さて、外観はゴッツさんトレードマークのシャンクにちょっとリング状のデザインがあり、金色の刻印があしらわれていて、どことなく古いオットリンクを思わせる。
素材の表面はザラっとしており、角の丸い音を連想させる。チャンバーのデザインはソロイスト的な円形スロートにも見えるが、独自の工夫がなされていて、音程が安定しにくいソプラノにおいて、効果の高い独自の設計になっていると言う。テーブル、レールはゴッツさんの確かな技術で完璧に仕上げられており、素晴らしいものだ。ソプラノはちょっと太めのレールで安定感がある。
言い忘れたが、最大の特徴とも言えるのが今回の素材だ。「なんだ、ただのハードラバーじゃないのか?」と訝しがる貴兄もいるかとは思うが、「エボナイト」や「ハードラバー」とは違って、なんと「シリコンゴム」なのである!多分業界初の素材であろう。
一般的にハードラバーはゴムを硬化させるのに硫黄を使用している。硫黄単体には毒性があると言う訳では無いのだろうが、ゴッツさんの話によれば削る時にガスが発生して非常に「臭い」そうである。また、常時微量のガスを発生しているため、銀メッキの楽器やキーが銀メッキであるクラリネットなどのケースにラバーのマウスピースを入れっぱなしにして、銀メッキを盛大に黒化させてしまった方もいると思う。少なくとも「シリコンゴム」は匂いや、銀の腐食に気を使わなくてすむ。(もちろん空気中にも硫化水素が存在するので、ただ置いていても黒化はしますが・・)
さて、肝心のサウンドだが、まずはスゴいバズノイズで全域に渡ってサブトーン気味なジャジーサウンドであるのだが、全然と言っていいほど変な抵抗感が無く、スムーズに吹ける。最初の印象ではややソロイスト的なイメージかな?とも感じたが、ソロイスト系よりもかなり太い音であり、何しろ倍音が豊富で「ビンテージマウスピースよりも古い音がする」と言えなくも無い、全体的に音色はマイルドである。フェイシングは若干長めで、息は多く入る。
筆者は現在カーブドソプラノメインなので、サンプル演奏もカーブドで行ったが、重心の低い低音の倍音と、ハスキーなバズノイズが非常にビンテージっぽい。できれば若干静かな環境か、きちんとモニターできるPAでその倍音を楽しみたい。低音がかき消されるウルサいバンドでは高音部分だけが目立って若干細く感じるかもしれない。ゴッツさん自身としてはストレートのソプラノの不安定感や音の細さを解消するためにチャンバーの設計に工夫をこらしているそうだ。
パワー感バリバリ!という類いのマウスピースでは無いが、そこはゴッツさんのマウスピース。しょぼしょぼ吹くだけではなく、バリバリのパワーでもストレス無く吹く事も出来る。音色はハスキーでダーク&ウォームなのに、吹奏感にクセが無いので、幅広い音楽ジャンルで使用できると思う。「シドニー・ベシェ」のようないかにも「古い音」をやりたい人にはまさにうってつけだろう!もちろん現代的な音楽にも使えるし、フルパワーで吹いても抜けてくれるので、サックスを演奏することにおいてストレスを感じない出来栄になっている。
好き嫌いが多少出るであろう竹素材のマウスピースに比べれば、非常にオーソドックに使えるいいマウスピースを作ってくれたなぁ、と素直にうれしく思う。
<2010年4月>
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