OboeReedのつくりかた 


やっとこのページを書くときがやってきました…。
お役に立つかどうかはわからないけれど、
これまでの試行錯誤・紆余曲折・悪戦苦闘ぶりを
一挙大公開!です。


ここ数年、OboeとかFagottのことを取りあげた個人のHPがすっごく増えてきて(それもプロ奏者の方も多数!)、あちらこちらで懇切丁寧なReedのつくりかたが図解されていたりしていて…ITの時代ってこーゆーことなんだぁ、なんて感慨にふけってみたりしています。この「DoubleReedHolics」の前身にあたるHPではデジカメ写真入りでReedのつくりかたを公開していたこともあったのですが、もっと参考になるページがじゃんじゃん登場したので一旦白紙に戻して…もうだいぶ経ちました(^o^;)

Reedづくりってすごく個人差の大きい作業。あこがれているOboe吹きのReedをただ真似したからといって必ずしもおんなじようないい音が出せるってわけじゃなくて、吹き慣れたReedのほうがよっぽどうまく吹けたりして…はやく「これがMy Reedだっ!」って定番をつくりあげるのがコンスタントによいReedを手に入れて、安定した演奏を続けられるコツなんじゃないかな、と思ったりします。
でも、でも、…「○×社のケーンは最高にイイよ」とか「このReed、もう少しスクレープが長い方がよくない?」とか言われると、ついつい定番から浮気してみたくなるのがひとのココロというもの…それが新しい定番になるか、ただの浮気で終わるかが決まるまでにはまた数ヵ月単位の時間がかかるわけで、そう考えるともう一生定番なんて決まらないのかなぁ、と遠い空を仰ぎながらつぶやいてみたくもなる…。

じつはこのページの着手が遅れてしまったのは、この数ヵ月のスランプが原因。どうしても好みのReedがつくれなかったとき、演奏会本番が迫っていたためやむを得ず市販の完成Reedに手を出してしまったのです。そのあと自作Reedに戻ろうとしても、唇はついてこないし、削り方のコツも見失ってるし…やっといま自作へ戻るリハビリが終わろうとしているところです。


[1] 私的Reedづくりの変遷


☆1987 - 1993

1987年から1991年、S先生のレッスンについていました。ここでは月に1回「Reedづくり」という日が組まれていて、この日はお弟子さんが教室に勢揃いしてそれぞれ黙々と自分のReedをつくるのです。この「Reedづくり」の日にReed作成の手ほどきを初めて受けて…でも当時はReedだけ吹いて音が鳴るようになればバンバンザイ!という状態で、実用的なReedはまったくできあがりませんでした。演奏に使うReedはすべてS先生のお手製(^o^;)
とにかく絹糸がぶちぶち切れるしサイドは閉じてくれないし、削るのより糸巻きの作業のほうがずっと印象に残ってます。したがって寸法とかは全然記憶にない…。
ケーン グロタンBM 舟形
チューブ グロタン 47mm
タイヤ印 絹の穴糸


☆1993 - 1997

その後もときどきReedを削る練習はするものの、ずっとS先生のリードを使い続けていました。しかし、1993年に某アマチュアオーケストラに入団して大転機が訪れます。当時のOboeのトップのMさんがおっしゃるには「自分のReedを使わないひとはOboe吹きとは呼べないっっ!」ということで(そ、そうかなぁ…?!)、使えるReedづくりを目標に鍛え直していただいたのでした。My Reedの寸法の原型もこのとき初めて決まります。この頃よく注意されて気をつけていたことは、
  • 全体を削るときにはナイフを回転させない(平行移動するように滑らせる)→ケーンに変な段差を作らない
  • Reedを先端から見て、中央部(背骨)を厚く残すように、断面の丸みを意識して削る
  • Reedづくりは「物理」→振動がどの方向にも均等に伝わるよう対称性を意識する



といったこと。ちなみに自分のReedで初めて本番を吹いたのは95年の3月のことでした。すごく嬉しかったのを今でも覚えています。Mさん、本当にありがとうございました!
ケーン グロタンBM 舟形 くくるときの全長 77mm
チューブ グロタン 47mm スクレープ 60 -
72mm
タイヤ印 絹の穴糸


☆1997

ハズレは多いながらも自作Reedでなんとか練習も本番もイケるようになっていたとき、W先生のご指導を受ける機会に恵まれました。W先生からまず言われたことは…
  • ケーンのカタチがReedによってばらつきすぎ→自分でシェイパーをかけたほうがよい!
  • 絹糸のほうが音色はよいけど、ナイロン糸でも大差はないし、切れにくいからくくりやすい
  • 自分がイイと思うところから、もう少しReedを薄く削ってみたら?
ここで、それまで持っていなかったシェイパー(もっとも標準的なところで、とリーガーの2番のチップを勧められました)を初めて導入。
また、生産中止になってしまった伝説のチューブ「カラムス」と、その後継「アクタス」についても教えていただきました。これまで迷うことなくグロタンを使っていた(当時地元の店舗で買えた唯一のメーカーだったので…)のですが、ここでチューブを変えてみることにして、ついでもケーンも同じメーカーに乗り換えました。
糸もナイロンに替え、チューブのコルクの手前に少しだけ巻き残しをつくるとReedが重くなりすぎないとのことで、最後まで巻ききらないことにしました。
さらに、演奏面でアンブシュアを大改造していただいたので、これまでのReedでは音程が下がり気味になる…ということで、全長をちょっとだけ短くして、チューブも先生の勧めで47mm→46mmへ短くします。
くくるときの全長を短く(=ケーンを深くチューブに差し込むように)したのは、ケーンの根元が太めのほうが音色がふくよかになるから。ただし、この部分が細いほうが高音が出しやすいというメリットもあって、どちらを優先するかは個人の好みかも…。

ケーン アクタス カマボコ型 くくるときの全長 76mm
チューブ アクタス 46mm スクレープ 60.5 -
71.5mm
ロレー マルチカラー


☆1998 - 2002

My Reedのサイズはほぼ固定して、安定したReedづくりに励んでいたのですが、W先生におすそわけしていただいた数本のReedは自作Reedと比べていつもパリパリと歯切れのいい音が出て、長時間吹き続けても全然反応が鈍くなってこない…ということに気づいて、悩んでいくうちに「ケーンの質」という究極のトコロへたどり着きます。なんでも先生はケーンを南フランスから直輸入しておられるのだとか…それなら、せめて市販のケーンでW先生のReedみたいにパリパリ吹けるものを捜そう!と思い、このころWEB上でお知り合いになっていただいたT先生から渋谷の某DoubleReed店の「OVIDIO」と「Victoria」が比較的緻密で硬いケーンだということを教えていただきます。さっそく購入して、どちらもメーカーも気に入ったので、その後も使い続けることとなりました。

またこの頃M先生のレッスンを受けるチャンスもあり、たくさん用意していただいたReedを試し吹きしていたら、「音がすぱっと抜けないReedが好きみたいだけど、そういうのがイイ音だと思いこんでるのでは?」という指摘が…。
これまで、自分のOboeの好みに大きな影響を与えてくれていたであろうS先生もMさんも、どちらかといえば重厚な響きを作るMarigaux吹き。自分もドイツっぽい暗くて太めの音色に憧れていたけれど…、それをどこかで単純に「吹奏感が重い、抵抗が大きい=ホール中によい音が出てる♪」と勘違いしていたのかもしれない!「音色の重厚さよりも、まずは音程が正確に取れるReedづくりをこころがけるように」とのご指導を受け、さらにReed先端のペラペラな部分の長さが大きく音程を変化させるかについても教えていただきました。Reedの最終調整のテクニックとして教えていただいたのはおもに次の2つ。
  • まんなかのFis、G、Gisのあたりがぶら下がるときは先端を髪の毛1本分だけ短くする
  • Low Dがppでタンギングできるようになるまで赤い網かけ部分を薄くする

この頃から、吹き心地よりもoutputとしての音色を少しずつ意識するようになりました。ほんの少しずつ変えてみていることもあるけれど、基本的にはこの時点から自分のReedはほぼ一定のスタイルできています。

ケーン OVIDIO or Victoria カマボコ型 くくるときの全長 76mm
チューブ アクタス 46mm スクレープ 60.5 -
71.5mm
おもに ロレー マルチカラー


☆2002  Reed making machineを買いました!

楽器をRigoutatに替えてからチューブも合わせてRigoutatにしてみたり、自作が間に合わなくて市販Reedに頼ってしまったりしているうち、Reedのスタイルがだんだんまとまらなくなってきてしまっていました。いつも同じ条件でReedが作れたらできるReedの性格も安定するだろうし、試行錯誤するのも楽なのに…と思っていたとき、たまたまReed making machineの実演を目の前で見せていただく機会があり、もうそのすばらしさに圧倒されてしまいました。以前から興味はあって、でも絶対必要なものではないかも…と思っていたけれど、やっぱりどうしても使ってみたいという気持ちに打ちのめされて(^o^;)、購入を決意しました。買ったのはM社のマシン。注文してから待つこと数ヵ月、とうとう我が家へマシンがやってきました。

原理は、横に寝かせたかたちで固定したプッペ(チューブにケーンを巻いた状態のもの;ちなみにスクレープ部分のツルツルの皮がなくなる程度にはカッターで荒削りして、先端を切り落とし、だいたい完成時の長さくらいにしておきます)を、チューブをコロコロ転がすように軽く左右にプッペを回転させながら、Reedの長軸と平行に動く刃を使って削る、というもの。ハンドルを回すと固定されたプッペが左右に少しずつ角度を変える仕組みになっているのですが、刃は常に同じ位置・同じ向きにあってただ平行に前後するだけなので、プッペの回転によって刃がプッペに当たる位置が少しずつずれていって、スクレープ全体を削ることができるのです。ただ、それだけではケーンがガンガン削られて、薄くなりすぎたり場所によって削り方にムラができたりすることもあり得る…そこで、刃が一定の深さ以上に進んでいかないような仕掛けが作ってあります。
じつはReedのモトになる型が金属で作ってあって、この上を金属の球がなぞるように転がることでReedの型を読みとって、削る深さが刃に伝わるようになっています。
型もプッペといっしょに回転するので、作るひとがただただ刃を平行に動かすだけでマシンが自動的に刃の深さを調節して、金属の型と同じカタチにReedが削れていくというわけです。…あぁ、コトバでの説明って難しいですね。

全体像はこんな感じです。
右手前にプッペを装着して削ります。
これがReedの型に当たる部分。
ハンドルを回すと左右に回転します。
型の上を金属球が転がることで
刃にカタチを伝えます。
ツルツルの皮をカッターで落として
先端を切ったプッペを差し込んで、
ケーン部分とチューブの底の2ヵ所で
プッペをしっかり固定します。
固定したプッペに回転を
加えながら刃を前後させて削ります。
プッペは型と一緒に左右に回転。
刃は型をなぞりながら前後に運動。
スクレープ部分はこんな感じで
徐々に削り出されてきて…、
ほんの数分で表も裏も
削り終わりました!

こうして写真を並べてみてもではうまく伝えられない部分もあるかも…申し訳ありませんm(_ _)m でも本当によく考えられてるんです。かゆいところに手が届きまくりで、もう唸るしかないくらいスゴイ。
このマシンの作業だけでReedは音が鳴る程度の状態には仕上がっているのですが、もちろん仕上げの微調整は必要。先端をなめらかにしたり、スクレープの根元のU字あたりを整えたり、クローを聴きながらの作業の末、完成します。マシンを使い始めてまだ間がないので、マシンで作る自分のReedのスタイルが確立したとは言い難いけれど、できあがったReedを練習でどんどん使いながらはやく好みのスタイルを見つけたいなぁ、と思う今日この頃です。





☆2004  久しぶりすぎる更新…

マシンの使い方にも慣れて、Reedを数本作り貯めできたのをいいことに、ずいぶん長い間Reedづくりもこのページの更新も滞っていました。でも先日、大学時代にいっしょにオーケストラでOboeを吹いていた先輩に久しぶりに会ったとき「この前、数年ぶりに自作Reedを作ったときに"DoubleReedHolics"に書いてあったメーカーのケーンを買ってきて作ったよ」と言われて、ギクッ…。こんな私的な内容を参考にしてくださる方がいらっしゃるのはとても嬉しかったのですけど、じつはHPに載せているのは最新情報ではなくなっているなぁ、と反省したのでした(^o^;)

マシンを使うようになって気づいたのですが、VictoriaとOVIDIOのケーンはマシンをかけた後にもかなり手を加えないと発音しづらいReedになってしまうのです。スクレープ部分はどんなケーンを使ってもマシンで同じ厚さに加工されるはずなので、チューブとスクレープ部分の間に残っている削る前のケーンの厚みの影響なのか、それともスクレープ部分が同じ薄さであっても素材の硬さがあるからなのか…。

マシンを使ってせっかく同じカタチに削っても、そのあと手を加える段階でバラツキが出たのではやっぱり安定したReedづくりはできにくくなってしまいます。それで、いろいろなケーンを使って同じ条件でマシンをかけて試してみた結果、Pisoniのケーンならばマシンで削るだけですぐに楽器につけて使えるくらいのReedができることがわかりました! VictoriaとOVIDIOとPisoniのカマボコ型ケーンをよく見てみると、素材そのものの硬さももちろん違うのですが、カマボコのカーブ(ケーンの茎の細さに影響される部分ですね)はPisoniのほうがずいぶんゆるいのです。Pisoniのほうが、Reedが完成したときの先端の開きが小さめになって、当然Reedの振動を開始させやすいことになりますよね。

このような経緯で、私のReedスタイルはまたちょっとだけ変更となりました。

ケーン Pisoni くくるときの全長 76mm弱
チューブ アクタス 46mm スクレープ 60.5 -
71.5mm
たぶんJDRの絹糸