発表4: 夏田昌和 「Schumannの<子どもの情景>より<トロイメライ>、<子どもは眠る>と、自作<よく眠るための内気なセレナーデ>の分析」

(発表80分) 16:10-17:30  質疑応答 17:30-17:50

 シューマンの「子供の情景」は、ブルジョア階級の一般家庭にピアノが普及しつつあった19世紀半ばのヨーロッパにおいて、この楽器の初心者でも演奏可能なように書かれた教育的作品でありながら、子供が過ごす日常やファンタジーの世界を深い共感と希有な完成度によって表現した芸術性の高い名作として、今日まで広く親しまれ、愛されている。そこで描かれている家庭の情景や子供の心理は、かつて子供であった全ての大人が心の奥底に保ち続けるものであるが故に、時代や文化を超越する普遍性を持っていると言えよう。今回の発表では、全13曲より成り、何れもキャラクター・ピースの秀逸な例を示す「子供の情景」より、シューマンの作品として一般に最も知られたものである「トロイメライ」と、終曲の直前に置かれた美しい音楽である「子供は眠る」の2曲を選び、機能和声やフレーズ構造、形式、音楽的表現などの観点から分析を試みる。
また東日本大震災の被災者救援のためにトリオ「mmm...」(フルート/間部令子、ヴァイオリン/三瀬俊吾、ピアノ/大須賀かおり)が企画し、世界の100名の現代作曲家から提供された楽曲を録音、インターネット配信して寄付を募ったチャリティー・プロジェクト「ヒバリ」のために2011年の夏に作曲した「よく眠るための内気なセレナーデ」を、作曲者自ら演奏しつつ若干の分析や解説を加える。演奏が容易で、シンプルな表現内容と構造による短い作品であるという特徴を「子供の情景」とも共有するこの作品は、特に「子供は眠る」とはある具体的な関連を意識しつつ作曲された音楽である。
19世紀のドイツと21世紀の日本という大きく隔たった時代や土地、文化を背景に作曲され、しかし”眠り&夢つながり”でピアノのために書かれた3つの作品を同時に提示することで、とかく別個の世界と思われがちなクラシック音楽と現代音楽が、共通の土台や精神に基づきながらそれぞれの表現へと至っていることの一例を示してみたい。