The Black Halo     Kamelot



最初聴いた時は、ピンと来なかった。
悪いアルバムではないし、曲のツブも揃っている。
だけど、「これだ!」と自信を持って言える曲がなかったのだ。
全体的に暗い感じで、プログレがかっていることもアルバムを理解するのを難くしていた。

が、聴き込むほどに良さがわかってきた。
トータルアルバムの醍醐味が集約されているのだ。
今や手放せない1枚となっている。

このアルバムは聴く人を選ぶ。
ノリの良さや、印象に残るフレーズによるわかりやすさを求めるのなら、聴かない方がいい。
疲れるだけだから。
が、構築された立体的な曲の組み立てを理解できるまで聴ける“根性”のある人には、最適である。
Dream Theaterの「Metropolis Pt.2」や、Angraの「Temple Of Shadows」がお好きな方には間違いない。
表面だけでなく内面まで、さらに詩の内容まで踏み込めれば最高である。

トータルアルバムの性格(宿命?)でもあるが、アーチストが曲の質の他に、アルバム全体の組み立て、伏線、テーマの散りばめ方に力を注いでいるように、聴く側も謎解きの如く細部まで注意して聴く必要がある。
曲に絡みつき、隠されたフレーズ、前出のフレーズ等、他の曲との結びつきを発見するたびに理解が深まり、ますます『The Black Halo』が好きになっていく。

今回は前作「Epica」に引き続き、ゲーテの「ファウスト」の詩からインスパイアされた物語展開だ。
悪魔“メフィスト”に心を売った主人公“アリエル”の苦悩を表現している。


Kamelotの魅力と言うと、第一に挙げられるのはロイ・カーンの声だ。
特にこのアルバムでは、情感たっぷりに色気を伴って聴かれる。
バラードナンバーの、日本ボーナストラックである“Epilogue”を聴いてほしい。
ここでは、声の抜き方のひとつひとつに魂が宿っているかのように、繊細に心を込めて歌い上げている。
地声とファルセットを使い、男のせつなさ、やるせなさが直に伝わってくる。
カーンは、ハードを歌わせてもうまいが、バラードを歌わせたら右に出る者がいないだろう。
“Don't You Cry”のようなキャッチーさはないが、心にじわじわと迫ってくる。

今回は、ミディアムテンポの曲に魅力がある。
March Of Mephisto、This Pain、Moonlight、The Black Haloなどだ。
スピード・チューンよりヘヴィーで、心の不安を駆り立てつつ美しい。
曲は起伏に富み、奥行きを感じさせる。
特に「March Of Mephisto」だ。ゆっくりと迫りくる悪魔メフィスト(大群のようだ)の導入部分に、ただならぬ雰囲気を感じる。
メフィストのデス声にDIMMU BORGIRのシャグラットを起用した。私はシャグラットのことは知らないが邪悪そうだ。プロモビデオのメフィストの姿と相まって、
異次元空間、非現実的な闇を見事に演出している。(あれっ、Epicaではメフィストは美しい姿をした女性だったのでは?)

詩は、ロイ・カーンの声を通して、メフィストがアリエルへ暗黒へ手を差し伸べている。
『人間は強くはない。共感してくれるのであれば、たとえ悪魔だとしても誘惑される』と私は解釈した。苦悩から逃れるために、自分を追い込んだり闇に向かってしまうのだ。テーマがとてつもなく重い。
間奏では、イェンス・ヨハンソンが心の迷いを写し出しているかのような、軽快であっても不安定なキーボードソロを聴かせてくれる。
トーマス・ヤンブブラッドのリフが終始ヘヴィーに繰り返され、“軽い気持ちではこのアルバムは聴き通せない”と暗示される。

アルバム全体的に、楽曲にポイントを置いてあり、ギターソロはその味付けに過ぎない。
前作『Epica』の、アリエルの妻であったヘレナが身を投げたシーンである“Helena’s Theme”が随所に顔出し、楽曲を複雑にしている。
これらの複雑な楽曲をひとつずつ解体する作業をこなすと、難解と思われた『The Black Halo』がようやく理解できてくる。
それには、細部にも注意を払う必要がある。各フレーズを覚えて、頭の中で再構築するといい。
『The Black Halo』が難解なのは、前作『Epica』と密接に結びついているからだ。2枚をトータルで聴きとおして、初めて全貌が見えてくる。『Epica』が前編で『The Black Halo』だから仕方ないが。。回想場面が登場するため、展開が何度も変化する。
聴くのに疲れるし、前作との絡みを理解しないとならないが、それがクリアできれば、Kamelotの世界観が広がり、真に迫ってくる。
驚きなのは、ドラムス、ベースなどの各個人のスキルも高いのに、それを前面に出さないことだ。あくまでも全体のバランスを考え、抑えられて作られている。
トーマス・ヤングブラッドの実力はライブで実証された。速いし確実だった。楽曲はKamelotとバンドの手によるとなっているが、トーマスが中心になって作ったのは想像に難くない。それでも自己を主張せずに、トータルバランスを大切にしている。
オーケストレーションやオペラ的な部分を取り入れてはいるものの、今回トーマスのギターには中世的な香りはない。ネオクラシカルとは違う。強いて似てるバンドを挙げるとしたら、Iced Earthだろうか。
スウェーデン出身のロイの影響から、北欧的なメロディアスで叙情的-ウェットな感触を受けるが、アメリカ人(未確認)のトーマスからは力強さと逞しさ、したたかさという、無骨なものを感じる。どこか乾いているのだ。ロイのボーカルをしっかりとサポートをしている。

小刻みに配置されている小曲『Interlude』は3ヶ所あり、アリエルの心理描写と置かれている情景を伝えている。
これらが決して邪魔にはならずに、いいアクセントとなっているのだ。
反面、アルバムがわかりづらくマニアックになってるのは否めないのだが。

2曲目の“When The Lights Are Down”と11曲目の“Nothing Ever Dies”のサビが似てるのは単なる偶然でなく、意図を感じる。
アルバムの初めの方と終わりの方とで、疾走曲を姉妹曲として配置し、バランスをとっているようだ。


他にも感じたことはあるが、それには「ファウスト」原作を読まないと語れないし、『Epica』を聴きなおさなくてはならない。
テーマが深いので、ひとまずこの辺で終わりにしておく。

次回は、もうちょっとコマーシャルな部分がある楽曲を期待したい。
毎回、アルバムを聴くのにこんなに労力を使い果たすのでは、体がもたない〜〜。^^;
2005.5.14