2005年12月12日
“録音業界”

先日、ある化粧品のテレビCMの録音の仕事がありました。スポンサーは○モホルン○ンクルの再○館製薬さん。シューマンの「トロイメライ」を録音したので、皆さんテレビでこの会社のCMでこの曲が聞こえたら三宅のチェロですのでよろしくお願いします!(何を?)でも実はこの種の仕事の需要は結構あり、同じ会社で現在オンエアされている「バッハの無伴奏チェロ組曲」も僕ですし、その他、映画の音楽の音入れやテレビドラマのBGM、いろいろなアーティストのアルバムへの参加など、忙しい人は朝から晩まで都内のスタジオを駆け巡っています。30−40年前は一日録音の仕事をすると、都内のちょっと郊外の土地を一坪買えたというものすごい話も残っており、当時のスタジオ・ミュージシャンたちは相当裕福だったようです。現在のギャラはというと、当時からほとんど上がっていないと言うレベルでしょう。その間に物価はおそらく桁ひとつ以上変わっていますからね、まあそれでも高い技能給ですよね。

この仕事をするための一番必要な能力はなんといっても、その場で渡された楽譜をすぐに演奏して商品に仕上げる高い初見能力です。チェロの場合もたまに恐ろしいくらい難しいフレーズや、フラット7つなどという普段なかなかお目にかかれない楽譜に、あたふたする場面もなくはないのですが、なんといってもヴァイオリンはすごいですよ。ワーグナーも真っ青の超難関パッセージをその場でほんの5−10分のうちにものにして次々に録音していく業を見るにつけ、「本当に日本のヴァイオリンのレベルは世界一だな」と唸ってしまいます。スタジオ・ミュージシャンはその昔は専門のプレイヤーがたくさんいましたが、今は半分以上が普通の音楽家たちです。その理由としては、シンセサイザーの発達によって生の楽器の需要が減ってきたことが大きいでしょうね。そしてクラシック業界のコンサートの数が減少してきていることや、マーケットの外来アーティスト偏重の傾向なども理由のうちでしょう。それにしても30人くらいのストリングの個々の顔ぶれを見たらみなさん、びっくりしますよ。有名オーケストラのコンサートマスター、首席奏者や音大の教授、国際コンクールの入賞者、ソリストといったビッグネームがずらりと揃っています。商業音楽の録音の本場、アメリカでは、上手な学生はソリストかスタジオ・ミュージシャンになり、どちらにもなれない人がオーケストラに入るという話があるくらいですから、日本もだんだん似たようなことになってきたのでしょうかね。

このスタジオのプレイヤーの多くが車で移動をするのですが、この運転技術はすごいですよ。狭い駐車場でも一発で車庫入れなんてのは序の口で、前の車との車間距離10センチ以下にぴたりと停めるとか、タクシードライバーもびっくりです。ちなみに都内の道も抜け道をくまなく知っている人がたくさんいて、運転歴5年くらいのタクシードライバーでは太刀打ちできないでしょう。

米国留学から帰って間もない頃、シュタルケル先生が来日された折、

「ススム、お前最近どうしているんだ?」

と聞かれたことがありました。その当時はN響、都響のエキストラ、などと平行して録音の仕事を多くしていましたので、

「いやぁオーケストラも行っていますが、スタジオ録音なんかもやっています。」

といささか恥じらいの気持ちもありながら返事しますと、

「何言ってんだ、私がニューヨークにいた頃に(先生はメトロポリタン歌劇場の首席奏者でした)、そういう仕事をしなかったとでも思っているのか?当時のNYのスタジオのチェロのメンバーなんて、私のほか、ハービィ・シャピロ(ジュリアード音楽院教授)、グリーンハウス(ボザール・トリオ)などすごいメンバーだったぞ。」

と言われてびっくりしたことがあります。そのメンバーだと一体誰がトップを弾くのでしょうか?

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