第38章

MANSUN MELODY MAKER INTERVIEW (23 January 1999)


(ないしょ話)

◆ ねえ、今度はなんか★が変になっちゃったよ。▲が元気を取り戻したのと対照的に。
● ▲が元気になったわけはわかりますけどね。これならもう自殺する心配だけはないというので安心したから。
◆ それで★だけど、毎日「ドレイパアくん」を踊らせては、「何がそんなに楽しいんだ、おまえ?」とか言って話しかけてる!
● あはは!
◆ 笑ってる場合じゃないでしょ。
● 変だね。EMFが好きというところからして、★はもともとかわいいものに目がなかったのに。
◆ 「かわいいけど変であぶない人」が好きなんだよ。Mary Chainもそうでしょ。
● じゅうぶんすぎるほど変だったじゃないか。
◆ でも、Mary Chainショックのあとでしょ。それがPaulまでというので、スキーマが崩壊してしまったらしい。
● ★の許容量を超えてかわいかったのだな。けっこうなことじゃないか。
◆ 困るよ! このあともネタは目白押しなのに。
● 任しといて。私が立ち直らせてあげる。
◆ あんたたち2人じゃよけい心配だ。
● あんたらのSM談義よかましだよー。それじゃさっそく。

1. Paul Draper=バセドウ病説

● かわいー!
★ えー?
● というわけで、前回お伝えしたMelody Makerを入手しました。オフィシャル・サイトから「来週のMMはMansunが表紙だよ」という知らせをもらったのに、実際は翌翌週だったけど。ウェブ情報はちと早すぎるね。というか、日本に入るのが1週遅れなんだけど。おかげで1週間待ちぼうけしてしまった。でも、来日コンサートで盛り上がったあとだけに、実にタイムリーっていうか。
★ Mansunが音楽紙の表紙になるのって、半年ぶりじゃない。MMにいたってはなんと2年ぶり。この1年で爆発的に人気は沸騰したってのに! いかに音楽紙にきらわれてるかわかるわね。
● うーん、でも両紙ともどこかに写真が載らない号はないと言ってもいいんだけど。ま、なにしろ人気投票2位のバンドを無視することはMMにもできまい。今後はもっとプレスに露出することが期待できるね。
★ でもこの写真‥‥
● これがどうした? 私たちが見たまんまじゃないか。
★ このPaulあんまりかわいくない。
● かわいくないってどういう意味よ?! 生で見てあれだけかわいいかわいいと騒いだのに!
★ 本物は確かにかわいいけど、この写真かわいくない。やっぱりこの新しい髪型いや。もみあげがうるさいし、後ろ髪がちょろちょろしてるのも嫌いだし。
● 新しいっていうか、これって96年ごろの髪型に戻っただけだよ。
★ でもまた別の人だ。
● うーん、確かに私も前の髪型の方がお耽美だったとは思うが、たいして変わらんじゃない。ほんの2,3センチの違いで。
★ なのに別人のように顔まで変わるのがこの人のこわさ。なんかこの髪型だとバカみたいに見えるー。品もないし。それに髪もバサバサした感じで立っちゃってるし、顔もはれぼったく見えるし、顔の色が黄疸みたいに黄色く見えるし、この赤いシャツも好きじゃないし‥‥
● あれだけきれいなもの見せてもらって、よくもグチグチ文句言えるわね!
★ だから本物がきれいなのはよくわかってるって。でもこれは表情もなんか変だし、ポーズも不自然だし‥‥
● あの目はそのままじゃないか。
★ いつも変わらないのは目だけね。この目があるからPaulだとわかるんだけど。
● 踊ったり笑ったりしたのをまだ根に持ってるのか?
★ あれはまだ自然だったし、かわいかったからいいんだってば。でもこの写真は不自然。
● だってこれは笑ってないよ。
★ でも昔の無表情と違う。なんか薄笑いを浮かべたように見える。それでこの人はそういう顔すると、なんかずる賢く、いやらしい感じに見えちゃって。
● よく言うよ! 信じらんない! これだけの美少年にケチつけるなんて!

★ 中の写真はどうなってる?
● なにしろカバー・ストーリーだからしていっぱいあるよ。このコンテンツ・ページのは?
★ げ! これはもっとかわいくない。なんかこっちは顔がコケてやけに細長く見えるし。
● かわいいじゃない。またトロンとした目してるし。
★ でもさっきと正反対じゃないか! 同じ日の同一人なのになぜ太ったり痩せたりする?
● ほんのわずかな角度の差で、まるっきり違って見えるんだな。この人が毎回顔が変わるのはそのせいか? 本文ページも見てよ。
★ ぎゃ! また別人! 目が真っ赤に血走ってるし、目の下にくっきりクマ作ってるし! こわいよー!
● 目の下のクマ好きなんでしょ? おっと、それは◆だったか?
★ それは生まれつきそういう顔の人の場合! これじゃまるきり病気顔だよ。少なくとも3日寝てない顔だよ。これって表紙と同じフォト・セッションじゃないの?
● 違うみたい。お洋服が違うし。ここでは黒シャツにまたあの革ジャンを着てる。
★ これならまだ表紙写真のほうがましだよー。こんなPaulいやー!
● 少なくとも笑ってない。
★ だってにらんでるー! 目つきがわるいよー。
● 他の3人がなんともかわいく写ってるだけに惜しいね。
★ これならChadのほうがずーっとかわいいよ。音楽紙ってMansunが憎いあまり、わざと変な写真載せてるんじゃないのか?
● でもほら、小さい方のPaulの単独フォトは愛らしいじゃん。こっちはいつも通りうつろな無表情だし、目はパッチリしてるし。仏頂面のキューピーさんみたいな顔して。
★ うーん、だけどやっぱり目が血走ってるし、目のふち赤いし、病的。キューピーさんの吸血鬼みたい。
● なんだ、そりゃ? しっかし、いつ見てもすごい目だよなあ。

★ これ言うとみんな怒ると思って黙ってたけど‥‥もしかしてこの人、バセドウ病じゃないかと疑ったことない?
● またそういうトンデモを!
★ この目のでかさはやっぱり異常だよ。それに目が大きいだけじゃなく、彼って白人としちゃ、やや出目気味でしょ? それに加えてこの目の異様な輝き! 喉仏が大きく見えるのも甲状腺が腫れてるからかもしれない。男の子じゃなかったら絶対そうだと思うところ(バセドウ病は若い女性に多い)。でもこれだけ女っぽい男の子ならかかっても不思議じゃないし。
● バカ言うな。だいたい病気で目が輝くのはギラギラして不気味な感じになるの。彼はきれいなキラキラ目だもん。
★ これはギラギラして不気味じゃないか!
● これは写真の発色やライティングのせいだって! おかしいのはあんたのほうよ。変な言いがかりばかりつけて。「笑うドレイパアくん」を見たショックで頭おかしくなっちゃったんじゃないの?

2. 再び顔が変わることについて Paul Draper=ロボット説

★ でも顔が違うのは事実でしょうが。それは生でもそうだった。前の髪型のときとくらべて、別人みたいに変わった。
● うーん‥‥
★ あの謎めいた「氷のプリンス」はどこへ? 神秘的な憂愁の美少年はどこへ?!
● 謎はいまだに謎だけどね。
★ 困るんだよ、それが! おかげでいつも彼の、「本当のPaul」だと私が思ってる写真を手元に置いて、忘れないように見てなきゃならない。
● だから自分の目を信じなさいよ。自分の目で見てきたばかりじゃない。あんなにかわいかったじゃない!
★ こうも顔が変わると自分の目が信じられないから困るんじゃない。実を言うと、私が見たあれはニセモノじゃないかとまだ疑ってる。
● またそういう異常なことを。
★ 昔から「お人形みたい」と言ってるけど、もしかしてPaul Draperなんて人間はいなくて、あれは本当に人形なんじゃないか? 歌もギターもインタビューもChadが腹話術でやってるだけじゃないのか?!
● またそういうむちゃくちゃを!(笑)
★ 表情変えたり踊ったりできるようになったのは、きっと人形が精巧なロボットになったからなんだ。
● つい信じそうになってしまうではないか(笑)。
★ それでもってChadとPaulが家に帰ると、次に出かけるときまで食堂の椅子かなんかにちょこんと座らせておいて、夜中にこっそり窓からのぞいてみると、真っ暗な中に身じろぎもせず、目をぱっちり見開いて、虚空を見つめたまま、お人形顔して座ってるPaulが‥‥
● こわいよ! やめなさいってば! しかし冗談はさておき‥‥
★ あながち冗談ばかりでもないのだが‥‥

● 冗談はさておき、変わったのは確かだ。
★ やっぱり彼は去年の秋のあれがピークだったな。あの前髪ちょろりは本当に似合ってた。
● 最初あれにしたときもブツブツ文句言ってなかったか?
★ だからやっと新しい顔に慣れたと思うとまた変わるのが困るんだよ。
● ほんとに髪型がちょこっと変わるだけなんだけどな。さっきも言ったようにほんの数センチの違いで。これがスキンヘッドになったとか、ドレッドロックになったとかいうんなら、変わるのもわかるんだけど。
★ だから人形だから、オリジナルに似せたつもりでも、ちょっとずつ違ったデザインになってしまうんだよ。ロボコップやエイリアンが毎回少しずつ姿が変わるのといっしょで。
● まだ言うか!
★ 着てるものがいつも同じなのも、あれはきっと脱げないからなんだ。インタビューで同じことしか言わないのも、きっと内蔵テープレコーダーがまわってるだけなんだ。それでPaulとChadの家のワードローブを開けると、「古いPaul」がいっぱいぶら下がってるに違いない。
● キチガイじみたことを言うな! 想像してしまうではないか! 「Mansunは人を狂わす」とは言うけれど‥‥
★ ああ! 私はもう何が現実で何が現実じゃないだかわからない!
● 虚像と実像が違うのは「スター」の条件だが。
★ だってこの人、実像が見えない! だから人形なんじゃないかと思うわけで。

3. NME Premier Show (22 January 1999) Review

(ここで▲が登場)
▲ 何が「任しといて」だよ。2人でどんどん変な方に行っちゃってるじゃないか。
● すいません。あまりに真に迫った妄想なんで、つい。
▲ 正気に返ってもらうために、話を変えよう。日本から帰った直後の最新コンサート・リビューなんだけど、ほら例のNME Premierの。
★ 誰が書いてるの?
▲ もちろんnme.comから拾ってきた。写真もMansun Heavenにあった。そこでこれがそのお写真。
● あ、さっきのMMとまた同じシャツ着てる。やっぱり赤シャツもかわいいじゃないか。
★ しかし、また顔が変わらないか?!
▲ そういや、これだとまるでおかっぱみたいに見えるな。前髪こんなに長かったっけ?
★ 私が見たわずか5日後なのに!
● でも基本はこれよ。この愛くるしい幼児顔。
★ 写真で見てもやっぱり去年とは別人だー!

◆ そこでリビューだが‥‥
★ やだよ。NMEのリビューなんか。どうせまた悪口なんだから。
● 自分でヘッドライナーにしておいて悪口も言えないだろ。
★ だったらイヤミかオチョクリで。そんなの読みたくない。せっかくの美しい思い出を汚したくない。
▲ だって人形なんだから何いわれたっていいだろ。というのは冗談で、実はここがプレスを屈服させるためのMansunの正念場だと思うんだ。私がこのリビューを気にしていたのもそのせい。いくらファンはわかってるといっても、やっぱり名実ともに英国を代表するバンドになるためにはプレスの支持が欠かせないからね。
★ そうなりゃそうなったでブツブツ言うくせに。
● だけど、NMEはMansunをトップビルにせざるをえなくなった。MMは人気投票で2位になって表紙にせざるをえなくなった。
▲ そう。ここで両紙がそれに対してどういう態度を取るかで、今後のMansunの扱いが変わるかもしれない突破口なんだよ。
★ えー、そんなふうに言われるとかえって緊張しちゃって、やっぱりやだー!
▲ だってあのショーがこれまでで最高にすばらしかったのは自分の耳で聴いたでしょうが。自分の目は信じられなくても耳は信じろよ。
★ だから、それをわかってもらえなかったら、くやしくて‥‥
● ‥‥(無視して記事を読む。翻訳は勘弁。なにしろNMEの英語は超難解なので)

★ ほらー! さっそく言ってるじゃない! ‘a rock band with pretensions’だとか!
▲ でも、確かに素直じゃないし、単純じゃないし、「けれん」で売ってるのは事実じゃない。だけど、ライブだとそれがまったく気にならなくなるんだって。
★ 「およそ58個のシンバルは別として」ってのは何よ?
▲ Andieのドラムセットの豪華さのことを皮肉ってるんだと思うな。もちろん58個ってのは嘘だけど。
★ やっぱりイヤミじゃない。それのどこが悪い! 私はもう今さらシンバル1個の素人バンドなんか聴きたくないんだ!
● それよりこれ聞いてよ。「Paul Draperはインディー音楽界で最も美しい声の持ち主である」だって! 「しかもライブだとレコードよりさらに良く聞こえる奇跡の声」だって!
★ インディーじゃないんだけどな。そもそも「世界中でいちばん」と言わなければ間違い。
● でもNMEがインディーと言うのは「まともなロックバンド」ってことじゃない。そうでなけりゃそもそも無視だけど。
▲ だけど“Six”の最大の業績であり、Paul Draperのまごうかたなき天才の証明であるところの‘the different key/tempo middle sections’のことはぜんぜんわかっていない!
★ そう言う自分だって、最初はわけわからなくて取り乱してたくせに。
▲ でもすぐに‘jumping about bits’に戻るからいいんだとさ。
● だからその両方が渾然一体となってるところがMansunのすごさじゃない。むちゃくちゃ難解で前衛的な部分と、ストレートなダンス・ポップ・ハード・ロック・チューンとが。
▲ もっとも我々オーディエンスはあのぐちゃぐちゃ部分でも飛びはねてたが。
● それよりこれ聞いてよ。“Being A Girl”と“Stripper Vicar”のことだけど、「腹の底からわき起こるような快感」だって!
▲ やっぱり「飛びはね部分」のほうが好きなんだ。‘a visceral pleasure’ってのはまったく同感だけど。理性以前にはらわたに訴えるからね。
● やっぱりNMEにもわかってるんじゃない。
★ でもそれは最初からあったもので、それより今回のセットのハイライトは“Television”の天使のファルセットだと思うけどな。
● だからそれも書いてあるよ!「その一方“Television”のコーラス部分は、ただひたすら美しく、胸が張り裂けるようなPaul DraperのファルセットはThom Yorkeのそれにも匹敵する」って!
★ Thom Yorkeなんか目じゃないよ!
▲ いや、彼もびっくりするほど高い、ものすごくきれいな声が出るんだよ。それもライブ・ビデオを見て初めて知ったんだが。
● もちろんPaulの比じゃないけどね。
★ 結局ほめてるのはPaulの歌だけじゃない。
▲ ちゃんと最後まで読めよ。“Wide Open Space”のようなヒット曲は「まるで祝祭の儀式のような」と言ってるし、Chadのギター・ソロのことも‘elevating the tale of loneliness and introspection into an effective widescreen rallying cry for the disaffected’(訳せない‥‥)と、いかにもNMEらしいわけのわからん言葉遣いでほめてるじゃないか。
★ ふーん? あれこそ嫌われる要因になるかと思ったんだが‥‥

● しかし、今回のショーでいちばん印象的だったのはやはりあれ!
★ やっぱり向こうでもやってるの?!
● ここは訳してあげる。

もしそれだけではまだ十分でないと言うなら、Paul Draperの女性的とさえ言える腰ふり (hip-swinging) がある。これは普通なら滑稽と思えるものだが、彼の場合、セクシーとまでは言えないにしても、かわいらしいことは確かで、Brian Molkoの両性具有性にも匹敵するものである。おまけに彼はその場で足をバタバタさせることもする。

★ うわー! やっぱりやってるのか! ついに本国の人にもあれを見られてしまったか!
▲ 何がわるい? これまでことあるごとにMansunをギッタギタにこき下ろしてきたNMEに「かわいらしい (endearing)」とまで言わせたんだぞ。女っぽいことも認めてるし。
● 女性的じゃなくて、あれじゃ女なの! だいたいBrian Molkoみたいな奇形児とくらべやがって! PaulはBrianの一千億光年倍、女らしいし、セクシーよ!
▲ でもいちおう世論ではBrianは英国一女っぽい男の子ってことになってるんだし。これでPaulは来年の女性セックス・シンボル部門も当確ね。
★ それってそんなにありがたいことなのか? おまけに足バタバタ‥‥
● これ、リビューで言うの忘れてた! そういや、やってたやってた! マイクの前でじっとしてられなくて、パタパタ足踏みするの。あの短い足で(笑)。あれもだだっ子みたいで超かわいかった!
▲ とにかくあの辛辣で悪意に満ちたNMEのコンサート・リビューで「かわいい」なんて書かれた人は初めてだ。「美しい」というのなら見たことあるけど。
★ それもいい年した男に向かって!
● あのPaulを見てかわいいと感じられないやつなんか人間じゃねーよ! Paulを憎めるやつなんて人間じゃない!
★ でもあれって本当に本当だったんだ‥‥
▲ 何が?
★ いや、あれはやっぱり現実の出来事だったのかと。あまりにもありえざる世界だから、私だけが幻覚見てたんじゃないかと半ば疑っていた。
● まだそんなこと言ってる!

▲ うーん、それで結局、これはいったいほめられてるのかけなされてるのか‥‥
● NMEとしては大絶賛と言っていいよ。ついに敵もMansunの軍門に下ったか!
 腰ふりで勝利ってのも‥‥
▲ 少なくとも我々の見たままが伝わればいいんだよ、批評なんて。
★ それはそうだけど、なんか見てない人には間違った伝わり方をしてしまうような恐れが‥‥
● 自分は間違った見方をしてないっていう自信があるか? とにかく今回の目玉はPaulのファルセットと尻ふり! もうそれだけでいい。
★ それだけのバンドじゃないのにー!

4. Mansunという名の狂気ふたたび

▲ さあ、それじゃ勢いついたところで、次の対戦相手Melody Makerだ。さっきは触れなかったインタビュー部分ね。
★ インタビューじゃお尻ふっても許してもらえないと思う。
● あんたこそそれにとり憑かれてるんじゃない? それで今回の記事のテーマはズバリ「狂気」
★ またかよー! そればっかり! 確かに私もあれ見てから多少疑ってるが。
▲ それも、NMEのクリスマス記事では「Mansunがいかに人を狂わすか」がテーマだったのに対して、こちらは「Mansunがいかに狂っているか」ということを検証する記事なのだ。(ただし登場するのはPaulとChadのみ)
★ うう‥‥それもしゃれになんない。
● タイトルは“Mad Chester Folks Rave On”。このしゃれは決まったね。
★ “Madchester Rave On”のもじりですね。たしかにこの人たち見てると、ManchesterよりChesterのほうが狂ってるかも‥‥。しかし、どうしていつもこういうおちょくり記事にしかならないの?
▲ そう言うけど、音楽紙のからかいの対象になるってことは重要視されてるってことだよ。そうでなければ、無視か悪口リビューを書かれるだけなんだから。
● そもそも音楽ジャーナリズムの基本ってお笑いだし。かく言う我々も笑いものにしてないとは言えないし。プッ!(またあれを思い出して吹き出す)
★ 笑いものにするなー!
▲ その意味じゃ、これまでのMansunのインタビューはまじめすぎて笑えなかったんだけど、これは相当キてるっていうか‥‥
★ やっぱりアタマも!
● とにかくPaulがやたらめったらハイになっててさ、本当にステージで見たあのPaulそのもの。とにかく、口から泡飛ばしてしゃべりまくるしさ、しょっちゅうクスクス笑うしさ、かと思うといきなり怒りだして、4文字言葉連発するしさ。
★ うそー! それもやっぱり別人みたい!
▲ 確かに感情を一切おもてに表さない、能面のような無表情さはインタビューでも一貫してた。
★ だいたい12月のオフィシャル・サイトのインタビューじゃ、あんなにきまじめで誠実そのものだったのに。かと思うと、歌詞はむちゃくちゃ残酷で絶望的で暗いし。どれがほんとのPaulなの?! 分裂症じゃないの? ほんとにあたま変になっちゃったの?!
▲ あわてるな。もちろん本人は誠実でまじめそのものなんだよ。だけど、昔から変なユーモア・センスがあったのも事実じゃない。それにファンに対しては(なにしろ女の子やお子様もいるってことで)「安全無害モード」に徹してるってのも前から気がついてた。
★ それでなんだって?
● とにかくMMが言うには、Mansunはレコードは狂ってるし、ライブは狂ってるし、バンドも狂ってるって。
★ だからPaulはなんだって?
▲ これいちいち訳してもしょうがないと思うんだけど。キチガイのたわごとだから。まあ、こんな調子。

 それではいったい全体Mansunは何を考えているんだろう? いったい全体彼らは何を信じているんだろう? あの変てこで偉大な音楽を作ってないときは、いったい何をやってるんだろう? 彼らは本当に狂っているのか? そこで我々はCamdenのレストランに陣取って、彼らの頭の中をのぞいてみることにした。Paulの告白を待ちながら。
Paul 「(赤面する)たしかに初めてあのアルバムを聞き返したときは思ったよ。『なんてこった! ぼくは気が狂っちまったに違いない!』って。一般的に言って人間ってのは弱いものだけど、自分の問題を自覚することができれば、自己を把握することもできるんだ。少なくとも自分の弱点に気づかずにいるよりずっといい」
MM 「そりゃそうかもしれないけど、もしあなたに娘がいたら、娘をあなたみたいな男とデートさせる気にはならないでしょ?」
Paul 「まさか!(クスクス笑う) ぼくが子供を持つなんて考えられないけど、もしいたとしたら、こんなやつのそばには近寄らせないよ、絶対に! ぼくらが人間としてあまりノーマルだとは思わない。ノーマルな生活もしてないし、ノーマルなこともしてないし。(タバコをつける)でも少なくともぼくらは自分たちが完全に狂ってることは知っている

▲ べつにふだんとあまり変わらないじゃない。
● 狂ってるって認めるのが?
▲ いや、この冷笑的で他人事みたいな態度が。
★ それより気になるのは「子供を持つなんて考えられない」ってどういうこと? 労働者階級の男の子って、はたちにもなれば、そろそろ家庭を持つことを考え始めるんじゃない? これって、もしかしてホモだから?
▲ 今度は◆みたいなこと言うなよ! 彼が音楽とMansun以外のこと考えられない、特に3か月以上先のことは考えられないのは衆知の事実じゃない。
★ でもなんか気になる。

5. ドレイパアくん怒る

● それであとは、人間が月面着陸なんかしたはずがないという自説をとうとうと論じる。
★ “Fall Out”の歌詞にあったあれか?
 それが、このインタビュアー (Robin Bresnark) が4年前に初めてMansunにインタビューしたときもそれ言ってたんだって。それで彼も驚いて追求してる。
▲ 本気で信じてるのかね? これも有名なトンデモ説なんだが。だいたい、米国旗が真空中でなびいてるのは、針金が入ってるからだって話も有名なのに。
● もちろんPaulもそれは知ってるけど、そういうわざとらしい言い訳をするところがかえってあやしいからインチキなんだって。しまいには「ぼくを怒らせる気か?」とか言ってプンプン怒り出しちゃって、さしものMMもたじたじ‥‥
★ 「怒るドレイパアくん」! これも初めて見る!
● なにせ怒ってるよ。とにかくそのあとも政治に怒り、宗教に怒り、テレビに怒り、とにかくめったやたらと噛みついてる。
★ 変だよ。やっぱり気が変になったとしか!
▲ でも彼の怒りは正当なもんだよ。
● とにかくこの怒りの奔流はすごい。3ワードに1回ずつf***ingが飛び出して。
▲ これは訳しようがないから訳さないけどさ、政治については現役政治家の名前をひとりずつあげてこき下ろしてる。政治に関心ないなんて嘘だね。実は政治にもすごく敏感。ただそのすべてに頭きてるから、どうでもいいって言ってるだけ。
● これがふだんから憎いと言ってる宗教になると、もう罵詈雑言の嵐!
▲ でもこれも正論だ。
★ この人にこういうことが言えるとは知らなかった。やっぱり芯は本当に強情だし気が強いわ。
▲ その意味でやっぱりManicsとは近いんだ。ただManicsの怒りは同業者や業界にも向いてたけど、Paulが怒りをぶつけるのは権威だけ。「どんな政党政治も組織宗教も信じない」というのは、私もまったく同感だし、前から言ってることだ。
★ テレビってのは?
▲ これは“Television”を聴いたときから悩んでたんだよ。“Prisoner”とか“Dr Who”とか好きだから、テレビは好きなのかと思って。ところが、話を聞いたらやっぱり私の持論と同じ! テレビは人の頭を麻痺させ、洗脳し、堕落させるだけだっていう点で。
● こんなことも言ってる。

Paul 「ぼくらはいつだってめちゃくちゃ怒ってたぜ!(どなる) ぼくらはみんな意気地なしの軟弱野郎かもしれないけど、でも腹の底では、はらわたが煮えくりかえってるんだ。そのはらわたを引き裂くようなストレスを曲にもぶちまけてるのさ。ぼくらの音楽は誰もこれまで聞いたことがないような怒りの音楽だ。今度のシングルのB面曲“What It's Like To Be Hated”の歌詞は、ぼくがこれまで書いた中でもいちばん邪悪な歌詞だ。いちばん暴力的で、破壊的で、気持ちわるくて、胸くそが悪くなるような

★ ふーん?
▲ “What It's Like To Be Hated”‥‥いかにもなタイトル‥‥
● そこでまた「ぼくらは憎まれてる」という例の話がえんえんと続く。どうやらPaulによるとMansunを憎んでるのはプレスだけじゃなくて、警察も敵だと思ってるらしい。
★ 警察のお世話になったことなんてあるの?
● なんでもギグに向かう途中、テロリストと間違われて、車を止められて調べられたことがあったらしい。それにバンドを始めたころには、しょっちゅう警察ともめ事を起こしたとか。
★ それってご近所から騒音に対して苦情が出て、おまわりさん呼んだとかそういうんじゃないの?
● たぶん‥‥(笑)
★ 普通それくらいでこんなに怒らないし、警察ににらまれてるなんて思わないよ! 被害妄想の気もあるんじゃないの?
▲ それってまるでRichey‥‥
● あーっ、この話やめ!
★ それじゃテレビの話の続きで。

MM 「きみたちはここ数年、世界中旅してまわってるわけだけど、自分の目で見ると、世界にはテレビで見るよりショッキングなことってあるもんですかね?」
Paul 「人がぼくらの目の前で自分の体を切るのを見たときはショックだったよ、うん(身震いする)。それにタイに行ったとき、子供が通りで体を売ってるのを見たとき。あまりに痛ましくて、ただもうここから逃げ出したいとしか思わなかった。そういうのを生で見ちゃうと、胸が張り裂けそうになるよ。ほんとにひどいとしか」

▲ ぎく!
● それもまずいって!
★ このセルフ・ミューティレイションの話って、例の日本人の女のことでしょ? 確かPaulはその場にいなかったんじゃ?
● 話を聞いただけでも彼にはショックなんだろ。まったく、どこのどいつか知らないが、知ってたら見つけだして望み通り八つ裂きにしてやる。私のPaulをこんなに動揺させるなんて!
★ でもそれに動揺するってことは、Richeyとは違うってことでしょ?
▲ そういった人々に感応してしまうこと自体、同族の証明なんだよ。Richeyもまさにそういう光景を見ることに耐えられなかったからこそ‥‥
● あー、この話もやめだ!

6. ドレイパアくん落ち込む

★ だったら新しいシングル“Six”について。

Paul 「この歌の主人公はあらゆるクソを受け入れることによって、人生をなんとか乗り切ってきたやつで、順応することにとり憑かれてるんだ。それについて叫ぶこともできる、それについて嘆くこともできるのに、結局は流れに身を任せるしかないんだよ。全財産をすべてなげうって、どこかの洞窟にでも行って住む覚悟でもないかぎりね」
MM 「あなたもそうしたいと思いますか?」
Paul 「うん、いつもそう思ってた。このバンドが終わりになったら、ぼくはどこかへ消えて隠者になるんだ。もう残りの一生、他の誰とも一言も口をきかずに。ただ消え失せてしまいたい
Chad 「それで“Prisoner”のビデオを見るんだろ(笑)」
MM 「それは洞窟ではちょっとむずかしいですね」
Paul 「ああ(口ごもる)、たぶんビデオは盗まなきゃならないし‥‥それとものすごく長いコードもいる! でなきゃただすわって考えてるだけでもいいや。つまり、ぼくらの人生に起こったこと、ぼくらが考えたこと、関心のあること、読んだこと、信じてること−それがすべてぼくらの音楽には含まれてるんだよ」

▲ どこかへ消えてしまいたいって‥‥
★ あああ‥‥またトラウマが‥‥
● しまった!
▲ この世から完全に自分を消し去ってしまいたいって、それこそまさにRicheyが望んで、実行してしまったことで‥‥(目に涙をためて)まさか、Paulまで! 本気でそう思ってるの?!
★ ええと‥‥でもさ、口にして言う人は実行しないと思うな。
▲ Richeyは口にした通りのことをやってのけたじゃないか!
★ で、でも失踪するなんてことはオクビにも出してなかったし‥‥だからみんな驚いたわけで‥‥
● ていうか、これは比喩よ! 彼にとってはMansunだけが人生のすべてで、Mansunがなかったら生きててもしょうがないってことはいつも言ってるでしょ?
▲ じゃ、Mansunがなくなったらやっぱり‥‥バンドなんて永遠に続くはずないんだし。
● あなた、話を正気に戻すために出てきたんじゃなかったの? これなら★の妄想のほうがまだましだ!
▲ でも、Mansunがなくなるなんてことはないよね? PaulはRicheyじゃないんだから、言ったことをそのまま実行したりはしないよね?
★ 失踪しようが隠者になろうが、それでPaulが幸せならいいじゃない。
▲ うう‥‥
● よけいなことを言うな!

● それよりシングル“Six”の話しよう。この曲は気になるよね。「ものすごく気持ちわるい」って、どんなんだろ?
★ 本気でRicheyになろうとしてるんじゃないの?
● 黙れってば!
▲ えー、でもそれってすてき‥‥ドキドキ‥‥Mansunのhate songって久しぶりだし。アルバム“Six”は変は変だけど、そういう攻撃性むき出しの曲ってなかったし。
★ 結局そういうのが好きなんじゃないさー!
▲ あたりまえだ。そもそも好きでなかったら、RicheyにもPaulにもここまで惚れない。
● そういや、この「暗いドレイパアくん」も久しぶりだ。あのご機嫌だからそういうのは卒業したのかと思った。
▲ だって、これがPaul Draperなんだもん!
★ でも、それとあのステージの上の人とが結びつかない! お尻ふりながらそう言われても‥‥
● だからその複雑怪奇なところが魅力なんだって‥‥だんだん私も何がなんだかわからなくなってきたが。(頭を抱える)
★ しっかりしてくださいよ。しかし、何もこのややこしい多重人格の私の好みに、いちいち合わせて変身してくれなくてもいいのに。
▲ そういやそうだ。我々全員がひとつのバンドに熱中するってことはめったにないっていうか、Mansunが初めてなんだけど。変態ってところで◆の好みだし、怒りと絶望で私の好みだし、ネコ踊りで●の好みだし、★はなんだ? やっぱり変人が好きなのか?
★ 誰が変人好きだ。天賦の美貌と才能!
▲ やっぱりPaul Draperは神だ。我々全員をここまで狂わすなんて。
★ ‥‥うーん、やっぱり「怒るドレイパアくん」のほうが「笑うドレイパアくん」よりましか。この人が「生きてるってすばらしい! ぼくはなんて幸運な幸せ者なんだ!」とか言い始めたら、そっちのほうがよっぽど危ないもんな。
▲ そうなったら、即強制入院で拘禁だよ。Richeyという前例があるからね。
★ Richeyだってそこまでは言わなかったよ。
▲ でも無理やりそう思うように洗脳されてた。それが耐えられなくてあんなことになったんだから。
★ そうか(しんみり)。
● でも怒ってるかぎりは安全。
★ そういうもんなのかなあ?

7. Paul Draper=トゥーレット病説

● 他にMansun狂人説の根拠としては‥‥PaulとChadが強迫神経症なのは知ってた?
★ なにそれ?

Paul 「(Chadに初めて会ったとき)なんて変なやつだと思った。彼は物を並べるんだぜ! というのもそれってまさにぼくがやってることで、それができないと、ほんとにほんとにイライラして気が狂いそうになっちゃうんだ」
MM 「ちょっと待ってくださいよ。物を並べるってなんのこと?」
Chad 「部屋に2つ以上の物があると、ぼくの場合、特にテーブルの足みたいな直角のものなんだけど、自分の見ているところから椅子の足がぴったりテーブルの足と重なるように並べないと気がすまないんだ。もうひとつ、バーテンやってたころの癖は、グラスがコースターのぴったり真ん中にくるように置かないといられなかった。もちろん、いったんお客さんに渡したら、あとは知らないけどね」
Paul 「Fat Catで人のビールの位置を直してまわるなんてできないよ! そこまで狂っちゃいなかったね。そんなことしたら殴られる」

▲ そういえば、そういうやつっている。
★ 私も電話でしゃべりながらとかだと、無意識にやることあるけど。
● とにかく、そういう話をしながら、煙草の箱とライターがぴったり平行になるように直したりしてるんだよ!
▲ アート・スクールで定規で絵を描いたのもそのせいか。
★ それってやっぱり一種の神経症だね。
▲ しかし2人そろってというのはなあ‥‥
● あと、Paulはチックがあるそうで、それはかなり気にしてるみたい。
▲ げっ! もしかして‥‥
★ また何か良からぬことを考えてるな。
▲ チック! 操り人形のようなギクシャクした発作的な動作! 多動症! 汚言症! 強迫観念! 他人には理解できない奇妙なユーモア! それってみんなトゥーレット病の典型的症状じゃないか!
● なんであんたらはよってたかって人を病気にしたがるのよ!
▲ だってここまで合致することはめったないぜ! それにトゥーレット病って意外と多いんだよ。軽い場合は単なる奇癖とか、神経質だとか、変人とかってことで見過ごされてるけど。私は医者じゃないから正確な診断は下せないけど、これだけ揃えば立派な神経病だ。彼は絶対病院行くべきよ。
★ 精神病じゃないんだから、自殺の恐れはないし、生活に支障なければいいんじゃありません?
● ちょっと待てよ! Paulのこれが始まったのはつい最近だよ。その前は正反対だったんだから。
▲ 仮面のような無表情と硬直状態ってのは、トゥーレット病の対極のパーキンソン病の症状じゃないか。やっぱりドーパミンに何か異常があるんだ。
● (辛抱強く)だけどね、トゥーレット病の症状ってのは、何かに熱中してると(特に音楽やスポーツなどのリズムのあるもの)嘘のように引っ込んでしまうものなの。ところが彼が飛んだり跳ねたりしてたのはギグの最中じゃない。
▲ そうか‥‥おかしいな?
★ パーキンソン病患者にL=ドーパを投与すると、「爆発」するじゃない。ライブでのPaulってそれにそっくりじゃなかった?
▲ そういやそうだ! トゥーレット病じゃないにしても、どっか神経病んでるのは確かだと思う。
★ だいたい天才なんてみんなおかしいんだ。
▲ トゥーレット病患者には音楽の才能ある人が多いんだよ。本当にあらゆる意味でこの人はRicheyの後継者かも。「病気の歌」の伝統もManicsから引き継げばいいのに。どうやらNickyには無理みたいだから。
● もうやだ! ▲や★って気持ちわるいことばっかり考えるんだから。

8. ドレイパアくんのひみつ

● もうヘヴィな話やめた! 楽しい話しよう。
▲ 私はけっこう楽しいけど?
● (無視して)この人は私生活(なんてものがあるとすれば)を決して明かさないので有名だが、そこが我々としてもいちばん興味のある部分。MMもそれを知りたがって根掘り葉掘り訊いてる。
★ それでもガードは堅いけどね。
● 特にPaulとChadがどんな生活してるのか? これって興味大ありじゃない? 彼らはChesterのメイン・ロードに面した小さなテラスハウスに住んでるんだそうだけど‥‥よしっ!
★ 何が「よしっ!」なのよ?
● 覚えておこうと思って。Chesterなんて小さな町だからきっとすぐわかるぞ。それに彼らの庭にはいつでもファンがキャンプ張ってるそうだし。
▲ いつまでもそこにはいないと思うよ。これだけビッグになっちゃったら。それに、いつまでもいっしょになんか住んでないと思う。それこそホモでない限り。
● それで、そのファンが窓から中をのぞき込んだら‥‥

MM 「彼らには何が見えるんでしょうか?」
Paul 「ぼくとChadが手をつないで裸で歩きまわってるところ! なーんちゃって、アハ!

● きゃいきゃい!
▲ 喜ぶなよ。冗談に決まってるじゃん、こんなの。
● それにしてもなんでこうやって人をうれしがらせるような冗談を言う?
★ ホモだから。
● 違うってのに!
▲ しかし、やおいってのは間違いなくストレートだとわかってる人じゃないと成立しないな。これでほんとにホモだったらしゃれになんない。
★ でもしゃれにならないことを言ったりしたりするのはこの人の大得意だから。
● きゃは!
▲ しかしこの2人、考えてみたら1日24時間、1年365日いっしょにいるんだね。とにかくあの通り働きづめだし、家に帰れば帰ったでいっしょなんだから。
● けっこうなことじゃないのー。
▲ それでケンカひとつしたことがないっていう。こういうのはかえってあぶないぞ。今はいいけど、これが5年10年続いたら‥‥
★ ‥‥JimとWilliamもそうだった。あんな仲良し兄弟だったのに、うっうっ‥‥(嗚咽)
● おっと、今度はこっちのトラウマに触れてしまった。話を変えよう。

MM 「裸の変態男(Naked Twister)は別として、Mansun家ではほかに何が起こってるんだろう? きみたち家事とかは得意なの?」
Chad 「ハッハ! Paulは家の中でゴミの彫刻を作ってるよ」
Paul 「うん。ゴミはキッチンに山にして積み上げてあるんだ。つねに変化する汚物の彫刻ってところだね。これはすごいよ。3D版Jackson Pollockってとこ! 臭わないかって? ああ、すげーくさい。ひどいもんだよ。でもそれがキッチンを占領して、歩く場所がなくなっちゃうと、しょうがないから一部を外に出すんだ。だからつねに変化してるわけ。それでも必ず真ん中にはコアになるエレメントがあるんだけどね。ピザの空き箱とか、カップ麺のカラとか‥‥」
Chad 「実際、残された通路っていうのは、キッチンへ入る道というよりは、この彫刻をいろんなアングルから眺めるための鑑賞路なんだ。キッチンはそのための場所で、もう他の用途には使われてないんだよ」
Paul 「Tate Galleryみたいだぜ、イエー!(笑) それはそうと、おまえのベッドルームはどうなんだよ? 彼のベッドルームときたらひどいもんだぜ」

★ 確かにこの2人がまめに家事をやってるとは思えないが(笑)。
▲ しかし人のことは言えんな(周囲を見まわす)。
● これは風邪ひいて具合が悪いのと、Mansunで他のことがおろそかになってるからで。少なくとも私はゴミは家の中じゃなくて、ベランダに積み上げるくらいのことはしてるわい!
▲ しかしほんとに宅配ピザやカップヌードルばっかり食べてるんだろうか? それって体に悪いぞ。
● 美容にも良くない。そこはSuedeを見習いなさい。玄米食え、玄米。
★ しかし、こんなに細くて小さいくせによく食うね。ここじゃトルティーヤを食べてるし、こないだのインタビューじゃピザをパクついてた。
▲ そういうファスト・フードみたいなのが好きらしいな。私もだけど。
★ それにタバコはひっきりなしに吸ってるし、大酒のみだし。
● 美容に良くないものばっかり! だからこんな不健康な顔してるんだ。早死にしてもいいけど、美貌が衰えるのは困るんだよ。
★ どさくさまぎれにひどいことを‥‥
● でも本当に知りたいのは台所事情より、Paulのベッドルームの中!
▲ (驚いて)そんな話までしてるの!
● まあ、聞いてよ。

MM 「だったらPaulのベッドルームはどうなってるの? きみの夢ってどんなんだい?」
Paul 「子供の頃は、ママの部屋のベネチアン・ブラインドから箒に乗った魔女を見る夢をよく見たな。ああ、それから、最近よく見る夢があるんだ。Colonel Gaddaffiの夢なんだけど、ぼくは彼の個人秘書なんだよ。その夢じゃ、ぼくは西洋人代表で、いつでも彼に西洋人は人でなしじゃないと信じさせようとしているんだ。それで彼にこう言うんだよ。『大佐、あなたのお気持ちはよくわかります。それに西洋人としてのぼくがあなたを理解できるなら、他の人々もきっと理解してくれるでしょう』って。すっごく変だろ!」

★ 変だよ。
▲ カダフィ大佐ってリビアの?
● でしょ。
▲ なんでそんな変な夢見るんだよ!
● 私に言っても知らないって。おそらくMMとしては下半身関係の話を引き出したかったんだろうが、またうまくごまかされた。
★ しかしごまかすだけなら何もカダフィ大佐を引っぱり出さなくても‥‥。やっぱりこの人、発想が変。
▲ 変なのはあの歌詞だけ聴いてもわかるが。
● ってことで、結論は?
★ やっぱりよけい頭が混乱するだけで、わけわからないとしか。「何者なんだ、こいつは?!」ってのは、初めてPaulを知ったときから言ってるけど、これだけいっぱい情報集めた今でもまったく変わらず。
▲ でもさ、これは宿敵NMEのインタビューってことで、相当斜にかまえてるのも確かだよ。もしかして全部おちょくりのつもりかも。
● でも嘘はついてない。この人が嘘を言ったのは、つまり以前の発言と矛盾することを言ったのは一度も聞いたことがない。
▲ だからその表現方法が‥‥多少人と違うだけだよ。
★ じゃあ、ステージでのあれは?
▲ 単にこれまでは外に出せなかった喜怒哀楽が、素直に表現できるようになっただけじゃないかな。
★ その表現が激しすぎるよ! これまでゼロだった人がいきなり全開だもん。
▲ ●はどう思うのよ?
● 私はなんであれ、Paulのことなら丸ごと愛してるから、なーんも気にならない。ってことも最初から言ってるでしょ。

9. ひみつのドレイパアくん

● それじゃ、「Paul Draperは狂っている」というプレスに対する反論としては。
▲ 狂ってはいない。神経病んでるだけだ。神経病はよく精神病とごっちゃにされるけど、まったくの別物。ドーパミンの分泌系統に何か異常があるだけ。
★ 分泌は分泌でも、私はやっぱりホルモンだと思うな。性ホルモンじゃなくて甲状腺ホルモン異常。
● なんでどうしても病気にしたがる! 特に▲! Richeyがあんなことになったあとで、よくもそんな鬼畜なことが言えるわね!
▲ 心の病はもうこりごりだけど、器質的障害ならまだ対応の仕方もあるし、ましだよ。
★ そうそう。それに彼って病気が似合いすぎるほど似合うしね。
▲ 病弱な美少年! 今どき少女マンガだってこんなの恥ずかしくて描けないぜ。
● 私は美少年なら何も病気でなくても!
★ でもマネージャーもそう言ってた。精神的にも肉体的にも虚弱だって。
● それにどうせ病気ならもっとかっこいい、美しいのでなきゃいや!
▲ 美しい病気ってあるのか?
● 労咳病みとか。
★ 無理無理。肺病って顔じゃない。それなら頬がげっそりこけて、落ちくぼんだ目をしてなきゃ。BrettやRicheyならそれも納得行くけど。
● だから病気じゃなくてもいいんだってば!

▲ しかしPaul Draperの楽しみってのは、こうやって勝手な憶測をめぐらせることがいくらでもできることだな。
● 何が楽しいんだか。
▲ というのも、この人は決して内面や私生活を見透かせないじゃない。だから好きなように想像して楽しむことができる。
★ だいたい全部わかっちゃったらおもしろくない。その点、この人は音楽にしろ人間にしろ、知れば知るほど謎が増え、好奇心をかきたてられて。
▲ だからMansunはやめられないわけ。
● ふーむ。その意味ではこれからもまだまだ楽しめそうだな。そういう意味ではTake Thatもそうだったけど‥‥
▲ アイドルが私生活に報道管制しくのはべつにめずらしくない。でもインディー・バンドでそれやって何の得がある?
★ これだけ徹底した秘密主義もめずらしいよね。インタビューじゃよくしゃべるけど、決して個人的なことには踏み込まない。ファンに対してはこれよりずっと正直だけど、でもかんじんな質問になると、いつも変な冗談でごまかす。
● その代わり、すべては歌詞に吐露しているってことじゃない? さっきも自分で言ってたけど。
★ だけどその歌詞がキチガイで、さっぱりわけがわからない(笑)。
▲ でも逆に言うと、音楽だけが彼のすべてで、それ以外のPaul Draperなんかいないっていう見方もできるな。それは自分でも何度も言ってるじゃない。Mansunだけが彼のすべてで、それ以外の生活なんてないって。しゃべりたくても私生活なんてないんじゃない?
★ だから私も人形なんじゃないかと言ったわけで。やっぱり家に帰ってひとりになると、電池の切れたおもちゃみたいにじっとしてるだけなんだ。
▲ いや、飯食ってるときも、寝てるときも、頭の中で作曲したり詞を書いてるって言ってた。要するに24時間働きづめだから、電池が切れる心配はないわけよ。
★ そういや、家に帰っても追っかけだかストーカーだかが四六時中窓からのぞいてるわけだから(笑)、私人に戻れることなんてないわけだ。報道管制どころか全公開!
▲ しかも普通そんなのいやがるはずじゃない。警察呼ぶとか。ところがこの人はそれを大歓迎、家に入れてお茶出してやる(笑)。
● だからそれがファンを大切にするってことで‥‥そういや、顔こそ無表情だったが、そういう過剰とも思えるファン・サービスはデビュー以来まったく変わってないな。だったらステージで何やっても不思議はないか。
▲ それでそういうことができるってことは、守るべきプライバシーとか私生活なんてないってことで。
★ あくまでMansunのPaul Draperでいるほうがうれしいのね。
● これだけきれいな若い男の子なんだから、ほかにいくらも人生の楽しみは見つけられるだろうに。因果なやっちゃなあ。
▲ 私はありがたいけど。
★ でも、それだとMansunがなくなったら、ほんとに死ぬか失踪するしかなくなっちゃう。
● またあんたはろくでもないことを!
★ だって自分でそう断言してるじゃない。
▲ Mansunは永遠に不滅だー! なくなることなんかないんだー!
★ なーんて言っちゃって、これでもしPaulに何かあったら、この反動はRicheyなんてもんじゃないぞ。
● こいつはそういう性格なんだからしょうがないよ。その意味でも我々としてはMansunの繁栄と成功を祈るしかないのだが。
★ 少なくともRicheyと違って自滅することだけはないと思う。
● とにかくMansunはまだ一直線の登り道をまっしぐらだからね。これからもまだまだ楽しませてもらえそう。というところで、Paul Draperの幸福を祈りつつ‥‥
★ だからこの手の人が幸福を感じ始めたらあぶないんだって。
● だったら幸福でも口ではぐちぐち文句たれ続けることを祈りながら、この項終わり。
▲ でもやっぱり一度病院へは行ったほうがいいと思うよ。
★ そうそう。念のため。
● ほっといてよ!

10. Mansunの過去

● これでカバー・インタビューはおしまい。でもまだ終わらない。この号では「ミュージシャンの前職」特集をやってて、そこにChadが登場。

「バンドに入る前は長いことバーテンをやってた。Chesterのバーで4年間働いたんだ。Kentの本屋で働いてたこともある。それと、断熱ガラスの電話セールスをやったこともある。もっともそこで働いてた間、たったの1件しか契約取れなかったけどね。そのお客さんってのはおばあさんだったんだけど、セールスマンが訪ねて行ったら、彼女は泣き出しちゃったんだ。ぼくがこわくて電話でノーと言えなかったんだって。それを知ったとき、おばあさんを怖がらせるような仕事だけは二度とするまいと思ったね。PaulとStoveはグラフィック・デザイン会社で働いてた。StoveはPirelliのカレンダーの乳首の修正なんかやってたんだぜ! 静脈を消したりしてね。一方、Paulはガムのパッケージなんか作ってた。Andieは車のセールスマンだった。アウディだったかヴォルヴォだかの」

★ これはもう知ってる話じゃない。
● このイラストのChadかわいい。
▲ Chadのバーテンってのは実に似合うし、想像できるね。寡黙で人が良くて。
★ しかし、ミュージシャンの前職は数あれど、グラフィック・デザイナーなんてかっこよすぎて憎くない?
▲ アート・スクール出て、ちゃんとそれを活かした職に就ける人なんてめったにいないしね。やっぱりそっちの才能もあったのかな。
★ 何をやるんでも中途半端にはできない人なのね。
● でも意外性がなくておもしろくないや。やっぱりこの中でいちばんおもしろいのは、Kelly Jones (Stereophonics) の八百屋さんだね。
★ 似合いすぎ! 「奥さん、活きのいいカボチャ入ったよ!」とか言って。
● それじゃ魚屋だろ。魚屋さんはJarvis Cockerだよ。
★ こっちは見るからに活きが悪そう(笑)。
▲ ほんとに? 意外と悲しい過去の持ち主なんだな。
★ Henry Rollinsのアイスクリーム屋さんなんてのも、けっこうこわい。
● でも意外や、土方とかファクトリー・ワーカーというのは少ない。中にはもちろんいるけど。
★ だってバンド人口が桁外れに多いもん。今やあらゆる業種に渡ってるよ。むしろ英国人でバンド経験のない人のほうがめずらしいんじゃないかと思うくらい。
▲ それで?
● それだけ。
▲ なんだよ、この尻すぼみな終わり方は!
● いいんだよ、とにかく今は忙しくてしょうがないんだから。Mansunサイトはまだじゃかすか増えてるしさ、David Nattrisが新しくMansunのメーリング・リスト作ったんでそれに入ったら、メールが1日に何10通と舞い込むんで、それ読むだけでも大わらわだしさ、“Just Who Is Mavis Bird Anyway”がギャラリー・ページを更新して、テレビ出演時のキャプチャー画像がどかっと入ってたから、それを落とすのにも忙しいしさ、そのうち日本の雑誌に来日記事が載り始めるから、それのチェックもあるしさ。もうすぐシングル“Six”も出るしさ。もう骨の髄までMansun漬けでしあわせ!