発表詳細: 「島岡譲《前奏曲とフーガ ト短調》(1948/2018) の分析」岩河智子

音楽理論家として広く知られる島岡譲氏にこんな感動的な作曲作品があることをどれだけの人が知っているでしょうか。
2018年7月1日にオーケストラ・ニッポニカにより島岡譲作曲の「前奏曲とフーガ ト短調」が演奏され、
客席は大きな感動に包まれました。
この曲は、1948年の日本音楽コンクール第2位に入賞した作品です。
戦争中、芸大生だった島岡譲は「敵の潜水艦を聴き分けられるような音感教育をせよ」という無茶苦茶な軍の命令で淡路島に赴きました。終戦を迎え、戻ってきた東京は何も無い焼け野原。だからこそ音楽だけが鮮やかに心に響いたそうです。
音楽の勉強を再開し、師 池内友次郎の勧めでこの作品を1カ月くらいで書き上げたものの、オーケストレーションはあまり勉強していなかったため、うまく鳴らなかったということです。
当時のオーケストラスコアは失われ、大もとの4声体の自筆譜が残っています。また、研究会で使用したらしい二台ピアノ編曲版もあります。
野平一郎氏の発案で、林達也氏に新たに管弦楽編曲を依頼し、2018年に再演の運びとなったものです。
1)前奏曲
厳密な4声体で書かれています。深い悲しみを訴えかけるような、心を揺さぶられる曲です。
倚音の美しさ。転調による高まり。明快な終止。フーガで用いられる重要な音型も登場します。
2)フーガ
「学習フーガ」というのは、フーガのエッセンスを効率よく学ぶために整えられた、いわば「フーガのひな形」とでもいうべきものです。
この曲は「学習フーガ」の原則にきっちり添いながら、そんな教科書臭さを全く感じさせない、詩情あふれる曲です。フーガの主題(主唱)はドリア旋法で出来ていて、不思議な憧れを感じさせます。この主唱に組み合わさる対旋律(対唱)は2種類あり、フーガを盛り上げていきます。前奏曲の悲しみが、フーガを通して最後に輝かしい喜びを獲得するかのようです。
和声やモチーフを細かく分析するだけでなく、全体を大づかみにするために構造を図にして示します。
そして最後に実際のオーケストラ演奏の録音を聴きたいと思います。