音楽表現って… 


音楽を表現する…フィンガリングとかタンギングとかのテクニックよりも断然難しいモンダイ。
とっても迷える子ヒツジちゃんだったある日、ものすごく頼もしい解説に出会いました。
音楽表現の手助けにしたいなぁ…とうならされるようなスバラシイ内容に
あまりに感激してしまったので、勝手に転載させてもらいました(^-^;)
ちなみにこれを書かれたのはアリゾナ州立大学のOboe講師=Martin Schuring先生。
はやくファンレターを書かなくちゃ!

原文が読みたいかたはこちらをどうぞ。
中央やや下の“expression”が出典です。



表現っていうのはヒラメキでできるものじゃなくて、研究したり練習したり、人生のなかで「味」を身につけたりした結果できるようになるものです。楽譜を見てもただ曲をサラッと吹きとおすのではなく、音楽をじーっくりを見て自分が何をしたいのかを描き出すということ。すべてのフレーズの構造を理解して、すべてのフレーズのすべての音符をどうやって演奏するかを計画しなくちゃいけないのです。 それだけじゃなくて楽章全体、曲全体、コンサート全体をとおして自分がどういう演奏をしたいのかということまで計画する必要があります。

どこかへお出かけするときだっておんなじ。車に乗り込んでも、まず目的地を決めて、どういう道順で行くのかをはっきり決めるまでは運転できませんよね。 慎重なドライバーは、渋滞とか通行止めのことも考えて予備のルートまで考えてから出発するはず。一旦計画を立てたら、とことん回り道を楽しむこともできます。景色のいいところで停まってみてもいいし、クリーニングに出してた洗濯物を取りに寄ってもいいし、レストランで食事してもいいし。そういうことだって計画の一部なわけで、お出かけはうまくいっていると言えます。どんなに小さな音楽のフレーズを演奏するときにも同じくらい慎重にやらなくては…何をしたいかが自分にわかっていないうちは、それをすることはできないってことです。


もくじ
フレーズのカタチ
音符のグルーピング
抑揚について
音楽の要素
楽譜を読むこと
楽譜への書き込み
版について
スタイル

フレーズのカタチ

それぞれのフレーズを見て、 どういうカタチにしたいかを決めます。このBarret第1番のメロディーについて考えてみましょう。

まず、大きなフレーズの中の中間点を見つけだします。


次に、このなかでいちばん大事な音符を見つけます。その音符より前の音符はそこへ向ってきて、その音符より後の音符は弛んで離れていくような音符。この例では、C(ド)の音に決定!…というのも、Cの音は強拍に来てるし、和音の基調にある音だから。フレーズのカタチをデザインするときにはこういう論理的な過程が大切。決して「だってぇ、いちばん高い音だしィ…」とかいう気まぐれな理由で決めてはいけません。

では、このフレーズをまずひとつの音だけで吹く練習をしてみましょう。

これを、最大音量のところと最も柔らかいところのコントラストがとっっってもなめらかに吹けるようになるまで繰り返し練習します。 この輪郭を強調しすぎることを恐れてはダメ。ちょっぴり片寄ったカタチの…この例ではクライマックスはちょっと後ろ寄りですよね…すごくキレイなロングトーンで吹けるように練習!

それから、このひとつの音での練習となにも変わらないように、いま作り出した息のカタチにほかの音符をのせてみます。アンブシュアも動かさないで、空気の流れもいじくったりしないで…タンギングと指の動き以外は、いま練習したロングトーンとまったく同じこと。これが本当に正確にできるようにがんばって練習!です。吹きながらいろんなモンダイ(たとえばF→Aへ下りるスラーとかCがキーキーした音になることとか…)を予測して、吹き方を微調整しちゃうこともあるかもしれません。ロングトーンに音符をのせて吹いてみれば、まったく微調整しなくていい…するとしてもほんの1-2カ所…ってことがわかるはずです。間違える前に間違いを直してはダメ。まずはロングトーンのままの息に音符をのせてみて、それからもしも必要ならマイナーチェンジを加えましょう。

「まずロングトーン、それから音符をのせる」という方法で、ものすごくたくさんのフレーズがうまく吹けるようになるはずです。ロングトーンの輪郭は、フレーズのピークがフレーズの頭に近いか真ん中あたりか、それともいちばん最後か、ということによって変わってくるけれど、コンセプトはいつも同じ!息でカタチを作って、そこに音譜をのせるということです。
(注:例に挙げたBarretの楽譜の1小節目にあるディミニュエンドに惑わされてはダメ!Barretは音符のグループが始まるのを表すときにディミニュエンド記号を使うことが多いのです。音量を落としてほしいから書いたわけではないし、むしろクレッシェンドするべきトコロ。)


音符のグルーピング

音楽は歌うように流れなくてはいけません。音符を息にのせれば、フレーズはよりパワフルに、より完全になります。でも、音楽は喋るようにも聞こえなくてはいけません。フレーズの中で、音楽に文法とか抑揚とかを与える「句読点」を見つけ出すことが必要です。句点、読点、コロン、かぎカッコ、段落記号…その他10数種類の記号が、どういうふうに喋ればいいのかを教えてくれます。

音楽には喋りコトバのように句読点があるのですが、楽譜には滅多に書かれていない…ので、自分で捜しだします。最低でも「どの音符とどの音符が一緒のグループなのか?」「抑揚は上がるのか下がるのか?」というふたつの質問に答えないうちには音楽はイミをもってこないのです。

音符は小フレーズというグループにまとめられます…文章や段落のなかに単語や熟語がいっぱいあるような感じです。こういう「単語」や「熟語」が小節線と重なることは滅多になくて小節線をまたぐことが多いのです…音楽を前に進めていけるように。

悪い例:

よい例:

小節線というモノはすごく大事な韻律の情報を示してくれるとき以外、楽譜を視覚的に読みやすくする手助けでしかありません。音楽という文法のなかでは、小節線には文章の行の折り返しくらいのイミしかないわけで、そんなところで読むのを止めるひとはいませんね。読点とかその他の句読点のところでとまればいいわけです。

音符のグルーピングは拍とか音符のヒゲの分かれかたで決まるわけではありません。音楽は小節線を乗り越え、拍や音符のヒゲのくくりをまたいで進んでいきます。グルーピングの考え方について、もうちょっと難しい例(Ferlingの練習曲12番)を見てみましょう。

こちらの例はVivaldiのOboeソナタ ハ短調 第2楽章です。ここに示したのとはまたちょっと違ったグルーピングのアレンジもできると思いますが、大切なことは演奏するときにココロの中にハッキリと自分のアレンジを持っておくことです。

もちろん、パッセージをどのように区切るかを決めてからもまだまだいろんな演奏方法が考えられます。

I saw John with Clara.
I saw John with Clara.
I saw John with Clara.
I saw "John" with Clara.
I saw John. With Clara.



抑揚について

どの音符同士が同じグループかわかったら、正しく抑揚をつけてあげる作業がとてもカンタンになります。木管楽器の抑揚のつけかたは、弦楽器のひとが弓の動きを変えるやりかたと似ています。すごく単純にいえば、弓にはアップかダウンの動きしかないわけです。ウマい弦楽器奏者が音楽の抑揚に合わせてどんなふうに弓の使いかたを変えているのかを観察しましょう。アップのときは前置きっぽいことが多く、ダウンのときはより強調している感じがするはずです。(音色や音質も弓のテクニック=圧力、スピード、コマからの距離etc.で変わるんだということも観察できます。)

= ダウン
V = アップ

次の例の最初の2つの音符に注目して、どれがいちばん自然で音楽らしいかを考えてみましょう。


どうみても3番目(アップ-ダウン)だけがよさそうで、ほかの譜例はどれもすごくぎこちない。すべてがこんなにわかりやすいわけではなく、弓のアップとダウンをあてはめてみることは時として難しかったりモメたりもするでしょう。大事なことは、アタマを使って考えて、それを相手の納得のいくように示すこと。弦楽器奏者には、弓使いによる抑揚が音楽らしさだけじゃなくて視覚的にも訴えるというはっきりした強みがあります。音楽的な効果が弱かったとしても、少なくとも腕の動きという「見た目」がちょっとは助けてくれるわけです。管楽器奏者にはそういう強みはないので、音楽的な意思表示がよりくっきりと、ちゃんと聞こえるように演奏しなくちゃならないのです。


音楽の要素

音楽の4要素を順に並べると、
1. 拍子
2. リズム
3. メロディー
4. ハーモニー

拍子がないことには音楽にならないので、これが最初に示されます。リズムの要素しか含まない楽譜でも拍子は与えられるものです。拍子なしでは音楽の緊張や弛緩は生まれません。もしかしたら拍子は楽譜に書いてあることのなかで最も軽視されているかもしれませんが、作曲家たちは曲を作るときものすごくよく考えて拍子を指定するのです。

この例を見てみましょう。

これは、次のように演奏されなくてはいけません。

こうなっては絶対ダメ。

こんなふうに演奏してもよいのは、拍子が 18/16 と書かれているときだけっ!

作曲家は、ときにはアクセントなどの記号を使って拍をずらして強調したりもします。.

アクセントがあるので、この譜例は

正しくはこんなふうに演奏されることになります。


ヘミオラ(2:3の比)はおんなじことをさらにこっそりとあらわすものです。とくにバロックの曲では拍の強調をずらす目的でよく使われたのですが、スコアにはっきりと示されているわけではありません。楽章の終わりによく見られます。次の例はMarcelloのOboe協奏曲ですが、

楽譜上はこう書かれています。

これがどのように演奏されるかというと、


こうした例はバロック作品ほとんどすべてに見られるし、ロマン派でもよく使われています。作曲家はヘミオラを決して明示しないので、演奏者が見つけ出さなくてはいけないモノなのです。.

楽譜を読むこと

ここまで見てきたように楽譜はコトバなので、読み書きのチカラが要求されます。楽譜を読んで、それにイノチを与えなくてはいけません。楽譜に書かれた記号に対応して音色を変えられるように、ボキャブラリーを増やすことも必要です。

楽譜の読み方を勉強しましょう。新しい曲に取りかかるときは、その曲のCDを捜したり演奏会に出掛けたりするんじゃなくて、楽譜を見るのです。世界初演の曲(^o^;)だと思って取り組みます。
最もスバラシイ録音や演奏だって、いま自分の譜面台に載っている楽譜と同じモノから生まれたわけです(自分の楽譜がちゃんとした版ならば、ですが)。かな〜りしっかりその曲を研究して、ちゃんと曲がつかめたな!と思ってから、今度は見つかる限りの演奏を聴いてみます。伝統的な演奏も知らないといけないし、ほかの演奏家がどうやって問題を解決しているかを聴くことも参考になります。でも、録音を聴くことから始めてしまったら、自分自身の考えを発展させることができないかもしれませんよね。

楽譜に書いてあるすべての記号を見て、自動的に反応できるようになりましょう。多くの若い演奏家は注目する点に優先順位をつけていたりします--- まず音符、次にスラー、それから強弱記号、最後に細かい記号…というふうに。見過ごされてしまう記号だってあるかもしれない。とにかく最初っから見ていくやりかたを身につけましょう。まず音符、次にスラー…のように一度にひとつしか見ないのではなくて、全部いっぺんに見ていきます。これをやるにはすばやく考えてゆっくり演奏することが必要になります。でも、結果的には自分の演奏に楽譜に書かれた指示がしっかり固定するはずだし、それがこの方法のよいトコロなのです。

フランス語やらドイツ語やらでちょっと複雑な指示が書いてあったら、ほったらかしのままになることもあるかもしれません。でも、楽譜を読む勉強です。すべての指示を理解して、それをもとに自分の音をどう変化させたらいいのかを考えるのです。これは外国語で書かれた指示を見るときにはとくに大切なこと。外国語の指示を当たり前のものだと思ってほっておいたり、大体の意味を推測してそう思いこんではダメ。多くの外国語の単語は英語と似た音でもまったく違う意味を持っていたりします。絶対的な自信がなかったら辞書で調べましょう。音楽辞典になかったら、フランス語の辞書で…辞書が役に立たなかったら、フランス人を捜して訊いてみます(^o^;) 作曲家が何と書いたのかが正確にわかるまで、あきらめないこと!

すべての記号を注意深く見ます。作曲家は長い時間をかけて一生懸命演奏者への指示を考えてくれたのです。自分が作品を作ると想像したら…こんな音が鳴らしたい、こういう雰囲気で、こういう色彩で、このくらいのテンポで、とか考えるはず。でもそのことを演奏者にゆっくり会って説明するチャンスはないわけで、自分の思いを記号にして楽譜に書くしかありませんね。そうなると点を書くか、ダッシュを書くか、両方とも書くか、という記号選びはとっても重要だということになります。

楽譜の中でおんなじ部分を調べてみます。まったく同じでしょうか? そのまんまの繰り返しのこともあれば、少し違っていることもあります。何かの要素が変えてあることも少なくはありません。その違いをどんなふうに演奏にあらわせばいいか、考えます。

自分の演奏する音楽のスタイルを知っておかなくてはいけません…たとえばどんな衣装を着るのか?とか。古い曲を演奏するなら独創性がより強く求められたりします。譜面上の音符は音楽がどんなふうに聞こえるかを正確にはあらわしていないので、テンポやアーティキュレーション、オーケストレーション、音程まで演奏者が決めなくてはいけないのです。逆に最近の曲なら、きちんと記号が示してあるので、それに正確に従うほうがいいかもしれません。たいていMozartはpとfのふたつの強弱記号しか使っていないのですが、これは「大きい」「小さい」を唐突に変化させるだけでいいのか、それとも違うのか…? それは演奏者が研究して決めなくてはいけないのです。

音楽家=音楽を翻訳するひと として責任をもたなくちゃいけません。楽譜のすべての記号をしっかり見て、ちゃんとに聞こえるように表現します。たとえば、アクセント記号を見つけたら、荒っぽく不快な感じで鳴らしたり。アクセントを無視しないで、その音符を強調するために違う方法で吹くわけです。「アクセント」とは、音が始まったあとでつくものかもしれないし、タンギングではなくて息で作るものかもしれないし、となりの音符を強調しないためについてるのかもしれない…いろんな可能性があるわけです。



楽譜への書き込み

楽譜の読み方が上達したら、楽譜に鉛筆で書き込まなくてすむようになります。強弱記号が書いてあったとして、それをグルグル囲んだところでよく見えるようになるわけじゃないし。見る練習をしましょう。楽譜に自分に向けたポエムを書いてもダメ(^-^;) 演奏しながら読んでる時間なんてないのです。レッスンとかでメモを取りたければ、別の紙に書くとか楽譜の表紙に書くとか。目標は楽譜に書かれている記号が自分の演奏を変化させることであって、記号を見るために丸で囲まなきゃいけないとしたら、譜読みが不十分だったということです。

個人的な記号を書き込むことは必要。たとえばブレスの位置とか、運指の難しいパッセージでの替え指とか、すごく長〜い小節の中の臨時記号も。指揮者が音量とかアーティキュレーションとかを変えるように言われたときは、それが変わった指示だったら指揮者のイニシャルを添えて(^o^;)書き込みます。でも、書き込みは最小限に。楽譜は目で見やすく、わかりやすい状態に保ってあげます。楽譜を正しく読む練習をしたあとなら、それほどキレイな楽譜を保つことは考えなくてもよいけれど。


版について


音楽の読み書きがうまくなればなるほど、読んだものに正確に従うようになるはずです。よい「版」を使うことは必須。だれかの注釈(それがどんなに優れていたとしても)じゃなく、作曲家本人が書いたとおりの情報を知らなくてはいけないわけです。とくにバロックや古典では、誰かが版を起さないといけないので、よい[「版」ということが大切になります。でも、誰かの考えに頼るのではなくて自分自身の解釈で演奏したい場合、どのくらいの音量で、どういうスラーをつけるかといったことに確証がないなら、やってはダメです。

大まかにいえば、楽譜は次の3つの版が入手可能です。

最もいいのが学問版。本物の手書き譜のコピーだったり、ある作曲家、ある時代、ある地域の作品に絞った膨大な資料だったりします。これはなくてはならない情報源で、とにかくどんなに些細なことも細かく議論された結果作られたものです。編者が複数の資料(直筆譜、初版譜、初演時のパート譜etc.)を頼ることはよくあること。そこには小さな不一致がちょこちょこあったりして、どれを採用するかというのは難しいトコロ。だからこそ詳しい議論が必要なわけですが…。この版はとっても分厚くて小分けにもできないので、演奏用には不向きです。個人もちにするには値段も高いので、大学の図書館とかで見ないといけないもの…でも、疑問がわいたときにはこうした版を見ないことにはコタエにたどりつけないかもしれません。

いわゆる「原典版」というのが、演奏用には最もオススメです。学問版を参考に、最小限の編集を加えたもの。編集記号を加えたときには、たとえばスラーを点線で書くなど、どの記号が作曲家のオリジナルか区別がつくようにしてあります。ふつうの演奏用楽譜と比べて、それほど高価なものでもありません。

その他たくさんの演奏用の版が出回っています。演奏用の楽譜は、誰かが「こんなふうに演奏するべきだ」と解釈したものです。とくにバロックでは作曲家が強弱やスラーを書いていないので、現代的な音楽っぽい感じで指示が書き加えてあります。多くのものは優秀な音楽家がうまく編集してくれています。これらがあまりオススメじゃないのは、作曲家の書いた記号と編者が加えた記号が区別できないせいで、作曲家よりも編者のココロのほうへ目が向いてしまうからです。自分自身の判断ができるよう、キレイなままの楽譜を手に入れましょう。


スタイル

役者さんが言うには、スタイルというのは自分が何を演じているかを知ることだそうです。シェイクスピアの劇ならNYのブルックリン訛りでは喋らないし、ゴールデンタイムの刑事ドラマでエリザベス王朝風のヒダヒダのある服は着ないし。スタイルに関する知識はいつも深めなくてはいけません。MozartとMahlerやDebussyとは違いがあったりするはずです。ある作品ではあたりまえに出てくる和音進行も、ほかの作品ではビックリするような存在だったりして。違いを知らなくてはいけないのです。勉強して、読んで、聴いて、生涯かけて知識を深めていくわけです。コンサートにたくさん出掛けましょう。録音もいっぱい聴きましょう。Oboeの曲ばっかり聴かないで、あらゆるものを聴きます…オペラ、室内楽、交響曲、バイオリン協奏曲、歌etc.…。いろんな楽器のための作品や声楽曲も勉強しましょう。自分が勉強したことのすべてが、ふと演奏の時に役に立ったりするのです!


※ぺん語訳に間違いを見つけた方はぜひご一報くださいませ。