発表1: 水原眞理 「アメリカの総合大学音楽教育事情:実技専攻と理論に関して」 

発表(30分) 13:50-14:20 質疑応答 14:20-14:30

私は1997年から2009年までアメリカに滞在し、その間に、「音楽博士号」(D.M.A.=Doctor of Musical Arts)を取得した。 D.M.A.とは、器楽演奏、声楽、指揮、作曲、ピアノ教授法の実技専攻で取得する「音楽博士号」であり、1955年より授与されている。
日本では、器楽演奏専攻と「音楽博士号」は一致しないように考えられているが、アメリカの総合大学音楽学部で教えるには、D.M.A.は不可欠な キャリアになっている、と言っても過言ではない。近年、西洋クラシック音楽の演奏に熱心な東アジア諸国の音楽専攻生からもD.M.A.は、生涯国際的に通用するアイデンティティー として以前から注目されている。それは、東洋人音楽留学生の多さから容易に推測できる。その一因に、アメリカの音楽学部では実技(演奏技術)のみに偏らず、「アカデミックな基礎的音楽学識」にも重点を置いていることが挙げられる。大学院では、基礎的な音楽学識を幅広く身に着けさせるために、最初の数年間にコース・ワークと呼ばれる数多くの授業を受けさせる。この授業の幅や奥行は深く、そのレベルも、課題の密度も非常に高い。この環境は日本ではとても望めないと思った。私は、その実情を伝えたいと修士入学から博士号取得の全課程を記録し、「アメリカの音楽博士号:DMAのすすめ」と題して、本年4月に芸術現代社より出版した。
必修科目の中で特に感銘を受けたものは「ソロ・リサイタル」、「リサーチ・プロセデューアー」、「理論」であった。これらは、これから演奏者を目指す音楽学習者には必要な能力であるが、日本では未だに一貫して効果的に教えられていないのではないか、と感じている。今回は、日本とは異なるアプローチで教えられる「理論」の授業に焦点を当ててお話ししたい。何故なら、学部2年生で教えられていた「理論」は、導入部から私を魅了し、日本との違いに愕然とさせられたからだ。この「理論」とは正に、グレゴリアン・チャントから1950年代に至る壮大な「楽曲分析史」と謂えるものであった。