Mansun日記 第6章 (1997年5月)

MANSUN日記 SM篇(うそ)


▲ またMansun! もうそうやって同じのばかり書くのはワンパターンになるからやめようって言ってたのに。というのも、後から読み返すとき飽きるから。Take Thatなんか、てきめんに飽きたでしょ。
◆ Take Thatは最初から音楽にはまるで興味なかったし、バンドそのものに飽きたんだもん。Mansunはあと20年は飽きないから大丈夫。というわけで、NME5月10日号。発売日の翌日に読めちゃうってのがすごいね。クアトロでのギグでイギリス人カメラマンがいたから、どこかが追っかけ取材やってるなと言ってたけど、本当だったでしょ。
▲ また? これって去年のMelody Makerの記事とまるっきり同じ企画じゃない。ほんと最近のウィークリーって企画力ないっていうか、それとも日本じゃよっぽどいい思いでもしてるんだろうか?
◆ 文句を言うな。Paul Draperのお姿がまた拝めるだけでもありがたいと思え。
▲ タイトルは“The Rise Of The New Generation Terrorists”か。そうやってバカのひとつ覚えみたいにManicsばっかり引用するの、やめてもらえないかな。商標権の侵害だわ。
◆ だってMansunならいいじゃないか。PaulはたびたびRicheyにたとえられているのは事実だし、本人たちもManicsファンだし。
▲ だって、テロリストって顔じゃないじゃん。
◆ だったらManicsだってだ。
▲ むか。

◆ そこでその表紙のお写真。PaulとChadが写ってるんだけど、私の見た「あの」Mansunそのまんま!!
▲ あたりまえでしょ。あの時の写真なんだもの。また同じ服着てる。ひょっとしてほんとに着たきりスズメなのか?
◆ かわいい〜!!(表紙をなでさする)
▲ よしなさいよ。手がインクだらけになるから。ついこないだまで「ルックスはぜんぜん好きじゃないからね」とか言ってなかった? どうせすぐ変わるだろうとは思ってたけど。
◆ 悪い?
▲ やっぱりDamon Albarnに似てるなー。
◆ 似てるのは髪型だけじゃないかー! Damonはこんなにかわいくないもん。すりすり‥‥
▲ 確かに美少年ではあるけどね。フランス人形みたいなパッチリ目(ただし目はうつろ)はさすがだが、やっぱり口元にしまりがないし、品がないよ。
◆ Damonよりは上品だよー。しかしこの子、なぜか派手な作りのわりには寂しい顔立ちなので、やっぱりお化粧はしてた方がいいかも。
▲ これだけの美少年なのに寂しそうなのは、やっぱり表情暗いせいかな?
◆ マスカラとアイライナーくらい入れなさいよ。せっかくこんなきれいな目をしてるんだから。
▲ 彼が写真によって別人のように変わって見えるのは、この極度に影の薄い顔立ちのせいかもしれませんね。
◆ なんかつかみどころがない、ってのはルックスにも言えるのよね。せめて髪だけでも黒く染めれば、ずっとはっきりするのに。
▲ ところでこの人、誰かに似てると思ってたんだけど、思い出した。これってAndy Summersの系統の顔じゃない?
◆ なんでよ! これだけの美少年をあんなオヤジといっしょにしないでよ!
▲ だから、これがあと15年たつと、ああいうオヤジになるんじゃないか。Andy Summersだって、あの年でまだあれだけ童顔なんだから。
◆ 15年後なんか私の知ったことか!
▲ 今さっき「あと20年は飽きない」って言ったじゃないかよー!
◆ だからそれは音楽の話だ。

【注】 Policeなんて知らない若い人のために。Andy Summersというのはこういうおじさんです。(写真右) ちなみにこの時すでに40近く!

◆ 体もいいよなあ。首なんかこんなに折れそうに細いし、肩なんかこんなになで肩でほっそりしてるし。
▲ それって●★の趣味でしょ? どうもさっきから口調が●っぽいぞ。●が憑依してるんじゃないか?
◆ こうなるともうなんでもよくなってくるっていうか(笑)。ああ、一度でいいから女の子にしてみたい。
▲ それで思い出したけど、そういやPaul Draperって名前も、最初きいたとき、なんかあったなーと思ってたんだ。
◆ どうせあんたの思い出すのはろくなことじゃないんだから。
▲ 沼正三の『家畜人ヤプー』(注。匿名作家沼正三の超大河マゾSFポルノ小説。おもしろい! というか、その趣味のない者には笑える)の主要登場人物に‥‥
◆ ほら、やっぱり!
▲ ‥‥「郎ドレイパア」ってのが出てくるんだよ。(注。「郎」はOssと綴ってオスと読む。英語のMissにあたる未婚男子の尊称) ヒロインのクララのハートを射止めて彼女にお婿入りするイース貴族なんだけど。あいにく名前はウィリアムで、ポールじゃないのが残念だが、これが女まさりの女っぽい男の子でさ。(注。イースはマゾヒストの楽園であるとともに、フェミニストの楽園でもあるので、男女の立場はすべて逆転している)
◆ それはちょっと共通点あるかも‥‥
▲ 地球出身のクララとしては、だからウィリアムに惹かれたんだろうな。(注。もちろんイースの男は地球の基準ではみんなナヨナヨして女っぽいのだが、その中では「女らしい」と言われるウィリアムは男っぽいという意味なのだ)
◆ 沼正三じゃないんだから、注ばかりつけないでよ! 対談なのに!
▲ それで、白人(特に英国人)コンプレックスのかたまりってところは同じだけど、マゾヒストでストレートの男である沼正三に対して、どっちかというとサディストでストレートの女である私としては、いちばん惹かれるのはこの「ドレイパア」くんなわけよ。
◆ ちょーっと待て! あたしのPaulをそういうよこしまな欲望の餌食に‥‥
▲ 主人公の瀬部麟一郎は、私の好みからいうとマチョすぎるし、後半は犬だしさ。やっぱり女の子と見まがうほどの美少年の方がいいよね。
◆ それこそ●★の趣味じゃない!
▲ 同じ人間ばかり好きになるもんだから、最近人格が混乱してるのよ。でもやっぱり私としては、こういう男を‥‥
◆ わー! やめー!
▲ うつろな目がなんでセクシーかということも考えてたんだけど、目がうつろってことは自我がないってことで、絶対服従のしるしじゃない。前に書いた、口元にしまりのない男がなんでセクシーかってのと同じよね。そういや、この人は口もしまりがないし、その意味じゃ完璧な奴隷顔
◆ 奴隷顔!!
▲ ところがPaulは自我がないどころか、このうつろな無表情の下には、小さな体に似合わぬ巨大なエゴと自尊心があるはずで、それを無理やりに引きずり出して、力でねじ伏せて、叩きつぶすことこそサディストの最大の快感‥‥
◆ いい加減におし!! さもないと‥‥
▲ やめます。(小声で)やっぱり「女王様」の迫力では◆にはかなわないな。
◆ 何が「どっちかというと」だ。まんまサディストの言い分じゃないか。でもって、結局▲まで惚れてしまったのね。まあ、Richeyに例えられるくらいだから無理ないけど。
▲ Richeyとはまるきりなんの関係もないよ。言っとくけど。

◆ それで本紙記事だけど‥‥
▲ それはいいよ。どうせ記事はまた追っかけの女の子の狂態ばかりだしさ。
◆ ああ、今回は多少は突っ込んだインタビューも入ってますよ。最初はやっぱり女の子の話から始まるけど。
▲ だからいいって。
◆ ただし、やけに脳天気だった前回とはだいぶ雰囲気は変わって、今回はMansunジャパン・ツアーのダークサイドから始まる。
▲ ダークサイド? それはちょっと知りたいような、知りたくないような‥‥
◆ 東京での最終日のギグの後、Club Milkというなんかあやしげなクラブに繰り出すんだよね。クルーやファン、NMEもいっしょに。
▲ クラブ・ミルク? 知らないな。どんなとこ?
◆ “A Clockwork Orange”の世界そのものって書いてあるな。「まさにMansun向き」だとも。
▲ Korova Milk Barみたいなところか? しかしなんでだろね? こないだのMMの記事でも“A Clockwork Orange”に言及してたけど。化粧した4人組という以外、つながり見えないんだけど。べつに暴力礼讃しているわけでもないしさ、頽廃的ってわけでもないしさ。
◆ それで、そのファンの中にKurt CobainのTシャツ着て、髪を真っ赤に染めた女の子がいて‥‥
▲ ケッ!
◆ ‥‥これ話しても大丈夫かな?
▲ 何が?(やや顔がひきつってくる)
◆ セルフ・ミューティレイションの話なんだけど。
▲ (動転して)えええーっ!!! まさかまさかまさか、そんな!!
◆ 勘違いしなさんな。Paulの話じゃないよ。その女の子の話。
▲ なーんだ。
◆ 今のセリフ、がっかりしたように聞こえたぞ!
▲ してません。
◆ で、とにかく、彼女がシャツのそでをまくると、両腕にMarilyn Mansonと刻んだ、生々しい傷跡があって‥‥
▲ Marilyn Mansonって誰よ?
◆ むっちゃくちゃ醜くてダサいアメリカのゴス・バンド。本物の悪魔崇拝主義者だという話だ。なぜか日本でミーハーにえらい人気あるんだよね。まったく日本人とは趣味が合わない‥‥と思い始めてもう20年たつけど。
▲ たしか、ゴスも◆の担当だったんじゃ?
◆ それは美しい人の場合だけ! Peter Murphyくらい美しければ、悪魔だろうが、シヴァ神だろうが、なんだって好きなもの崇拝していいわよ。だけど、醜いゴスっていちばん許せないと思わない?
▲ どうでもいいけど。それだけなの?
◆ それじゃまだ終わらない。それから彼女はナイフを取り出すと、自分の体を切り刻み始めて、血がドバドバ出て‥‥
▲ (いやな顔)ただのキチガイ女じゃんか。
◆ あなた、他人にはずいぶん冷淡ね。
▲ 私はなにも、自分を切り刻むからRicheyを好きになったわけじゃないって、これだけ言ってるのに! そんなやつ気持ちわるいとしか思わないね。それでバンドの反応は?
◆ Chadはその夜じゅう、Manson女を避けてたそうなんだけど、それを見ると、黙って傷口にティッシュを当ててやったって。どうもChadがもててるのはその手の優しさのせいらしいわね。一方、Andieはそれほど同情的じゃなくて、怒ってさっさと帰ってしまったそうだ。
▲ Paulは?
◆ PaulとStoveはいなかったの。

▲ なんだ、それだけか。どこがダークサイドだよ。Mansunとはなんの関係もないじゃない。
◆ まあね。単にChadの気を引こうとしただけだったらしい。しかしそのChadも、「単なるナイトクラブでの悪ふざけ。彼女は人の注意を引きたかっただけさ。ただの子供だよ」とにべもない。だいたい、彼女はMansunのファンというよりは、Marilyn Mansonのファンだそうで、名前が似てるからって、あんなのといっしょにしないでほしい。
類似品にご注意。Mansonにしなくて本当に良かったね。
◆ Garbageの女の子もMansonだし。最近、アメリカのジャリタレで、Hansonっていうのもいるんだよな。まぎらわしい!
▲ でも、英語じゃ発音は同じでも、日本語じゃマンサンとマンソンで違うし。
◆ どうでもいいが、日本語で言うとマヌケだな。
▲ とにかくMansunには何の罪もないんじゃない。
◆ そういうこと。
▲ くだらん! そんな話ばっかりなわけ?
◆ これはすでにMansunがKurt CobainやRichey並みのカルト・アイドルになっているという、ひとつの例証として出てきたのだ。
▲ だって、Chadのファンなんでしょ。それよりMarilyn Mansonのファンなんでしょ。
◆ 細かいことはおいといて。とにかく、その手のファンはここにもひとりいることだけは間違いないんだから。
I 私はそんなんと違う!!

◆ 日本人の名誉のために付け加えておくと、もちろんそういう「ファン」ばかりじゃなくて、ほとんどの女の子はグルーピーですらなく、ロビーで一日中待ってるだけで満足してるようなタイプだったそうだ。
▲ だってコギャルだもん。
◆ バンドの方も、前回はグルーピーやりまくりと報道されたStoveも含めて、グルーピーには一切手を出さなかったそうで、NMEも感心している。
▲ だからそういうバンドじゃないって!
◆ 昔はそういうバンドだったんじゃないの? なにしろむちゃくちゃやるって評判だったから。Paulいわく。

「Chadがバンドを始めてから最初の6か月にやったことを5年間に引き延ばせたら、彼は伝説になってたよ。ところが、彼がそれをやったのは誰もぼくらのことを知らない時だった。だからぼくらはそういうロックの歴史的瞬間をむだにしちゃったわけ」

▲ 何をやったわけ?
◆ ここで言っているのはホテルの部屋をめちゃくちゃにしたり、多額のツケを他のバンドの部屋にまわしたり‥‥
▲ そんなのEMFが日常的にやってることじゃん。だいたいそれはアルコールのせいでしょ。
◆ うん。Chadは酒断ったとたん、人格まで変わっちゃったみたいね。なんでもタオイズムに凝ってるそうで。万物との調和がどうとか。
▲ ひえー! それじゃCrispian Millsの親戚じゃんか!
◆ そう。でも本人がそれで幸せだと言ってるんだから。
▲ キライだ! 宗教的幸福ってすべて嫌い! 特にいま日本でもはやりの「癒し」がどうとかいうの聞くと、ヘドが出る!
◆ 人の幸福にケチつけるなよ。
▲ それはそうとChadはちょっと心配だわ。若気の至りだとは思うけど、早くそんなの卒業しなさい。グルーピーでもなんでもやっちまえばいいのに。Paulが影響受けないか心配だわ。
◆ それは大丈夫。と、太鼓判を押しますね。‘It's just so shit.’とか言ってるから。今回のアジア・ツアーではタイにも行ったんだけど、そこでChadが仏教にかぶれたのを見て、「他人の文化に踏み込むこと」について文句を言ってる。ただ、そういう宗教やなんかについてChadと議論するのは好きみたい。
▲ やっぱりこの子は賢いな。

▲ やっぱりRicheyと似てるかなー? 幸せとか愛とか嫌いってあたり。
◆ なにしろ今回は政治とか宗教とか、ヘヴィな話題が多いんだけど、あまりの暗さにNMEがあきれて、「あなた、Nicky Wireと組んで漫才やったらどうですか?」とか言われてる(爆笑)。
▲ どういう意味だよ!
◆ 救いようがなく、暗くて、シニカルで、ひねくれてるってことでしょ。しかし実現したらすごい、根暗漫才! ふたりで気の滅入るような話してるだけなの(笑)。
▲ Nickyは口はああだが、根はいい人ってのが見えてきちゃったからな。
◆ その点、Paulはまだ底が見えないだけ有望だね。しかし、この人(およびバンド)については、最初から正体が見えない見えないと言ってるけど、向こうの人も同じみたいで、ここでもやっぱり同じこと言われてる。特にあのつかみどころがないところね。Mansunそのものが矛盾のかたまりで。
▲ 私はこの人の言うことって首尾一貫してると思うけどな。Manics並みに正直なバンドだと思う。
◆ だから、そのManicsこそ元祖矛盾のかたまりじゃないか! 嘘つきだし。こいつもケロケロと大嘘つくからな。それじゃ、そのことについて。

Paul 「そう見えるとしたら、それはぼくらがインタビューじゃ、なるべく事実を隠すようにしてるからじゃないかな。だから、ぼくが本当のことを言ってるのか、あきれた嘘つきなのか決めるのはきみたち次第さ」
NME 「なるほど。それじゃあなたはあきれた嘘つきですか?」
Paul 「それほどでもないよ。Chadはそうだけど」

◆ ほら、嘘つきー!
▲ たしかにユーモアのセンスあるじゃん(笑)。少なくとも素直じゃないのだけは確かだな。
◆ すごく賢くて切れるくせに、何も知らないぽっと出の田舎者のふりをするところとかも、あやしまれている。
▲ それはManicsにはなかったな。でもバカのふりできる人って賢い。

◆ お話変わって、今度はサクセスについて。なにしろ1年前は誰も知らなかったバンドが、いきなりアルバム・チャートNo.1。もちろん今もまだガンガン売れている。これは今後、Mansunが語られるとき、必ず引き合いに出されることと思う。
▲ (しんみりと)それってデビュー時のManicsがやろうとしてできなかったことだな。ダブル・プラチナのデビュー・アルバム出して、それで解散するっての。
◆ その代わりいま売れてるじゃない。
▲ 遅すぎる。もうすべてが遅すぎるんだ。ほんとにそれをやっていたら、Richeyの人生は違ったものになっていたかも。
◆ ほらほら、ここで暗くならないでよ。今は将来バラ色の若者の話してるんだから。
▲ バラ色にしちゃ暗いじゃないか
◆ とにかく、MansunがよくManicsにたとえられるのは、その上昇志向とビッグネーム志向のせいもあるみたい。Mansunは解散する気はさらさらありませんけどね。それじゃサクセスについて。

Paul 「なんのマスタープランもなかった。ぼくらにあったのは意志の力だけだ。マネージャーもいなければ、レコード契約もなかった。出版契約だけあったので、シングルを出そうと思った。立て続けに出した。アルバムをレコーディングする頃には、もうすでに25曲かそこら出したあとだった。だからあのアルバムはセカンド・アルバムみたいなものなんだ」
Paul 「そもそもの最初から、ぼくらはインディーなんか好きじゃないと言ってた。ぼくらはカルト・バンドなんかじゃない。いつだってビッグ・グループになりたかった。もし完全な失敗に終わったとしても、いまだにそう言い続けていただろう」
(世の中には恵まれた人間とそうでない人間がいるという話で)
NME 「Mansunはどっちですか?」
Paul 「ぼくらは‥‥あらゆるハンデを跳ね返した勝利だと思うな」
NME 「ハンデって?」
Paul 「ぼくらのまわりに積み重なっていたハンデさ。ぼくらはへんぴな町から出てきた4人組で、音楽業界になんのコネもなかったのに、突然No.1アルバムを出した。これってたぶん意志力のおかげだな」

▲ 彼は間違ってるよ。Mansunの成功は意志力のせいなんかじゃない。単に飛び抜けた才能があったからじゃないか。
◆ でも、才能あるからって成功するとは限らないのは、これまでもさんざん見てきたじゃない。Manicsだって結局初志を貫徹したわけだし、やっぱり意志の問題じゃないの?
▲ でも不思議だねえ。Mansunってそれほどポピュラーって感じじゃないじゃない。だいたいシングルはそれほどヒットしてないでしょ。アルバムだけが異常な勢いで売れていて。
◆ シングルが売れないのはみんなアルバム買っちゃったからじゃない?
▲ それにこれだけ売れれば雑誌なんかにバンバン載るかと思ったら、ウィークリーの他にMansunをフィーチャーにしたのはVoxだけだよ。ルックスだっていいのに。
◆ 今はツアーで忙しすぎるし、インタビュー嫌いなんでしょ。
▲ プレスに嫌われてるって言ってたよね。あれほんと?
◆ 初期の記事を読むと、そうじゃないかなって思っただけ。メジャー・レーベルというだけで攻撃材料になるし、80sだし、あれだけ売れちゃったのも不利かな。しかし、Manicsとのアナロジーは逆に有利な材料かもしれない。ここでもそうだけど、本人たちもことあるごとにManicsをほめたたえてるし。いい子いい子。
▲ なにしろ今や、Manicsをほめさえすれば、プレスの支持は得られるからね。
◆ とにかくNMEには好かれてるみたいじゃない。
▲ 結局、本人はいやでも、私はやっぱりカルト・バンドって気がしちゃうんだな。Manicsがカルトであるのと同様に。この人たちがU2やQueenみたいになるなんて想像できないよ。ManicsやSuedeみたいになるのはできるけど。
◆ それならすでになってる。

◆ 他にもMansunがManicsに例えられるのは、スモールタウンから出てきた田舎者ということもある。
▲ Chesterがスモールタウン? 街じゃないか! Blackwoodとは比較にならないよ。
◆ その辺はNMEにも突っ込まれてるけど、本人たちはあくまでそのつもりらしい。それと労働者階級ってこと。
▲ やっぱりそうだったの? Chadが大学中退って聞いて「やっぱりミドルクラスだったな」とか言っといて!
◆ Chadはともかく、Paulは間違いなくワーキング・クラスみたいよ。それじゃ本人の弁。

「ぼくはまぎれもない労働者階級の家に育った。ぼくの伯父さんたちは全員、沖仲仕か船乗りだ」

▲ (くやしそうに)負けた!
◆ 誰が何に負けたのよ?
▲ ねえ、Manicsの親戚に炭坑夫の人いないの?
◆ 私が知るか!
▲ いないわけないよな、閉鎖される前なら。しかし、なんで伯父さんなんだ? てことはPaulのお父さんは肉体労働者じゃないってことだよね。ということはつまり、兄弟の中でPaulのお父さんだけは学校行ってまともな職について、だから息子があんなに理屈っぽいのか。
◆ 人の家庭環境を勝手に想像ででっち上げないでください。
▲ そうかあ。Manicsじゃないけど、やっぱり「未来はプロールの手にある」ってことか。
◆ そういうもんですかね? そこでManicsといえば、避けては通れない政治の話。

Paul「ぼくは個人的にはノンポリだ。だって政治なんてすべてインチキだもの。とはいうものの、保守党より最低なものはないとは思うけどね。だからもし保守党が総選挙を無効だと宣言して、独裁制を敷いたら、ぼくらはたぶんピッチフォークを持って革命を起こすよ」

▲ えらい! そういや、総選挙の話してないね。
◆ 日本の総選挙だって話になんか上らないくせに。いつも思うが、私はいったい何人だ?
▲ ついこないだ、英国では総選挙が行われて、なんと18年ぶりに労働党が政権を奪回した。Manics、Mansunの年にってのが感動的じゃない?
◆ ただしPaulは、Tony Blairは「権力に飢えた隠れトーリー」だから嫌いだそうだよ。
▲ 私も! それに実は私は「隠れJohn Majorファン」だったのだ。
◆ なんでよ! Thatcher's Boyと呼ばれた人だよ。
▲ だってあの人こそ、生粋の労働者階級なんだもん。
◆ そういえば、サーカス芸人だったとか。
▲ 他にもいろいろやってたようだけど、本物の肉体労働者。そんなのが首相をつとめてる国って他にないよ! 田中角栄が小学校しか出てないとか威張ってたけど、あいつはけっこう裕福な農家の出じゃない。こっちは完全な無産階級だぜ。それにくらべてBlairはオックスフォード出のインテリ。なんか今年の候補者は身分が逆だ。
◆ 確かにMajorさんは銀髪の紳士でルックスもいいのに、Blairはただの不細工なおやじだしなあ。ちょっと残念。
▲ そういうことで首相を選ぶのもどうかと思うが。
◆ 私もノンポリだもん。政治なんか退屈なだけだし。
▲ この人々はそんな悠長なこと言ってられないのよ。

◆ 話を元に戻して、「Mansunとは何なのか?」ってところをもう少し追求してみたい。私が感動したのは、「クールに計算しつくされたBritpopと、うんざりするほどオーソドックスなLadrockの時代に、Mansunは英雄的なくらい間違ってるように見える」というNMEの見解だな。MMが言う「アウトサイダーのバンド」ってのも同じことでしょ。
▲ そうかな? ManicsやSuedeとは明らかに共通点あるし、本人たちも親近感かんじてるみたいじゃない。
◆ だからその人たちもまた完全なアウトサイダーだからでしょ。
▲ SuedeはBrit Popの発明者じゃなかったの?
◆ 今のBrit Popはカスだ。Suedeはとっくにその千年先を行ってるね。まったく(急に怒り出す)MansunやSuedeがあるのに、Blurなんか聴くやつの気が知れない! Blurなんてどこがいいのかぜんぜんわからないってことに関しては、私はMatさんと同意見だわ。
▲ だからそのBlurの鳴り物入りのアルバムを蹴落として、Mansunが1位になったんじゃないか。
◆ それくらいじゃ気が済まないわ。中味の違いから言ったら、MansunはBlurの一億万倍売れていいのに。
▲ そんなのはもうわかってるってば。
◆ (おさまらず)確かにSuedeとは互角かもしれない。でもSuedeのあの音は、今の時代の音であり、Londonという場所の音だ。つまり、20年前の私だったらあの良さはわからなかったかもしれないし、20年後には色あせるかもしれない。だけど、MansunはオールタイムにNo.1であり続ける、本当のクラシックよ。私があのアルバムを「“伝説”のデビュー・アルバム」と称したのもそのことで。
▲ わかったわかった。アウトサイダーといえば、私はPaulの「多少なりとふざけてて、でも多少はまじめで、マスカラをつけてるやつは、みんなMansunとなんらかの関係があるんだ」という発言がおもしろいと思ったな。
◆ Manicsはユーモアないじゃん。
▲ それを言ったらSuedeもだ。
◆ “Coming Up”は初めてユーモア・センスに近いものを感じさせたじゃない。それも進歩のひとつだけど。だいたい今はNeil Codlingがいるからな。あの人なんか生きた不条理ユーモアじゃない。
▲ たしかに。Paulも根は暗いけど、ユーモアはほんとに好きみたい。「皮肉な英国ユーモアが好き」とも言ってるな。Eddie Izzardって知ってる?
◆ あの女装したコメディアンでしょ? もちろん一度も見たことはないけど。
▲ Paulは彼が好きなんだって。Chadに初めてビデオを見せられたとき、「これはぼくらだ!」と叫んだくらいだって。
◆ ふーん、それは一度見てみたいが、イギリスのコメディアンのビデオなんか日本じゃ見られないからなあ。
▲ 根暗で笑えるってあたり、Mary Chainの後継者とも言えそうだな。

◆ 前に聞いてあきれていた「存在の不条理」の話も出てくるよ。「80sポップが好きだと言えば、いつでも80sポップのことばかり言われる。でもぼくらがいちばん言いたいのは人生の不条理さのことなんだ」って。こういうこと真顔で言えるのも、人を食ってるのか、それとも心底マジなのか?
▲ 「不条理」というと、さもむつかしそうだけど、この人が言いたいのは、今の世の中は絶対何かが狂ってるし、バカバカしくて笑うしかないってことでしょ。その気持ちはすごくわかるな。
◆ やっぱり暗いのかなあ? この成功にもちっともうれしそうじゃないしね。まあ、聞いて。

NME 「それじゃあなたはまだ満足していないと?」
Paul 「うん。ほんと言ってあらゆるものに幻滅している。それがぼくなのさ。歌にもそれが出てる」
NME 「だったらどうなれば満足なんですか?」
Paul 「わからない。前はバンドができれば幸せだと思ってた。ある程度まではそれは当たってた。でもその一方で、ぼくには世界がまるでばかげた所のように思える。それが曲を書く原動力なんだよ。たぶん、ぼくが人生ってすばらしいと思えるようになったら、二度といい曲は書けなくなっちゃうかも
NME 「あなたはまだ自分の捜しているものを見つけていないと?」
Paul 「その通りだよ。確かにぼくは何かを捜している。でもそれが何なのかさっぱりわからないんだ」
Paul 「ぼくらは何と戦ってるのかって? 知らないよ(ため息)。成功するだけのためなら、ぼくらはこんなにたくさんツアーをやる必要はない。こんなにたくさんの曲をレコーディングする必要もない。なのになぜかやってるんだな。なんでか知らないけど。たぶんぼくは何かを作り上げようとしてるんだ。何を成し遂げようとしてるのか自分でもわからないんだけど。たぶん、心の中では、ぼくは音楽より、自分の出身や生まれより、もっと大きい何かと戦ってるんだと思う。たぶんそれは‥‥人生と関係あるんだ」

◆ そしてこのセリフに続けて、NMEはこのカバー・ストーリーを「中には、内側に傷を持つ人間もいる」という言葉で締めくくってるんだけど。
▲ (感動の涙にむせびながら)これだ!! これなんだよ! これこそManicsやSuedeには、どんなに才能あっても、どうあがいても、もう二度と取り戻せないもので、デビューしたばかりの若いバンドにしかありえないもので、Mansunをここまで輝かせているものなんだ!!
◆ もう少しわかりやすく説明してもらえませんか?
▲ だから、迷い、傷つき、悩み、自分がどこにいるのかもわからない、どこへ向かっているのかもわからない、だけど、何かをしなきゃならないという、腹の底から突き上げるような衝動と使命感と創作欲。これこそがロックなんだよ。いいセリフだなー、これ。好きだ。こういうこと言える人、本当に好きだ。
◆ じゃ、ManicsやSuedeはロックじゃないわけ?
▲ Suedeはメンバー一新で若返ったし、Manicsも死の淵から甦ったし、どっちもある意味であれが新たなデビュー・アルバムだったわけじゃない。
◆ じゃ、ManicsやSuedeにもあるんじゃない。
▲ 人の揚げ足をとるな。
◆ しかし、ちょっと意外だなー。“Grey Lantern”を聴いた感じじゃ、この人たちって自分の求めるものを最初からすべてわかってて、冷静に頭で計算して作り上げたって感じがしたのに。だから新人とは思えないって何度も言ってたのに。
▲ 違うんだよ。利口で器用なだけのバンドだったら、あの輝きはないよ。あの目のくらむような内奥からの輝き、それはたぶんここから生まれるものなんだ。
◆ だったら、Paulにも不幸でいてもらわなくちゃ困るじゃない。自分でも言ってるけど。
▲ うっ、それは‥‥
◆ それこそまさに、あんたがRicheyとManicsに求めて、おかげで未だに悔やんでることじゃないの?
▲ なんでせっかくいい話のあとで、そういういやな言い方をするわけ?
◆ だって、こういうセリフを聞くと、いやでもRicheyを思い出してしまって。
▲ 確かに同類なのは間違いないな。でもそれを言ったら、Brettだって同類だった。だけど、Brettはいい音楽作ることで、この上もない幸せを得られたわけでしょ。しかるにRicheyは‥‥
◆ 音楽にはまったく関与してなかった。
▲ ‥‥まあそういうこと。
◆ やっぱりManicsにはあまり感情移入してほしくないな。どうせならSuedeの路線で行ってほしい。
▲ すでにそうじゃないか。政治には興味ないっていうし、唯美主義者なところもいっしょだし。音楽スタイルは完全にSuede寄りだし。実際仲良しのようだし。
◆ 彼も幸せになれるかな?
▲ 私はそうなることを信じてるよ。

(1か月後)

◆ ‥‥!!(目が点になっている)
▲ どうかした?
◆ あうあう‥‥!!(ロッキンオン7月号を指さす)
▲ ああ、やっと日本の雑誌にも載ったか。どれどれ? ぎゃっ!‥‥と驚くほどのことじゃないんですがね。Paulの来日インタビューが載ってるだけで。ただこの見開きのPaulの写真が‥‥
◆ (やっと口がきけるようになって)き、きれい‥‥
▲ うーむ‥‥いくら間近でじっくり観察したとはいえ、コンサート会場は暗いし、煌々たるライトの下、ここまでどアップで見せられちゃうと、なかなかすごいものがありますね。
◆ やっぱりやっぱりやっぱりきれい!! なーんて美少年なの!
▲ えー、でもー、きれいじゃないとは言わないけど、この人やっぱりなんか変だよ。
◆ これだけの天才は変なぐらいでちょうどいいんだってば。これだけの美少年のうえに、変だなんてすてきー!
▲ ほんとにもうなんでもよくなってますね(苦笑)。しかし、すごい目だね。
◆ さよう、すでに何度も言っているように、体つきといい顔つきといい、整ってるけど、どこといって特徴のないPaulのルックスの中で、唯一普通じゃないのはこの目だけなのだが、なんてなんてなんて美しい目をしているんだ!!

▲ でも不思議だね。確かに大きいきれいな青い目をしているけど、それ自体はべつにそれほどめずらしいものでもないし。確かにPeter Murphyとか、Jon Marshとかの目がすごいってのは誰でも一目でわかるけど、この人はそういうんじゃないよね。
◆ でも、ギラギラと輝くばかりの眼光は御両人に匹敵するわよ! こんな目をした人を見たのはほんとにあれ以来だ。
▲ それで私は考えた。やっぱりこの人の目が特異なのは、この目つきのせいじゃなかろうか?
◆ 目つきというと?
▲ うつろな目! 本文にも「ロウ人形のように無表情のか細い青年」と書かれてるけど、ロウ人形ってズバリだと思うな。
◆ だから人間とは思えないほど美しいという。
▲ このプラスチックな感じは、ロウ人形よりフランス人形とかバービーに近いかな。真っ白なツルツルお肌もセルロイドみたいだし、透き通るようなブロンドの髪も見るからに作り物みたいだし、目玉はガラス玉みたいだし。
◆ (歌う)あーおいめをしたおにんぎょは、イギリスうまれのせーるろいど‥‥
▲ あなた、だいじょうぶ?(◆の目の前で手を振る)
◆ ガラス玉じゃないわよ。サファイアのような目と言ってよ。
▲ でもどっちにしろうつろなんだよね。だから「死んだ魚の目のような」という形容を使おうとしたけど、この人はそうじゃないし。
◆ ぜんぜん違う! 腐った魚の目というのは、Liam GallagherとかBobby Gillespieのような目を言うのよ。もっともあいつらは何も考えてないだけかもしれないけど。
▲ そう。目がうつろってのは頭からっぽの証拠のこともあるけど、この人はそうでもないし。
◆ だって、この目にはあふれる知性と意志がみなぎってるじゃないか! 目は心の窓。隠しようのない天才の輝きが‥‥

▲ これがまた不思議なんだけど、こういう暗くて、無表情で、目がうつろな人って、私の用語で言う「目暗」が普通だよね。Reid兄弟やBrettがそうだったでしょ? あの人たちも大きいきれいな青い目をしているけど、目にまったく光がない。
◆ でもPaulは違う。これこそきわめつけのキラキラ星目で。これ見てて思い出したけど、コンサート見て、●が「あの人、なんでいつも泣き出しそうな顔してるの?」と言ってたけど、そう見えるのはこの目のせいなんだな。ほら、目にいっぱい涙をためて、わっと泣き出す寸前の顔って、目が異様に大きくキラキラ光って見えるじゃない。この人は普段からあの顔なんだよ。
▲ だから、それが不思議なんだよ。これだけキラキラした光目をしていて、なんでこんなに氷のように無表情で暗いのか。
◆ 絶望とニヒリズムの表れ。
▲ そこまで言い切っていいのか?
◆ だって自分でいつも言ってるじゃない。世の中のほとんどすべてに絶望してるのは事実だし、虚無的な性格してるのも事実じゃない。
▲ うーん、やっぱり心配になってきたな。この人、本当に大丈夫なんか? 顔自体はお人形さんのようにきれいでかわいいけど、背負っている業はとてつもなく深いのでは?
◆ あんたに心配してもらわなくてもけっこう。だいたいろくなことにはならないんだから。
▲ そのくせ、レコードにはありとあらゆる繊細な感情がこもっているし、ライブではあれだけ攻撃的でパッショネイトな演奏を聞かせるという矛盾。Mansunは矛盾のかたまりだとはいつも言ってるけど、これだけ分裂していて大丈夫なの?
◆ だから、さっきの結論忘れたの? このインタビューでも言ってるけど、彼にとってはいい音楽作って、いいライブをやる以外のすべてはどうでもいいことで、当然、フォト・セッションやインタビューなんか大嫌いだろうし、だからうつろなんでしょ。
▲ ライブでも歌ってるとき以外はうつろだし暗かったよ。
◆ だからそういう性格なんだよ。
▲ そんなことでいいのか?
◆ だって絶対その方が人間的にも深みがあるし、すてきじゃない。天才は凡人じゃないんだから、凡人には理解できない部分があって当然だ。
▲ やけに割り切ってるね。ところでインタビューでは何かおもしろいこと言ってます?
◆ もちろん日本のインタビューでそんなことあるわけないじゃないか。というわけで、さすがに沈黙したままということはないが、どうでもいいようなあたりさわりのないことしか言ってない。もちろん言うことは首尾一貫してるし、まじめに答えてはいるけどね。うんざりしているのが見え見え。あきらめの境地だな。唯一うれしかったのは、Suedeのことを訊かれて、「彼らは業界内で唯一の友達だ」と言って、BrettとSuedeをほめ上げてくれたこと。
▲ 我々は弱みを握られてるなあ。PaulのインタビューでManicsかSuede礼讃の言葉が出ないことないもんね。
◆ だから暗いだけってことはないよ。これだけシニカルな人が人をほめることもあるんだから。
▲ だって、あの人たちは愛さずにはいられないじゃない。
◆ 共通点は音楽への愛だけだしね。やっぱり愛こそは答なのだ。
▲ そういうもんですかねえ?
◆ ああ、本気で愛してしまいそう! ごめん、Brett! ごめん、Neil!
▲ この人の言う愛って‥‥