アザラシの親子は今日もなかよしです。
ふたりはいつも一緒にいます。
お母さんには子どものアザラシが必要で、子どものアザラシにはお母さんが必要でした。
その理由はあるのでしょうが、特に意識はしていませんでした。
こどもアザラシは日に日に大きくなり、やんちゃになっています。
その成長がお母さんにはうれしくて仕方がありませんでした。
最近ではひとりで動き回るようになりました。
まだそれは頼りないのでいつもハラハラさせれますが。
ある日、子どものアザラシが転んでしまい、
氷と氷の隙間に体を挟めてしまいました。
お母さんには、子どもアザラシを引きずり上げるだけの力がありません。
何度試してみても、それは無駄でした。
幸い、それ以上下に行くような気配はなかったのですが、お母さんは不安でたまりません。
お母さんが途方に暮れていたちょうどその時。
シロクマが襲ってきました。
お母さんは死を覚悟し、けれどそれでも子どもを放しませんでした。
恐る恐る目を開けると、自分が無事だと気付き、お母さんは驚きました。
「俺は子持ちは食わない主義でな。」
お母さんは何が起こっているのかよくわかりませんでした。
そしてよく頭が働いていないまま次の行動に出てしまいました。
「あ、あのっ!」
なぜシロクマを引き止めたのかはお母さん自身もよくわかりませんでした。
お礼でも言おうと思ったのでしょうが、言葉が出てきません。
次にお母さんの口から出てきたのは、意外な言葉でした。
「息子を、助けてやってくれないでしょうか?」
「見ての通り、氷に挟まってしまいまして…。」
シロクマは黙ったままでした。
「わたしじゃどうにもできなくて…。」
お母さんは顔を上げるのが怖くて仕方ありませんでした。
「奥さん…。」
気付くとシロクマは自分たちのすぐそばまで来ていました。
「いくら俺だってそんなに人が良かねぇよ。他を当たりな。」
そう言うと、シロクマは海の中に飛び込んでいきました。
すると、その勢いにより子どもアザラシが氷から飛び出しました!
子どもに怪我はなく、無事でした。
「よかった…。本当によかった…。」
さっきのしろくまの行動が狙いか偶然かは分かりませんでしたが、お母さんはたくさんの感謝をもう姿の見えないしろくまにしたのでした。
おしまい
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おまけ
泳がれなかったんだね。