Mansun日記第10章 (1998年6月)

Mansun NMEインタビュー

NME 1998年6月20日

● きゃー! かあいー!
◆ いきなり変な声出さないでよ。Take Thatじゃないんだから。
● Take Thatよりかわいー!
▲ 何かといえば、やっと帰ってきたMansunなのだ。
◆ 「やっと」って言うけど、この人たちデビュー以来、まったく休みなしで働いてるのよ。“Grey Lantern”のヒット以後も、欠かさずツアーを続けていたし。
★ でも、日本にいる我々は、レコードが出たときしかお目にかかれない。やっぱりなつかしいという感じだね。
◆ それでめでたくセカンド・アルバム“Six”の発売も決まり、この夏のフェスティバルにも顔を見せて、またMansun旋風が吹き荒れそうだ。それで久々にNMEのカバーにもなったので、それをネタに。
● とにかくこの人(Paul)、見るたびに顔が変わるじゃない。それでこんどはどんなふうになってるかと恐れてたんだけど、これなら私の見たまんま、かわいー!
▲ でも微妙に別人のように見えないか? それがこの人の恐ろしいところなんだが。
★ ていうか、この子、肥えたんじゃない?
● 何を言うかー!
★ だってほら、ほっぺたのあたりがやけにふっくらして‥‥
◆ そういや、前のカウボーイ・ハットのときもそんなこと言ってたが。
▲ 確かに前は頬こけてたよね。それがなんかまるまるしちゃって。
★ やっぱり太ったよ。
● だってあんなにあんなにほっそりしてた人がー!
★ だから顔だけ。
▲ べつに気にすることないよ。この人は1か月ごとに顔が変わるんだから。どうせアルバム出る頃はまた変わる。
● それもそうよね。そうか、今回今までにもましてかわいく見えるのはそのせいか。
▲ やっぱり下ぶくれが好きなんじゃない。
● おかげで今まで以上に幼く愛らしく見えて、もうたまらんっ!
★ 女の子みたいー。
▲ 目はあいかわらずうつろですが。
● 髪もまた黒くなってこないか?
★ これは写真のせいじゃない?
◆ そういや、「Paul Draperの髪の色の謎」はインターネットでも追求されていた。完全な金髪から真っ黒まで、いったいどれが本当の髪の色なのかって。
▲ 世界には私以外にも暇人がいるんだな。
● この人はダークブロンドよ。
◆ ライトブラウンじゃない?
★ それってどう違うんですか?
● 茶色と黒っぽい金髪とは明らかに違うよ。とにかく私はその色のときがいちばん好きなので、ダークブロンドに決めたのだ。
▲ 金茶というのもある。
◆ でも髪の色が変わるのはまだ理解の範囲内。理解できないのはどうして顔が変わるのかってことなんだ。
▲ たしかに。この表紙の背景は、これまでのPaulの顔写真で埋め尽くされているんだけど、どれ1枚とっても同一人には見えないもんな。
◆ それはNMEも不思議がってる。さすがに顔が変わるとは言ってなくて、change lookと言ってるけど。
★ 服装が変わるくらいならじゅうぶん理解の範囲内なの!
▲ ほんとに顔まで変わるもんなー。
◆ そこで96年1月のデビュー時から97年までのMansunの変遷を写真を並べて追っているのだが‥‥
● 実はこのデビュー時のMansunは、すでにインターネットで見ちゃったんだけど、これがまるきりバギールックなのよね。Paulはよれよれの布帽子なんかかぶっちゃって。
▲ さすがにIan Brownには見えないが。
● 顔が違いすぎる!
◆ でもスカリー・バンドのひとつと言われても納得行く。
★ このPaulでもChadでもない2人は誰?
◆ これはAndyの前のドラマーと、逃げちゃったというキーボーディストでしょう。
★ 2人ともえらくかわいいじゃん! なんかMansunはこの頃のほうがルックス的には良かったような。
● だめ! かんじんのPaulがかわいくないから。
◆ それで96年8月、私が知ったのはここからだけど、ご存じ、Nirvanaルック
▲ これはKurt Cobainそのまんま。
● 顔が違う!
◆ そして97年2月のアルバム・リリース時には、やはり私をあっと言わせたNew Romanticルック
● これ、当時も「Adam & The Antsみたい」と言ってたけど、NMEに指摘されて気がついたんだが、このPaulはまんまMidge Ureやんけ! あのスーツといい、ちょびヒゲといい!
◆ どっちにしろニューロマ。それで97年5月、これはちょうど来日した頃だけど、これはClashルックなんだそうだ。
F そういや、あの安全ピンとか、ジップ・トラウザーズとか。
I なんとなく侮辱されてるような気がする。
★ なるほど、それなりにみんなコンセプトがあったわけか。しかし脈絡がないというか、音楽とまるっきりなんの関連性もないところがすごいね。
▲ だったら今はなんなの?
◆ そういうのはやめたんだって。これからは音楽だけで勝負するんだって。
★ そういや、最近服装もナチュラルですね。ちなみにここではPaulは黒いシャツと黒いズボン。
◆ 黒ってところはこだわってるわね。いい子。
★ Chadはワイシャツにレザー・ジャケット(イギリスはまだ寒いのか? こっちは6月だというのにうだるような暑さなのに)、StoveとAndyはデニム・ジャケット。
● えー、それじゃもうマスカラもなし? マニキュアもなし? ドレスもなし?
◆ だからやめたんだって。
● なんでー! 化粧はしてたほうがいいのに。この子は似合うのに!
★ 今だってかわいいじゃん。
● 髪型は今がいちばんいいと思うけど。

★ それでインタビューはなんだって。
◆ 断っておくけど、この人は受けをねらったおもしろいことは決して言わないよ。とにかくまじめなんだから。
▲ そんなのわかってるよ。
◆ 折しもワールドカップの真っ最中ということで、英国も浮かれに浮かれているんだけど、当然のようにフットボールの話題から始まる。
★ へー、Paulもやっぱりサッカー少年だったわけ?
◆ いや、彼の出た学校は有名選手がいっぱい出ているという話から始まるから、そうなのかと思いきや‥‥

Paul 「でもワールドカップを見るつもりはないけどね。今じゃもう音楽以外に趣味ってないんだ。そんな暇ないし。今ではフットボールなんて嫌いだよ」 (ちなみにPaulの発言はすべて、あの仮面のように無表情なデッドパンでなされます。原文ではいちいちそれが描写されてるけど、くどいので省略してある)

▲ とりつく島もありませんな(笑)。
◆ (真顔で)私も見てないけど。私もそんな暇ないし、そもそもテレビを見るという習慣がないし。
★ オリンピックだけは見るくせに。
◆ だから私はボールゲームが嫌いなんだって。団体競技も嫌いだし。日本が嫌いだし。
● でも音楽以外趣味ないっての、私もそうだ。
★ しかし、この人はそれが趣味じゃなく職業でしょ。仕事以外趣味はないなんて、なんかみじめじゃない?
▲ けっこうなことじゃないか。趣味で食っていけるんだから。
◆ こんなことも言ってる。

Paul 「ぼくは音楽のために生きてるんだ。ぼくがすることといったら、ギターを弾いたり、ピアノを弾いたり、文章を書いたり、歌詞を書いたり、詩を書いたり、それだけさ。ほかに興味ってないんだ。ぼくはそれで幸せさ」
NME 「そういうことをしてないときはどうしてるんですか?」
Paul 「してないときってのはないんだ

▲ (じわーん)えらい‥‥
● こういうのも仕事中毒っていうんだろうか?
◆ ていうかね、この人は音楽作ってないと気が狂ってしまうんだって。

Paul  「レコード出してツアーに行くだろ。そしたらまた飛んで帰って、たまった曲を頭から吐き出さなきゃならないんだ。この意味わかる? たまったままでいると頭がおかしくなっちゃうんだ。だから外に出してやらなきゃならないんだよ」

★ その気持ちはちょっとわかるね。私もこうやって何か書いてないと気が狂っちゃうから。
▲ しかし、前も言ったけど、これだけ異常な密度とテンションで仕事して大丈夫なんだろうか?
◆ それはNMEも心配してこんなふうに訊いてる。

NME 「創作意欲があふれかえってるのはわかりますが、それってちょっと‥‥不健康じゃありませんか? バーンアウトしてしまう危険があるんじゃ。気が狂ってしまいません?」
Paul 「人生は一度きりだぜ。明日のことなんか考えるな。将来のことなんか思いわずらうな。将来のことをくよくよ考えるやつなんて(吐き捨てるように)病気だよ。人生をただ楽しめばいいんだ。それがぼくらの哲学さ」
Paul 「その日の経験はその日のうちに音楽にしてしまうんだ。振り返ったりしない、変えたり、推敲したりもしない。ただ吐き出すんだ。吐き出しちゃって、魂を自由にして、また新しい創造力を身につけるんだ」

★ 確信犯ですね。
● しかしこの人の言うこと変じゃない? あんなに仕事してちゃ「人生を楽しむ」暇なんてないじゃない。
◆ だから彼には音楽をやってるのがいちばん楽しくて、それが仕事だから、仕事してるのがいちばん幸せなんだよ。
▲ そりゃ楽しいこともあるには違いないけどさ。それが仕事になっちゃうと苦しいことも多いってのは、みんな嘆いてるじゃないさ。
● だいたい、本人がちっとも幸せそうな顔をしていない(笑)。
◆ あれは単にそういう顔つきなだけだって!
★ だいたいPaulはそれで良くても、よく他の3人がついていってるね。
◆ そりゃ今はそうさ。彼についていけば、スターダム一直線なのは間違いないんだし。
★ てことは、落ち目になったらわからないと。
◆ 先のことなんか誰にもわからないよ。でもPaulがあきらめないことだけはわかる。この人から音楽を取ったら何も残らない。
● こんなに若くてかわいいのにねえ。他に色気ってないんだろか?
★ そういうところ、Mike Edwardsみたいですね。
▲ いや、Manicsだって、Suedeだって、Mary Chainだってそうだよ。彼としては、たとえこれで燃え尽きたって、なんの悔いもないはず。ありがたいことだよなあ。こういう人々がいてくれるおかげで、私は生かされているようなもんです。

◆ あとね、Mansunはファンを大切にしてるって話で、なんと彼らはファンとの対話のためにホットラインを用意してるんだって。
● それはあのオフィシャル・サイトだけ見ていてもわかるが。
★ ホットラインっていうことは電話?
◆ そう。電話番号もちゃんと載っている。ここにかけると、Stoveの家の居間につながるんだって。
● ゲーッ!
▲ そんなことしちゃっていいの? ぽっと出のマイナー・インディーならともかく、Mansunほどの人気バンド、そんなの載せちゃったら電話鳴りっぱなしになるよ。(言いながら電話に手をのばす)イギリスの電話番号って何番だっけ?
◆ 待て待て!
● だってPaulは出ないんでしょ。
◆ Paulは忙しすぎて電話なんか取ってる暇ないと思う。
● Paulとお話しできないんじゃつまんないや。
◆ 「つまんないや」って、あんたPaulと国際電話でしゃべる勇気あるの?
● “I love you.”くらいバカだって言える。「結婚してください」とか。
◆ やめてよー!
▲ というようなバカからの電話で番号変えるはめになるな、たぶん。
◆ (インターネットを見て)実はこの電話はアンサフォンだった。
▲ そりゃそうだよなー。
◆ Mansaphoneだって。
★ だじゃれ‥‥
◆ しかしネットではファンとのチャット・インタビューなんかもやっていて、実際ファンとの対話には熱心なバンドだ。そこで「ガールフレンドのいるメンバーは?」という質問に、Paulが「みんないるよ」と答えていた。
★ えー、やっぱりゲイじゃなかったの。
▲ ゲイだなんて最初から夢にも思わない。

◆ それで問題のニュー・アルバムだが、どうやら“Grey Lantern”とは打って変わって、飾り気のない、ロックロックしたギター・オリエンテドな作品になるらしい。
● “Closed For Business”が凝ってたから、またあれかと思ったんだけど‥‥
▲ でもそれもいい知らせ。Mansunは本来、骨太でハードなロックバンドなんだから、レコードでもそれをアピールすべきよ。ライブとレコードの分裂は気になってたんだ。
◆ 私は分裂していてもかまわないのだが‥‥
★ 大丈夫よ。凝ってないはずないから。
◆ たしかに。なんでもPaulは「ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラス」というポップソングの定型にあきあきしているそうで、もっとフリーな形の曲を書きたかったんだそうだ。
● というとどんなの?
◆ 次々とテーマが展開していくような形。
▲ あ、そういうの大好き! Shed Sevenはそれがあったから好きになったんだもん。
◆ とにかく、私はニュー・アルバムについては何も思いわずらうことはないね。なんであれ、Mansunがやるものは完璧だ。
★ 断言しますね。
▲ だってこの人は正真正銘の天才なんだもん。天才のやることに間違いはない。
● とりあえず、先行シングル“Legacy”が楽しみ!
◆ ビデオ発売の予定もあるらしい。
▲ うわー!