Mansun日記 第3章 (1997年3月)

初来日秘話&“Gender Terrorists”

★ あー、なんか興奮しすぎて気が抜けてしまった。
◆ じゃ、資料もないことなんで、この辺で。
● 資料なら仕入れてきましたぜ。Melody Maker96年11月23日号。たしか前にもMansunが表紙になったことあったはずと思って、Vinylで捜してきた。
▲ すばやいな。
★ しかしこの写真‥‥バックは渋谷じゃないですか?
◆ ほんとだー! 去年来日してたなんて! てっきり今回が初来日だと思ってたのに!
★ 結局乗り遅れてるんじゃないの。
◆ えー! プロモーションで来日してて、スペース・シャワーTVにも出て、HMVでサイン会もやって、おまけでクアトロでギグもやったんだと! 知らなかった! くやしい! 《くやしい!!》
▲ というわけで、この記事はMelody MakerのMansun日本ツアー同行記になってる。この手の記事のお約束で、もっぱら記者の目はMansunに群がる追っかけギャルに向けられていて、読んでて不愉快だけど。
● 「日本じゃまだ知られてない」とか言ったのは誰だよ? 行く先々でもみくちゃにされてるじゃないか。
◆ これは大げさに書いてるのよ。ああいうのってイギリスにはないからめずらしいんでしょ。
★ だいたい、そのファンの女の子たちの服装‥‥「お揃いの白いレギンス」って、もしかしてルーズソックスのこと?
● コギャルじゃねーか!
◆ キー! なんでコギャルなんぞがMansunに! Shit! Shit!! 嫉妬!!!
▲ あのねえ、恥ずかしいからコギャルに嫉妬なんかするなよ。
● これはギグもコギャルでいっぱいになるぞー。
◆ うそー!
▲ コギャルをバカにしちゃいけないよ。Shed Sevenの追っかけもがんばってたし。だいたい男が多いコンサートより、コギャル相手の方が楽だからいいや。今度も相当痛いの覚悟してたから。
★ だいたい最初からコギャルに遅れを取ってる。
● だってあの人々の行動力と情報収集能力ってすごいんだもの。ちょっとでもかわいい男の子がいるとなると、来日を待つどころかイギリスにもたちまちすっ飛んで行く。Whiteoutってあったじゃない。泡沫バンドのひとつだけど。あれのデビュー時のLondonギグは、客が日本人の女の子ばっかりで、現地人を驚かせたそうだ。
◆ キー! なんでそういうことができるのよ?! 私のムスメ時代には、ヨーロッパなんぞ行くっていったら船で半年、今生の別れっていうか‥‥
▲ あんたは明治生まれか?(笑)
● 結局、あの連中は腐るほど金もってるってだけなんですがね。援助交際で稼いだかなんか知らないけど。
★ でもそれだけじゃないでしょ。あれってものすごいエネルギーいると思うけど。
▲ おまけにあの人々は英語しゃべれないのは確実。いったいどうやってそんな無名バンドとか探し出すんだ? 私でさえ、初めてのLondonじゃあれだけ途方に暮れたのに。
◆ それがほら、あの集団知性ってやつよ。私は完全にひとりだったじゃない。でもあの連中のネットワークと動員力ってすごい。だから、ひとりひとりは虫けらでも、集団になるとなんでもできちゃうわけ。
● コギャルは虫ですか?
▲ 似たようなもんだな。このMMでも、全員が携帯もって、Mansunが今どっち行ったとか連絡取り合ってるのに感心している。
★ でもこのエネルギーの源泉って何なんだろう? 色気だけじゃないよね。
▲ だいたい、この人たちグルーピーじゃないでしょ。勢いあまってそこまで行っちゃうのはいるだろうけど、最初からミュージシャンと寝るのが目的なわけじゃない。
● だってグルーピーは絶対群れないもの。やむを得ず共同戦線はることはあるけど、最終目的からいって、他の女はすべてライバルなんだもの。
▲ だったら何なの?
★ そういう自分は何なのよ?って言われるわよ。
▲ そりゃ私もMansunには狂ってるけど、だからといって、ホテルの廊下で寝ずの番しようなんて思わないよ。ほしいのは音源だけで。
★ でも近くで見たいって気はある。
● 結局、私は中味が見え過ぎちゃってるからなあ。Mansunほどの怪物ならまだしも、そこらの新人バンドなんて、トロい田舎者のガキなこと見えちゃってるし。その点、コギャルの目には外国人っていうだけでも、王子様に見えるんじゃない?
★ 王子様どころか、神と持ち上げてるのは誰ですか?
◆ だから相手によりけりだって!
★ 前にミーハー論やろうとしたときもそうだけど、どうもこの話になると歯切れ悪いですね。自分は違うというところを見せたいんだけど、根っこは同じなもんで、しかも向こうが上手を行ってると思うと、くやしくて。

《あーあ、いつものことだけど、同じファンのことこんなにボロクソに書いちゃって。もしこれを読んでいる方で、心当たりのある元コギャルの方がいらっしゃいましたら‥‥べつにかまわねーや。本心だから》

◆ あー、ほんとにくやしい!! やっぱ日本じゃ見たくなーい。というのがこれまでの私の切り札だったが、Londonでもコギャルだらけだったら、どうすりゃいいの?!
★ そう言わずと。なんか楽しい話ないの?
◆ だって話はもっぱらファンの狂態ばっかりで。
▲ Stoveなんかグルーピーやり放題。おかげですっかり舞い上がって「俺たちゃ日本を征服したぞ!」なんて気炎を上げてるが‥‥
★ コギャルを征服しただけじゃないの? だいたいが、自分から征服されたがってる人たちなんだから。
◆ しかしなんでStoveだけがもてるんだ? (ふと気がついて)そういや、Stoveはやり放題だし、Andieはガールフレンド同伴で来てるけど、PaulとChadについては何も書いてないな。あの2人はやっぱりあやしい。
● またー。
▲ あの人たちはプライド高すぎるし、自意識過剰すぎるだけじゃないの?
● (表紙を見ながら)これは全員ブロンドだった時代ね。しかも全員ジャンプスーツ(色違い)なんか着て。
◆ 記事には「“A Clockwork Orange”のエキストラみたい」と書かれていた。
▲ 言えてる。あのアイライナーに黒いマニキュアだし。Blurよかずっと似合うよ。
★ なんかおもしろいエピソードってないの?
◆ レキシントン・クイーンに連れて行かれたんだけど、Abbaがかかってて、Abbaも大好きなPaul(やっぱりゲイっぽい)はご満悦。ところがそこに、やはり彼のアイドルの1人であるThe Artist Formerly Known As Prince(めんどくさいがPrinceは名前を発音できないシンボルに変えてしまったので、文字ではこう書くしかないのだ。略してTAFKAPとも言う)が入ってきて‥‥
● (生唾のんで)どうなったの?
◆ ボディガードのでかさを見て近づくのをやめたとか。
● なーんだ。
▲ というのは単なる照れ隠しで、実際はプライドってものがあるから何もできまい。
◆ あと、PaulはSex Pistolsの武道館公演へ出かけて行ったんだけど、気に入らなかったみたいで、「ああはなりたくない」とか言ってる。「ステージを見ている人間より、ぼくのサインを求める人間の方が多かった」とも。
▲ うそこけ!
◆ これはMelody Makerのセリフだけど、ギグで“Drastic Sturgeon”に客が熱狂しているのを見て、「なんでイギリスのスーパー・マーケットの歌きいて、日本人があんなに興奮するんだろう?」とか。
▲ スーパーの歌じゃねーだろ!
★ それに感じるっていう人もいた(笑)。
▲ 笑うな。

◆ というわけで、ギグも大受け、いたって満足して帰って行ったらしい。でもこの記事の目玉はこれね。全曲の解説と、ワンバイワンのメンバー紹介が載ってる。気になってた年齢わかりましたよ。去年(1996年)の11月の時点だけど、Paulが23、Chadが22、Stoveが21、Andieが24。ほぼ私の読み通りだった。
▲ StoveのサーネームはKingか。Stove Kingなんて、ますます人間の名前とは思えんな。
★ 「出生証明書に間違いがあった」とか言ってるけど、てことはこれって本名? Steveのミススペルとか。
● うそー! それは出来すぎよ。Mansunというバンドネームからしてそうじゃない。
◆ Chadは大学中退(Bangor University)。やっぱりミドルクラスだったな。
▲ 好きなバンドとして上がっているのは‥‥David Bowie、Abba、The Carpenters、ABC、Japan、Soft Cell、Wham!、Duran、Spandau Ballet、Culture Club、Prince、Tears For Fears、FGTH、Sex Pistols。やっぱり80年代にはとことんこだわってるね。
● Japan?! もしかしてJapanと言ったか? (感動に打ちふるえて)Japanの名前をイギリス人の口から聞くことがまたあるなんて夢にも思わなかった! 彼らのことはもう私の胸の中にだけ秘めて生きていくつもりだったのに! 偉大な伝統は決して死に絶えることはないのね!
◆ (ちょっと不満顔)Suedeは?
▲ 同世代のバンドはあえてはずしたんでしょう。Manicsも大好きだって言ってたから。“Everything Must Go”は1996年のPaulのベスト・アルバムだって。
★ とにかく気味悪いほど私と趣味が合うわけね。(PrinceとAbbaは除く)
◆ 問題はPaulよね。“Who are you?”という質問にPaulが答えてるから引用してあげる。

「ぼくはこれまで、いろんな人にたとえられてきた。Robert Smith、Bowie、Kurt Cobain、John Lydon、Richey Manic‥‥Manicsは大好きさ。あれはぼくのalbum of the yearだ。ぼくらはManicsファンも、Nirvanaファンも、Bowieファンも、パンクスも、ハードロッカーも惹きつける。前はアディダス・キッズ(いわゆるlad-bandファンのことだろう)もついてたんだけど、今は違う。Stoveは彼と寝たがる女の子を惹きつけるし、Chadは彼のお母さんになりたがる女の子を惹きつけるし、ぼくは自殺志願者の女の子を惹きつけるってわけ。ぼくがKurt Cobainの生まれ変わりだとかなんとか言う連中さ。とにかくSの字(自殺のこと)がやたら出てくるよ。
「曲のタイトルには意識的にbathos(急落法・漸降法。むつかしい言葉だが、要するに中味にそぐわない、腰の抜けそうなタイトルをつけること)を使うんだ。もとはといえば、子供時代、ひとりで部屋に座ってたころからの癖さ。Morrisseyみたいにね。バンドを始めたころは、ほんとの気持ちを表に出したりしたら、バカに見えると思ってたんだ
「バンドのフロントマンでいることには満足している。それがなかったら、自分が空っぽみたいに感じるだろう。ぼくの曲ももっぱらそのことを歌ってると思う。ぼくは皮肉を、あれ何て言ったっけ? すべてはクソだってことは。ニヒリズム? それを伝えるために使うんだ。ぼくは自分がみじめたらしいイジケっ子だと言ってるんじゃない。存在の不条理性のことを言ってるんだ。Chadがそういうのにくわしいよ。タオイズムだとか実存主義に関しては。
「Chadはゲイにもてる。実際、彼はGay Pride Weekendで‘Gay Indie Chick Of The Week’に選ばれたんだ。それに“Drastic Sturgeon”は海賊版の12インチが作られてゲイ・クラブではやってる。
「Do I swing?(swingの意味がわからない!) だとしても教えてやらないよ。学校時代はさんざんオカマ呼ばわりされた。今じゃそいつの頭にレスポールを振り下ろしてやるだけさ。ぼくらはladsだ。PistolsやNew York DollsやManicsやDuranやJapanやABCがladsなのと同じ意味でね。Andieを見ろよ。彼はバカげたオーストリッチの羽のコートなんか着て、マニキュアをしてるけど、ぼくは彼に喧嘩を売ろうとは思わないね。
「ぼくらは単にすばらしいアルバムを作りたかっただけだ。Beach Boysコーラスの入ったSex Pistolsみたいな。業界人はぼくらがイギリス版R.E.M.になるだろうと言うけれど、ぼくらの方がR.E.M.よりはるかにエキサイティングだよ。R.E.M.よりビッグになれると思ってなかったら、バンドなんかやってない」

★ ふーむ、やっぱり暗い、と言っていいんでしょうか?
◆ どうもこの人は見た目との落差があるんだよな。見かけは幼くて、いたずらっ子みたいでしょう。
▲ この人は賢いよ! 歌詞だけ聴いてもわかるけど、言葉遣いからして違うだろうが。
● それにしたって、いきなり「存在の不条理性」ってのは!(笑)
▲ 笑うなよ!
◆ まあ、Richeyみたいな大御所とくらべると、まだちょっと背伸びしてる感じはするけど、まだ若いしね。相当賢いと見たね。
★ でも自殺うんぬんって何なの? 自殺の歌なんか歌ってないよ。Manicsと違って。
▲ (とたんに取り乱して)えー、まさか! なんでよりによってそういうのばっかり! (真顔で)私はもういやだ。あんな思いをするのはRicheyだけでたくさん。この上Mansunまでなんてなったら‥‥
◆ またあんたはそういうのに過剰反応する! 勝手に自殺すると決めないでよ! 縁起でもない。
● 自殺マニアが寄ってくるってだけでしょ。それもKurtやRicheyに似てるってだけで。
▲ ならいいけど‥‥火のないところに煙は立たないとも言うし、もし本当にそういう人だったら‥‥
◆ やめなさいってば! セクシャリティのこともまたほのめかすだけだし。
★ Chadの話は本当なの?
◆ こういうことで嘘つくか?
★ だったらGay Prideに参加してたってこと?
◆ そうじゃなくて、単にゲイにファンが多いってことでしょ。私が“Drastic Sturgeon”を「ゲイ・ディスコ」と呼んだのもずばりだったな。
● ははあ? それでわかった。
◆ 何が?
● 音やルックスからいって、それほど◆好みとも思えなかったんで、◆が真っ先に反応したのは不思議だと思ってたんだ。そういうわけだったのか。
◆ どういう意味よ?
★ ゲイ好み。
◆ だから私はゲイなんか好きじゃないって。ましてほんとにゲイかどうかわからないし。
● そうじゃなくて、ゲイがMansunを好きってこと。◆がゲイと好みが合うってのは、自分でも言ってたでしょ。
◆ 人をなんだと思ってる?
▲ でもあの詞いいね。“Kiss me, hit me, do what you want to me”ってサビのところがドキドキするほどセクシー。“She Makes My Nose Bleed”はモロだし。スーパーマーケットはいいから、ああいうのもっと歌えばいいのに。
● (さっと身を引く)やっぱり!
▲ 何がやっぱりだよ?
★ やっぱりそういう目で見てるー!
● Brettが幸せになっちゃって手が届かなくなったから、新たな餌食を見つけたつもりだな。
▲ 人をハゲタカみたいに‥‥
★ なるほど、▲がいるのはそのせいか。
● でもPaul Draperもだんだん人柄が見えてきたね。なかなかいい子じゃない。
◆▲ いい子に決まってるだろ! SuedeとManicsをこれだけほめたたえてくれたんだから。
★ もうそれだけで人を判断してますね。

◆ じゃ、ほかの3人についても簡単に。ChadはOliver Sachsの“The Man Who Mistook His Wife For A Hat”を読んでるそうだ。私とおんなじ!(Oliver Sachsは映画“Awakening”の原作を書いた脳神経科医で、私はいまこの手のものを読みあさっているところなのだ)
★ StoveはJames Bondマニアだって。女あさりばかりしているのはそのせいか?
● どうでもいいが、Andieみたいなけっこうコワモテのする男が、「Mansun以外に入りたいと思ったバンドはDuran Duranだけだ」と言うのを聞くのは違和感が‥‥
◆ でもAndieの言う「ぼくらは今に何か美しくて、怪物的なものに発展していくだろう」っての、すごくわかる。「美しい怪物」、それこそMansunに他ならないわ! ところでタイトル《前章のCute, Intelligent, Mischievous...and Dangerousというタイトルのことです。これはもともとひとつの文章だったので》は“Gremlins”からの頂きだが、これもまんまだと思わない?
★ これはEMFのキャッチフレーズだったのに!
◆ でも、Paulもよくimpishって言われてるよ。それこそまさにグレムリンじゃない。妖精好きでしょ?
● インプって妖精か?
▲ 小悪魔ってぴったりかもしれない。

● 終わっちゃった。なんかまだ話し足りない。
◆ じゃあ、ついでだからSuedeの話でも。
★ またー?と言っても聞きたいけど。
◆ Popstockの来日のとき、やっぱり日本のプレスにも「なんでそんなに痩せたのか?」と問い詰められてたけど、Brettの答は同じで、何もダイエットなんかしてないし、運動もしてない、拒食症でもないし、もちろん変な薬なんかやってないって。
● ほんとかー?
◆ あえて原因があるとすれば、それは気持ちの持ちようだろうって。
▲ それは私たちも思ってた。変わったことがあるとすればそれしかないから。ただ、幸福で、精神が安定して、満ち足りると太るってのはわかるけど、満ち足りたらげっそり痩せちゃったという人は初めて見た。
◆ だから、これが本来のBrettのあるべき姿なんだってば。あのどん底だった時代には、自分がどう見えるかなんて、もうどうでもよくなっちゃったんだって。
● 信じられない、あのナルが。
★ でもわかる。見られてるってことを意識するのは、美への第一歩よ。
● たまにはNeil Codlingみたいな例外もいるがね。Roddyもそうだったが。
★ 逆にナルシシストのルックスがボロボロになってきたら、それは相当精神的にヤバいってことになる。
◆ それでもBrettはまだきれいだったけど。だけど幸福になったせいで、またルックスを意識するようになったんだって。ここでも「あなたは痩せた方が精悍でかっこいいですよ」というインタビュアーのヨイショに、「ありがとう。ぼくもそう思うけど」と答えている。
★ あー、元通りだー。

◆ それにひきかえ、Menswear、あれはもうだめだね。
● おや? ずいぶん早いお見限りね。
◆ MenswearもPopstockでいっしょに来日したときのインタビューを読んだんだけど、読んでこりゃもうだめだと思った。とにかくまるでやる気がないの。Johnnyは時差ボケのせいだとか言い訳してるけど。
▲ そりゃ、日本でのインタビューなんて、やる気がなくて当然じゃん。
◆ インタビューにじゃなくて、バンドそのものについてやる気をなくしてるとしか思えない。
● やる気は最初からなかったような気がするが‥‥
★ それって例の「病気」のせいじゃないの?
◆ それもあるだろうけど、それにしても頼りない。「プレスが何を言おうと、もうどうでもいいよ」とか言って。こういうこと言い出したらもうだめね。
★ でも、プレスの言うことなんか真に受けてたらやってられないし。
▲ ていうか、この人々は根本的に考え間違ってるの。「プレスはぼくらの悪口ばっかりいう」と嘆いてメソメソしてるけど、なんで悪口いわれるのか、そこのところを考えてない。プレスが彼らをこき下ろすのは、音楽がぜんぜん良くないからじゃない。そこをなんとかしなくちゃだめなのに。
● やっぱりたいして苦労もせずに手に入れたインスタント・サクセスだけに、手放すことにもあまり執着ないのかも。
▲ そこを死ぬ気でがんばらなくちゃならないのに! 特にMenswearは今が正念場なのに!
★ 何も音楽のために死ななくても‥‥
▲ ManicsやSuedeはそのつもりだよ。
● そういう人は例外なんだって。たいていのバンドやってる若い奴らは、青春の記念に、あわよくば一儲けも、としか思ってないよ。
▲ 許せないわ。
◆ だからそういう根性主義はイギリス人は苦手なんだよ。だいたいが音楽業界というのは熾烈な競争社会でしょ。それでそういう競争ほどイギリス人が苦手なものはない。だからストレスもハンパなものじゃないはずだよ。次のアルバムが不発だったら解散するかもね。
★ えー、でも一度はあれだけの成功を収めたのに。バカにされつつも、音楽紙誌の表紙を飾ったし、チャートもそこそこ行ったし。
◆ それで上出来だと思っちゃったらだめなんだ。
● すると、このところのJohnny Deanの容貌の急激な低下も、その辺に原因があるのか。
◆ それもあるからだめかもと思ったの。
★ 次に見るときはブクブクに太ってたりして。
◆ まさか!
▲ 「死ぬ気でやる」で思い出したんだけど、「死んでも音楽を手放さない」とがんばっていたJesus Jonesはどうなっちゃったんですか? そういや、あれも◆の担当だけど。
◆ さあー? レコード出てれば、目に触れないってことはないよね。てことは、あのまま行き詰まってるんだな。
★ どおしてー? 出せば絶対売れるのに。
◆ Mikeの中で音楽に対する考えが煮詰まっちゃってたからなあ。
▲ なんも考えてないMenswearに対して、あちらは考えすぎ。結局、創作意欲とプレッシャーのどっちが優るかの問題なんだよな。ManicsやSuedeやCharlatansは前者が優っていたおかげで、持ちこたえたけど。
● そんなのはどうでもいいが、MenswearもJesus Jonesも、ルックス的にかけがえのないバンドだっただけにつぶれちゃ困るのに!
▲ おまえはまたそういう理由で‥‥
● 人間じゃなかったらよかったのに。そしたら落ち目になったところを買いたたくのに。
▲ 人非人。そういや「死ぬ」で思い出したけど‥‥
◆ どうしてそういうのばかり思い出すんだよ!
▲ 「24才になったら自殺する」と言っていたLoz Hardy(Kingmaker)はどうなっちゃったんですか。まだ24にはなってないかもしれないけど。
● どっか行っちゃったなあ。
★ 自殺する前に抹殺された。最高情けないパターン。

● あ、またちょっと話が暗くなってきてる。
◆ ▲が悪いんだ、▲が!
▲ だったら話をMansunに戻しましょ。
◆ 戻しましょったって、ほんとにもう何もネタがないんだよ。
▲ Mansunの今後を占うとか。
★ だってまだ始まったばかりなのに。
▲ やっぱり売れたもん勝ちで、これでプレスも目を向けるだろうな。新人賞取れるかな?
● どうかな。なまじいきなりビッグになってしまうと、かえって反発受けるだけかもしれない。《図星でしたな》
★ だったらもっともっとビッグになればいい。QueenやDepeche Modeみたいに。
◆ うん。私もQueenに似たもの感じるな。あの凝り性と完全主義は。やっぱりゲイかもしれない。音楽は大好きなのに、ルックスは好きになれないところも。
● Mansunはかわいいよ! あんな化け物といっしょにしないでよ!
▲ でも冷静に考えて、あのデビュー・アルバムはあまりにもテンションが高すぎ、出来過ぎだ。普通ああいうの作っちゃうと寿命も短いんだが。TFFは2枚で力尽きたし、Manicsは3枚で、彼らの好きなDuranだって3枚目までだった。
◆ どうしてあんたはそういう不吉なことばかり言うのよ?!
▲ べつに‥‥ただ経験から言って。でも私はMansunがこれ1枚残して消えても、なんの悔いもないね。死んだりとかしなければだけど。
● もうMansunは▲をはずしてやろう。こいつがこういうこと言い出すと、ろくなことにならないから。
★ そうしましょう。これだけは何があっても守らなければ。
▲ なんでだよー! 私が何したっていうんだよ? 私もMansunを愛してるのに!
◆ だってあんたの言う「愛」はろくなもんじゃないんだから。
▲ だってPaulって見かけ以上に繊細そうだから、つい心配になって‥‥それにこういうワンマンバンドは彼が倒れたら終わりだから‥‥
◆ (デリート・ボタンに手をかけて)よし、消そう。
▲ わー! 消すな! もう言わないから!
◆ 二度とだぞ。
▲ 二度と言いませんってば。

◆ Mansunの話はどうせこのあとまたえんえん続くと思うので、今日はこれくらいにしよう。でも期待の新人は他にも目白押しよ。Genevaはアルバム出たら絶対買うし。
★ あのカストラート!
● あれも美しいよー。音がの話だけど。ルックス的にはまるで見るものないけど、歌に関してはあれだけ見事な女声は前代未聞。
▲ まだ信じられない。ほんとに男なの? ほんとのカストラートじゃないの?
● 実は子供の頃事故で‥‥
▲ えーっ!
● 嘘に決まってんだろうが。あと、私はLongpigsというのに注目してます。とにかくフロントマンのCrispin Huntがむちゃかわいいので。《これは勘違いでした》 根暗美少年の典型。
▲ 暗いってどういうふうに?
◆ ほら、早くも▲が毒牙を‥‥
● 知らないよ。一度も聴いたことないんだから。
★ 私は音もルックスも好きじゃないが、見ているぶんにはおもしろいのはPlacebo。
▲ こちらは女顔の極致だな。声も声だし、やっぱりついてるのかどうか疑ってしまう
◆ でもー、ブスとは言わないけど、どう見てもキチガイ女。
● こいつなんか胸もないかい?
★ ないってば!
● しかし肩とか腕とかもほっそりしてるのに丸みを帯びて、どう見ても女体型だぞ。
▲ それを言ったらPaul Draperもだ。

◆ というところで、再びジェンダーがあいまいなバンドが増えてきたのが、最近の傾向。Selectはgender terroristsという言葉を使ってるが。
▲ またManicsの引用だ! でもそれ気に入った。gender benderより、攻撃的な感じでかっこいいな。“Generation Terrorists”と頭韻も踏んでるし。しかし、それってまさにRicheyのキャッチフレーズじゃない。
◆ そう。だから頭に「Richey以来の」という枕詞がついてる。
★ そういや、そうだ。Manicsでしょ、Suedeでしょ、消えちゃったけどKingmakerでしょ、Geneに、Genevaに、Placeboに、もちろんMansunはその代表格。
● べつにオカマのふりはしてないが、どう見ても女の子にしか見えない上に、化粧しているMarionもあやしい。
★ なんか80年代の一時期、Culture ClubやFrankieが天下を取っていた時分を思い出しますね。
◆ いや、あれは厳密にいうとゲイ・ルネッサンスであって、あの人たちには何もジェンダーをねじ曲げたり、破壊しようという意図はなかった。だけど今の人たちはほとんどがストレート(推定)であるところを見ても、ゲイというよりアンドロギュヌス。これは新しい風潮として注目できるね。
● こうしてドレス着て、化粧した男が増えるのはいいこと‥‥なんだろうか?
▲ いいんだよ。それが単なる道化じゃなくて、反逆の手段になりうるってことを最初に証明したのがManicsだったのだ。
◆ 今のManicsはもう違うんじゃない? Richeyなきあとは。
▲ Nikcyが化粧して、ドレス着て、ストリップやるのはなんのためだと思ってるの? Jamesが女言葉で歌うのは?
★ “Stripper Vicar”じゃなくて、“Stripper Preacher”だな。

▲ あ、それもかっこいい! そこでさっそく、Voxのグラビア特集はPlaceboの曲にちなんで、“Nancy Boys”。古今のアンドロギュヌスを集めてるの。
★ アンドロギュヌスっていうか、要するに女装・化粧男のオンパレード。筆頭はもちろんBowieさんだけど。
◆ あーん、Brettの写真が小さい。シースルーのホールター(!)着て、こんなに色っぽいのに。
● その隣はドレス着たKurt Cobainだったりする。こんなゴリラみたいな女があるかー!
▲ 若い頃のMick Jaggerの女装が意外と色っぽいのに驚いたりする。ウエスト細かったんだなあ。
★ 一方、論外なのはJulian Cope、Robert Smith、Alice Cooperほか。
◆ もちろんMansunもいるが、これも論外だったりする。
● それじゃ美人コンテスト。誰がいちばん美しく色っぽいか?
◆ Bowieに決まってるじゃない。
▲ そういう人は除いて、なんとトップはManicsのNicky。ただドレスを着てベースを弾いてるだけなんだが、なぜかこの人はこれが似合う! 妙に可憐でかわいくて。
★ カツラつけて完全な女装してるのも見たけど、似合ってたよねえ。
◆ これが不思議でしょうがない。この人なんて背は高いし、顔はいかついし、男っぽいごつい体つきしてるのに、なんでドレスが似合うんだ?
● 痩せてるからじゃない? それと背が高すぎるので、写真に撮ると肩幅とかウエストとかも比例して細く見える。全体を縮小すればほっそりした女の子に見えるわけ。
★ 次点はLemonheadsのEvan Dandoかな。
◆ えー、この肩幅はないよー。
★ 花柄ドレスとお下げ髪がかわいいじゃん。
▲ 確かにこの人はふっくらしたやさしい顔つきしてるから似合う。
◆ 意外や似合うWonder StuffのMiles Huntも顔がやさしいからだな。
● しかし、なんで女装っていうと、こういうダサい時代遅れのプリント・ドレスばっかりなんだろうね。
★ 体の線が隠れるからでしょ。
● それよりミニスカよ! 男の子は尻小さいし、足細いから、いっそミニスカートの方が絶対きれいに見えるのに。Neil Codlingにミニスカートはかせてみたい! 上はいつも通り皮ジャンでいいから。
★ それより私はBrettに一度でいいから化粧してほしいな。あれだけ女っぽいのに、あの人がお化粧したの見たことないね。
◆ 実は一度だけある。(力を込めて)すっごいきれいだった。けど、女でも男でもないんだな。完全なアンドロギュヌス。
▲ さすがですな。

◆ なんかMansunと関係なくもなく、女装で盛り上がってしまったが、ここらで締めたいんだが。
★ しかし、なんで最近になって、いい新人がうじゃうじゃ出てきたんだろうね。一頃さっぱりだったのに。
▲ だから波があるのよ。波に乗ってる時は狙い目。Mansunがこれだけ良かったところを見ると、他も期待できる。
◆ 最後に一言いっておきたいんだけどさ、Mansunをこれだけ持ち上げたからといって、Suedeを忘れたわけじゃないから念のため。
● 忘れるどころか、二言目にはSuedeの話してるじゃないか。
◆ “Coming Up”はとんでもないアルバムだった。普通こういうアルバムは10年に一度なのだが、その10年に一度の大物が立て続けに出てしまったので面食らってるだけだ。それどころか、これだけすごいバンドが同時期に存在しているというだけでも仰天してしまう。ましてそのふたつをほとんど間を置かずに見られるなんて‥‥(顔がゆるむ) それじゃ来月を楽しみに。次はMansunのコンサート・リビューでお会いしましょう。