Mansun日記 第21章 (1998年9月)

MANSUNつるべ打ち(3)

1. 祭りの後

● (ぷんぷんして)なんなのよ? Mansunのコンサート・リビューを▲ひとりに書かせるなんて! (いちおう優先権のある)◆ならともかく、あの人になんの権利があるのよ?
◆ いや、Mansunに関してはとにかく興奮しすぎてワヤクチャになってたので、ここはひとりに任せた方が安心だろうと。それに▲なら公正だし。
● だったら「動けないように縛り上げてヒタヒタと‥‥」ってのは何だよ!
▲ だって、私のリビューでそれがなくちゃ‥‥
★ でもよく書けてたよ。過不足なく必要なことはちゃんと書けてるし。
● 不満不満ふまーん! Mansunのコンサート・リビューは前回の来日のも不満だったんだけど、なんか盛り上がらない。これだけ惚れてるのに愛が感じられない!
▲ 私は見たまま感じたままを書いただけで‥‥
★ それが事実なんだからしょうがないんじゃない?
▲ でもイッたし。
● そういうことで威張るな!
◆ それよりあれよ。なんで土曜日行かなかったのか説明しなくちゃ。
▲ えーと、あの日はですねえ、もちろん行くつもりだったんだけど、念のためリキッドルームに電話してみたの。そしたら、Mansunが出るのは確かなんだけど、Snoozerという雑誌のDJイベントのゲストの形なんだって。それでチケットは売り切れで‥‥
● チケット売らないって言ってたじゃない。
▲ ウェブで見たのとはちょっと話が違うのよ。当日券が若干枚あるだけだと言うんだけど、何時に始まるのかも教えてくれない。それでたまたまSnoozerが手元にあったので調べてみたら、もちろんMansunのことは書いてないんだけど、このイベントって始まるのが11時とかからなんだよ。
◆ オールナイトなんだね。
▲ それでクラブ行って、いつMansunが出るのかもわからないのに、ひとりで夜通し待つなんて耐えられないしさ、この2日間ほとんど寝てないのに、オールナイトなんて無理だしさ、ゲストだからフルセットやるわけじゃないだろうしさ、そんなこんなでめげてしまった。
● 根性なし!!
◆ とにかく本公演だって見れないとあきらめてたんだから、見ただけいいじゃないか。
★ あれでだいたいわかったしね。
● わかるとかわからないとか、そういう問題じゃないんだー! ファンとして!

2. Mansun: Taxloss Lovers From Chester

◆ でもね、代わりと言っちゃなんだが、いいこともあったよ。土曜に帰ったら郵便局からの不在配達通知が届いててさ、注文したMansun本がもう届いてるの。さっそく本局に取りに行ってきた。
★ ええー! 早いんじゃない?
◆ だってエアメールだもん。郵送料だけで6000円も取られたんだから。もちろんこれ1冊じゃなくて、Manics本が2冊とSuede本が1冊と、例のBilly Mackenzieの伝記。ほかにもManics本がもう1冊と、Phillip Ridleyの脚本も注文したんだけど、そっちは入荷待ち。
▲ とにかくこれは出たばっかりよ。まだMansunサイトにも書いてないくらい。日本中で持ってるの私だけよ。
★ どうやって見つけたの?
▲ 偶然。Billyの伝記が出たので注文しようと思って、ついでに念のため御三家の名前も検索かけてみたの。そしたらまさかと思ったMansunもSuedeも出てて。
★ それにしても早いね。前にCD-ZoneでCD注文したときは1か月もかかったのに。
◆ あれはレアものばっかりだったからさ。こっちは新刊書だもんね。ちなみにショップはBookpages《インターネット書店の最大手Amazonの英国支社。今は名前が変わってAmazon UKになった》を利用しました。
● 見して見して見して!!
▲ 「愛がない」とかそういうこと言うやつには‥‥
● げーっ! きれいじゃない! 「どうせちゃちな本に違いない」とか言ってなかったか? デザインもいいし、紙質もいいし、これならSuede本の方がよっぽどちゃちじゃない。
◆ 悪かったね。SuedeはBernard時代に1冊、それもどうしようもないのが出ただけで、まともな本が出るのを待望してたんだから、これだってどんなにありがたいか。これも出たばっかりだし。
● それよりMansun!
▲ タイトルは‘Taxloss lovers from Liverpool’という歌詞から取ったんだな。
★ 表紙は「Nirvana時代」、でもドラマーが前の人(Julian)だな。
● そんなの持ってるもんねー。Paulのつぶらな瞳がかわいー!
◆ 今年出た本なのに、Andieじゃない人を表紙にするとはこれいかに?
▲ これはかえって価値が出るかも。
★ その代わり、ソースを見ると本文はほとんど新聞雑誌記事の寄せ集めよ。そんなのはもうほとんど読んでるし。
● 写真だけでもいいわ。見たことない写真もいっぱいあるし。
▲ そりゃオフィシャル本じゃないんで、Pennie Smith以外の写真ばっかりだからね。
◆ ロゴも使えなかったらしく、似たような書体でごまかしてる。
★ 写真もあまりないのか、スリーブ・フォトなんかでっかく載せてごまかしてる。
◆ しょうがないよ。だってデビューしてからまだいくらもたたないんだぜ。
● 「Stone Roses時代」の写真は貴重じゃん。これはウェブでちっちゃいのしか見たことなかったんだから。
◆ この頃Paulはいつも変な帽子をかぶっていたので、顔が見えなかったんだが、帽子を取ると‥‥
★ だっさー!(笑) もみ上げのばして、短く切った前髪をおかっぱにしているんだが、ほんとにただのそこらのあんちゃん!
▲ でもあの目は変わらないよ。
◆ そりゃそうだけどさ、だってそんな何年も前じゃないんだから。
● だいたい今の方が若返らない? これはなんかオヤジっぽく見える。不思議だよなあ。成功すると人間ってあんなに洗練されるものなのか。
◆ 洗練っていうかなんていうか、とにかくこの人は見るたび別人のように顔が変わるんで。
● うーん‥‥いやー‥‥ほほー‥‥
◆ 感心して見てないで、なんか言いなさいよ。
● だって、もうそれはさんざんやっちゃったので、今さら何を言ったらいいのか。
★ Chadの胸毛はやっぱりすごい。胸毛が喉まで続いてるとか。
◆ それはもう言った。
▲ Paulがライブでギターをふりまわしているところ、Tシャツがまくれてお腹がちらっと見えるけど、やっぱりムチムチした肉質だなとか。
◆ それももう言った!
● 細いのにムチムチ体質なのね。これがほんとのもち肌。白くって柔らかそうで、食べちゃいたい! お尻もかわいいなあ。
◆ それは‥‥言ってないか。なにしろいつもずるっと長いシャツやジャケットを着てるので、お尻なんか見えないから。
★ シャツが長いってことはやっぱり胴も短いんじゃない。誰が胴長だって?
▲ じゃ、ほんとに背も小さいのかなあ?
◆ 写真で見るとそんなに小さく見えない。やっぱり5’8”ぐらいはあるんじゃないか?
● 普通は写真のほうが小さく見えるものなのに。
★ ところで文章の方は?
◆ 一度に読んじゃったらもったいない。これは枕元に置いて、毎晩寝る前にちょっとずつ読むの。
● 枕の下に入れたら、いい夢が見られるかもしれない。
▲ そういう用途に使うのか?

《えー、この本の内容についてですが、思った通り、新聞記事の雑多な寄せ集めで、しかも内容は間違いだらけだし、人気に便乗した粗製本の典型みたいなのでした。それにしては製本や写真はきれいなので、メリットはあくまで初期の写真が見られるということだけですね》

3. Rocking On (October 1998)

● あー、もっと見たい!
▲ 生で見たばっかりなのに。
● 見れば見るほど渇望がつのるのよ。そこで9月1日発売のロッキンオン10月号に、Paulのインタビューが載ってたので。
◆ これっていつの?
● 7月に来日したときのでしょう。もちろんインタビューなんかどうでもよくて(通訳介したインタビューなんて! それに一人称を「俺」で訳すのはものすごい違和感! ふだん「俺」という人だって、インタビューみたいな公式の場では「ぼく」でしょう。ましてPaulみたいに澄ました話し方をする人は)、目玉はPaulのお耽美ポートレート! 写真は松尾哲。
▲ これもきれいだけど、クロスビートのとほとんど同じじゃん。
★ でもクロスビートのほうではわからなかったけど、疲れたような顔してるねえ。まるで幽霊みたいな顔しちゃって。顔色悪いし、目の下にクマ作ってるし、顔がむくんでるし。唇は乾いてひび割れてるし、目は死んでるし。よっぽどぐあい悪かったんだねえ。
◆ 青白いのも、目の下のクマも、はれぼったいのも、目がうつろなのもいつものような気がするけど。
★ でもいつもより死んでる。
▲ 写真が暗いし、全体に緑がかってるからじゃないか? だいたい、この人がどんなに病気でも、いちばん元気はつらつとした時のBrettよりは健康そうに見えるよ。
◆ なんだ、そりゃ?
● とにかくそれくらい何よ。これだけの美少年ならば! しかも、日本で撮った写真といえばPaulのどアップばかり。さすが需要をわかってるというか。
▲ でもやっぱりフォトグラファーの腕は段違いというか、Pennie Smithとはくらべものにならないと思うな。確かにこの人をきれいなカラーでアップに撮れば絵にはなるよ。でもPennieの写真のほうが、ずっといい顔してると思わない?
● そういやそうかな?(あらためてPennie Smithギャラリーを見る) うん、ほんとだ。こっちのほうがずっと愛くるしい。いつもほどこわばってないし。
★ ブックレットの写真だって、◆▲は言ってなかったけど、すてきな写真ばっかりよ。ソファで寝ているChadは天使みたいだし、ギターを抱え上げたPaulを後ろから撮ったライブ写真なんて、神々しいばかりだし。なんでこれもネットに載せてくれないの? もっと大きな画面で見たい!

4. Snoozer (October 1998)

▲ なんかゾロゾロ出てくる!
◆ これも7月のでしょ? すると何か? 日本の洋楽誌はぜんぶあれを取材したのか?
★ 取材はともかく、揃いも揃って美麗カラーグラビアってのは‥‥
● 人気の証明ね。
▲ Mansunってそんなに人気あるのかなあ? ギグの入りも思ったほどじゃなかったし、Mansun HeavenのSamに聞いたんだけど、Stoveが「Mansunは日本じゃ人気ない」って言ってたって。
★ とにかくこれでどっとファンが増えるのは間違いないね。
● これなんか巻頭カラーよ。この雑誌はダブル表紙になってて、1枚目はFatboy Slim (Norman Cook)だけど、2枚目の表紙がPaulなの。それでこれも青いフィルターかけて撮った写真で、これがまた美しいのなんのって!
▲ また同じやないけー! 構図も色もPaulのシャツも!
★ 前は顔が変わると文句言ってたのに、今度は同じだと文句を言う(笑)。
▲ だってさー、いやしくもフォトグラファーなら、それなりの主張というか表現があってもいいじゃない。もしかしてこれ、全部同じやつが撮ってんじゃないのか?
◆ でもこのフォトグラファーはイシザワ・ナオキという人で、全部違う人が撮ってんだけど。それにここでは無精ひげ生やしてるから、明らかにクロスビートのとは別の日のセッションなんだけど。
● つまり、いつ見ても誰が見ても美しいという証明だわね。
★ 証明も何も、自分の目で現物見てきたんでしょうが。
◆ 自分の目で見てもなんかぴんとこないのよ。だからこうやって写真で確かめてるわけ。
▲ なんかこの会話って、前の来日の時もやってたような気がするな。
★ そういや、あの時とおんなじ。
▲ ということはつまりだ。この人も顔のない男なんだな。美しいけれど、とらえどころがない顔、というのも最初から言ってるけど。
● もうなんだっていいわー、これだけきれいならば。あー、これ壁紙にしたい。もうほんとにスキャナー買うっきゃないな。

5. 眼球譚

◆ でも微妙な違いはあるじゃない。これは‥‥
★ うつろ(笑)。もともとうつろだけど、ふだんにも増してうつろな目。
▲ だってほんとに風邪でぐあい悪かったときなんだから。
◆ 本当に目を開けていてもどこも見てない感じ。
● 近眼‥‥かなあ? うつろなうるみ目をした人って実は近眼のことがよくあるし。
▲ でもメガネかけたところなんて見たことないよ。
● 近眼だからメガネとは限らないだろ。
★ やっぱり生まれつきこういう目だとしか‥‥
◆ この目! この目だよなー。
★ この人の目のどこが異常なんだろう?
▲ 異常って言い方はないだろ。
★ 自分でも言ってたじゃない。
▲ 私は「異彩を放つ」と言ったんだ。色じゃないか?
◆ すごく濃い青だよね。私、最近水っぽい薄いブルーの目がいやでさ。Leonardo DiCaprioがその目じゃない。あの水色の。あれってけっこう気持ち悪い。
● でもPaulだってそれほど濃くはないよ。それこそ黒と見まがう青い目の持ち主っているけど、この人は真っ青だし。
★ 濃い青っていうのはBrettみたいな目だよ。そういう人はモノクロで撮ると黒い目に見えるけど、Paulはモノクロでもちゃんと淡色の目だってことがわかる。
◆ そうか。Brettはあの目が好きなんだけど。
▲ 青のトーンが普通とちょっと違う。コバルト・ブルーっていうか。
◆ それはフィルターのせいでしょ。
▲ でもどの写真でもそうだよ。
● Mansunは全員目が青いけど、4人並ぶとPaulだけ目の色が違うの。まるであとから着色したみたいに、わざとらしい青さで。
★ 独特の目といえばPeter Murphyなんだけど。輪郭だけくっきり黒いの。それで中心に行くほど薄い青になる。あれは本当にきれいだった‥‥
◆ それそれ! 私が嫌いな水っぽい青い目ってのはその輪郭がはっきりしないんだよ。だから目玉が白目に溶け込んでしまったように見えて、崩れた目玉焼きみたいで気持ち悪い。
● なんちゅう比喩!(笑)
◆ やはり特異な目で私の注意を引いたJon Marshは、輪郭だけはあるんだよ。だけどその中がまったく色がなくて、真空状態っていうか、虚空のように見える。あれもきれいだったが。
★ 「虚空の目」! Phil Dickですか?
▲ 前も言ったような気がするけど、なんか最近の◆は目の話になると比喩が異常だ
◆ 白人種の目には昔からちっとばかりこだわりがあるんで。
▲ でも、この人はそういうんでもないでしょ。色は均一で。
◆ あ、でもそのケはある。ほら、虹彩の部分って、黒いギザギザ模様が入ってるじゃない。その黒の割合が異常に多くて、くっきりしてるの。大理石みたいに。
★ そういやそうだ!って、なんてトリビアルな話(笑)。
◆ 観察が細かいと言ってよ。だから色はそれほど濃くないのに黒っぽく見えるわけね。
● たびたび「宝石のような目」と言ってるけど、これは明らかに鉱物質だよな。動物の目じゃないよな。
★ うつろなのも当然っていうか、宝石の目でものが見えるはずがない。
◆ それと透明。異様に透明度が高い。色は濃いんだけど透明という、まるで熱帯の珊瑚礁の海のような青‥‥(だんだんこっちの目もうつろになってくる)
▲ だってあの黒い部分ってのは、眼底の模様でしょ。それがこれだけくっきり見えてるってことはやっぱり透明ってことで。
◆ それと光目‥‥
★ 光るのは反射率が高いってことで。
● 猫の目がそうじゃない。どっちにしろ人間じゃなかったか。
◆ (イってる目をして)‥‥そういや『眼球譚』なんてのもあったが‥‥眼球のエロス‥‥目玉フェティシズム‥‥
★ ちょっとちょっと!
▲ 解剖して、あの目玉をえぐり出して、机の上に飾ってながめたいとか?
● あーっ! この2人にまかせておくと、また話がアブなほうへ!
◆ いや、それよりビロード張りの小箱に収めて、開けるたびに私を見返すあの目‥‥
▲ ぐえっ!
● ひー!
★ やめてよー!
◆ だってこの人でほしいと思うのは、あの目だけだもの。
● 目だけじゃないよー! 顔も体も中味もぜんぶほしいよー!
▲ こら、◆! 自分で何言ってるのかわかってるの?
◆ ああ〜‥‥
★ ほらほら、しっかりして。正気に戻ってくれないとあとが続かないんだから。
▲ ちょっと気が狂っただけだから勘弁してね。そのうち戻るから。
● 写真1枚で私を狂わす、まあそういう男なんです。