Mansun Christmas Special


Mansun日記 第30章 (1998年12月)

1. Melody Maker (1) Paul Draper、1988年を語る

◆ メリー・クリスマス! 今年はクリスマス前にちゃんとクリスマス・イシューを確保したぞ! ってわけでクリスマスMansun特集だ!
★ これはいつも年間回顧の目玉になるはずじゃないの?
◆ でもMansunとなればどうせ話が長くなるしさ、今年は特番組むことにしたの。前にもTake Thatでそんなのやった気がするけど。だから話はあくまでMansunだけにしぼってね。
● 言われなくてもそうなると思う。
▲ ベスト・アルバムの話になるとむかつくのわかってるし。“Six”を1位にしないような批評家は‥‥
◆ だからその話はあとで!
● もしかして表紙になるかも‥‥という淡い期待も抱いていたんですがね。
▲ 無理に決まってるじゃん。嫌われてるんだから。
★ 最初からそういう否定的態度はよくないと思います。
● 表紙にしてほしかったのに。Paulにサンタの帽子かぶせたら死ぬほどかわいいだろうに、わかってないなー。それでChadが小人さんで、Stoveが赤鼻つけてトナカイで、Andieの役がない!
◆ (無視して)でもとにかく、どっちも表紙にMansunって書いてあるじゃない。
▲ あたりまえだ。無視はできまい、無視は。
◆ ねらいはいくらかMansunに好意的ってことでMMかな。そっちから見よう。
● これは表紙がポスターになっていて、「今年を代表するアーティスト」がめいめいアルファベットのボードを持って、クリスマス・メッセージを出しているのだが。
▲ ミーハーな企画! Smash Hitsじゃあるまいし。
◆ それにしちゃ知らない人が多いな。どういう人選だ?
● Paulはどこにいるかな?
★ いた! だけど‥‥笑ってる!
▲ やめてよー! このいやらしい作り笑い!
★ だめ! 無理がにじみ出てる! 似合わない! 恥ずかしい!
◆ 何も笑ったぐらいでそこまでボロクソに言わんでも‥‥
● かあいいじゃん。この人はもともと愛嬌のある顔立ちなので、笑ったらさぞかしかわいいだろうと言ってたけど。
★ だからってここまで無理して愛嬌ふりまかなくても! 不自然すぎて不気味だよー! Jimと同じくらい不気味。
● どうせならサンタの帽子もかぶってほしかったのだが。
★ やめてよー!
▲ 最近、意識して愛想良くしてるって言ってたけど、本当だったんだな。人が変わったようだ。
◆ ひでえな。まあ、私もこの人はいつも通りうつろな方が百倍すてきだと思うけど。とりあえず本文を読もう。このイシューでは“The People Who Shook The World In 1988”として、月ごとに1ページ大の記事が載っているのだが、Paulは“Six”の出た9月に登場。
▲ カラー・ページじゃなかったら殺す!と思ってたけど、いちおうカラーだし、笑ってこそいないものの‥‥
★ なんかまた顔が変わったぞ!
● かわいー!
◆ あんたは黙ってなさい。そればっかりなんだから。また髪型が変わったね。
★ ほんとに落ち着きのない子だ。今回はブロンドで、後ろは長め、前髪は短めになって段をつけてある。
▲ しかし、たいした変化じゃないのに、別人のようにガラッと顔まで変わるのがこの人のこわいところ。
◆ これは前の方がよかったなあ‥‥
★ 誰かに似てるなー。Julian Copeがまだ正気だったころ?
▲ ちょっと前のCrispian Millsのようでもある。彼もしょっちゅう髪型が変わって、そのたびボロクソ言われてるんだけど。
◆ 似てないよ。やせっぽちでブロンドってところ以外は。これはむしろ“One EP”のころに戻ったんでは?
● 髪型なんぞなんだって、これだけお顔が良ければ。
▲ だからその顔がしょっちゅう変わるから困るんじゃないか。こないだまでの憂愁の美少年が、いきなり‥‥
★ 「ひょうきんだけどちょっと危ない人」に。
● それは表情やメイクのせいだって。それになんと言おうと、この号に載ってるどの女の子より彼の方が美人なことに違いはあるまい。(Natalie Imbruglirとは互角か?)
▲ なんで女の子とくらべる?
★ というわけであいかわらずの女顔
▲ 女っぽすぎるよ、これは。
◆ 確かにこの顔で、メイクして、目をクリクリさせるとやりすぎっていう気もするな。
● 何が悪い? ここでは初めて見る革ジャン着てるのだが、このか細くて華奢なことー!
★ また一段と痩せたんじゃない?
◆ まあ、なんであれ、どうせ1か月後にはまた変わるから。日本に来るときもこれと同一人とは限らない。
▲ だからそれが困るっての!
★ 記事は?
◆ これは各人がそれぞれの1998年を振り返るという企画で、Paulの結論は「デビュー以来最高の年だった」というもの。
▲ インタビューは例によってあまりおもしろくないな。いかに自分らがいっぱいレコード作って、いっぱいツアーして、身を粉にして働いてるかという自慢で。
★ きどきこの人って、ストック・アンサーの台本作ってあるんじゃないかと思っちゃう。やる気のないインタビューでは判で押したように同じ答。
● だって事実だもん。
◆ まあ、とにかくいい年だったよ。“Six”も出たし、ツアーもいっぱいやったし、日本にも来てくれたし、とどめに年末はChesterのアリーナで大規模な凱旋公演やって。
▲ 私はそんなもんじゃ満足できない。出すレコードは全部No.1じゃなくちゃいやだし、GlastonburyとReadingはトリでなくちゃいやだし、Brit Awardsも取ってくれなきゃいやだし‥‥
★ Brit Awardsなんか取ったら終わりだって言ってなかった?
▲ Mansunはいいんだ、Mansunは。自分でもBritsには招待もされなかったとぼやいてるし。
★ ねえねえ、“Legacy”が売れたことを喜んでるって言ってるけど、あれそんなに売れたの?
◆ ほんとだ! 2位まで上がったんだって。Celine Dionの“Titanic”のテーマを負かしたっていうんで、The Sunがニュースにしたくらいなんだって。
★ Celine Dionを負かした?! それって信じられない! あれは今年最大の世界的ヒットじゃない! なんかの間違いじゃないの?
● 少なくともMansunとしては最大のヒットなのは間違いないね。“Six”の曲は売れてないなんて誰が言ったんだよ?
◆ 私はチャートにうといので。私が見るのはBeat UKのチャートだけだけど、あれってナショナル・チャートとはだいぶ違うみたいで。
《うーん、これは何かの間違いだなあ。“Legacy”がこれまでのMansunの最大のヒットなのは間違いないのだが、ナショナル・チャートで7位が最高だった》
★ 良かったじゃない!
▲ 1位以外はなんでも同じだ。
● なにすねてんのよ?
▲ この世にMansun以上のものはないんだから、1位じゃなくちゃやなの!
◆ それからこれもいつものセリフだけど、“Six”はいかに革新的なレコードで、いかに大きなリスクを冒したかということも自慢してるな。PaulはこれがMansunの命取りになるかもしれないとさえ覚悟してたんだって。
★ 私らもそう思った。
◆ でも売れたから、みんなわかってくれたと思ってほっとしたって。
★ 確かにEMFの二の舞にだけはならなかった。それには脱帽します。
▲ 1位じゃなかった。
◆ くどい! Paulが1998年に気に入ったレコードは、Stereophonics、Manics、それとなぜか私たちもたびたび引き合いに出した(笑)Ultrasoundのシングルが好きだったって。
▲ StereophonicsはManicsの舎弟みたいなもんだし、Ultrasoundも(姿は似ても似つかないが)Suedeの舎弟じゃないか。ManicsとSuedeに対する忠誠はとことん貫いてるな。ういやつ。
◆ 見かけだけで恐ろしくて手が出せなかったが、Ultrasoundは一度ちゃんと聴いてやらなきゃだめかなあ?
▲ しかし、この特集にはみんな98年のMMの表紙を飾ったときの写真が添えてあるんだけど、MansunはMMじゃ今年は一度も表紙になってないんだぜ。バカにしてる!
★ 文句ばっかり言わないの。他にはなんかないの?

2. Melody Maker (2) Paul Draper、クリスマスを語る

◆ 「あなたにとってのクリスマスとは?」という企画のトップにPaulとChadが登場。

Paul 「去年のクリスマスは、ひとりで町へ出かけて、自分のためのプレゼント買って、自分でラッピングして、自分にあげたんだ」
Chad 「違うだろ。おまえはその買い物袋をぼくに押しつけて、それをラッピングして、クリスマスの日に自分にくれるように命令したんじゃないか」

● いかにも!(笑)
★ 暗ーい!(笑)
▲ たしかにRicheyはいないし、StrangeloveのPatrick Duffはいないし、この役柄の継承者は彼しかいないでしょう。
★ その前はReid兄弟の役柄だった。
◆ ちなみにこの企画では「クリスチャン度」の評価をつけてあるのだが、Mansunは1点でした。里帰りもしない、パーティにも行かない、チャリティもしないってわけで。
▲ そりゃ、Mansunはアンチ・クライストが看板なんだから‥‥
★ それもMary Chainの役柄だった。
▲ ‥‥だから人並みにクリスマス祝うわけにもいかないでしょう。
★ でも0点の人もいるよ。
● プレゼント(自分に)あげるだけでも1点もらった。
◆ ちなみに最高点はMetallica(笑)。意外と保守的。
▲ 考えてみれば、Mansunくらい宗教に深くコミットしているバンドはないんだから、クリスマス・イシューとなればもっともっと大きく取り上げられてもいいな。
◆ ちなみに私自身はというと、もともと悪かったひざをひどく痛めてしまい、ろくろく歩くこともできずに、家でこれを書いているという情けないクリスマス。
▲ いいんだよ、耶蘇教のお祭りなんか祝わなくても。
★ 耶蘇教‥‥
● でも自分へのクリスマス・プレゼントはいっぱい買ったもんね。このクリスマス・イシュー、Lotus EatersのCD、Suede、Manics、Mary Chainのブートレッグ、“Six”のプロモ盤‥‥
◆ そんなのいつも買ってるじゃないか!
★ ほしいものが何でも買える(予算の範囲内なら)人間にとってはあまり意味ないね。

3. Melody Maker (3) 精神分析医、Mansunビデオを語る

● あとは? あとは?
◆ まったく専門外の専門家に、ロック・スリーブやビデオを批評させるという企画の一種で、今年の主なビデオを精神科医に分析させるという企画に“Being A Girl”が出てるな。診断するのはDr Alex Esterhuyzen BSc (Hon), MBChB, MRCPsych, CCSTという人。
★ えらそうな名前!《名前のあとについてる長々しい記号は学位や肩書きを示すもので、これが長いほどえらいってことになる》
◆ ユング派の分析医で、音楽療法のセラピストでもあるそうだ。
▲ ケッ! 精神科医なんかに何がわかる。ケッ、ケッ!
★ 今日の▲は荒れてるね(笑)。
◆ それでそのドクターなんとかのご託宣は。

「ああ、これは確かに非常にホモエロティックだ。でも同時に、喧嘩のシーンのせいできわめてアンビヴァレントでもある。いたずらっぽい雰囲気もあるが、しかしそれが暗示するホモエロティックな感情に対する恐怖心も感じられる。シャワー・シーンはとても性的だ。これが商業的に望ましいのかどうかは知らないが、誘惑的であるとともに拒絶することについての何かがある。それがアンビヴァレンスというわけだ。こっちへ来いと言うのと同時に、あっちへ行けと言うようなもので。結果的に、ここには決して到達できない目標に向かって進む興奮がある。思うに、ここではそれがサド=マゾヒズムと等価なのだ」

★ ほう。なかなか的確というか。
● ズバリじゃない。
▲ (頑固に)当たってなんかいない。Paulはゲイじゃないし、サド=マゾヒストでもないし。
◆ (多少の希望的観測をこめて)そんなのまだわからないじゃない。
● だったら彼の歌詞にある、おびただしいホモエロティシズムやSMについての言及はなんなのよ?
★ そうそう。この曲もそうだけど、“Stripper Vicar”なんかはその2つをあからさまに結びつけたものだし。
◆ “She Makes Me Bleed”もモロだよねえ。“Drastic Sturgeon”もだ。
● でも本人がセックスそのものを拒絶してるってところがアンビヴァレント。
◆ アンビヴァレンスこそはPaul Draperの本質だって言わなかったか。
★ ちょっと精神分析を見直しちゃった。Paulという人を知らないで、ここまで見抜くのはすごい。
▲ だってこのビデオはPaulが作ったものじゃない。あくまで監督の作品じゃないか。
◆ しかし、いくつもある中からPaulが選んだってことは、多少は彼の心情が反映されてるんじゃない?
★ それにビデオだけじゃなく、曲も含めての批評だしね。
▲ だいたいけなさない批評なんてつまらない
● Mansunをけなされると烈火のごとく怒るくせに。
◆ ちゃんとけなすのはけなしてるよ。Dandy WarholsとPulpはお気に召さなかったようで、「退屈だ」とか「微妙さがない」とか言ってる。ちなみに彼がいちばん気に入ったのはAphex Twinの“Come To Daddy”(子供が恐ろしいRichard Jamesマスクをつけてるやつ)とManicsの“If You Tolerate This”(のっぺらぼうの家族が出てくるやつ)の2本で、絶賛したうえ、持って帰りたいと言ってる。
▲ いかにもだな(冷笑)。Aphex Twinは確かにちょっとすごいと思うが、Manicsこそあまりに見え透いてるじゃない。いかにもユング派が喜びそうっていうか。
◆ Manicsに当たるのはやめなさい。

4. NME (1) Paul Draper七変化

◆ それじゃ次、NME行こう。こっちは3ページ・フィーチャーで、MMよりでかい。
▲ なんだよ、MMの野郎! 宿敵NMEがこれだけでかい扱いなのに!
★ 荒れるなよ。
● でもお、このPaulあまりかわいくない。
★ だってこっちはいつも通り無表情でうつろじゃない。
● うつろすぎる! ほんとにロウ人形みたい。紙のように真っ白な顔色が気持ち悪いし。
▲ もともと色は白いけど、この写真は露出オーバーね。
◆ 4人がそれぞれ黒と赤の衣装を着て、黒と赤と白のアニマル・プリントをバックに撮るというねらいはおもしろいし、かっこいいんだけどね。
★ PaulはMMと同じ革ジャン姿。一度気に入ると何がなんでもそれを着続ける人。
◆ でも他の3人はかっこよく撮れてるじゃない。Stoveは渋いし、Andieは変にかわいいし、ChadもPaulに合わせてイメチェン。
● こっちは髪をのばして、長めのおかっぱ。耳のあたりまである前髪を全部下ろして目にかけている。誰かと思った! 色っぽいよ、お兄さん!
★ Chadは見るたびかわいくなってくる。絶対前髪長いほうがかわいいよね。だからPaulも前髪切るなってのに。
◆ でも革はいいよ。この人たちの黒づくめというのはめったに見ないんだが、やっぱりすてきだし。だんだんSuedeに似てきた。
● ◆はまたSuedeならなんでもいいと思ってる。
▲ Manicsに似るよりいいけど(苦笑)。
◆ ブロンドの人の黒づくめは似合うんだ。しかし、これは久方ぶりに読む、Mansunのちゃんとしたインタビューじゃないか。
★ ここんとこ、日本のやつしかなかったからね。

5. NME (2) Mansunという名の狂気

★ タイトルは“The Madness Of Being Mansun”。またなんかおちょくろうという魂胆なんじゃ‥‥
● それよりこれなに?! “My Face Adorns Many A Genital Area”という見出しは?!
◆ えー、つまりこれは、Paulの顔とか、Mansunロゴとか、“Attack Of The Grey Lantern”のバラとかを、あそこ(ないしは体の一部)に刺青したファンが大勢いるということで、要するにMansunファンの狂態というか、「いかにMansunが人を狂わすか」をレポートしたものなのだ。
▲ 実に実感あるというか。
● 実際狂ったもんね。
★ でも、なんかMansunというと、そういう面ばっかり強調されてないかい? 前のMarilyn Manson女の話とかさ。そんなのは一部のキチガイの話なのに。
▲ 一部っていうけど、この世にキチガイがいかに多いかというのは驚くほどだよ。こうも多いと、まともな方がおかしいのかと思ってしまうぐらい。これは体験から言えるんだけど、たとえば雑誌に名前と住所を載せるとするじゃない。それが売ります/買いますとか、メンバー募集とかの罪のないものでも、必ずキチガイからの手紙がまじってるね。ウェブサイトでも、いたってたわいのないテーマのサイトでさえ、キチガイ・メールに悩まされるっていうし、それがもし、多少なりとキチガイの関心を引くようなテーマだったら、まして音楽みたいに、広く一般に知られるメディアだったら、そりゃもう怒濤のようにキチガイが押し寄せるに決まってる。《ひえー、禁止用語乱発! 悪気はないので勘弁ね》
★ でもすべてのバンドがそうなわけじゃないでしょう? 特にMansunに集中してるとしたら、なんか理由があるに違いない。
◆ それについてはPaul自身が答えてる。「何がそういう異常者をMansunに惹きつけるのか?」という質問には「歌詞」という実に簡単明瞭な答。
▲ 音もだと思うけどな。でも、“Nobody cares when you're gone.”のような歌詞は、いやおうなしにその手の人々を引き寄せるだろうねえ。
★ 人ごとみたいに! 自分もそこに惹かれたくせに。
● そういや、ここにも性格異常者がひとり。
▲ なんとでも。
★ 開き直ってる。
◆ それでPaulは「こういう歌詞を書くときは、そういった人々がいかに強く反応するか、覚悟してなきゃならないんだ」って。
● こっちも確信犯か。
◆ とにかく、Mansunは人を狂わせるというのは事実だ。我々が4人そろってこれだけ狂ったバンドはいまだかつてないという事実だけを鑑みても。
● それのどこが悪い?
▲ 私なんか四重人格の理性と知性のシンボルなのに、その私をここまで狂わせるというのは‥‥
● 誰がなんのシンボルだって?
★ 確かに私たちは性格もまるっきり違うのに、それぞれが別の意味で惹かれてるんだよね。●はルックスでしょ、◆はプログレとオカマっぽさでしょ、▲はアレでしょ。
● そういう自分はなんなのよ?
★ 私は純粋な音楽的才能に。
◆ 自分だけえらそうに!
● しかし、▲の目をRicheyからそらさせたというだけでも大変なことだよ。
◆ そっちはそっちでいまだにこだわってるじゃないか。
● だって、Richeyほどあらゆる意味で▲を狂わせる人はいなかったもん。でも下手すると、PaulはRichey以上でしょ。
▲ それは‥‥
★ 確かに英国でこの手のリリシストはまさにRichey Edwards以来‥‥
◆ ああっ、それを口にしたらあかん!
● 確かにRicheyとの類似は私たちも“Six”を聴いて感じたけど、ここにも(大きな声では言えないが)Richey時代のManics以来のスケールの」偏執狂的ファンを生み出していると書いてある。「コンパスの針で胸にお気に入りのDraperリリックを書きつける」たぐいの。
◆ だめだったらー!
▲ (動じず)確かにそれもよくわかる。Richeyにはその手のファンがたくさんついてたし、PaulとRicheyは明らかに同じ波長の持ち主だからね。
★ あなた、PaulをRicheyの後継者に仕立てるつもりはないって断言したんじゃなかったの?
▲ 後継者だなんて言ってない。似てるところもあるというだけだ。Richeyが天使なら、Paul Draperは神だ!
● ほら、早くも異常なセリフが。
▲ とにかくそういうのをカルト・バンドというんだ。その意味じゃMansunはManicsに次ぐカルト・バンドだね。
★ すでにMansunカルトができあがってるもんね。
◆ ‘Mansun Family’だって。
● それ、しゃれになんないよ!
★ しかしクリスマスだっちゅうのに、なんて話してるんだ。
▲ ものがMansunじゃしょうがないよ。

6. NME (3) “Six”という名の狂気

◆ しかし前から人気はあったが、Mansunカルトと呼べるものが形成されたのは、“Six”のリリース後。そこで今度は“Six”についてだ。
● 私は“Grey Lantern”でもじゅうぶん狂ったけどな。
★ でもあの時はまだ多少理性が残ってたように思う。
◆ そこで“Six”がいかに人を狂わせるかの例証として、記者が初めてホテルの部屋でChadに“Six”のデモを聴かされたときの「アブダクション体験」(笑)を書いている。最初は(ジャーナリストのエチケットとして)「おっ、いいね」とか言いながら聴いてたんだけど‥‥

この狂った、頭を混乱させる、フラストレイティングで、完璧にすばらしいノイズを聴き始めて30分後、すっかり頭が狂ってわけがわからなくなった我々は、飛び上がってChadに財布とクレジットカード番号を押しつけ、これは新しい音楽の誕生だとか、ズボンを取り替えなきゃとかいうことを、口の中でもぐもぐつぶやきながら、叫び声を上げて廊下に飛び出した。ついに、10年間のMarillionアルバムのアートワークが意味を持つようになったのだ。

▲ 何がMarillionだよ。やっぱりバカにしている。
◆ でもこれは冗談めかして書いてるけど、あれを初めて聴いたときの私たちの反応も似たようなものだったというか、“Six”のリビューを見てもらえればわかる通りだ。(第18、19章参照)
● 確かに2人とも途中で明らかに正気を失ってむちゃくちゃなこと言ってるよねー。特に最初は自信満々で聴き始めた▲さん。
▲ だってー!
◆ NMEに言わせると、これがMansunの洗脳効果なんだそうだ。

「科学者たちはこのアルバムに含まれた、シナプスをドロドロに溶かす正確な周波数の抽出にはいまだ成功していないが、証拠は確定的である」
「あまりに密度が濃すぎて、比較的まともな音楽ファンを、よだれをたらすゾンビ見習いに変えてしまう
“Six”にさらされた人間は文字通り正気を失うのである

◆ という調子で。
▲ わかる! 私は身をもって体験したから痛いほどわかる。
★ 確かにあれってまるで洗脳されてるような気分になる。
◆ Paul本人も「グリグリのMansunファンでさえ、最初聴いたときはショックを受けるくらいweird」とさえ言っているくらいで。
▲ ほんとにショックだったもん。
★ その反応にも驚いた。なにせ▲さんといえば、世界中の人を気持ち悪くさせたあの“The Holy Bible”を聴いて気持ちよがっていた剛の者なのに。
◆ やっぱManicsよりすごいかも。そこでこれについてのPaulのご託宣。

「確かにあのアルバムは人々に大きな影響を与えた。何か新しいことをやるなら、当然予想される結果だよ。大勢の人があのレコードにとり憑かれるのは、みんなここ数年の英国バンドが作るクズみたいな音楽−ストリングス漬けの、退屈な、金儲け音楽−に慣らされてるからさ。“Six”についてはぼくはなんのパースペクティブも持っていない。あれが何なのか、人に何を言おうとしているのかもわからない。ぼくにわかるのは、あれが狂ったようなリアクションを引き起こしているということで、それというのも、どれだけ大勢の他人になんと言われようと、人々があれを信じてるからなんだ。これって実際、ぼくらのキャリアの要約みたいなもんだな

▲ 「ストリングス漬けの、退屈な、金儲け音楽」って、今のManicsのことじゃんか。なのにManics大好きってのは、どういうわけ?
◆ ここでManicsに当たるのはやめなさい。
● ‘They believe in it against what a lot of people say about it.’ってなんのこと? なんでそれがMansunのキャリアの要約なの?
★ それはPaulがいつも主張していることでしょ。つまり、プレスがいかに寄ってたかってMansunをけなそうと、ファンはMansunの「信者」だから動じないってこと。
▲ プレス=×、Mansunとそのファン=○っていう、実に明解な図式。こういうことを面と向かって言うから嫌われるんだが。
◆ そこで、「なぜまともなアルバムを作る代わりに、あんな邪悪な、狂った、脳みそをファックするようなアルバムを作ったのか?」という質問には、Paulは「あれを作ったとき、ぼくらは狂ってたから。すべてのアイディアが一度にそこにあって、全部が完全な混沌状態で、しかもあとからあとからわいてくるんだ」と答えている。
★ 狂ってたってどういう意味で?
▲ だってあんなすばらしいアルバム、狂ってなくちゃ作れないじゃない。
● だったら何がPaulを狂わせる?
▲ 音楽がだよ。
◆ そこで最近よく話題になるドラッグ疑惑も浮かぶのだが。
▲ それはないと思う。確かにPink Floydの一部のレコードはドラッグなしでは作れなかっただろうけど、Mansunは違う。あれは恐ろしくシラフで、計算し尽くされたアルバムだよ。
★ Roger Waters (Pink Floydのソングライター)についても、「ドラッグでもやってなければ、正気すぎて狂ってしまうんじゃないか?」なんて書いてたよ。
▲ だからPaulも、音楽作ってなければ狂ってしまうと言ってるだろうが。
◆ つまりPaulにとっては音楽がドラッグだと。
▲ Mansunはドラッグだと言ったじゃないか。
◆ そのMansunにいるからには狂わずにいられるはずがないと。
● ああいう音楽作るから狂ってるのか、狂ってるからああいう音楽が作れるのか?
★ ニワトリと卵だわね。
◆ あとこれがおもしろいと思った。

これらすべて(“Six”を聴くこと)に最後まで耐え抜いた場合、予想される反応は2つある。
a)このアルバムか、CDプレイヤーか、きみ自身をビルの25階の窓から投げ出したくなるような衝動。
b)人生を変えるような、ほとんど宗教的とさえ言える、Chesterに巡礼したくなるような崇拝の念。

▲ b)だ、b)! 行きたい! 私も巡礼行きたいよー!

7. NME (4) ファンという名の狂気

◆ というわけで、次はファンダムの話に行きたいが、この記事によると、イギリスだけでも50のファンジンがあり、毎日2つはMansunサイトが生まれているという。
● 嘘こけ、嘘を! Mansunサイトに関しては、私は毎日のようにチェック入れてるし、世界中のMansunサイトを把握している自信があるけど、毎日なんて嘘。せいぜいが1か月に1つくらいで。
★ 今のところ、稼働してるのもしてないのも含めて全部で27。
◆ この数字には自信があるね。ファンジンはそんなものだろうと思うけど。
▲ でも言われてみると、“Six”リリース後一気に増えた。
★ ていうか、私が初めてインターネットに接続したときは6つぐらいだったよね。やっぱり加速的に増えてる。
◆ そこでファンジンとファンサイトのおもしろそうなところを抜き出して紹介してあるのだが‥‥
▲ これ不愉快! ファンジンはいざ知らず、Mansunサイトはどれもまじめに作られた良心的なものばかりなのに、それを変態の集まりみたいに書くのは
★ チャットなんか行けばそういうやつもいるんだろうけど、少なくとも自分のサイト立ち上げてるような人はまともだよねえ。《そうだ、そうだ! 私だってじゅうぶんまともですからね。こんなの書いてるけど》
▲ トリビアな情報があふれてることとか、さもおもしろそうに書いてるけど、そんなのウェブじゃ当たり前のことじゃん。
● わかんない。私も相当インターネットに頭毒されてるから。一般の人が見ると異常なのかもしれない。
◆ だいたい他のバンド・サイトにくらべても、それほどディープなものってないじゃない。
● ディープなのってどこだ? 
▲ うーん、Nine Inch Nailsは多少‥‥
★ そういや、きちがいファンが多いことで有名なのもNine Inch Nailsだ。
◆ やっぱりMansunもちょっと変かな?
★ でもバンド・サイトって総じて普通だよ。むしろ映画サイトなんかの方が変なのがある。
▲ ManicsサイトなんかMansun以上に健全だし。不満。Richeyカルトは少なくともウェブには反映されてない。
● じゃ、どういうのならいいの? 「流血写真集」とか? 「セルフ・ミューティレイション友の会」とか?
▲ そういうんじゃなくて!
★ Mansunはわりとパロディやジョークが多いかもしれない。
◆ それで当然取り上げられるだろうと思ったのが、前にも引用したGrey Lantern Onlineの“Chester Park”。あのPaulがNMEの記者を撃ち殺すやつ
★ さすがにNMEはこれにはむっとしたようだが(笑)。
▲ ざまーみろ!
● でもこっちのほうがはるかに早い。このイシューの表紙はManicsの“South Park”パロディなんだが、これが‥‥
▲ あー、その話はあと。
◆ それでもってMansunファンの話だが、ステージに投げ入れられるものとか、いかれたファンからの贈り物とか。
★ たとえばどんな?
◆ Paulに言わせると、「花から生きた動物から死んだ動物まで」だそうだ。
● 死んだ動物ってなんだよ!
★ 猫の死体とか馬の首とか?(笑)
▲ これはPaul流のジョークだと思うな。食い物だって「死んだ動物」なわけだし。
◆ でもほんとにあぶないのもある。前からPaulは自殺志願者からの手紙をよくもらうと言ってたけど、“Six”以後、そういうのがどっと増えたみたいね。
▲ もうRicheyに手紙書くわけにいかないからね。
◆ 血で書かれた手紙をもらったりすることもよくあるんだって。
★ げ! それもTrent Reznorと同じじゃん!
● それでドレイパアくんの反応は‥‥?

「Ozzy Osbourneみたいに、このレコードが自殺を誘発したとかいって、裁判に引っぱり出されるのはごめんだよ。だってこれはそんなんじゃないもん。返事を書く気になれないファンレターはある。一部の人はこのレコードにとり憑かれるあまり、ぼくでさえ見たくもないような意味を引き出してしまうんだ。自殺志願者からの手紙はたくさんもらうよ。でもぼくらはそういう人たちを排除したり、無視したりするようなタイプの人間じゃないんだ。その代わりSamaritans (英国版『命の電話』)に連絡するのさ。なんとか彼らを助けようと思ってね。今年はそういうことが何回もあった」

● なんかやけに平然としてるじゃん!
★ あのTrent Reznorでさえ、あれだけ気味悪がって取り乱してたのに!
● この人はなんで平気なんだ?
★ 平気なのは自分も御同類だからなのか、それとも‥‥
▲ ふふ‥‥
● なんだ、その不気味な笑いは?
◆ それにPaulとChadの家の庭にはいつもファンがキャンプを張ってるというし。
● えー! そんなのTake That以来じゃない!
★ そこまで行ってるのか? すごいな。普通、インディー・バンドのメンバーなんて平気で町歩けるっていうのに。
▲ でもTake Thatは警察呼んで追っ払ったけど、Paulはまともそうな人は家に入れてお茶ごちそうしてあげるんだって。
● なに?!(パスポートをひっつかむ)
◆ 早まるな。もちろんストーカーもいる。Andieのガールフレンド(ちなみに公認のガールフレンドがいるのはAndieだけ)をつけまわして写真撮ってるやつとか。
● それだけはわからない。何がおもしろいの、それ?
▲ 他はわかるのかよ?!
● Paulのストーカーならわかるけど。ストーカー・サイト立ち上げてほしいな。それでPaulがスーパーで買い物してるところとかの写真アップロードして。
★ それってほとんど犯罪だよ!
◆ 犯罪に近いのもあるようよ。Mansunの悪口を書いたリビュワーが殺すという脅迫状を受け取ったこともあったそうだ。
▲ やれやれ!
★ だから犯罪だって!
▲ 脅迫状ぐらい--CENSORED--だってもらう。よくあることじゃん。
◆ Stoveが女性ファンに襲われたこともあるそうだ。これについてはPaulは知らないと言ってるから、真偽のほどはさだかでないが。
▲ そんなこんなで、身の危険を感じないのかという質問には「クルーが気を使ってくれてるし、誰かが守ってくれるから」と、いたって楽観的。
◆ むしろ暴徒と化したファンがステージや楽屋になだれこんでくるのは歓迎するような口ぶりね。
● ふーん? なにゆえその余裕?

8. NME (5) Paul Draperという名の正気 (?)

★ ねえ、さっきから思ってるんだけど、▲のリアクションがなんか変じゃない? ▲こそこの余裕は変だよ。
● そういやそうだ。Richeyとのアナロジーなんか出てきたら、いつもならそれだけでも取り乱して泣きわめいているはずなのに。
◆ 確かに“Six”のリビューじゃそうだった。
★ そのあともずっとよ。ましてセルフ・ミューティレイションは出るは、血の手紙は出るはなのに、ぜんぜん動揺してない。どうしちゃったの?
● ついに本当に気が狂ったか?
★ ていうか、Richeyそっくりの人を見て、また悪い病気が再発したんじゃないの? 少なくともRicheyのことも、ああなるまでは楽しんでたんだから。
▲ ふっふっふ。それなら教えてあげよう。実を言えば、“Six”を聴いてからは気も狂わんばかりだった。PaulもRicheyやBillyやKurt CobainやDavid Gahanの二の舞になるんじゃないかと思ってね。この記事を読むまでは。
★ だからこの記事こそ、その懸念を裏付けるものじゃない。
▲ どこに目をつけてるんだよ。つまり、歌詞だけ聴くぶんには、この人も彼らの御同類としか思えないが、Paul自身の発言を聞いて、彼はぜんぜん違うということを知ったのだよ。
◆ たとえば?
▲ たとえば、自殺を訴える血のファンレターをもらったTrentは、悲鳴をあげて、読みもせずにごみ箱に捨てちゃうけど、この人はSamaritansに電話するんだよ。それができるってことは、彼がいかにバランスの取れた、良識的な人間かの証明じゃない。それに、ここにも書かれてるけど、ファンを大切にするってことでもある。
★ 何もキチガイまで大切にしなくても。
▲ ファンはファンなんだから、そういう差別はしないの。それどころかそういうのをみんなまとめて愛してると言える、これはえらいことだよ。
◆ うーむ‥‥
▲ とにかくそういうキチガイを相手にするときのPaulの余裕というのは、自分は絶対そういうのに染まらないという自信があるからこそじゃないか。前からそう思ってたけど、この人はどんなときでも絶対うろたえないし、こわいくらいに理性的。自分でも「ぼくらはノーマルな人間なんだ」と言っている。
● この人にそう言われてもなあ。
★ 理性的って意味じゃ、Richeyだって最後まで理性的だったし、正気そのものだったし、自分の問題を避けることなく直視しようとしてたよ。
▲ ところがRicheyとPaulは決定的に違うんだよ。
★ だったらなんであんな歌詞書くのよ?
▲ もちろんあれは嘘じゃない。Paulの中にあるものなんだと思う。彼は人並み以上に傷つきやすくて、神経質で、もろいかもしれない。だけど、彼は音楽にすることでそういう負の感情を昇華できるんだよ。それはRicheyには‥‥もちろんのこと彼を診た精神科医にも‥‥どうしてもできなかったことで。だから音楽作っていなければ死んでしまうと言ってるわけ。
◆ そういうのもノーマルって言うのかなあ?
▲ それで結局バランス取れてるんだからいいじゃない。
★ じゃあ、書けなくなったら? スランプになったら? それこそ一巻の終わりじゃない。
▲ Paulにかぎってそんなことあるわけないじゃん! あの人はprolificityの代名詞なんだから。
★ だってどんなものにも終わりはあるじゃない。
◆ 私が「あんな音楽作り続けながら、よく正気でいられるな」と感心していたのはDepeche Modeだけど、Daveも結局狂ったし。
▲ Paulにかぎってそんなことはない! 天才なんだから。もっとも天才というのも一種のアブノーマルかもしれないけど。
● Paulだって人間だよー!
▲ とにかく私はこれで肩の荷がおりました。これで心おきなく“Six”も楽しめるってわけで。
◆ ▲がそう楽天的になるとなんか不気味だな。
● ま、いっか。クリスマスだし。
★ ほんとにそんなんでいいのか!