大阪編

空によだかの星がまたたく夜、やまねこはすくっと立ち上がりました。
「旅にでるにはこんな夜がぴったりなんだ」
何度も旅に出ているやまねこさんにはもうわかっていたのです。
この日の為にとっておいた高級煮干を丁寧に縄で腰にくくりつけ、
少し悩みましたが、CRYBABYとたまを旅の伴に決めました。
やまねこさんの荷物といったらこれっぽっちでしたが、それだって、
普通の人にはとっても手が出ない代物なのです。
目指すのは「大阪」でした。やまねこさんの住む「東京」とは
異郷の世界でしたが、とにかく行ってみる事にきめました。
それというのもお友達のたらいぶねさんとセッションしなくちゃいけないからなんです。(途中)
従って…
やまねこは大阪に向かおうとしたが、もう一度夜空を見て「うん?」と足を止めた。
そして、うつむいて「あれは"よだかの星"じゃない。どうも老眼の性で見間違えたみたいだ」
と呟くと、深い溜息を洩らした。後ろ足で耳の後ろを掻き、長い舌で身体を舐め始めると、
次第に眠気に襲われた。やまねこは何時もの場所・塀の上で眠り始めた。
…という次第です。
目を覚ました時に、アリスが通りかかるのが見えたので、チエシャ猫の如く
にやにや笑ってみた。だけどアリスはそのまま通り過ぎてしまった。
「少し位、気付いてくれたっていいのに。ぶつぶつ」
しょうがないから、次にやってきたナカタさんとおしゃべりしてみることにした,,,
(BGMはsitting on the fence〜ルースターズ)
> しょうがないから、次にやってきたナカタさんとおしゃべりしてみることにした,,,
「こんにちは。いいお天気ですね。」
「あんた、しゃべれるのかい?」やまねこさんは、驚いて聞き返した。
「はい。いつでも、どんな猫さんとでもしゃべれるわけじゃありません。でも
やまねこさんも、それ、ギターっていうんですか? 人間が弾く楽器を弾けるんですね。」
「そうさな。猫界広しといえども、俺くらい、このアコースティック・ラップ・スティール
を扱える猫はそういやしねぇ。」
「ところで、山猫さん、旅姿に見えますが、どこへお出かけなんですか?」
「まぁ、旅のつもりだったがよ。まだ、その時じゃねぇみたいだし、ここで
いつものように寝ていたんだ。行くとしたら、西の方だな。」
「ナカタも、西の方にいかねばならないような気がするのです。できたら、
ごいっしょさせてもらえませんか。」
「まいったなぁ.....」山猫さんは、この善良そうな初老の男を旅の道連れにして
いいものかどうか。頭をひねっていた。
>>「まいったなぁ.....」山猫さんは、この善良そうな初老の男を旅の道連れにして
いいものかどうか。頭をひねっていた。
山猫「俺は一匹狼ならぬ一匹山猫だ。人とつるんで旅するのはあまり好きじゃねえ。
   それにあんた、一口に西ったって広いんだぜ。あてもねーのに、どうすんだよ]
ナカタ「それがナカタにもよくわからないのです。でも行かなければならないのです」
山猫「猫と話せる人間というのも、そうそういやしねえもんな。何となくあんたにゃ、もっと
   いい相棒がいるよな気もするんだが..まあいい。旅は道連れ、世は情けというし。
   ついてきな」
ナカタ「ありがとうございます。ナカタも山猫さんのような方と旅がご一緒できて
    頼もしいカギリです」
山猫「近づきのしるしにこれ一本やるよ。ゆっくり噛んで食いな。」
   といって縄から丁寧に高級煮干を取り出し、ナカタさんに手渡した。
ナカタ「ありがとうございます。煮干はナカタの大好物であります」
といって一人と一匹の奇妙な旅が始まった....
競牛場の観客席から疾走する牛に向かって、えこーるは牛券を思いっきり握り締めたまま…
「おらおらおら、テッペキホーイモー! あたしゃ〜財布の中味を単勝で全部あんたに賭けた
のだから、もっと頑張って走らんかい。2位以下だったら、タン塩にするぞ!」と絶叫した。
その叫び声を聞いただけで、気の小さいテッペキホーイモーは震え上がって立ち止まった!!
レースの結果は、言うまでもなくテッペキホーイモーの最下位であった。
牛主「もう、お前は市場で食肉として売り払うしかねえなぁ」
テッペキホーイモー「そんな…残酷な事は言わないで下さい。今度は優勝しますから!」
牛主「いつもレースの後にそういうが、いつもビリという成績だしなぁ…」
競牛場の牛舎でそんな会話をしていたら…
「ちょいとお待ち!」という声が牛舎に響き渡った! 分厚い木の扉が左右にバ〜ンと開いた。
扉の向こうに、腕を組んだ格好で仁王立ちのえこーるの姿が浮かび上がった。
「あたしゃ〜財布の中味全部をその牛に描けて、スッカラカンになったんだ! 帰りの電車賃も
無いんだよ。悔しいから、その牛を頭からバリバリと喰っちまいたいんだ。だから私にその牛を
頂きたいんだけど」
牛主「そんな…この牛に賭けたのはあんただし、負けたのはあんた自身の責任だし…」
「つべこべ言うんじゃないよ!」と叫ぶと、えこーるは木の扉に強烈な回し蹴りを放った!!!
木が裂ける鈍い破裂音がして、片方の分厚い木の扉が瞬く間にバラバラになってしまった…
牛主は顔面蒼白で紙屑のような表情になり、震えた唇を無理に動かしながら「どうぞこの牛を
お持ち帰り下さいませ」と言った。
「当然だわ」という表情で、えこーるはテッペキホーイモーの方に歩き始めたが…足元の藁の束
につまずいて、前のめりに大の字にバタンと倒れこんだ。ヨロヨロと立ち上がると、額に大きな
コブが出来ていた。(お約束の展開…)
競牛場の帰路…西の空にアダムスキー型のUFOが群れて飛んでいる。夕陽の当たる街道を、
テッペキホーイモーは背中にえこーるを乗せてのんびりと歩いていた。紙屑のような表情で
「本当に僕を頭からバリバリと食べちゃうんですか…」と情けない声で弱々しく尋ねた。
「嘘よ、嘘!!」えこーるは額のタンコブに絆創膏を貼りながら、明るい声で答えた。
「何しろ帰りの電車賃もすっちゃったから、あんたに送ってもらおうと思っただけ。城下町に
着いたら解放してあげるから、何処でも好きな所に行きなさい」
「ありがとうございます。あのままじゃ解体されて食肉市場で出回る所だったから…あなたは
私を助けてくれたのですね。あなたにお礼をしなくちゃいけません!!」紙屑のような表情が
すっかり明るくなって、テッペキホーイモーは嬉しそうに言葉を続けた。
「伝書鳩達から、山猫と盥舟というのが大阪に向かって旅をしているという噂を聞きました。
お礼にあなたを背中に乗せて大阪の旅に連れていきましょうか?」
「"やまねこ"に"たらいぶね"ですって?? 何だか分からないけど面白そうね。それじゃあ、
このまま大阪に向かってもらおうかしら」
…という次第で、えこーるとテッペキホーイモーの不思議な旅も始まった。
<やまねことたらいぶね>の続き
やまねこさんからもらった煮干をナカタさんは、丁寧に食べました。
そうしなければならない気がしたからです。
(じじつ、その煮干は一本3000円しました)
するともうナカタさんはどうしようもなく眠くなって来てしまいました。
「すみませんが、山猫さん。ナカタは眠くて仕方ありません。」
山猫さんがこくり頷くと、どこからか布団が現れて、
ナカタさんはその中ですこんと眠り込んでしまいました。
そこにドラゴンズの野球帽をかぶった星野君が現れて、その光景を見た途端、
全てを理解しました。
「なんだよう、山猫のおやじよう、おれっちもオフ会連れて行ってくれよう。
えこ鱈とは昔からのトラック仲間だし、星野君もたらいの奴と一緒に歌いてえ」
山猫「おまえにはおまえのやくわりがある。わかっておろう」
すべて平仮名でそう言うと、山猫はその場を静かに離れた。
山猫は忘れ物を取りに戻った。トランクを一つ巣から取り出し、中を一つ一つじっくりと
点検すると表情一つ変えず、深呼吸してからいよいよ旅に出た.....
(ここであなただけに教えましょう。トランクの中身。
白いフリルがいっぱいの帽子、もちろん顎の下で結ぶピンクのりぼん付き、
白いフリルがいっぱいのドレス、かわいいブーツ。そして忘れちゃいけない、
この日の為に新調したドレスの下に履くずろーす。
そうです、たらいぶねさんと並んで橋の上でフレンチカンカンを..
あ!密偵に狙われているので、ここまでですっ)
えこーるは携帯糸電話に向かって愚痴をこぼしていた。「テッペキホーイモーが自分がタンに
されるんじゃないかって。後ずさるのですよー。なかなか前に進んでくれないのです。ウナギを
食べる日なのだとやっと解ってもらえました。大阪は遠いなりね。」
糸電話から「とにかく、大阪では"On The Sunnyside of the Street"を歌いながら炎の回し蹴り
を決めてもらわなきゃならんいんだし、ちゃんと待ち合わせ場所の名古屋城に辿り着いてよ」
というPIPSの声が響いてきた。その声に…時々、ピシッという鞭の音も混じっている。
糸電話から、ロンリコの香りも漂っている。えこーるはPIPSが真っ昼間から飲んでいる姿を
想像して、苦笑しながら「大丈夫だと思います。絶対に間に合うようにしますから」と答えた。
その電話の間、テッペキホーイモーは好物のポテトチップスを嬉しそうにボリボリと食べていた。
街道の傍らには、無数のポテトチップスの空袋が散乱していく。
えこーるは糸電話をポケットにしまうと、テッペキホーイモーの背中に軽快に飛び乗った。
「あんたねぇ…いつも食べてばっかりで、ちっとも先に進まないじゃないの! ちゃんと真面目
に歩いて欲しいんだけど!」
「すいまへん。何しろ競争牛なもんで…牛の中でもインテリなんですよ。ですから、背中に人を
乗せて歩くのに慣れていないんです」
「それにしても、ひど過ぎるわ。振り向くと、まだ競牛場が近くに見えるじゃないの。あんたが
腹が減ったと言う度に、私が競牛場の売店までポテトチップスを買いに行っているのよ」
「ホンマにすいまへん。何しろ競牛という仕事も向いてなかったみたいで…足が鈍いんです」
えこーるは「しょうがないから、アレを呼ぶか」と呟くと、親指と人差し指を円にして、それを
口元に持っていった。ピーという鋭い口笛が鳴り響く。
暫くすると、城下町の方から何かが土煙を上げてこちらの方に近付いてくるのが見えてきた。
近付くに連れて、それはトラックである事がはっきりしてきた。昼間だというのに、ボディーの
電飾が色鮮やかに浮かび上がっている。そのデコトラは、テッペキホーイモーの前で急ブレーキ
をかけて止まった。そして…運転席には誰も乗っていなかった!!
テッペキホーイモーはえこーるを背中に乗せたまま、デコトラの周囲をグルグルと回りながら、
ボディーに描かれたイラストを目を白黒させながら眺めていた。
「凄いトラックですね。とっても綺麗だし…このイラストは、Bob Marley すね。Sam Cooke や
James Brown なんかも描いてある!!」
「そうよ。牛の癖に良く知っているじゃない」えこーるは自慢そうに答えた。
デコトラの後ろの扉に描かれたイラストを見て、テッペキホーイモーは「この人は誰ですか?」
と訊ねた。
「James Carr。つい最近、何だかこの人の絵にしなくちゃならないような気がして、この絵に
してみたの」
「これがJames Carr ですか! 何だか"The Dark End of the Street"が聴きたくなりました」
「CDもカーコンポも搭載しているから聴けるけど…あんたは助手席に座れないから無理ね。
荷台の方に乗ってもらわなきゃならないでしょ」
「いえいえ、私は助手席に乗れますよ」と即答すると、テッペキホーイモーは天に向かって
モーと大きな声で鳴いた。すると…テッペキホーイモーの身体は、あっと言う間に縮み始めた。
あれよあれよと言う間に手の平に乗るようなサイズになって、えこーるは街道に放り出されて
しまった。その弾みで前のめりに倒れこんで…額の大きなコブ上に鏡餅のようにタンコプを
作ってしまった。(お約束の展開…欠かせないですな)
「あいたたたっ! 小さくなるんだったら、そう言ってくれなきゃ駄目じゃないの!!!!
またタンコブが大きくなってもた。それにしても…牛が手乗りサイズになるとは思わなかった…」
「すいません。これは両親から教わった秘技なんです」
テッペキホーイモーは申し訳無さそうな口調で答えた。「このサイズに縮むと、自分でトラック
に乗れなくなったので私を乗せて下さいね」
「全く世話の焼ける牛だわ!」えこーるはテッペキホーイモーを無造作に摘み上げて、助手席に
放り込んだ。<<続く>>
やまねこは、衣装ケースとギターを入れた行李をかかえて歩き出した。
田端の駅から、駅員に見つからないように山手線に乗り込んで、東京まで
行った。東京駅を出て、高速バスターミナルに行き、大阪行きの夜行バス
を見つけると、乗客にまぎれて荷物をトランクの片隅にそっとおいて、
スルリと屋根にのぼり身体を横たえた。スモッグで空はかすんでいるが、
それでもいくつかの星はまたたいていた。やまねこは、星を見上げた。
やがて、バスはゆっくりとターミナルを離れた。やまねこは揺れる車体に
身をまかせながら、遠い昔のことを思い返していた。
それは、1938年のできごとだった。
やまねこは、その日海が見たくなって晴海埠頭にやってきた。
埠頭には巨大な船が停泊して、甲板員がたくさんの荷物を積み込んでいた。
見送りに来た家族と別れをつげる大きな荷物を抱えた乗客が何人もいた。
どうした気の迷いだったのか、やまねこは、唐突にその船の中に入って
みたくなった。もちろん、少し船内を覗いてみたくなっただけだったのだが、
調理室の冷蔵庫にたくさんの魚が運び込まれているのに気をとられているうち
に、ドラと汽笛が鳴り響き船が岸壁を離れていたのに気がつかなかった。
船は3日の朝、小さな島国についた。そこが目的地だったようですべての
乗客が船をおりた。知人との再会を喜ぶものもいたが、多くは新しい
生活のはじまりに不安そうな表情を浮かべていた。
やまねこは、あまりの暑さに目眩をおぼえた。そこは常夏の島であった。
冬には身を暖めてくれる毛皮がわずらわしかった。
やまねこは、オアフと呼ばれる島の日本人居留地に住み着いて暮らすこと
にした。ある日、庭先のラジオから流れる聞いたことのないメロディに、
やまねこは魂をうばわれてしまった。ハワイアンの中でも最も斬新な
スティール・ギターを弾く男の曲らしい。男はすでにハワイを離れ、
アメリカ本土で暮らしているらしい。やまねこの頭にひとつの曲の
フレーズが刻み付けられた。
それから数年、やまねこは常夏の島の暮らしに慣れていた。日本を懐かしく
思い出すことはあるが、とりたてて帰りたいとは思わなくなっていた。
それは、ある晴れた冬の朝であった。冬といっても朝から汗ばむ日ざしである。
ふと見上げた空に何か光るものが見えたような気がした。やまねこはなんとなく
その島にある軍港に足を向けた。アメリカが誇る大平洋艦隊の主力戦艦が
その港に集結していた。しばらくすると、空に戦闘機の編隊が突然あらわれ、
轟音を響かせて攻撃をはじめた。魚雷を発射する戦闘機もあり、目の前の戦艦は
あっという間に黒い煙りにつつまれた。やまねこは動転したが、轟音とともに
気を失ってしまった。
気がつくと、戦闘機の編隊は去り、アメリカの戦艦のいくつかは大きく傾き、
もうもうと黒煙をあげていた。甲板にはいくつもの兵士の遺体が目についた。
やまねこは、居留地に帰るべく歩き出した。しばらくして道ばたにひょうたんの
ような形をしたギターが転がっているのに気がついた。逃げ出した港湾関係者が
落としていったものらしい。いっしょに落ちていた金属片を握って、耳にのこっ
ていたメロディを奏でてみると、不思議なことに、今まで一度もギターなど
手にしたことがなかったのに、鈴のような音で、そのメロディが響きだした。
やまねこは、(なんてこったい。)と思いながらもそのギターを持って
居留地への道を歩いた。同じころ、来栖、野村の二人の駐米大使はアメリカ国務
長官のもとに、最後通牒を届けていた。太平洋戦争が幕を明けたのである。
その男が歩くとさりさりと音がした。道に落ちている釘を腰の紐につけた磁石で
集めている音である。スペイン語の拾得にも余念がない為、
いつしかせにょーるSHOJIと呼ばれるようになった。
その名を本人が気に入っているかどうかはわからない。
くたくたになって歩いてみてもくっついて来るのは、
ボンジョルノや、シェルブプレであったりするから、長い一日の終わりには
深い溜息をつく事になる。「この国ときたら..まったくもう」
先日東と西の空でのろしが三本上がった。今回は大阪という事らしい。
歩いていったとしても今日から出れば間に合うだろう。
しかし各地の皆の事が心配だ。
東北の女ときたら鉄砲玉で、デコトラキッドがあれば一日もかからずに
到着するはずだが、(なんせ不眠不休で動く事ができるし、あの馬力だ)
お約束で今回も通り過ぎてしまうのだろう。
名古屋の鯱女はレゲエのおっさん達にまだつかまっているに違いない。
だから山谷ブルースは一番だけにしろといったのに。
40代の優男は目を患ったと聞いたが、お春さんが青草を煎じて
飲ませているから大丈夫だろう。
たらいの奴が大波をかぶってはいまいか。一番近い福たんは
いちいちミラーを閉じながら歩くから、いくら早く出てもちっとも進みやしない...
そんなこんなを考えていたら、空に向かってつい咆えてしまった。
「普通にこれねーのかよっ!ふつーにっつっ!!」
やまねこは、戦争が始まって日系移民が強制収容された辛い日々を思い返していた。
そう、あれから長い年月が過ぎた。しかし、戦争は4年で終わったが、日系移民は財産や土地
を没収され、無一文から働かねばならなかった。やまねこは、スティール・ギターを弾ける
ただ一匹の猫として、多くのアメリカ人、ハワイ人から愛されたが、彼らは、やまねこが
移民村に住み着いていることが気にくわなかった。「なぁ、猫ちゃんよ。わしらの村に住もうぜ。」
すばらしいギターを奏でるハワイ人のギャビーという青年にそう誘われた時、少し心が揺れたが、
やまねこは日本で生まれ日本で育ったのだ。人間達の話す日本語は理解できるが、英語やハワイ語
はまるでダメだった。
そこまで思い出した時、轟音が響き、バスの背後から巨大なトラックが接近してきた。そのトラック
には派手な電飾をつけ、ボブ・マーリィ、サム・クック、ジェームス・ブラウン、そしてジェームス
・カーの姿が描かれていた。「な・なんだぁ」やまねこはつぶやいた。トラックは追い越し車線に入り、
バスを追い越しにかかった。窓を全開にしているコックピットから女性のコーラスが聞こえる。
「ちぇぃん ちぇぃん ちぇぃぃぃぃぃぃぃぃん.....」
やまねこは悪夢を見ているのかと思った。片手でハンドルを捌いている女の頭には仙台タワーが、
助手席でロンリコの瓶を片手に持っている女の頭には金の鯱がのっかっていた。トラックはバスと
併走した。助手席の女の顔がやまねこの目の前にきた。女は突然叫んだ。「やまねこさ〜ん。こっち
においでよ。」
やまねこは、バスの荷物室に大切なギターを積んでいるので、トラックには乗り移れないと思った
その時、奇妙な姿の二人の男を乗せたオート三輪が、バスの左側の車線に追いついてきた。オート三輪
なのにすごいスピードだ。運転席の男が大声で叫んだ。「やまねこさ〜ん、ギターのことなら心配いら
ねぇぜ。」その男はピンクの網タイツをはいていた。すると、バスのサイドの荷物入れのドアが音も
なく持ち上がり、いつのまにか荷台に移っていた赤と白の縦縞の上下を着て三角帽をかぶった男が
ロープのようなもので、やまねこの荷物をヒラリとすくい上げた。運転席の男は言った。
「やまねこさん、安心しなせぇ。荷物は目的地までいっしょだぜ。」やまねこは、トラックの助手席の
女の方を見た。彼女はにっこり微笑んだ。なぜか、たんこぶと青あざがあった。しかし、やまねこは
ヒラリとバスの屋根から、デコトラの助手席に飛び移った。
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ぐーてんなはと 投稿者:SHOJI  投稿日: 8月28日(木)01時35分43秒
というものを拾いました。
ぼんじょるのよりは上物らしいですが、私がさがしているぶえのすのーちぇす
とは違うと言われました。
腰の磁石は陸蒸気に出発間際にこっそり飛び乗るのにも便利なのです。
投げ縄ならぬ投げ磁石というやつです。銭形のとっつぁんと呼ばれたことも
あるくらいだからこういうのはお手のものなのです。
やまねこさんはお春さんに懸命の看病をしてもらっているというのにしほちゃん
のみならずほかにも愛人を連れてくるとか言っているのです。お那須さんは留守
番させておくんだとか。ひどい男です。
レゲエのおじさんたちとはコネクションがあるので、ほどほどのところで鯱女を
解放して、その見返りに東から爆走してくるデコトラをとっ捕まえさせるように
手を回してあります。あのパワーに拮抗できるのは鯱女くらいのもの、しかし勢
いがついてるから大阪あたりまで持っていかれる恐れもあります。福たんちがな
ぎ倒されないかが心配です。
たらいどんは今回は大八車で来ると聞いています。
かわりにやまねこさんが金だらいを持ってくるとか。なんでも金だらいを木枠に
はめて「しほちゃん」と呼んでいるらしいという噂を小耳にはさみました。まさ
か私が聞いた愛人のしほちゃんのことなのでしょうか。
そういえば以前、「完璧なギターなど存在しない、完璧な演奏が存在しないよう
にね」などとわけのわからないことを言っていたのが気にかかります。錯乱状態
に陥って自慢の長い髪をバサバサと切り落としたりしていなければ良いのですが。
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8月3X日、午後2時、O阪市のとあるスタジオの前に、猫の着ぐるみを着た男、
くいだおれ人形の格好をした男、網タイツに、腰から磁石をぶらさげた男、巨大な
たらいに乗った男、仙台タワーを頭に載せ、振り袖を着た女、そして、鯱を頭に載せ、
鞭を持った女が集った。
ここから、数百キロ、北東に離れたOld River Townのある病院の屋上では、白衣を着た
若い男が涙に濡れていた............薫製の煙で燻されているだけであった..........。
本当のドラマは、今から始まる。
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その男が歩くとぽたぽたという音がした。
脇に抱えるたらいから水が滴る音である。始終水に浮かべて移動している為、
たらいの乾く暇がない。
北上する際、穏やかな瀬戸内を行くのもよし、荒れる日本海を行くのもまた乙である。
大波をよけて進むさまは優雅で、地元のサーファーも一目置く存在であるが、
調子に乗りすぎて頭からざんぶと波をかぶっては、海に投げ出されてしまう事もある。
そんな時は90歳代のベテラン海女達が助けてくれるのだが、
請求されるライフセーバー料が安くはない為、「海女損だ...」としょっばいギャグを
ついつい呟いてしまう。
自らの帰郷に合わせ、オープンリハを企画している。
そろそろ出なければならない。先日3本ののろしを上げたが、東の空で3本の呼応が
あったから、恐らく日本各地の皆には伝わった事だろう。
それにしても京都のSHOJIが心配だ。
なにせ道端にスペイン語の大群を見つけると、紫紺のタイツを見せびらかせて
小躍りした後、錯乱したまま床に這いつくばって拾いつくす癖がある。
副幹事をまかせているから時間通りには到着して欲しいのだが。
「やっぱ俺が最初につかんとなあ」
荷物が多いため、今回は大八車にするか悩みどころである。
大阪から仙台の自宅へ帰り、放心状態で荷を解くえこーる。
荷物の中にテッペキが埋もれて眠っていた。
えこーる(ぎ、ぎく。こいつの事をすっかり忘れておった)
    「それにしても酒臭いなあ。あ!大吟醸鉄壁包囲網がカラになってるじゃない!」
テッペキ「うい〜。ひっく。ひどいなあ。えこーるさん、あんまりだよ」
えこーる「あ、起きた。だって、あんた名古屋出てから、こんこんと眠ってたんだもの。
     いつ起きるかなあって...]
テッペキ「そうなんですう。名古屋で買ったポテトチップスの中に煮干が入っていて、
     それを食べたら急に眠くなっちゃって...とても高級な香りがしました。ひっく」
えこーる「(酔っ払うと言う事が全然わかんなくなるなあ、こいつ)、
     慣れない飛行機の移動で疲れたでしょ?」
テッペキ「私だってchain of fools練習してたんだー!
     PIPSさんとタンバやりたかったんだー!」
えこーる「わかった、わかったよ。次もまたあるから。ね?ね?」
テッペキ「zzz……」
かくして何故かリハに参加できずに自棄酒を飲んでいたテッペキであった。