Mansun日記 第2章 (1997年3月)

CUTE, INTELLIGENT, MISCHIEVOUS...AND DANGEROUS:

ミーハー座談会MANSUN篇

◆ (上機嫌でMansunを歌っている)♪ タララ、ランラン、ランララー、タララ‥‥ぎゃん!(乱入してきたその他3人が◆をつかまえる)
● つかまえた!
▲ 逃がすな!
◆ わー! なんなのよー!
▲ さあ、言え。何者なんだ、あいつらは?!
◆ あいつらって?
★ 観念して正直に吐いてしまいなさい。
◆ だから何を!?
● Mansunに決まってるじゃない。
◆ なんだ、だからリビューに書いたでしょ。Chesterから来た‥‥
▲ そんなんじゃなくて! どこであんなもの見つけてきたんだ?!
◆ だからそれもリビューに書いたって。もとはといえば、Suedeの‥‥
● じゃあ、あれはほんとなわけ? 顔買いであんなバンド見つけたわけ?
◆ 顔買いじゃないわよ。顔はぜんぜん好きじゃなかったんだから。
★ ◆の場合、むしろスーツで買ったようなもんじゃないですか?
● じゃ、スーツ買いであんなの見つけたわけ?!

◆ (だんだん事情が呑みこめてくる)ははあ、皆さん、気に入って頂けましたか。
▲ 気に入ったとかそんなもんじゃないよ。あれは10年に一度の大物だよ!
◆ いやー、そこまで言ってくださると‥‥
★ どうして? どっちかというとRicheyの失踪以来、私たち全員不幸につきまとわれてるのに、どうして◆だけそう恵まれてるわけ?
● そう、Suedeだけでも身に余ると思うのに、Geneはいるし、Strangeloveはいるし、Menswearはいるし。ほとんど独り占めじゃない。
★ Bristolバンドも◆の担当じゃなかった? Manicsだって今じゃ▲と共有しているようなもんだし。
● Brettはあんなにかっこよくなっちゃうし、NeilとRichardはあんなにきれいだし、ぜったい不公平よ!
◆ 何も棚ボタで拾ったわけじゃない。ちゃんと私が見つけてきたんですからね。むしろ私の慧眼をほめてほしいね。
★ 慧眼たって、ルックスで選んでるだけじゃない。
◆ だからMansunはルックスなんか好きじゃないって。
● MMの写真見て買ったくせに。
★ 少なくともGeneとStrangeloveとMenswearは写真だけ見て買ってるよね。
◆ だったらBrettの慧眼と言い換えようか。だいたいBrettが推す新人は買って損はないね。私は彼の目利きに従ってるだけ。
▲ MansunとSuedeって関係あったっけ? Mansunの方がSuedeを崇拝してるのはわかったけど。
◆ MansunもSuedeのサポートをしてるということは、Brettも気に入っている証拠ではないか。
● あの男も気の多いやっちゃな。Strangeloveだけでも十分なのに。
◆ 最近じゃ「Brettに愛されたバンド」というのが、新人の売りのひとつになってるぐらいだ。
★ ツアーのサポーティング・アクトは、そのバンドがいちばん気に入っていてプッシュしたい新人を選ぶというのが、最近の定例になってるのよね。
◆ そう。これはショーケースとしてすごく参考になるし、新人育成の面でもいいことじゃない。特にSuedeは新人の発掘に熱心で、意外なところで情の厚さが見えたわね。こちらとしてもSuedeが推す新人なら間違いないというので安心できるし。
▲ ただ、そのバンドが好きだからといって、音楽的好みもいっしょとは限らないのが不思議なところ。それが証拠にManicsの好きな新人って、私にはちょっと‥‥
★ Mary Chainの時もそうだった。私とはまるで趣味が合わない。
● 「ロック系」はだめなのかね?
▲ だからこそSuedeとManicsの友情を不思議な友情だと思ったわけ。
◆ とりあえず、こうやってSuede peopleが増えていくのは実にけっこうなことだ。音楽に関しては、近ごろ伝統の重みというのをつくづく感じるね。BowieとSmithsがいなかったらSuedeは生まれてこなかったし、ClashとGuns N' RosesがいなかったらManicsは生まれてこなかったし‥‥
▲ ちょっと待て。
◆ SuedeとTears For FearsがいなかったらMansunは‥‥たぶん生まれたかもしれないが‥‥でもTFFが「ぼくらはPlanet Sylvianに住んでいる」と口にしたときの衝撃を思い出すな。こうして偉大な伝統というものは、表面には見えなくても地下で脈々と続いて行くんだな。偉大なバンド(Gunsを除く)はこうやって未来にも貢献しているのだ。
● えらそうに。とにかくあんた最近テングになってない?
★ 我が世の春って感じよね。ひとりだけ。
▲ でもそういう巡り合わせってあるよ。あれが起きる前は私が幸福の絶頂だったし。
◆ そういや、その前は★の天下だった。New OrderとMary ChainとEMFを独占してたんだから。
● じゃあ、私がいちばん不幸じゃない!
★ そんなこと言っても誰も信じませんね。●は誰のものだろうと、気に入った男は平気で手を出すんだから。
● 誤解を招く言い方しないでくれない?

▲ でも◆はずるいよ。そうやって隠し玉もって、誰にも教えないんだから。
● そうそう。年間回顧の新人篇の時も、ちゃっかり知らんぷりしてさ。
◆ べつに隠しちゃおらん。私も知らなかったんだから。
▲ うそ! Mansunの名前もちゃんと出てたけど、何も言わなかったじゃないか。
◆ そりゃ名前は知ってたけど、こんなにいいなんてほんとに知らなかったんだよー! 買って初めて知ったんだから。
● ずるいよなー。Neil Codlingも隠してたじゃない。
◆ なんで?! 加入してすぐに教えたじゃない。
● だって、あんなにかわいいなんて言ってくれなかったじゃないか。
◆ 私はきれいだって言ってるのに、おまえらが信じなかっただけじゃないか。カッパだとかトカゲだとか言って。
▲ まだ他にもなんか隠してるんじゃないのか?
◆ なんで人を疑う?! ほんとに私も知らなかったんだよ! どうせ小粒なBrit Popの一種だろうと思って買ったんだから。BlurやPulpの弟みたいなもんかと。Beat UKで見てちょっと気に入って買ったOctopusがスカだったんで、新人なんてやっぱりこんなもんかなーと思って、ぜんぜん期待してなかった。だから腰が抜けたわけだけど。TFFうんぬんだって、買ったあとでMM読んで知ったんだから。
★ そんな幸運ってありうる?
◆ だってあったんだもん!
▲ ついてるやつはすべてについてるんだよなー。

▲ でもって話はやっぱりMansunだ。
● このバンドは以後、全員の共有財産としますからね。
◆ そんなに好きか?
★ 好きも何も、これはとてつもないバンドだよ。
◆ そうかあ、私もひょっとしてそうじゃないかと思ったが。
▲ Manicsの時も、Mary Chainの時も、認めたくないがTake Thatも、みんな熱狂したけど、それぞれなんらかの保留事項がついてたと思う。なのにMansunに関してはそういう保留がまったくない。
◆ 私はあるわよ。ルックスはべつに好きじゃない。
● なんでー? かわいいじゃない!
◆ おや? ああいうのがお好み? なるほどPaul Draperはけっこう幼い顔立ちだから、あれはむしろ●の領分か。
★ でも、最初きらいきらい言ってた人ほど、ずるずるのめり込んでメロメロになるというのがパターンと化してますからね。ManicsにしろSuedeにしろ。
▲ 私はManicsの悪口なんか言ってなーい!
● ◆は必死で抵抗してたじゃない。
◆ だってBrettは今ほどきれいじゃなかったんだもん。
★ とにかく今はあんなこと言ってるけど、1か月後には絶対イカレてるよ。見ててごらん。

● というわけで、さっそくMansunミーハー篇へ突入します。
◆ 待てよ! まだなんにも資料ないのに。来月になればきっとどっと出るから、それまで待てないの?
● 待てない。私は◆の言う「Nirvana時代」もかわいいと思ったよ。髪はあんなふうにぺたっとなでつけるより、くしゃくしゃの方がかわいいよ。
★ ていうか、今の髪型最悪じゃない? スケベたらしいだけで。
● ◆は趣味悪いのよ。
◆ なにお!
▲ Kurt Cobainにも見えるけど、Brian Jonesそっくりとも書かれてたな。
◆ 単にブロンドのおかっぱだからでしょ。
★ ブロンドのおかっぱといえば、Birdland。私は最初見たとき、Birdlandみたいだと思ったな。化粧もしてるし。
◆ ひどいー!
▲ Birdlandの何がわるい?
● あ、そういや、▲はBirdlandのファンだったんだ。
▲ 不幸にして評価されないまま消えたけど、Birdlandはいいバンドだったよ! かっこいいし、Clashだし。
★ 少数派意見だね。
▲ Manicsは嫌いらしいけど(もっともあの人々は誰でも嫌ってたけど)、私は最初Manicsを見たとき、Birdlandみたいだと思ったもん。
◆ だってブロンドじゃない。
★ なぜそこまでブロンドを憎む?(笑)

◆ べつに憎んじゃいないけど、きらいなだけ。Paulに話を戻すと、口元がぼてっとして卑しくないか? そこがアメリカ人みたいに見えたんだが。
● そりゃ細かいこと言ったらきりないけどさ。鼻は好きだな。このSki Jump Nose
▲ なんだ、そりゃ?
● “Ski Jump Nose”という曲がMansunにあるんだって。これはPaulの鼻のことで、彼はこの鼻がきらいだそうだけど、私は大好き。ほら、先っぽがちょっと上を向いていて、スキーのジャンプ台みたいなの。
★ なるほど。鼻の頭が空向いてるのは、確かに昔からの●の好みだ。
● それに私はただの美少年じゃ満足できないの。どうせなら、こういう一癖ある小面憎い美少年が好きなの。
▲ 確かにこういう華奢で小柄な男の子は●好みかもしれない。
● こりゃ相当なチビだよ。小人だよ。◆は背の高い男でないとだめでしょ。譲りなさい。
◆ だからべつにルックスが好きなわけでは‥‥
★ それにくらべて、むしろChadの方はかなりごついよね。
◆ なのにChadが「妻」役ってのがまた‥‥
★ また勝手に決めてる!
◆ とにかくPaulは我慢するとしても、Chadは絶対だめなタイプ。カバあごだし、クマだし。
▲ だってこんなギター弾けるんだぜ! カバだってクマだっていいよ。
◆ それは別として。
★ でも世間一般では、むしろ美少年の範疇に入るんじゃない?
▲ 好き嫌いは別として、ここはけっこう粒ぞろいだよ。4人が4人とも一癖ある顔立ちをしているし、キャラが立ってる。よくいるそこらのただのガキってのはいないじゃない。
◆ でもまだ金髪が2人もいるってのは‥‥
★ どうしてもそれにこだわってる(笑)。
◆ 全員髪を黒く染めて、服も黒づくめにしたら許してやるんだが。
▲ 世界中Brettだらけにしようったって無理ですよ(笑)。
◆ あんたはいいよ。Manicsは4人とも黒髪だったから。
● わけわからん話になってる!
★ でもルックスはきっとまだ変わるよ。新人バンドがブレイクして1年ぐらいたつと、見違えるように洗練されて変わるから。
◆ それはありうる。去年から今年でこれだけ変わったからな。まだすごく若そうだし。
▲ 若いっていくつなの?
◆ それが資料がなくてわからないんだってば。私は最初22、3才と踏んだけど、見てるともっと若いような気がしてきた。見かけはハタチそこそこに見える。
● とにかくその時になって吠え面かくなよ。
◆ おあいにくさま。私にはSuedeがいるからMansunはルックスなんかどうでもいいんだもん。
● キー! くやしい!

▲ だからルックスのことは忘れて! かんじんなのは音楽でしょ。
◆ その通り。私の意見はリビューに書いたけど、皆さんはどう?
▲ 私はManicsのファーストを初めて聴いたときの衝撃を思い出した。音楽的には似ても似つかないけど、この密度の濃さと完成度という点で。
★ 私はもちろんMary Chainのファーストを。
◆ 私もSuedeの“Dog Man Star”を。
● 私は、えーと‥‥
★ ということは、MansunはMary Chain、Suede、Manics並みの、我々の次代のアイドルになるということでしょうか?
◆ すべての証拠がそれを指し示しているね。
● でもさ、上記の3バンドの場合は、ルックスと音楽が全面的に好みなのはもちろんのこととして、それ以外の部分で私が絶対抵抗できない理由があったじゃない。
★ 確かにそうだ。Mary Chainだったら、むちゃくちゃ性格かわいいのと笑えるのと。
◆ Suedeは圧倒的な美貌妖しいアンドロギュヌス性
▲ Manicsは社会性知性口にできないあれだし。
● なのにMansunのことはまだなんにも知らないのに。
▲ ということは、音楽だけでもそれに匹敵するということで、これはすごいことじゃないか。
● 「こういう歌をうたえる人のためなら私は死ねる」というのは◆の十八番のセリフだけど、これこそまさにMansunのことじゃ‥‥
◆ 私はまだそこまで言ってないよ!
★ だからよく知らない人のためには死ねないから、こいつらは何者だって訊いてるの。
◆ 知らないんだってば!
● リビューでも◆が「ほんとにこのガキがやってるのか?!」とか「どこかの誰かが匿名でやってるんじゃないの?」とか言ってたけど、これってとてもじゃないけど、ぽっと出の新人にできるワザじゃないよ。演奏も歌もプロデュースも。
▲ でもMary ChainやManicsはそれを現実にやった。そういう人っているんだよ。
★ 新人離れしているからといって、老練なってわけじゃないよね。ほんとに老練な人がやると、それこそ今のTFFとかBowieみたいなのになっちゃって、まるでつまらない。
▲ この全編にたぎる熱いものは、やっぱり若いバンドのそれだよ。ルックスのせいか、それともギグでの乱行のせいか、最初はパンクっぽいバンドだと思われていたらしく、本人たちはそれをきらって「ぼくらはポップバンドだ」と強調しているけど、私はこの人たちは絶対ロックだと思うな。音はもちろんスピリットとしてロックだよ。
◆ 「ロックは進化しない」というのが私の持論だったけど、こういうのを聴くと、やっぱり着実に進化していると思わずにはいられない。TFFのファーストだってとてつもない傑作だと思ったけど、これほどよくないもの。
★ そのTFFとのアナロジーだけどそれほど似てる?
◆ Paul本人はそれを指摘されると、「なぜか知らないけど、みんなそう言うんだよな。彼らのことは好きだから、べつにいいけどさ」と言って、多少不服そうだ。
● 似てるのはほんの一部じゃないさ。確かに80年代っぽさは感じるけど、音はあくまで90年代の音だし、誰にも似てない。
◆ 90年代じゃないわ。これは21世紀の音よ!

▲ いや、正確に言うと新しいものは何もないと思う。歌にしろ、あの歌詞にしろ、ギターにしろ、リズムにしろ、みんなどこかで聴いたことのあるやつなんだよ。今後、批評家の矛先もそこに集中すると思うけど。ただ、それをこんなふうに、最高に洗練された形で全部いっしょに結びつけたバンドはいない。この30年間で私がこよなく愛した音楽の、最良の断片だけをつなぎ合わせたみたいだ。私が感じ取っただけでも、Queen、TFF、Duran Duran、Associates、Depeche Mode、Smiths、Manics、Suede‥‥
◆ そういや、パンクっぽさだってあるし、ダンスっぽさだってあるし‥‥
★ ノイズはないでしょ。
▲ だから愛したもののすべてとは言ってないけどさ、でも音楽に関していえば、きらいな要素はひとつもないってのは言えるでしょ。
● きらいなものがないだけで、こんなに好きにはならないよ。
◆ 確かに。
▲ 音楽的インフルエンスとしては誰にいちばん影響受けてるのかしら? ◆もちょっと書いてたけど。
◆ 結局、この人たちが他人をけなすのって聞いたことない。ほとんど何でも好きみたいね。ただ、年からいって1980年以降のバンドに主として影響受けてるってだけで。でも、いちばん好きなのはGeorge Michaelらしい。
★ それは冗談でしょ!
◆ 半分はそうだろうけど、けっこう本気みたいよ。このアルバムにもGeorgeにバッキング・ボーカルで参加してもらおうと思ったんだって。あっさり門前払いくったみたいだけど。
▲ そりゃそうだ。
◆ でもセカンドでは絶対やるとがんばってる。
▲ なんかManicsとKiley Minogueみたいだな。
★ でもWham!との類似なんかぜんぜん見えないよ。Duranははっきり感じるけど。
▲ だったら、Manicsだってそうだよ!
● ダンス・リズムとクラシカルな要素を結びつけるのは、ニューロマの手口だよね。

◆ とにかく影響なんかなんだっていいわ。これはこれとして完璧なんだから。
▲ それはそうだ。
◆ 1曲目聴くでしょ、すると「こんなにすごい曲が書けたのか!」と驚くんだよね。それで2曲目を聴くと「前曲よりさらにいい! これこそこのアルバムの白眉だ!」と思うんだけど、そのあとも1曲聴くたびごとに、同じことを思う。ぜんぶ好きすぎて、いちばん好きな曲が決められない。しかも、もう何度聴いてるかわからないんだけど、聴くたびに前より良くなってきて‥‥
★ 底なしにいいという以外、なんと言ったらいいのか。
▲ もうひっきりなしに聴いてるんだけど、いまだにトレイにCD載せる時からドキドキするんだよね。
◆ いやもうスリーブ見ただけでもドキドキする。でもそれって普通はそこまで感じるのって「愛」があってのことじゃない。なのにMansunにはまだ愛は感じられない(時間の問題だと思うけど)。音だけ、音楽だけでこれだからね。
● 「心の琴線に触れるメロディ」というのも◆のセリフだけど、Mansunはすべてが琴線に触れるっていうか、琴線がジャンジャン鳴りっぱなしでうるさい!(笑)
▲ クラクラするようなメロディってのはManicsにもたくさんあるけど、それは「この曲のここ」とか「あの曲のあそこ」ってものなのに、なのにMansunはほとんど全編がそれなんだよ。
★ ただの「いい音楽」っていうんじゃないよね。それ以前に体にくる。聴いた瞬間、背中に電撃が走るような。
◆ それそれ、それって私がTFFの“Shout”の12インチのイントロを聴いたときに感じたものなんだ。当時のリビューを引用してみようか。「ともかくこの曲、イントロのオルガンの音を聴いただけで、背筋を冷たいものがチョロチョロと走り、リズムが出て来ると、逆に熱いものがグーッと喉元にこみ上げ、キーボードがテーマを奏で始めると、髪の毛が生え際のあたりからギューッと引っ張られるように逆立つのを感じ、ボーカルが入るころには、もう涙がとめどもなく流れ、鳥肌が立ってゾクゾクするくせにカッカとほてるという、ほとんど更年期障害か自立神経失調症かというありさま」 ほらね、そっくりでしょ? なぜか今となってはもうTFFでは再体験できないんだけど。
★ だってTFFはイントロだけでしょう? Mansunはアルバム1枚それが持続するんだよ。それもあとへ行けば行くほどすごくなってくる。

● それとTFFにはなかった、それを言ったらNew OrderにもDepeche Modeにも、Mary ChainにもManicsにもなかったものは、このセクシーさ。
▲ えー? 私はDepeche ModeにもManicsにもムラムラしたよ。
★ だったら私もNew OrderやMary Chainに。
● それはいろんな邪心が入ってたんでしょうが。音だけでそれがあったのは、正確にはAssociatesとSuedeだけよ。おまけにMansunは彼らみたいに露骨にセックスを売り物にしない。
★ Associatesはそんなことしてないよ!
◆ Suedeだって!
● (無視して)人についてはまだ下心もてるほど知らないのに、まして女装男のことしか歌ってないのに、このムラムラくる感じは何なの?
◆ でも確かにセクシーな音ってのは当たってる。特にこのボーカルの吐き気がするような悩ましさ!
★ 悩ましいといっても、Brett AndersonやJon Marshみたいにあからさまなよがり声じゃないの。
◆ おまえ〜、言葉遣いに注意しろよ。
★ ◆もリビューに書いていたように、頭の芯は冷たくひえてる。あくまで理性的で、冷笑的で、冷たく突っ放してるくせに、ドキドキするほどセクシー。これって何なの? だからPaul Draperって何者なの?って訊いたわけだけど。
◆ やっぱりこれもひとつの才能だろうな。
▲ (考える)確かにその通りだ。私はManicsには下心てんこ盛りだったけど、Mansunの音以外の部分には、まだなんの知識も興味もないのに、これ聴いてると‥‥

《以下、私の品位に関わるので一部削除》

▲ ‥‥だいたい、なんでコンサートで「イケる」と思うんだ?
◆ あーん! なんでこういう話に?!
▲ 何を嘆いている? セックスはべつに下品じゃないし、Mansunだって下品じゃないよ。
◆ あたりまえだ!
★ いやー、セックスでこれだけ盛り上がったのはTake That以来ですね。
● 言っとくけどね、あれは半分以上冗談だったんだよ。だから無責任に楽しめたけど、Mansunはマジ。ほんとにこれだけストレートに「感じる」バンドはSuede以来だ。
★ そのSuedeだって、相当下心入ってるじゃない。その意味でもMansunは前代未聞。
▲ だからなんでMansunで感じるか、そこを訊いてもらいたいんだけど。
◆ もうこの話はいい!
▲ なぜかというと、知性と美! 私は美と知性に欲情する。美しくない、知性のない音楽には、どんなに色っぽくても欲情できないね。
◆ えらそうに。
★ それを言うと、Take Thatはなんだったんだ?って言われるから、よした方が。
● Take Thatは少なくとも体は美しかったわ。
▲ だから今は音楽の話だってば! Mansunにはその知性と美があふれるほどあるからこそ、これほどまでに欲情をかき立てるんだと思う。
◆ だったらSuedeもだ。
★ だから欲情してたわけでしょ?
◆ もうそれはいい!
▲ もちろんSuedeも、Manicsもよ。だけど、この感じ方、これはひょっとしてそれ以上‥‥これをほとんどひとりで作ってる、Paul Draperって何者なんだ?!
★ 結局、最初の疑問に戻るわけね。

◆ (疲れた様子で)あー、確かに私、っていうか本体が悪いんだけど、最近ボケっぱなしで、コンサート情報もちゃんとチェックしてなかったんだけど、たしかMansunって来日するんじゃなかったっけ?と思って、チケぴあ行ったらあった。
★ えー?!
● 「行ったらあった」ってなんなんだよー! 私らチケット取るのに死ぬ思いしてるのに!
◆ ほら、●★はミーハーだから日本で人気あるアーティストが多くなるじゃない。だけど私や▲は通好みなんで。
● それにしたって、なんで◆ばっかりいい思いしてー!
★ そうじゃなくても、だいたい初回の来日というのはデビューしてすぐに来るから、私は見逃すことが多いのに。なのに今回はレコード買うのもチケット買うのも電光石火。なんでそんなについてるの?
◆ あ、そう。行きたくないんなら行かなくてもいいよ。私、行ってくるから。
●▲★ 行く行く行くー!!
★ とにかくこの目で確かめなくちゃね。
▲ いつなの?
◆ 4月16日。ほんとは初日より2日目の方がいいんだけど、木曜日は会議日なんで。
▲ 来月じゃん! 情報待ってるより本物の方が早いよ!
● てことは売れてないのか?
◆ まだ日本じゃぜんぜん知られてないもん。
▲ チャンス! そういうギグはチャンスだぜ! 素人は来ないし、すいてるからな。
★ でも英国でNo.1になったのに。
▲ そこまでチェックしているやつ、そうはいないって。
● 場所は?
◆ クアトロ。
● あー、あそこきらいなんだ。
▲ でも小さいしさー、これをそんな近くで見れるなんて!
★ でも、ライブでこれできるのかしら?
◆ そのまんまの再現は絶対無理。たった4人なんだから。
▲ それもそうだ。キーボーディスト入れるべきなのは、SuedeじゃなくてMansunだよね。
◆ やだ。Neilはあげない。
★ でもライブでも死ぬほどうまかったらどうしよう?
▲ うまいに決まってるじゃん、これ聴いたら。
● えーっ? そしたらもうどうすればいいの?って感じ。
▲ どうやらライブじゃ相当ワイルドそうだし、これは絶対イケるぜ! イエイ!
★ おまけにルックスも写真じゃわからないけど超美少年だったりしたら。
● えーっ? えーっ? もしそうだったらどうしよう!! 《知らないということは恐ろしいな。でもこの時点で知ってたら、それこそ卒倒してただろうけど》