, 空間をワープさせる, などの答えがでます.

科学は民主的で実践的な学問なので, 条件さえ備われば, だれが, どこで, いつやってもできるものなのだということを, コメントして, "最後の二つ(念力とワープ)はちょっと望み薄
なのでナシにしよう" と流します.

実践的な方法としては, つまり物理的な方法としては, 他の物体を花瓶に触れて,
それに力を与えで動かすということになります. 他の物体は, 手であったり, 縄であったり, 風であったりします. 力がものからものにはたらくことを確認します.

《問3》自然界は−物質界はといってもよいのですが−まったく民主的(?)で, 花瓶に力を及ぼした手は, 花瓶から力を及ぼされ, 花瓶に力を及ぼした縄は花瓶から力を及ぼされ,
花瓶に力を及ぼした風は花瓶から力を及ぼされます. 手や縄は風が力を受けたことは,
どのようなことからわかりますか.

力のやりとりは物体間においてまったく対等です.

《問4》対等ということからすると, 手に力を与えた花瓶は手から力を与えられ, 風に力を及ぼした花瓶は風から力を与えられた, といってもよいでしょうか.

《問5》力を「出す」ものをいいなさい.

人間, 牛, 馬, カブトムシ, 地球, 風, 磁石, 電池, 海の波,…などという答えがでてきます. でてきた答えを分析してみると, 生徒の<力観>がわかろうというものです.
 

 力をだすといういい方はいけないのですが, ここでは誘導尋問的に使います. このことは, あとでコメントしておきます.

生徒が考えている力は, ほかのものを動かすはたらきをする「なにか」で, 生物か,
偉大なものか, エネルギーを担っている特別なものか, がもっているといった感じです.

つぎに生徒が知っている<××力>という言葉を書かせてみましょう.

《問6》 <××力>という言葉を五つ書きなさい.

張力, 原子力, 馬力, 念力, 電気力などがでてきます. そこで, さらに追い討ちをかけます.

《問7》がんばって, もう五つ書きなさい.

ぶつぶついいながら生徒たちはまた書きます. "生徒と百姓はしぼればしぼるほどでてくる" というせりふをつぶやきます. "百姓は差別用語だ" などといいますが, 無視
します(このことについては, 後日, ゆっくり討論する機会をつくります).

抗力, 万有引力, 摩擦力, 背筋力, 跳躍力, 風力, 若い力, 学力, 精神力, 視力,
念力, 磁力,…なんていう答えがでるかもしれません. ゆきづまって, 苦しまぎれにだされたものに, 面白い答えがあります. 生徒から答えを引きだすときには, 徹底的に絞りだ
します. はじめは体裁よく答えていますが, だんだん本音がでてきます.

生徒からでてきた<××力>の例から, 物理の対象になる力を抜きだします.これも生徒にやらせるといいでしょう.張力, 圧力, 重力, 抗力, 摩擦力, 浮力, 遠心力(向心力はでにく
い), 万有引力, 原子力,…

こうしておいてから,"しかし, 当分のあいだ<××力>といういい方はしない"と,
ここで宣言します. <××力>という言葉を使うと, 初心者には力がみえなくなってしまうので, しばらくは使わないのが得策です.

力はものからはたらくのだから, <糸から引かれる力>(張力), <机から押された力>(抗力), <水から(上向きに)押された力>(浮力), <地球から引かれた力>(重力)など
というように約束します. 遠心力を「まわろうとする力」, 原子力を「原子の力」などといわせないためにも, このことは必要です.

 <××力>という言葉には, ものがもっている力, というニュアンスがあります.<力持ち>という言葉があるくらいです.力はものがもっているのではない, ということをしっかり教えたいものです.



[まとめ]

1 力をいろいろに実感してみましょう.

2 力は昔の人も十分に知っていました.

3 ものに力がはたらくと, ものは変形したり, 変速したりします.

4 <××力>や<××の力>という言葉は当分, 使いません.

5 力を考えるときに, その力を加えたものの名前をはっきりさせます.
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石井信也