発表要旨詳細

川本聡胤: ヴィジュアル系J-POPの楽曲分析

1990年前後よりJ-POPの一部の音楽が「ヴィジュアル系」と呼ばれるようになった。これは、読んで字のごとく、けばけばしい衣装や髪型やメイクをまとったアーティストによる音楽、というほどの意味合いであり、元来、必ずしもその音楽様式を意味するものではない。事実、当時から今日に至るまでの間、ヴィジュアル系アーティストにより、実にさまざまな種類の音楽が作られてきた。そのためヴィジュアル系と呼ばれるさまざまな楽曲どうしの間に音楽的な共通性はないとまで言われることが多い。

しかしながら、X-Japan, Malice Mizer, Luna Sea, 黒夢、Alice Nine、the GazettE、摩天楼オペラなど、代表的ヴィジュアル系アーティストによる多数の楽曲を詳細に分析してみると、そこには明らかにこのジャンルに特有の音楽的諸要素を見出すことができる。例えば楽曲形式は、ポピュラー音楽の主流タイプから逸脱する。リズムパターンは曲中極端に変化する。和声は調性的というより旋法的であり、特定の旋法を響かせる工夫がなされる。ボーカルは低音としゃくりごえを交代させる。これらの全てと言わずともいくつかの特徴があらわれている曲が、ヴィジュアル系の中には目立って多い。逆にこれらの特徴があまり用いられていない楽曲は、ロキノン系などの隣接分野に多い。

本発表は、ヴィジュアル系楽曲の分析を通して、ヴィジュアル系楽曲の多くに共通してみられる音楽的特徴をできる限り明確に抽出することを目指す。それにより、ヴィジュアル系なるものを、衣装やメイクなどの視覚的要素の様式としてだけではなく、形式や和声などの聴覚的要素の様式としても、捉える可能性を示唆したい。さらに、そうして捉えられた彼らの音楽が、彼らの衣装や歌詞で表現されている特異で非日常的な世界観を、どう演出しているのかについても、一つの解釈を試みたい。

 

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