発表要旨詳細

谷和明: シューベルト《冬の旅》テクストの社会思想史的解釈の試み」

 《冬の旅》のテクストを詩人ミュラーの連作詩集(Zyclus)として読解し、7月革命という春の到来を知ることなく、ウィーン体制という冬の時代の下で自由に生きることの可能性を追求した青年の物語として再構成することを試みる。ミュラーは『冬の旅』全編を纏めるに際して詩の配列順序を大幅に変更した。けれども、シューベルトはそれに従うことができなかった。その結果、《冬の旅》には3つの版が存在するが、その異同を手掛かりにして「物語」を構想する。
ここで、注目したいのは、3つの版を通じて基本的に維持されている4つの詩群の存在である。これらを物語展開の4つの局面だと見做し、主人公の行為、思想、心理がその局面ごとにどう変化していくかを検討する。
 各局面の内容、位置づけ、すなわち物語の大枠は、Gute NachtからRückblickまで9詩で構成される最初の詩群およびMut!とDer Leiermannの2詩だけで構成される最終詩群によって与えられている。この両詩群はいわば序論と結論として、改訂を通じて位置を変えなかった部分である。そこで、この2つの詩群を各詩の内容を相互参照しつつテクスト内在的に読み解くことを通じて、物語の局面展開、つまり粗筋を構想する。
 そこで問題となるのが、ミュラーがその完成版で2番目の詩群と3番目の詩群の位置を入れ替えたことである。何故、入れ替えたのか、それによって物語がどう変化しているのかを検討してみる。
さらに、シューベルトが両詩群に加えた変更、すなわちDie Postの抽出とDie Nebensonnenの挿入が、ミュラーの詩集の配列に対する唯一の独自の改定といえることを確認し、この改訂により物語の展開をどのように変化したのかも検討する。