2003年10月24日
“ほこりだらけのカセットテープ”

前回はベランダの掃除から留学時代に話が発展しましたが、今回はレッスン室の横の物置というか ウォーキングクローゼットの整理をしていたら、また面白いものを見つけてしまいました。 僕が大学3年生のときに桐朋学園にヨー・ヨー・マが来て公開レッスンをしたことがあり、 その模様を録音したカセットテープがほこりをかぶっていたのです。3人の受講生の演奏とレッスンが 2巻のテープにわけて収めてあり、今や日本を代表するソリストの長谷川陽子さんと、読響のメンバーに なっている渡部玄一氏(僕の同級生である)、そして僕が受講生でした。思い起こしてみると2学年下の 山本裕康氏が録音をしてくれたもののような気がします。

そもそもヨー・ヨー・マ氏が桐朋に来るという話はなく、前日の夜になってまさに寝耳に水という感じで 「明日、ヨー・ヨー・マが来る!」「誰がレッスン受けるんだ!」とてんやわんやで大騒ぎになったのでした。 たまたま僕が弾くことになったものの、曲もすぐに何が弾けるんだかパニック状態、ピアノ伴奏は 沼尻竜典氏(今は指揮者でその名をとどろかせている)をつかまえ、相談の末、ブラームスのソナタを 弾くことになったのでした。沼尻氏は知る人ぞ知る天才ピアニストですからブラームスくらいでは まったくたじろがず、完璧なサポートでした。

公開レッスンの当日、トップバッターは僕になってしまい、桐朋の大教室も満員の有様に顔が引きつるくらい 緊張しまくっていたら、マ氏は自分のチェロ、デュ・プレの持っていたストラディバリと弓を差し出し、 「弾いてごらんよ。」だって。時価数億の楽器を手に恐る恐る音を出してみたけれど、当時の僕の腕じゃ とても鳴らしきれない。客席で聞いている諸先輩方はなんだか渋い顔で、ますますあがって弾いた ブラームスのソナタはさぞかしひどい出来だったと思っていましたが、今回テープで聞いたら案外 良く言えば落ち着いて、悪く言えば平板な演奏でした。今のほうがもちろんうまく弾けるとは思いますが、 ある意味僕の基本的な部分は今とさほど変わらず、なんだかぞっとしましたねー。表現というものは その人の内面を映し出しますね。あとの渡部くんはチャイコフスキーコンクールを受けた直後かなにかで、 その課題曲のバッハの無伴奏6番のプレリュードをしっかりと弾いていましたが立派な演奏で感心。 今の学生のほうが器用かもしれないが、なんというか彼の演奏には志の高さが感じられました。 そして最後の長谷川陽子ちゃんはラロの協奏曲を完璧に弾いていました。マ氏もあまりコメント しようがないという感じでした。当時高校生だった彼女がある意味できあがった演奏で、正直いって こんなに上手だったとは改めて驚かされましたね。

このテープを聴いて思わされたのは、個性がいかに大事かということ。逆にいえば個性のない演奏家は ひっくり返っても友友馬(ヨーヨーマと読みます)に勝てるはずがなく、なかなか面白いことには ならないんじゃないのかな。その人にしかできない、その人にしかないものを追求し、オンリーワンの 世界を構築していかなければいけないな、とつくづく思った次第。

ところで僕のオンリーワン、スペシャリティはなんですかね?昔のテープから難題を突きつけられ、 立ち往生してしまいました。ま、自分で決めるものじゃないか!みなさん、今度三宅に会ったとき、 あるいはメールでそっと囁いてください。「いい音だなー。」とか「弾いてる姿が素敵。」とか 「エッセイ読んでます。」とかね。おだてると結構高いところ登りますよ、三宅進!あの有名な ヴァイオリニスト、オイストラフがデビューしたのはなんと40歳のとき。そのあとぐんぐん うまくなったといいます。僕もこれからだ!?

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