Linoxing
リノキシンニスのページ
Atelier-H


Last update / 2005.05.03



■はじめに
アントニオ・ストラディバリの製作したヴァイオリン「ストラディバリウス」
その美しい音色の秘密の一つがニスにあると言われています。
(もちろんニスが全てではありませんが…)
しかし、その調合法は謎とされています。
最近の分析で音の秘密の一つが「キチン」であるとされ、
セミの羽か何かを煮出した汁を配合していたかもしれないそうですが…、
「キチン」だけにキチンとした事はわかりません。
どんなニスだったのか興味はありますが、
ストラドの秘密を探るのは専門の方におまかせして…、
ヴァイオリンニスがギターに使用できるのか?
使用したらどうなるのか?
そんな素朴な疑問から「リノキシン」に的をしぼり、
国内でバイオリンニスを扱っている
日本リノキシンの中村様のご協力を頂きながら、
レスポールタイプのギターで試してみました。
リノキシンの処方については未知の部分が多く、
試行錯誤しましたが、その都度アドバイスを頂きました、
日本リノキシンの中村様には大変感謝です。
リノキシンは素晴らしい塗料の一つです。
このページで紹介する手法、処方は、
リノキシンニスのベストな塗装方法ではないかもしれませんが
同じニスを使用される方の一助となれば幸いです。
一般的なニスの手順と異なる点がありますが
あまり気にしないでください。
ど〜うしても気になる方や、ご意見、ご質問等ございましたら
ご遠慮なくご連絡下さい。


Mail  hisa.m@sound.jp 

■リノキシン
リノキシンの主原料は、リンシードオイル(亜麻仁油)。
画溶液では、リンシードオイルを乾性油(固着材)といい、
顔料「色の粉」を固着させる糊(のり)の役目をしています。
大気中の酸素と反応して、ゆっくり固化していき
光沢のある丈夫な皮膜を作ります。
リンシードオイルも処方により様々ですが、
多少黄変する性質があります。

リンシードオイルがどのようにしてリノキシンとなるか…、
私では理解不能な分野ですので、
詳細については下記のサイトをご覧下さい。

日本リノキシン

リノキシンは製法の違いによって、

●リノキシンL(重合亜麻仁油から精製した脂肪酸、赤褐色)
●リノキシンM(Lの改良型、濃いオレンジ色、楽器用)
●リノキシンG(純粋な組成、標準グレード、黄橙色)

他にも数種類の製品が紹介されています。
エタノール可溶か亜麻仁油可溶に分類する事もできます。

リノキシンは、アルコールニスとオイルニスの
長所を併せ持ったニスと言われ、
ヴァイオリンの場合、リノキシン塗装を施す事で
キリキリしたノイズがカットされ、音に深みが出ると
言われています。
しかし、
ギターの音質とは異なる為、
やわらかいヴァイオリンニスをギターに使用して、
同様の結果が得られるとは思えません。

そこで、下記にギター用の処方の一例を紹介します。


(リノキシンG)


(コーパル樹脂)

■ニスの処方、その1
・ヴァイオリン用標準「リノキシンニス」は三種類。
 シェラック/リノキシン/コーパル樹脂、
 20/5/5の比率で後はエタノールの処方。

・ギター用標準「リノキシンニス」は四種類。
 シェラック/リノキシン/コーパル/サンダラック
 15/5/5/5の比率で後はエタノール。

※塗装時間を若干短縮する処方は、
 15/5/3/5の比率で後はエタノール。

ヴァイオリンニスとの違いは
サンダラックを使用する事です。

素地調整が整っている段階で、
リノキシンニスを一度塗ります。
リノキシンは、木材に浸透する事により
光の屈折をおこし木目を引き立たせます。
この段階でリノキシンニスの素晴らしさが実感できます。

下地処理(シーラー)は、必要以上の塗料の吸い込みを
防ぐという意味もありますが、吸い込み量は、
材によっても変わってきます。

下記に材による処方の一例を紹介します。


(リノキシンニス塗装後)



■ニスの処方、その2
・ギター用の木材で処方を変える場合、
 (メイプル、アルダー、マホガニー等)
 シェラック/リノキシン/コーパル/サンダラック
 15/5/5/5の比率。

・(ジリコテ(シャム柿)、黒檀、ローズウッド等) 
 塗料の吸い込みが少ない材は
 15/5/3/5の比率。

試しにリノキシンGを単体で塗装してみると
数日経ってもなかなか固まりません。
ですからリノキシンニスは、シェラック塗装の様に
塗って数時間したらサンディングして重ね塗りする
効率の良い作業は出来ません。
一回塗って、一日以上置いてサンディングし
重ね塗りをして行きます。
一日程度放置してサンディングしても、
削りかすは消しゴム状です。


■目止めのニス
目止めには速乾性のフィラーを使用すると
勝手も良く作業時間も短縮できるのですが、
目止めにもリノキシンニスを使用します。
シェラック塗装の場合2〜3ポンドカットの濃さで目止めを
していますので、大体同じ濃さで行います。
最初からエタノールを減らして濃するか、
ニスをしばらく放置して濃くする場合もあります。
※火気にはご注意ください。

リノキシンニスは徐々に浸透して行きます。
塗装後、六ヶ月経った現在、目止めした箇所が
若干ですが枯れてきています。

上の写真はリノキシンニスで
目止めした後。
下の写真は、ダークブラウンの着色塗装済み、
約半年後の状態です。

写真ではわかりませんが、マホガニの木目に添って
塗装が枯れて来ているのがわかります。


(目止め後、着色前)


(半年後、着色済み)

■中塗り、その1
目止めの後、自然染料を取り寄せ
ニスに着色してみました。
自然染料は多くの種類があり
・ラック色素
・ドラゴンブラッド
・紫根
・ログウッド
・カルミン酸
などなどでベースの色を作り、媒染剤も
酢酸銅、塩化鉄を試してみました。
媒染は色を濃くする意味で使用されますが、
わずかな量で色が変化します。
ただ、塩鉄による媒染は退色の原因にもなるそうで、
日本リノキシンの中村様は塩鉄の媒染はされず、
自然染料のみで濃い色を作られています。
さすがです。

オリジナルの着色ニスをヘッドに塗ってみました。
ヘッドは目止めの段階から着色ニスを使用しています。
カーリーマホガニの木目が着色ニスの目止めの効果で、
更に引き立ちます。


(ヘッドの着色)


(ドラゴンブラッド&ラック色素)

■中塗り、その2
染料から色を作り出す作業はとても大変です。
そこでボディには、日本リノキシンの着色ニス、
ヴァイオリンバーニッシュHG、ダークブラウンを
使用しました。
ダークブラウン以外でも、

・イエロー
・ゴールドイエロー
・オレンジレッド
・マダーレッド
・レッド
・ダークマダー
・ダークレッド
・ブラウン
・オークブラウン

日本リノキシンの中村様は、好みの色に合わせて
ニスの調整をして下さいます。
又、色見本を無償で提供してくださっていますので、
興味のある方は直接問合せて見て下さい。


(ヴァイオリンバーニッシュハイグレード
ダークブラウン)


■中塗り、その3
ヴァイオリンは筆塗りが基本ですが、
わたくし、筆塗り苦手です。
そこでスプレーガンを用意しました。
重力式のタイプをオークションで入手しました。

コンプレッサーは借りもの。
10kgのサブタンク付。
塗装の適正圧は2kg。

ガンスプレー用に、ニスの粘度を調整します。
エタノールで約20パーセント希釈、
1.5倍に薄めます。

写真は、スプレーガン1回塗り後の状態。

ヴァイオリンやレスポールは、
素地着色をしている場合があります。
これは上塗りの色を生かす為と考えられますが、
詳しい事はわかりません。




(着色ニス一回塗り)

■上塗り
ダークブラウンのニスをサンバースト風に
約4〜5回外周にそって塗りました。
濃淡の差が思ったよりは出ませんでしたが、
初めてのサンバースト塗装はまずまずです。

このままで良いかとも思いましたが、
トップコートをする事にしました。
トップコーティング専用のニスという事で、
ヴァイオリンバーニッシュHGの処方ではなく
レスポール用として特別に調合して頂きました。

トップコート用HG、スペシャル
シェラック/サンダラック/マスティックの三種類を、
10/15/5の比率。

しかし、この調合でもトップコートとしては、
若干やわらかめの印象でした。

日本リノキシンの中村様は、
材による処方や希望にあわせた対応をして下さいます。
も少し硬めを希望する場合、ベンゾエ5を足して下さったり、
我侭な処方にも対処してくださいます。


(サンバースト塗装)


(トップコート用スペシャルニス)

■最後に
リノキシンニスは素晴らしい塗装の一つですが
ギターに使用する場合、時間が必要です。

塗装後、六ヶ月経った現時点で、
ようやく塗装は落ち着いた感があります。

落ち着くまで時間がかかった原因として、
下地の処方がヴァイオリン用のやわらかめだった事と、
トップコートもベンゾエは配合されていない処方だった事、
その二点が考えられます。

参考までに、
塗装後、一ヶ月程度ではマスキングの後が少し残ります。
(マスキングして数日放置した状態)、
塗装後、三ヶ月程度ではギタースタンドの後がつきます。

トップコートの段階で、色の印象が変わり、
全体的におとなしくなった感じがします。

時間が経つにつれ少しづつ表情が変化していき、
現在サンバーストの面影が消えつつあります。

ヴァイオリンは時間経過とともに
更に深みを増して行くようですが、
リノキシンニスも同様に時間とともに深みが出てくる様です。

一年後、二年後が、どの様な感じになっていくか楽しみです。


(トップコート後)


(半年後)

■つづく…

special thanks to Nakamura