Mansun日記 第27章 (1998年10月)

MANSUNつるべ打ち(7)

1. Negative CD1

◆ わーい! 買ってきたぞい。
● きゃいきゃい! 見せて!
▲ なーんかまたー、手抜きなスリーブ!
● Paulさえかわいきゃいいの! もちろん言うまでもなくかわいいし。
▲ だってこれってあの煉瓦壁の前で撮ったやつでしょ。またPennie Smithのプロモーション・フォトにリタッチしたやつで、前の“Being A Girl”とおんなじじゃん。
★ 今回はそれに迷彩色をほどこしてある。
▲ CD2は単に色違いっていうだけだしさ。Stylorougeはとことん手を抜いてるとしか思えない。
◆ でも迷彩好きでしょ? ほら、レーベル面も同じ迷彩色で塗られてて。
▲ 迷彩ならマットにしなくちゃ。こんなピカピカしたのはだめ。だいたいメンバー写真をスリーブにするのって、安っぽくて嫌いなんだよな。
● これだけルックスがリッチでゴージャスな人はいいの!
◆ そういや、“Legacy”から、ってことは“Six”のシングルはずっと写真シリーズだ。統一感ないって文句言ってたけど、あるじゃない。
▲ だったらスリーブももうちょいゴージャスにしてほしいよ。
● 確かにどうせならPaulのお耽美カラー・フォトにしてほしいとは思うな。
◆ 例によってポスターもついてる。金かかってるじゃないか。
★ スリーブと同じ写真だけど、こっちのほうがデザインいいじゃない。これけっこうすてき。
◆ そこで収録曲はタイトル曲の“Negative”がeditとなってるから、アルバムとは別バージョンらしい。他に“When The Wind Blows”と“King Of Beauty”。
▲ 3曲しか入ってないの?
◆ 文句ばかりいうな。“Being A Girl”もそうだったじゃないか。
▲ シングルには4曲入れてくれなきゃいやだ。大枚1000円も払ってるんだから。
★ それにしたって、B面をすべて新曲で埋め尽くすなんてありがたいと思ってほしい。
▲ だってこの人、多作で売ってるんでしょうが。ケチらずいっぱい入れろよ。8曲ぐらい。
★ Mansunのことだから1曲が8分あるとかいう可能性も‥‥
◆ うるさーい! Paul Draper様のすることに文句あるか!
● ▲はManicsですねてるのがまだ尾を引いてるのよ。

◆ とにかく聴こう。これはMansunとしては‘Ten EP’になる、“Six”からの3枚目のシングル。まずはタイトル曲“Negative”から。
★ これ、アルバムとどこが違うの?
◆ うーん、よくわからん。
▲ それよりなんでこれをシングル・カットしたのかがわからない。“Six”にはもっとシングル向きのキャッチーな曲もあったのに。
● というか、シングル・カットできそうな曲が他にほとんどないと言うべきじゃない? というのもアレだから。
▲ でも“Television”とか、“Shotgun”なら‥‥
◆ どうせそれもそのうちカットされるよ。
★ いっそ、1曲の中から1テーマだけ取りだして、編曲し直して出すという手も。
▲ それをしなかったのがPaulの見識なんじゃないか!
★ だって“Being A Girl”はそうだったじゃない。
◆ これだってキャッチーだし、Mansunのハードな部分をアピールしたかったんでしょ?
▲ でもなんか暗いじゃない。歌詞も曲もだけど。
◆ Manicsには明るいといって文句言うし。
▲ だって、これでチャート順位を上げるのはむずかしいじゃない。
● なんで順位なんかにこだわる?
▲ だって、Mansunには成功して超ビッグになってほしいんだもん。
◆ Manicsはそうなったらすねてるくせに。

◆ まあいい。B面のほうが下手するとA面よりいいというのがMansunシングルの楽しみなんだから。というわけで、次の“When The Wind Blows”
● バラードだね。むろん保証付きに美しいが。
★ でもリズムや音が変わってておもしろい。このリズムなんて三拍子でしょ。
◆ それこそプログレの時代には変拍子なんて掃いて捨てるほどあったんだがなあ。最近の人じゃ本当にめずらしいね。
▲ “When The Wind Blows”というと、同名曲がBowieにもあったし、TFFにもあったけど‥‥
● これもRaymond Briggs(“Snowman”で知られる絵本作家。“When The Wind Blows”『風が吹くとき』は、「イギリスに核爆弾が落ちたら」という設定で、被爆した老夫婦を主人公にした悲しい物語)に触発された曲かもね。
◆ べつにタイトルが同じだからってそうとは限るまい。
▲ いや、間違いなくそうだよ。だって戦争が来て「風が吹いて」も、少なくとも「ぼくにはきみがいる」という歌だから。
● くーっ、泣ける。あれ読むたび泣いてしまうんだけど、曲もメロディも泣かせる。
★ Mansunにしちゃめずらしいね。これだけわかりやすい、っていうか意味のはっきりした歌は。
▲ その意味じゃもうひとひねりあっても良かったっていう気がするけど。
◆ たまにはこういうのもいいじゃん。これまたPaulにはめずらしい、優しく弱々しい歌い方もよけい悲痛な感じでいいし。
● 泣けるなー、くー!

◆ 続いて“King Of Beauty”。すごいタイトル。
● タイトルにbeautyとかbeautifulと付けていいのは一部の人たちだけに許された特権だが、Mansunなら許すのだ。
★ これも美しいバラード‥‥と思ったら、途中からハードなブギになる。
◆ シングルでもやってるか(苦笑)。
● “Six”をさんざん聴き込んだからもう慣れたつもりでいたが、やっぱりキチガイみたいな展開だな(笑)。
▲ それはいいんだが、これもなんか暗いなー。
★ 暗くて美しいなんて理想じゃん。
◆ 歌詞は?
▲ それが聞き取れない部分が多くて(私がじゃなく、イギリス人にも)よくわからないんだけど、やっぱり暗い。何が“King Of Beauty”なんだかさっぱりわからないし。
● あー、終わっちゃった。これだけなのー? トータルで13分しかなかった!
▲ 長さはともかく、なんか物足りないなあ。Mansunといえば、シングルとは思えない質量を誇ってたのに。
◆ だってもう1枚あるんだから。だいたい作る人の身にもなれよ。

2. Negative CD2

◆ というわけで次はCD2。こちらも3曲入りで、“I Deserve What I Get”と“Take It Easy Chicken”のライブ。さっきは言い忘れたが、これも含めた新曲3曲はすべてDraper / Chadの作詞作曲だ。
▲ 私はアルバムこそ今度はすべてDraper / Chadになると思ってたんだけど、実際はほとんどPaulの単独曲だったな。
★ B面は遊びだから妥協もするけど、アルバムではやっぱり自己主張が勝ってしまうんでは?
◆ 遊びで作ってるとは思えない出来だけどな。
● でもこの2人ってほとんどいっしょに曲作ってるんじゃないの? 確かに歌メロと歌詞はすべてPaulが書いてるのはわかるけど、Paulの単独曲ってことは、ギター・コードやリズム・スコアもPaulが書いてるってこと?
◆ 実はその辺はけっこう曖昧なんだよね。ドラム・パターンまで全部書いて、この通り叩いてくれって言ってドラマーに渡す人はまずいない。ってことは、本当の意味で単独とは言えないと思うんだけど。
▲ いちおう歌詞と歌とコードを書いてるという意味だと思う。
◆ でも全員がクレジットされているバンドは、ベーシストやドラマーだって作曲に参加していると見なしてるわけ。
★ 印税の問題もあるしね。バンド収入ってほとんどが印税収入だからこれはでかいよ。
▲ クレジットがない人にだって印税は分けてるでしょう? SmithsはすべてMorrissey / Marrの作曲だったけど、裁判でわかったのは、取り分は4:4:1:1だったってことで、これはひどいって言われてたから、普通はもうちょっと公平らしい。
▲ Mansunなら6:2:1:1でも驚かないけどな。

◆ それじゃさっそく聴こう。その“I Deserve What I Get”
★ おおー! なんとダンス・リズムじゃないか。
▲ だけどなんか沈んだ暗い曲調で。
◆ Portisheadみたいんだな。
● そこまで暗くない!
◆ でも、初めて見えたBristolサウンド《Massive Attack、Portishead、Trickyとかのトリップ・ホップ一派。Mark‘Spike’Trentもその人脈》との共通点。これもプロデューサーがPaulとMark‘Spike’Trentなんで。おもしろいよ、このリズムはおもしろい。
★ 歌も変わってない? エフェクトかけて、いわゆるテレフォン・ボイスにしてあるんだけど。
● この人は顔こそ無表情だが、歌は実にエモーショナルなシンガーなのに、これはわざと感情を殺して歌ってる感じ。そこがまたBristolを思わせるんだが。
◆ このダルで物憂げなボーカルがなんともいえず悩ましく色っぽいわ!
★ リズムも本来楽しげなリズムなのに、沈んだ感じなのがいかにもBristolよね。
▲ なんか暗ーい! 心配になってきた。“Six”もそう思ったけど、ますます暗くなってるぞ。疲れてるんじゃないかなあ、ドレイパアくん。
● 誰が「ドレイパアくん」だ?
★ それは『家畜人ヤプー』でしょ。
◆ あぶないあぶない。▲がこういうこと言い出すとあぶない。
▲ 何が?
★ それを楽しんでるからね。
▲ だから私は心配して!
◆ 歌詞は?
▲ 不眠症の歌。自分で作り出した問題を自分で抱え込んで、でも“I Deserve What I Get”というわけで‥‥
◆ えーっ!
● それこそ正調Richey節じゃない!
★ Billyもだ。不眠症は鬱病の典型的症状だし。
◆ やめてよー!
▲ ちょっと疲れてるだけだよ。
● あんたに言われてもぜんぜん安心できないんだよ。
▲ でもほんとに今回ちょっと低調よ。これまでのMansunのB面曲といえば、1曲は必ず「うわー!」と言わせるものがあったのに、なんか全体にトーンダウンした感じで。
★ ねらいはすごくおもしろいんで、これでもうちょっと曲に魅力があれば‥‥
◆ 黙れ黙れ! 天才のすることに文句があるか! これが魅力的じゃないっての? おまえら、最近ちょっと贅沢に慣れちゃったんじゃないか?
● 確かにMansunに関しては、死ぬほど良くて当たり前って感じになってきてるからね。

◆ で、最後は“Take It Easy Chicken”のライブ。
▲ ライブは聴きたいんだけど、この曲はMansunライブの定番なんでちょっと聞き飽きた
● ブートレッグを聴きすぎたからね。
★ どうせなら“Six”のライブが聴きたかったな。でなきゃB面曲の。
● カバーでもいいよ。
◆ Mansunはカバーなんてやったことないよ。普通、サウンドチェックの時なんかは遊びでカバーをやったりするものだけど、この人たちはサウンドチェックでも新曲作ってるんだから。
● だから聴きたい。
★ やるとしたら何がいいかな?
▲ Clash!
◆ Suede! “Animal Nitrite”がいい。
● 結局自分の好きなの言ってるだけじゃないか。
▲ だって両方ともMansunのアイドルじゃないか。
● Mansunなら何をやってもすてきに違いないわ。だけど、他のバンドがMansunカバーをやるのは聴きたくない。
◆ なんで?
● だってMansunよりヘボいに決まってるもの。
★ そろそろ曲聴きませんか?
◆ そうだ、忘れてた。

(曲流れる)
◆●▲★ うわー!!(全員そろって腰を抜かす)
● なんなの?! この鞭のようにうなるイントロのギターのかっこよさは?!
◆ だってこのマシンガン・リフこそ、コンサートでのChadの最大の見せ場じゃない。
★ それにしてもこのスピード! この迫力! これってこんなにかっこいい曲だったっけ?
▲ 今までずっと沈んだ暗い曲ばかり聴いてきて、いきなり世界が変わったんでよけい驚く。
◆ 今さら驚くなよ! これまでもさんざん聴いてるじゃない。誰が元気ないだって? 今回は「うわー!」と言わせるものがないだって?!
● いや、まいりました。これだからMansunは‥‥
★ それにこのうまさ! これほんとにライブなの? 嘘だ、絶対嘘だ。
◆ ほんとだってば(苦笑)。ちゃんと観客の声が入ってるじゃないか!
▲ いや、うまいのは知ってたが、これほどまでとは‥‥
◆ 生でも2回も見たくせに! まったくあんたらはどこに耳付けてるのよ!
★ でも生じゃこれほど鮮明にはきこえないということはあるよ。
● それにブートレッグでも。あれだってすごく音いいと思ってたけど。モノが違うわ。これがブートとオフィシャルとの違いか。
▲ すごいすごい! ChadとPaulのギターの違いがはっきり聞き分けられる。それでその、縦横にからみあいもつれる2本のギターが!(絶句)
◆ 怒濤のツイン・リードってやつですかね。
● 色っぽいわあ。それに歌いながらこれだけ弾けるなんて。
★ ライブじゃPaulのことは片時も目を離さず見つめているけど、それほどたいしたことしてるようには見えないんだがねえ。
◆ だからちゃんと音も聴いてるのかって言ってるの!
▲ 歌もうまいよー。私はSuedeは二度見て、どっちも神がかり的に歌うまいと思ったけど、そのBrettですらフラットすることはある。だけど、Paulが音外したのなんて、一度も聴いたことない。
◆ ブートレッグとこれをいっしょにするなよ!
★ Paulはブートレッグでもそんなことなかったよ。それに歌自体はMansunのほうがずっとむずかしいし、パワーもあるし、音域の広さは驚異的だし。
◆ それは認めないよ! それは! PaulのほうがBrettより歌うまいなんて!
▲ もちろんそういう意味じゃないけどさ。この人の場合、歌えるだけでも感心しちゃう。ソングライター=プロデューサーだけでも十分すぎるっていうのに。
● ウェブで読んだんだけど、Paulがシンガーになったのは、他に誰も歌える、っていうか、歌おうというやつがいなかったからなんだって。あとになってChadが美しい声を持っているのを発見したけど、彼はシャイすぎて無理なんだって。
★ 1曲ぐらい、Chadにリード取らせる曲があってもいいよね。コーラス聴いていてもちゃんと歌えることはわかるし、彼の歌も聴いてみたい。
▲ 少なくともRicheyやNickyに歌わせるよりは無理ないな。いやー、しかしすごいな。これもMansunの得意技なんだけど、後半どんどんテンポを速めていくところなんて、神がかり的にかっこいい。あー、早くまた見たい! 血がたぎる!
★ しかしMansunってこんなにハードで攻撃的な「ロック」バンドだったんだね。レコードだけ聴いてると忘れそうになるけど。
◆ なのに誰が「コントロールされすぎ」だって?
▲ いや、実際、こないだ見たときはそう感じたんだけど、それって単に「完璧」ということでしたか。
◆ わかりゃいいんだ、わかりゃ。
● お見それしましたー。
◆ そして曲は嵐のようなMansunコールを残して終わる。
★ これ、今のセットじゃラスト・ナンバーなんだよね。
● もっと聴きたい! 今のセットのライブもほしい! またブートレッグ捜しに行こう。

3. ブートレッグ、ライブ・ビデオ、その他もろもろ

◆ それなんだけどさ、こないだポップビート行ったら、Mansunの新しいブートが入ってて(“Being A Girl”のスリーブ使ったやつ)、「やった!」と思ったんだけど、こないだのビデオの失敗があるから、手にとってよくよく曲目見たら、“He Makes Me Bleed”に入ってたNew Castleのセットに、今年のGlastonburyの3曲を加えただけなんだよね。がっかり。
● それで買わなかったの? それじゃコレクターとは言えないよ。Mansunのものは何がなんでも全部揃えるつもりなんだから。
◆ だって3曲に3400円も出すの?《出しました》
▲ あのビデオ買わなきゃ買えたのに!
★ ブートだけじゃないよ。正規のCDだって全部なんか持ってないじゃん。初期の廃盤シングルも集めなきゃ。5000円くらいするけど。あと、自主制作のシングルは市場でも見たことないけど、それも捜して買わなくちゃ。たぶん1万円くらいするけれど。
◆ うう‥‥とにかく日本盤シングルは中古ですべて集めるつもりなんだけど。というのも、私はこれまで英国オリジナル盤にこだわってたけど、インターネットで見ると、ローカル・バージョンのほうがむしろコレクターには価値があるらしいのだ。特に日本盤はレアらしくて。
★ しかし本物のコレクターはすごい。最近、インターネットでスリーブの写真集めしてるんだけど、そうやっていろんなバンドのディスコグラフィをあさっていると、とんでもないのがあるんだよね。とにかく、カセットも含めたあらゆるフォーマットを、各国盤、プロモ盤、ブートレッグ、それもジャケ違いとかいうのも含めて、全部持ってる人がかなりいる。
● うん。あれはBowieのサイトだったっけ? ウェブマスターの自己紹介の写真に「レコード買うために働いている私」というキャプションがついてて、思わずうなずいてしまった。《それは私です》
◆ 確かにあれだけ集めるためには、給料ぜんぶつぎ込まないと。私なんかCDシングルが2枚ずつ出るというだけで音を上げてるけど、12"の時代には、1曲につき平気で10枚ぐらい出す人もいたからね。
▲ とにかく私は本物のコレクターにはなれないよ。あくまで気持ちだけでいい。《気持ちだけじゃすまなかった》

◆ 最新情報! Mansunはオフィシャル・ライブ・ビデオが出るらしい!
★ えーっ! それってどの程度たしかな情報なの?
◆ オフィシャル・サイトだから間違いない。今いくつかのギグを撮ってて、他にアフターショー・フッテージなんかも入るらしい。来年のリリース予定だそうだ。
● えー、なんかー、夢みたいで信じられない。
▲ でもVHSじゃいやだなー。デジタルで出ないかな。もしDVDで出るならプレイヤー買うぞ。
● あー、来年にはまた生で見られて、ビデオも‥‥。今がデビュー以来いちばんかわいいし、やったー!
★ なんかこれ、永遠に終わりそうにないわね。