Temple Of Shadows
Angra




Angraの5作目。
これまでの作品をさらに高度にした、素晴らしい曲が揃っている。

前作のRebirthで、大幅なメンバーチェンジがあり、Kiko Loureiro, Rafael Bittencourtの、二人のギタリストが残された。
が、新加入のボーカル、Edu Falaschiが素晴らしい歌声を聴かせ、見事復活を遂げたばかりでなく、新規のファンをも増やした。

5作目の「Temple Of Shadows」は、彼らの真価が問われる注目作である。
11世紀後半のローマ軍による十字軍遠征を題材に選び、ラファエルの手による架空の戦士“Shadow Hunter”の半生をテーマに、素晴らしいコンセプトアルバムを創り上げた!!

このアルバムで一番驚かされたのが、オーケストラを大幅に取り入れたことである。
とは言え、中心となるのは、キコとラファエルの二人のギタリストと、ボーカルのエドゥである。
オーケストラは、あくまでも作品に彩りと奥行きを添えているに過ぎない。

現Shamanのボーカリスト、アンドレ・マトスが在籍の頃は、プログレがかった宇宙的な広がりもみせたのだが、彼が脱退後は、疾走感のあるもっと硬いギターを中心とした曲を展開していった。
が、「Temple Of Shadows」では、オーケストラ導入の効果か、1曲ずつに場面展開があって、疾走感だけでなく、メロディの美しさも表現している。
また、変リズムによる複雑さ、繊細さ、コーラスによる音の厚み、リズム隊による重厚さも取り込まれている。
アングラの特徴である、ワールド・ミュージックも随所に顔を出し、スパニッシュ調、サルサ調が無理なくHeavyな音楽になじんでいる。
クラシックを導入しているとは言え、ハーモニック・マイナー・スケールはそれほどは使用してはいない。ツインギター使用&音階の特徴を考えると、とってもジャーマン・メタルしていると思う。

今回、キコは戦士の悲哀を出すために、アコースティック・ギターを弾いたそうだ。
ギターソロのドライブ感、早弾き、リフの多彩さなど、キコとラファエルの凄まじいまでの迫力、高い技術力を余すことなく伝えている。
ギターを追って聴くだけでもう、すっかり満足するのに、その上に激しくやさしくのメリハリのあるボーカルやコーラス、完璧なリズム隊が加わって、他とは一線を画す、高度なレヴェルの作品に仕上がっている。
いやぁ〜、凄い。
AngraのRhapsody的アプローチというか。。。
荘厳にして壮大です。



1 Deus Le Volt! 導入となる曲。静かなオーケストラは、嵐の前の静けさだろうか。
情景が映し出され、美しい。
2 Spread Your Fire 疾走するメロディック・スピード・メタル。
預言者から書物を渡されたShadow Hunterの物語の幕開けにふさわしい。
Edenbridgeのサビーネ嬢のボーカルが入り、荘厳だ。
サビの“Grorious!”では盛り上がること必至だ。
キコのギターは早弾きでありながら、流れるような透明感もある。
3 Angels and Demons これもメロスピチューン。
リズムが複雑でなじみにくいが、こなれてくるとこれほどカッコいい曲はない。5回以上聴いたら、ダントツに好きな曲になった。テクニカルなHR好きには最高!!!
キコが壮絶早弾きを聴かせる。ドライブが効いていて、鬼気迫る迫力だ。これをコピーするのは至難のワザだろう。音は鳴らせても、ドライブ感までは。。。
必殺キラーチューン!!
4 Waiting Silence リズムの変化がカッコいいっ!!
ドラマーのAquiles Priesterはかなりテクニカルだ。
ドリーム・シアターを思い起こすが、それよりも彼らのルーツであるRushを思い浮かべてしまう。Roll The BoneやVilla Strangiatoだ。
AngraのルーツにRushがあるかはわからないが、これを聴くと間違いなくあると確信する。
エドゥのボーカルが、ロニー・J・ディオのように声を絞り、力強く歌い上げる。低音はそっくりだ。
5 Wishing Well イントロのアコースティック・ギターがくすぐるようにやさしい曲。懐かしい気分にもさせる。
が、すぐに力強いメロディに変わる。ゴスペルからの影響が感じられるコーラスは素朴で、真っ直ぐ前を向いて行こう!との勇気を与えてくれる。

「Wishing Well」は「願掛け井戸」の意味だが、ここでは「願いの泉」と約されている。人々が綿々と使用してきた古き井戸。そこにコインを投げかけ、己の今後を占う。
物語のテーマである「教会からの支配」と比較するとあまりにも原初的な信仰であるが、それがゆえの押し付けのない強さもある。
曲はそんな素朴さ・力強さ・優しさを与えてくれる。
珍しくメジャーな音階で、私の好きな曲である。やっぱり3拍子のロッカバラード。(^^)
6 The Temple of Hate 疾走するギターが激しくカッコいい!!リズム・ギターの歯切れがめちゃくちゃ良い!
ガンマ・レイのカイ・ハンセンがボーカルをとる。うまいのかも知れないが、声質が「つぶれ声」であまり好きでないなぁ〜。エドゥの声なら。。と残念になる。
この声が気にならないのなら、アルバム中最高の疾走曲だろう。
7 The Shadow Hunter アコースティック・ギターがラテン的なスパニッシュムードを運んでくれる、異国情緒豊かな曲。
中近東的なテイストもある。
エドゥは、低音から曇りのない高音まで見事に歌いこなす。
4:20頃からは、なぜかFlower Kingsを感じる。それもAdam&Eveあたりを。軽いリズムとコーラスだからか。これも好きな曲だ。
8 No Pain for The Dead マイナー調のアコギで始まる。この一節だけでもう惹き込まれる。
詩は悲しい。タイトルの意味は文字通り「死者にはもはや苦痛はない」なのだから。楽しかった思い出が悲しい思い出にすりかわった残された者の苦痛が伝わってくる。
サビーネ嬢のふんわりと包み込むような歌声がやさしく、もの哀しい。
エドゥの魂の叫びが心を打つ。
心の痛みを伴った曲は美しい。。の典型であろう。
9 Winds of Destination ゲームの戦闘場面に使われそうな攻撃的な音楽。(^^)
Blind Guardianのハンズィ・キアシュがゲスト参加している。
2:15過ぎからピアノを主体としたマイナーに転調する。アルペジオがどうしようもない哀愁を誘う。
その後はまた疾走感のあるメタルに変化。二人のギタリストの息のあった早弾きはスリリングである。ネオクラシカルなメロディが冴える!
10 Sprouts of Time 東洋的な出だしから、わずかにマイナーを帯びたサンバのリズム(のように聴こえる)。サルサだ。
無国籍なメロディが異次元空間を生み出し、ふわふわと漂うような実態のなさをよく表現している。
軽めのリズムと軽快なノリ、インド的な間奏と、キャッチーな歌メロで、とても聴きやすい。エドゥの軽めのやさしげな声にうっとりする。
11 Morning Star まるでインストナンバーのように前奏が長い。希望の星(Morning Star)のように前向きな曲調である。
暗示のように表れていた明けの明星がここで出現した。
12 Late Redemption グラミー賞を3回受賞しているブラジル人のミルトン・ナシメントが特別ゲスト。
何となくロシア調である。暗くもの哀しい。
Shadow Hunterは、「古代ユダヤ教の本来の“生物はみな平等”という教えは、今ではすっかり変化し、人間が世界の中心であり、教会が征服、支配するのである。」という考えに疑問を持ち(発掘された写本によって知る)、本来の教えを広めようとするが、同胞やカトリック教会によって起訴された。
それによって処刑されてしまうのだった。
死の天使が彼に手を広げ、永遠の静寂を与えたことが、最後の慰めになっている。
13 Gate ]V 完璧なるクラシック作品。オーケストラだけで演奏されている。
記されたメッセージは抽象的だが、人は繰り返し生れ、死んでいく。。や、人間は“罪”を犯してしまうものだと読み取れた。

作品はキコとラファエルとエドゥの手による。彼らはオーケストラのスコアまで書いてしまったのだろうか?
大いなる高みにまで登りつめてしまった彼らの類稀な才能に感服する。

コンセプトアルバムのためか、短い曲を積み重ねて各曲を創り上げているようだ。
そのため、1枚のアルバムだが、まるで2枚組を聴いているかのようなボリュームがある。
Aメロ、Bメロがこうで、サビがここに入るといった形式は皆無で、コンセプトアルバムやロックオペラを聴き慣れていない人にはとっつきにくいかも知れない。
しかし、メロディ重視、流れ重視、荘厳で一分の隙もないこってりした曲を求める人には最高の作品だ。
曲の展開が多岐にわたるが、自然で、テクニカルで高度なことをやっている割には聴きやすい。それは歌メロディがキャッチーであるためだろう。

そろそろコンセプトアルバムにも手を出してみようかという人にはうってつけである。
Angraは、Dream Theaterが打ち立てた金字塔「Metropolis Pt.2」と同様な位置付けのアルバムを世に送り出してしまっ
た。
今まさに脂が乗っていると言えるだろう。
2004.10.4