1997年11月

*無住庵通信*
No.5

倉 橋 義 雄

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またまたまたアメリカ便り
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 またまたまたアメリカへ行ってまいりました。今回は11月という日本での最多 忙月に予定が入ったため、日程調整に苦労しました。しかし苦労の甲斐あって、 何かと収穫の多い旅行でした。

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ネブラスカ州リンカーン
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 去る6月に初演した<BAMBOO PRINCESS>(ランドール・スナイダー作曲)とい う曲の再演のために訪れました。
今回も前回と同じくプロデューサーはピアニストの井上和子さんで、ネブラス カ大学芸術学部の主催による公演でした。
 出演者もほぼ前回と同じでしたが、中国箏・琵琶の奏者が異なりました。前回 はウーマン(呉蛮)さんというボストンから来た女性でしたが、今回はガオホン (高虹)さんというミネアポリスから来た女性でした。
 どちらも30歳前後の若い女性ですが、中国人音楽家の圧倒的な存在感には恐 れ入るほかありませんでした。鍛え抜かれた技量もさることながら、観客の前に 立つときの物腰の優美さ、話のうまさ、そして客席全体をホワァーと明るくさせ るような笑顔の美しさは、ちょっとやそっとでマネできるものではありません。 徹底的に個性を主張しながら、なおかつ4千年の中国文化を堂々と体現している のです。ヤボな私ですが、「私もかくありたい」と思いました。
 ちなみに、リンカーン交響楽団の演奏会を聞きに行ったところ、そこの常任指 揮者がヨンヤン・フーさんという中国人でした。そしてドボルザーク「チェロ協 奏曲」のゲスト・チェロ奏者が、これまたジアンワンさんという中国人でした。 どこに行っても中国人音楽家が出てくるので、少し驚きました。
 ジアンワンさんのチェロは文句なしの素晴らしさでした。まだ28歳のお となしそうな青年なのですが、かのアイザック・スターンに認められて、目下ニ ューヨークで「第2のヨーヨーマだ」と騒がれているそうです。
 ひょっとしたら、いまものすごい勢いで中国人音楽家がアメリカに進出してい るのかもしれない、と思いました。陽の当たる場所にも、そうでない場所にも。
 彼らのこの勢いの秘密はいったい何だろうと考えてみたのですが、よく分かり ません。しかし彼らが共通して言うことは、「アメリカにたどりついたときは無 一文だった」ということです。ここに彼らの恐るべき強さの秘密があるのではな いかと思いました。
 さて私の尺八も、お陰様で再び大好評を得ることができ、ひじょうに気を良く しました。ネブラスカ大学から「小学生に聞かせてやってほしい」と依頼された ので、気楽に引き受けたところ、何と8小学校で9演奏会も設定されてしまい、 いささか驚き、かつ疲れました。
 しかしアメリカの子供達の態度は、実に気持ちがいいものでした。どの小学校 でも子供達は、食い入るような表情で私の音を聞き、演奏が終わったときは大歓 声をあげてくれました。そして先生が「何か質問があるか?」と聞いたら、ほぼ 全員の子供が一斉に手をあげました。
 それにひきかえ日本の子供達の態度の情けないこと。日本の教育は絶対に間違 っています。
 人口わずか20万人の小都市の中で合計3千人の子供達が私の尺八の音を楽し んでくれたということは、私には大きな収穫でした。

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コロラド州ボウルダー
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 去る9月からコロラド大学に尺八科が開設され、その初代教授にデビッド・ウ ィーラーさんが就任したことは、以前お知らせした通りですが、今回の旅行で私 は初めて彼と対面しました。
 まことに好青年で、人柄・技量ともに申し分なく、初代教授として正にふさわ しい人物でした。すっかり意気投合して、来年3月にボウルダーでジョイント・ コンサートを開くことを約束してきました。今から楽しみです。
 さて、彼がボウルダーに移り住んできたことにより、来年7月の「世界尺八フ ェスティバル」の準備にはずみがつきました。開催されることはもう確定され、 特別ゲストとして下記の巨匠達の参加が決定しました。

 山口五郎(人間国宝)、青木鈴慕、横山勝也、山本邦山、荒木古童

 これら巨匠達の演奏会と講習会が予定されています。
 ほかに私も含めて約20人の中堅演奏家も招待される予定ですが、それについ てはまだ未定です。
 日本では東京在住のクリストファー遥盟さんが中心になって東京中心に実行委 員会が結成されていますが、私は日本側の人間ではなく「地元の人間」のひとり として、積極的にフェスティバルに協力していくことに心を決めました。これま での私とボウルダーの関係から見て、それが当然のように思われました。

 実行委員会でも公式にフェスティバルへの参加を呼びかけておりますが、それ とは別に、私が世話人となる「旅行団」を結成したいと考えておりますので、こ こで皆様に呼びかけさせていただきたく思います。
 尺八を愛好される方、尺八に関心がある方、ロッキー山脈を見てみたいと思っ ておられる方、いちどアメリカへ行ってみたいと思っておられる方....どなたで も、私と一緒にボウルダーへ行きませんか?
 尺八を愛好される方のために「無住庵コンサート」の会場を確保しました。巨 匠の演奏を聞くだけでなく、あなたもぜひロッキーの麓で心ゆくまで尺八を吹い てみてください。もちろん無住庵会員だけでなく、他流派の皆様の参加も大歓迎 いたします。もし5人以上のグループ参加であれば、独立した舞台を提供いたし ます。
 尺八を愛好されない方のためにも、楽しい観光プランを考えております。ボウ ルダーはロッキー山脈の麓の美しい町で、治安も良く、見所がたくさんあります。 日本の女子マラソンの高地トレーニングの基地であり、現在あの有森さんが住ん でいます。少し足をのばせば、ロッキー山脈国立公園で雄大な自然が満喫できま す。またフェスティバル終了後にニューメキシコ州の高原の町サンタフェを訪問 することも、いま考慮中です。
 詳しい旅行プランはまもなくできあがりますので、後日あらためてお知らせい たしますが、関心をお持ちの方は、どうか今すぐお問い合わせください。

  1998/ 7/05  世界尺八フェスティバル開会
      09  閉会

無住庵通信 了