発表4要旨: 平本幸生 「自作曲の分析とキーボードハーモニー ~三声体和声 伴奏の魅力~」

 「自然」という語句の対義語、それは「人工」である。「自然」というと清らかでポジティブなイメージを

もつのではないだろうか。一方、「人工」は心のこもっていないネガティブな印象を一般には抱くのでは

なかろうか。  ところが、音楽作品をはじめ芸術というものはすべて人工的につくり出されたものであ

る。自然が勝手に音楽を鳴り響かせるなどということは決してない。したがって、芸術作品を生み出す

という行為は、強大な自然への挑戦であり、この戦いをいかにものにするかが芸術家の腕の見せどこ

ろといえるだろう。  しかしその傍、「総合和声」(島岡譲他)の原理篇にもあるように、音楽は自然を利

用して成り立っている点も忘れてはなるまい。だからこそ、自然の特性の正しい理解、習得に努めるこ

とは、音楽に磨きをかけるための一側面を担っているであろうというのが発表者の考えるところである。

 今回は、鍵盤和声の伴奏部において、基本形の代わりとして用いられる独特の第2転回形がなぜ可

能か、パウル・ヒンデミットの結合音や音程根音の考え方を応用し、特に長調におけるⅣ2、Ⅴ72につ

いて、その根拠に迫りたい。また、属七和音に含まれる三全音は、その音程の広さによって、生じる結

合音が音楽的に大きく異なることを示し、三全音をなす2音のうちどちらが導音となるかという観点につ

いて発表者の見解も交え言及したい。そして最後に、そもそもの結合音という現象について、その生成

の数理的根拠を、先行研究をもとに提示し、数理モデルの導出の仕方や、そのモデルの実際との比較

について考察したことを少々の数式を交えご覧いただきたい。  このように音楽と自然との関わりは、

本発表でご覧いただく結合音に加え、長三和音と倍音とのつながりなど頻繁にみられるが、その一方で、

短三和音や短調の存在など自然からは抽出しにくい側面もあり、未開な点も多い。今後も、些細な驚き

や疑問を軽視することなく小さな一歩を重ね、音楽の真相に迫りたい。そして、作曲や演奏表現の力に磨

きをかけて、「自然」に負けない時間を届けてゆきたい。