TIN WHISTLE

 町の楽器屋ならどこにでも売っていて、小学生が学校で習ったり、カセットや小さな楽譜付きで土産物屋の店頭にぶら下がっていたりする楽器が、このティン・ホイッスルです。またの名をペニー・ホイッスル。なぜなら、安いから。1本1000円ぐらいで買えるのです。tin_whistle
 見た目も実に素朴で、抜きっぱなしの穴が6つ並んだブリキの筒に、プラスチックの吹き口が付いているだけです。(この吹き口がまた、ものによってはバリや継ぎ目がきちんと処理されてなくて、唇に痛かったりする)
 ジェネレーションという英国メーカーの、真鍮製のものが一番普及しています。同じ会社のものでもニッケル製のは少しだけ値段が張り、音にもちょっぴり張りがあるような気がしますが、これは好みの問題でしょう。前者は金色の筒に赤い頭、後者は銀色の筒に青と、ひと目でわかります。アイルランド産のは、真鍮の金色にお国の色グリーンのトップが映えています。(最近は、黒とクリーム色のギネスデザインなんていうのもあります。)最もよく使われるのは、ニ長調に調律されたD管で、これ1本あればほとんど事足りますが、他にもBフラットやC、Eフラットなどもありますし、1オクターブ低いローホイッスルというのもあります。
 この楽器の歴史について見ていくと、ものの本にはダブリンのハイ・ストリートで発掘された、現存する中で最古といわれる12世紀の骨笛のことなどに触れています。ケルト神話の中にも出てくる、古い歴史を持った楽器のようですが、現在のティン・ホイッスルと12世紀の2つ穴骨笛とではかなりちがっており、直接的なつながりはないようです。
 現在のホイッスルは、リコーダーの原型であるフラジョレットと同じ作りをしており、裏に穴がひとつ開いたリコーダーのように高音を指の調節で出すのではなく、ただ強く吹いてひっくり返すのです。だからどうしても高音が強くなります。
 さて、このホイッスルは、もちろん始めからプラスチックの頭が付いていた訳ではありません。時代とともに、陶製、木製など、様々な素材でつくられてきたようです。19世紀にはアメリカでブリキの胴に木の頭のものが量産されたという事で、その後今のようなプラスチック頭が主流になったのです。でも、「安っぽい」と言うなかれ。なぜなら、その安っぽさこそがホイッスルの身上だからです。貧しい庶民の娯楽を支えてきたフォーク・ミュージックの楽器の中でも、またいちばん手軽なこの楽器は、ただ時代に合わせてもっとも経済的な形に進化してきたのでしょう。これは、生きている民衆の音楽の有り様を示すひとつの具体的なかたちと言えるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、音楽の価値や演奏の善し悪しは、楽器の金銭的価値に左右されるものではないということを、これほど鮮やかに語ってくれる楽器は他にないかも知れません。名人の吹くホイッスルは、華麗な装飾と陰影に富み、同じ楽器とは思えないような音色に、聴き手はただ感動するばかりなのです。
関連LINK-->>Tin whistle & Penny whistle

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