発表2要旨: 福田由紀子 「「ゆれ」と「かげり」から見たChopinの「前奏曲集 作品28」
――楽曲構造とピアニズムの分析―― その4 (9番、10番、12番、17番)」
「ピアノの詩人」とも云われるChopin(1810~1849・ポーランド→仏)のピアノ曲は、愁いを帯びた
旋律の一方で、煌びやかな音の世界を繰り広げている。ピアノという楽器を縦横無尽に操り、
絢爛豪華な響きを生み出している。この響きの素晴らしさがChopinの魅力であり、ピアノ音楽の
新様式を開いたと云われる所以である。
そこで、Chopinのピアノ曲の魅力を理論的に解明するために、彼の作品とピアニズムの分析に
取り組むことにした。
ピアニズムとは、ピアノの機能(効果)を最大限に生かす工夫のことである。理論的な面から云う
と、テクスチャー(縦糸と横糸から成る織り地のこと・音楽的に云うと音の組み合わせや構造)の
問題である。
「テクスチャーの多様化が起こるのは、器楽の勃興とともに非声部様式が発達してからです。
非声部様式(器楽様式)の一番の特徴は『分散和音』の使用にあります。つまり、1個の『同時和
音』をタテ・ヨコの音群に分けて奏する技術です。」と、島岡先生はテクスチャーについて書いてお
られる。
Chopinの作品のテクスチャーを調べてみると、分散和音を何オクターブにも広げていることが分
かる。さらに、分散和音に沢山のゆれ(長大な音階や半音階など)が組み込まれている。そして、
そのゆれが複雑になればなるほど、煌めくような輝かしい効果を生み出しているのである。
今回発表する「前奏曲集 Op.28」にもピアニズムの素晴しい例は沢山見られる。
分析譜、還元譜、テクスチャー分解譜、全体区分図、分割譜などを用いながら、今回は、以下の
4曲について発表する。
第9番(ホ長調): この曲の狙いは、アルシス(上拍)→テーシス(下拍)のリズム効果にある。
第10番(嬰ハ短調): 曲全体が調レベルでの巨大カデンツT-S-Tで構成され、また4つのフレー
ズの前半がどれもT-S-T のカデンツから成るというS主導の曲である。各部後半のDとのコント
ラストも素晴らしい。
第12番(嬰ト短調): 調と和声の構成はソナタ形式に対応するが、明確なテーマは欠ける曲。右手
の「タラタラ音型」をどのように位相分析するか、還元していくか、またヘミオラやシンコペーションの
バスをどのように捉えるか等、分解譜を作成するにあたって、段取りの難しい曲。
第17番は物語性を感じる曲である。ABACAのロンド形式の各部に、物語の5つの場面を重ね合わ
せてみた。これにより、ロンド形式の構造的特徴も、物語の進展もどちらも分かり易くなる。