プラトンさんの王子PV批評
☆プラトンさんより
ZEP解散後の王子のプロモーションビデオをずらっと見る機会がありました。王子の映像へのこだわりの無さのせいか、秀作よりやめてけれの方が多いのですが、思ったことをまとめてみました。あくまで個人の感想であり、作品の価値を貶める意図も内容も含まれておりません。
Burning down one side
王子のソロデビュープロモ。中流サラリーマンとスター歌手(アイラインびしびしのメイク)の2役を本人が演じ分けるというプロットだと思うけれど、まったく似合わない空手着(白帯)をお仕着せさせられた揚げ句、美女の蹴りを食らって吹っ飛ぶ王子とか、前後の脈略なく突然現れたレスポールカスタム抱えたタキシード姿のミイラ男が、レストランのテーブルに駆け上がりソロを弾きまくってワインが女性の服にこぼれるとか、わけの分からん断片シーンのつなぎ合わせが延々。ゼンマイ巻くネジの親玉みたいな道具を腹に差し込まれて大の字に寝ころんだ空手着姿(白帯)の王子。死んでんのか? いぶかっているうちに、白昼のロンドンの路上でどんどん服を脱ぎ捨てていき、ついには半裸になった王子が、カメラに背を向けて歩み去る。終わり。何のこっちゃ!
無理から解釈すれば、「束縛からの解放」などのテーマあるのかと思えん事もない。でも普通に考えれば、「ノープロットのスタッフがテキトーなストーリーを考えた。森でキノコ食ってお城で刀振り回す以外にドラマ仕立ての芝居などした事もない王子が、ほとんど何も考えずに乗っかった」程度の浅い話ではないか。「一見前衛、実は無意味」の80年代MTVの典型。当時ピーター・グラントが健康だったら、監督はボコボコにされていたであろう。
Big log
アメリカの田舎道で車がオーバーヒートして途方に暮れる王子、というコンセプト。お客さん、アメリカですよ。巨大マーケットを意識し始めたな。けれど、王子がひどい大根なんだ。エンジンルームから盛大に蒸気が吹き上がってるのに、平然とボンネットを開けてスチームをもろに浴びる王子。生身の人間なら大ヤケドだが涼しい顔で車に寄り掛かってるわ。軽くあっちっち程度の芝居はできなかったんか!?
無人のガソリンスタンドの柱にかかる玩具の風車になぜか強い興味を示す王子。そこから回想シーンが始まる(編集が無理矢理)。バドワイザーのネオンきらめくバーの壁に寄りかかるクールな王子の両手には……あやとり。あやとりして時間潰していたのか、王子。と、ファンを唖然とさせておいて場面転換。昔ながらの二重露光技術を使って王子が二人に分身したかと思うと、場面が再び切り替わってプールで潜水平泳ぎを披露する王子をカメラが追う。腰のあざが見えるからおそらく代役無しの本人だろう。王子はなかなか水泳が達者だ。
またも理解に苦しむ展開に混乱していると、これ全部王子の夢の話。故障車がレッカー移動されてプロモ終了。バカにするな。
In the mood
納屋で演奏する王子の歌に合わせてブレイクダンスやムーンウォークに興じる黒人少年たちかぁ。2009年に改めて見ると滑稽だけど、この頃はアメリカで売れたかったんだろうなあ。バンドと一緒に斜め一列に並んでコーラス決める画には、アンタはヒューイ・ルイスか、とツッコミを入れた。
「ルーシー・ショー」もどきのカッコしたおばちゃんらが変なポーズのままコーラス入れるカットも。どれだけアメリカに媚てんねん。わーっ、少年に交じった王子がカメラ目線で踊り歩きしてるよ。
プロモは両刃の剣である。曲の善し悪し関係なくなるね。
Rockin' at midnight
資料映像と、歌う王子のモノクロ姿(正面、横アップ、上)のみで構成した安上がりPVだけど、カッコいいことこの上ない。20数年を経て、まったく古びた感じがしない。
短い裾がくるぶしの上に来るパンツをただのおっさんが履くと、ちんちくりんでみっともない事極まりないが、細い時の王子は何着ても素晴らしい。文句なしの映像作品。
Sea of love
基本が大根な上に、自分がどう撮られているかほとんど頓着しない王子は、このくらいの出演割合がちょうどいいのではないか。主に斜に構えて歌っているだけの王子だが、一番無難だし何よりかっこいい。
しかしここで気になるのが、王子の隣で両手にマレット持ったまま、何をするでもなく突っ立っているヒゲの海パンオヤジだ。リゾート地の馬車タクシーの御者なのか鉄琴演奏者なのか正体不明。しかし、ジミーちゃんのギターソロが終わると、バストアップのカットで表情がとらえられることから重要キャラなんだろう。最後の最後にちょこっと演奏もする。オヤジが何者なのか想像しているうちに、王子が大量の水を頭から浴びて終了。
Little by little
白塗りのバレリーナとかパントマイムとかが氾濫する80年代MTVの類いを再見するのは恥ずかしいなあ。やたら檻の中で鉄格子握りしめて絶叫するバンドや家の壁ブチ壊して吠えるシンガーの映像があふれ、そんなゴミやらクズやらを疑う事なく容認していたオレの青春よ。ああ、「Ten
years gone」が聴きたくなったぜ。
このPVは、白塗りバレリーナと白塗り王子の共演。舞台がやっとアメリカからイギリスに戻ったけれど、効果の薄い空撮、曲調も地味だから映像も展開のしようがなく、王子は浅い川の中で白塗りのまま歌うか、犬の散歩するのみ。
話がつながらなくなって、最後は白塗りバレエが続いてうやむやに終わる。山海塾とか流行ってたのを回想。
Pink and black
演奏シーンをベースにプロモ作るんなら普通に素直に撮れ、バカ野郎。やたらとカメラ動かして、画面に変な色まで着けてるから、途中で気分が悪くなった。以前、ポケモンか何かで子供たちが引きつけ起こした事件があったが、あれと同じだ。
王子は口のアップがやたら多くて、カメラの素早い切り替えで王子の加齢を誤魔化そうとしたような配慮が垣間見えるが逆にほうれい線を目立たせる結果に。ZEP聴いてきた中高年層にはいろんな意味で辛いコンセプトだ。
Heaven knows
お客さん、無敵の王子が帰ってきましたよ。しかも間奏はジミーちゃんですよ、お客さん。
砂漠で荒れ地で無意味なポーズを決めまくる王子は、サービス度満点。王子を誘惑する東洋系女優さんは、ザ・ファームのスカタンチャンバラビデオ「All the king's horses」でも武家娘を演じてた。
危険な色香と緊迫する地域紛争。中途半端に007映画的展開を見せるPVの中で、なぜか王子は顔中に赤い布を巻かれて無抵抗。喜んでいるようにも取れる。
エスニックムード漂う中、王子とバンドはどこかで見たような荒れ地へ。おいおい、ここはイギリスの風景として「Little by little」のプロモに出てきたとこだろ。ブルーの民族衣装着たおばちゃんたちがニヤつきながら、てんでバラバラのフラダンスもどきの振りをする前で「プリーズ、プリーズ」と決めにかかる王子もイタい。こういうとこにもっと気を回せばいいのに、無頓着にも程がある。
Tall cool one
レザーのライダース、しかもタンクトップ。ワルそうな服だなー。しかし、王子には似合わんこと似合わんこと。ワルはZEPメンバー全員に要素として備わっていない。ZEP絡みの曲だから、昔のライブで着ていた気が違ったような服でもよかったのに。
派手に動いてはいないが、時々はっとさせられるポーズとか角度があって、ZEPのフロントマンだった事実を思い出す。この時分、王子はカミキリムシの顔を連想させるマークをシンボルとして打ち出していたが、自分ぐらいの年齢だと、あれが仮面ライダー・サイクロン号のエンブレムに見えて仕方がない。
Ship of fools
王子に芝居をさせない、構成はシンプルに、凝ったカメラワークご法度。王子PV成功のパターンだと思うが、これはまさにモノクロアップの歌う王子と水の流れや落滴のスローモーションのみで処理した佳作。
この曲を初めて聴いた時、「愚か者の船」というタイトルから、王子が帆船に乗って浜辺に現れ、その船が燃える中、砂浜にひざまづいた王子が大袈裟に刀を地面に突き刺す、みたいなプロモだったら嫌だな、と怖気を震ったのを思い出した。
Hurting kind
王子がうれしそうに遊園地のジェットコースターに乗ってる。結構ワクワク顔だ。この手の乗り物に興味ないから理解できないのだが、レッド・ツェッペリンのフロントマンだった男が、と言うよりも大のオトナが独りで乗っかってきゃーきゃー言う程面白いもんなんでしょうかねえ、お客さん? この遊園地がまた何と言えばいいのやら。東京ディズニーランドではなく浅草花やしき、ユニバーサルスタジオというよりひらかたパーク。コースターも「アトラクション」と呼ぶには勿体なくて「施設」「設備」という言葉がぴったり来る代物だ。
その遊園地の演芸場と思しき舞台で王子とバンドが演奏。白いフライングVを股間に挟んで揺らしセックスアピールの王子。とてつもなく頭が悪く見える。誰がこんなもん持たせた!? 衣装が久々にZEP時代を彷彿とさせる、普通のヒトなら着用を躊躇するけれど王子だけには似合うタイプだけに、ファンも「おっさん、トシ幾つになった?」とツッコまざるを得ない。
場面変わって、美女の後を王子がストーキングしている。ファッションはあらゆる常識を超越した色づかい。ひらかたパーク菊人形のようだ。そんな姿で美女の後をつける王子は、「空飛ぶモンティ・パイソン」の「バカ歩き省」コントにしか見えん。ロケも似たような場所だけど、王子からパイソンズへのオマージュか! まさかね。
最後に王子が決める長ーいシャウトに、ジェットコースターの爆走画像がかぶるとこだけはやたらカッコいい。計算外だったんだろうが。
29 palms
そこのアメ車、止まりなさい。夜中にグラサンかけたまま運転すると危険ですよ。プロモの設定としても不自然だろ。何より視聴者の視線が顔の下半分に向くから鼻の下付近のシワ増えたのがモロバレだわ。
メキシコ国境付近の町で起きた殺人事件らしき舞台に王子登場。私立探偵か何かの役ですかー。ああもう、下手なんだから芝居して欲しくねえなあ、とは杞憂。ドラマには直接絡まず、現場近くの酒場や公衆電話をうろうろするのみ。演技がないから安心だけど、それじゃなぜ現場にいるの。今度は王子の存在理由が理解不能。ややこしいなあ。
映像は、モノクロにしてスローモーションにすればそれとなくオシャレだろという安直極まりなさ漂い通し。ドン・ヘンリーの「ボーイズ・オブ・サマー」だっけなあ。ああいう浅いファッション感覚に、ヴァン・ヘイレンのプロモ撮ってたピカソブラザースだかの不条理ギャグ風味を入れて収拾がつかなくなっている。その幕間にグラサンの王子が度々入り込んでくる始末。王子添え物。刺し身のツマ。いきなりクローズアップで現れるハマコーそっくりなネイティブアメリカンの爺さんの方が目立ってるわ。でも、あんた誰や?登場人物がやたら増えて、作品は混迷の度を深めていく。唯一良かったのは、白人とラテン系の混血美女がオレのストライクゾーンどんピシャであること。あの胸はだけたシーンにはいいトシしてドキドキする。彼女となら顔中に赤い布を巻くプレイされてもハマってしまうかもしれない。
追記:非難ごうごうの「29 Palms」でありますが、Wikipedia英語版の「Twenty-nine Palms」(カリフォルニアの町)に、当地がテーマとなった曲として紹介されています。ひょっとしたらプロモもここでロケ撮影したのかもしれませんが、リゾートとはいえとにかくすっげえ田舎みたい。王子だけスタジオ撮りしてつなぎ合わせた結果が、あのていたらくになった可能性があります。
If I were a carpenter
王子が若い女の子を従えて登場。親子か?いい感じで歌い出した王子が、「結婚しないかい?」って言いながら彼女をチラ見。うわわ、恋人同士の設定かよ。お前は市村正親か、上原謙か。そりゃねえ、スリーサイズ上から98-58-100を申し訳程度のビキニに包みひたすらメスを発散するお姉ちゃんたちは、アメリカ西海岸辺りのバカメタル連中に似あいこそすれ王子向けのキャラではないから、こういったデビッド・ハミルトン系のお嬢さんになるのは分からんでもない。分からんでもないが、若すぎるだろ。
彼女が王子の後ろに付く形で柱の間をくるくる回ってはしゃぐ2人。こういう、男だけが妙にトシいった感じでいちゃついてるバカップルって、時々歌舞伎町付近にいるなあ。大阪なら新世界とか飛田周辺か。
若いつもりなのか、ギタリストの隣でステップを踏んでくるくる回転する王子。いつもより多めに回しております。まだ体の軸はしっかりしてるな。ひと安心。でも、ギタリストがちゃんと演奏してないのがまる分かり。弦が鳴ってないのがわざわざ照明の効果で強調されてしまってるし、明らかに押さえているポジションと聞こえる音が違う。いつまで経っても王子PVはツメが甘いのー。「Communication breakdown」の安プロモが今見てもカッコいいのは、曲と映像がシンクロしているからなのだ。ZEP時代の事をいろいろ言われるのは嫌なんだろうけどさ、たまにはZEPから学んでほしい。
間奏からビデオはさらに変な方向へ。王子の姿は消え、お嬢さんのアップやポーズカットだらけになる。赤の他人のプロモになってるぞ。この娘に何か弱みでも握られたのか、王子?
コマ割りも次第に投げやりになってきて、どこぞのモデルクラブがファッション誌に売り込みをかけるために制作した新人DVD観賞会の有り様。彼女、無意味にインドヨガのポーズ取ってるしな。何なんだ、これは。モーリーン(前妻)の呪いか?
I believe
居酒屋で後輩相手に「俺の若い頃はどうしたこうした」って数十年前の話ばっかりしてるオヤジを見かけると、「昔話しかできんとは、仕事人として終わってるという事か。あんな風にはならんとこ」と自戒するのだが、人間そうならない方が難しいのかなあ。見覚えのある刀を肩に乗せて王子が浜辺に登場。長さ、柄や鍔の形状、チープな質感…。まさに「永遠の詩」で振り回していたアレそのものだ。さもお約束の如く砂浜にざっくり突き刺す王子。デジャブ? それとも王子の居酒屋オヤジ化か? 視聴者の想像をあざ笑うかのように、王子は浜で延々と刀(お花飾り付き)振り回したり、売れない芸人の一発ギャグのようなポーズ(両手の人さし指を交互に空に向けて動かす)を盛んにかましたり、赤腰巻いっちょで水面に寝そべったりと暴走。正直付いていけん。腰巻姿の王子なんて、エリック・アイドル(モンティ・パイソン)にしか見えない。いったい全体、この不条理コントは何ですか。
ZEP在籍時に亡くした息子の事を歌っているのであろうから、画面に子供が出てくるのは分かる。しかし、いきなり川面に浮かぶ女性(服の色こそ違えど、構図がJ・E・ミレイの絵画「オフィーリア」そっくり)が出てきたり(えーっ、シェイクスピアかよ!)、間奏の間に唐突な一文(「The history of old english literature」という本に載っているフレーズだというとこまでは突き止めた。何か古典の引用か?)がスーパーで登場したりする辺りで、分かろうとするためのさじというさじはすべて投げた。いちいち意味を求めた俺が悪い。後は勝手にしやがれ。
難解極まる中、王子ムービーらしい大雑把さもやっぱり顔を覗かせる。「Big fire on top of the hill」と王子が歌うと、歌詞通りに高い崖の上に焚き火が現れる、身も蓋もなさは何だかなあ。その焚き火も丸太を組んだような立派なヤツじゃなくて、小屋壊した時に出た住宅廃材にガソリンかけて一所懸命燃やしている。エコっちゃエコだけどさ。
評価ポイントは、ここにきてやっと空撮とかクレーン撮影が、効果のあるプロの映像になった事か。「Little by little」なんか酷かったもんなあ。なぜメイキング映像が紛れ込んでるのか、いぶかっていたら本編なんだもの。ただ、例の刀で王子が無造作に地面を叩く映像があって、刃がいかにも軟らかそうにぺらんと反り返るところはカットして欲しかったなあ。子供のオモチャ並の品質だと分かってはいたけど、「狂熱」ファンの夢を王子本人がぶち壊した瞬間だ。
Calling to you
燃えさかりながら空を飛ぶ鉄球。おお、浅間山荘事件か。こんな連想する時点で「トシ幾つ?」と言われそうだが、チェーンの付いた鉄球と言えば浅間山荘。日本人の常識だろ。事件が72年。ZEP二度目の来日公演の年だから、王子も当時の映像を覚えてて採用したアイデアか。まさかな。
やっと本格的なCGを採用。フィルムだけのギミックじゃないから、本物の鉄球がバンドの頭上を飛んでいるように見える。王子は動きが縦系ばっかりで面白くないにしても、元気だけは感じられる。ソロではこういう曲やりたかったんだろうからなー。民族衣装を意識しているのか、腹回りが目立たない服が増えてきた。うちの妻もそうだ。最近とみにキャシー中島一直線だから、こんなファッションに逃げるのである。王子がそうでないことを祈る。
問題は他にも。王子の頭のすぐ上で鉄球が燃えているのに、王子の顔に光が当たっていない。明らかに照明の計算ができていない。せっかくのCG、使い方おかしくないか。バンドが演奏している穴(この辺の設定が80年代臭い)の上で踊っている若人たちのナリがまた、ヘビメタとかオルタナじみていて、とても王子の音楽を楽しむ層に見えない。無理してないか。まあ、ZEP時代から王子を熱愛してきたジジババどもが代わりに踊り狂ってたら、もっと絵にならないわけだが。
Morning dew
アフリカ系のきれいな女の子がオアシスみたいな場所から高山かどこかをロバに乗って旅するだけのビデオ。この曲、どっかの映画のサントラに使われたんだっけ?いきなり名優アンソニー・ホプキンス登場。ちょっと痩せたか。長髪なのは、レクター博士が拘留されてるうちに髪が伸びたという設定かな。
って、王子じゃないか。老けたなー。目の辺りのシワシワ加減がホプキンスにクリソツだ。CBE顔ってんですか?2人とも同じクラスだしな。人間、外見が老けるのは仕方がないが、「緩んだ」感じで年取ってしまうのだけはせめて勘弁して欲しい。王子におきましては、くれぐれもカッコよく年を重ねていってもらいたい。
地味なプロモだけどカネかかってるな、これ。太陽のフレア効果がやたら画面に出てくるんだけど、相当計算しないとうまく撮影できないはず。ラストの夕日が沈む山もかなりのロケハン重ねた上に、太陽が沈むタイミングを待って待って撮ったと思われるプロの仕事だ。でも、残念なのはそれらが思ったほど視覚効果を及ぼしていない事。美しい夕日なのに、女の子に目が行って、「足長いなー。ヤジロベエみたい」とかそういう部分がやたら気になる。
Darkness darkness
「Morning dew」にも登場した超足長姉ちゃんが、何だかオリエンタルな場所で寝苦しい夜を過ごしている。周囲には濁った目をした不気味なじいちゃんやアフリカン顔のおばちゃん達がうごめく。外壁から伸びた白い腕は何を暗示しているのだろうか?
なんてね。ちゃんと照明も演技も考えられている、金使った作品なのに、全体に漂うチープさ加減はどうしたことか。ホラー仕立ては分かるが、それは「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」レベルの学生映画サークル的安物感。スタンリー・キューブリックの「シャイニング」の恐怖感を狙った感もあるが、かなりハズしてるな。
ロケに使った建物の廊下が狭い(おそらくセットではない)から、カメラワークがド単調になんだ。王子も曲名が曲名だからって顔出し最小限にして、真っ暗フェイスのまんま声だけ聞かせる演出に頼る頼る。老いを気にしているのか?もっと表に出てきた方がファンも喜ぶのに。ただし演技は絶対要らないけど。
しかし一番の違和感は、登場人物たちの顔つき、服装や建物が中東・中近東的なのにサリー姿のおばちゃん方が前後の脈絡なしにどどっと集結したところだろう。ここ、インドだったのか!なんで?なぜ?なにゆえ?Why?イスラム圏だと勝手に思いこんでいたこちらが悪いが、「If I were a carpenter」に続くインディアンミステリー。モーリーン(先妻)の呪いか?
Shine it all around
王子独特の声質には、それに負けないだけのリズム隊がいる方がいい。曲が締まるし王子も活きる。「堤防決壊」みたいにね。
このナンバーのバック、ヘヴィだ。ギターを抑え込んで、わざとリズムを強調してる。大成功。今更言っても遅いが、デビューアルバムからこの路線で行けなかったものか。
このPVには正直語るポイントが全くない。演奏シーン全編にわたり、王子とバンドを二重にぼやかすだけで「Pink and black」同様の明確な撮影意図のない垂れ流し。狙いがあるとすれば「Pink and black」同様、王子の加齢隠しか。
もうやめようよ、こんなの。当時は斬新だったかもしれない特殊効果処理された画面は、現在の目には邪魔臭いだけだ。ELPの「展覧会の絵」DVDなんかでもそう。女の子大好きのおしゃれでポップなスタイルカウンシルのライブフィルムでも変な画像処理が目立つ。比較的近年の作品でありながら、そのチープさ加減に失笑。PV製作者の皆さん、最近ではクリエーターっていうんですか。こんな自己満足の映像処理、もうやめませんか。
Gone gone gone
黒のドレスに身を包んだアリちゃん、にこやかに登場。さほど美人でもないと思うが、周囲がふわりと明るくなるような華やかさがある。こういう人を天性のスターと呼ぶんだろう。
続いてウィンクする余裕を見せながら、天性のスターであり「セックスシンボル」とまで言われた男が入場。うわーっ!このダサい服装は何だ!?上から下まで黒ずくめ。ブラックは陰影が出ないから、デブ隠しには最適だけど、それが理由なのか?妻が俺に買い与える秋冬物処分バーゲンファッションに酷似しているのが気になる。デブはデブを知るからな。
向かい合って歌う2人を真横から撮るカメラ。王子の腹部に注目してみよう。予感的中…orz 床に設置されたルームランナーのように、ベルト上を歩きながら歌う王子。最低20分は続けないと脂肪は燃焼しませんよ。しかし、このシチュエーションは何なんだろう。プチメタボ王子へのいじめか?
場面変わって、緞帳の張られた高級クラブ風のセットで歌う2人。この場所で演者がカジュアルな黒ずくめじゃまずいだろう。「ニンジャタートル」とかいうアニメキャラの姿が頭をよぎる。センターにはギターを抱えた恰幅のいい父っちゃん坊や。ヘアスタイルが「ドラえもん」のスネオみたいだ。って、プロデューサーのT・ボーン・バーネットじゃないか。彼のおかげで王子のブレイクがある。バカにしちゃいけません。茶化してたのは俺か。
王子はノッてくると、顔の前で少しリズムからズレた感じの拍手をする癖があるけど、アリちゃんがそれを自分でもやってみせるとこはいいなあ。共演が楽しくて仕方がない様子が見える。
歌物アルバムだからバックは地味だが、このバンドは本当に上手い。俺のお気に入りはドラマー。カナ書きで「ジェイ・ベルローズ」でいいんですか?リズムとかビートとか言う以前に音色がたまらん。「黒犬」なんか、太鼓だけでご飯がお代わりできる。ご飯は嘘だけど。まあ、それくらい気持ちいい。
特殊映像なしで素直に撮影してるから、演奏の楽しさが直に伝わってくるいいプロモだ。王子の腹だけCG処理ですか?ぜいたく言わず、還暦直前だった王子の音楽活動記録として受け入れましょう。
Please read the letter
この地味な曲調でレコード・オブ・ザ・イヤー。作曲のジミーちゃんは不労所得がじゃんじゃん増えて、さぞ笑いが止まらぬことだろう。
モノクロで、しかも電気もつかないようなプランの家屋内撮影なのに、王子ときたらまたも暗色系のシャツでやんの。頑固なジジイだな。アリちゃんは明るいカラーで撮影に協力してるだろ。若い頃は大B反市から拾ってきたような布地まとって、平気でステージに上がっていた癖に、今更腰が引けてるのには少し泣けてくる。
最初にクローズアップでアリちゃんを見る目つきが実に怖い。演技の失敗か演出ミスと思ったが、これがどうも監督の意図というか、趣味のようなのだ。この傾向はPVが進むにつれ、次第にあらわになってくる。
監督がたぶん一番悩んで、結局解決できなかった問題は、2人の距離感ではないか。男女の歌ではあるが、年が離れている(フォアシンボルズ録音終了2、3ヶ月後にアリちゃん誕生)から恋人扱いでもなし、友人同士というのも説得力に欠ける。その結果、王子が戸口で歌ってる一方、階段の真ん中でアリちゃんが突っ立ってるなど、本当に中途半端な仕上がりとなってしまった。
間奏から監督の趣味が表面化する。それを語る前に、映像とは関係ないけどフィドルソロ直前の「Ah!」って合の手はカッコいいね。王子は昔から本当にこういったタイミングが上手だ。アリちゃんも、たったの8小節に起承転結を詰め込んだ好演。音数も少ないのに腹に響くですたい。昔のピーター・グリーンを思い出した。アリソン・クラウス恐るべし。
さて、演出だ。ソロの場面でなぜ画面の縁が歪んで見えるレンズを使うかね。空間が無意味に広がって、画面の端々に目が行ってしまう。ホラー映画なら、ジェイソン(ボーナムに非ず)やフレディ(マーキュリーではない)が隅から飛び出してきそうな撮り方。思わせぶりだけで何も出てこないのだが、ろくに家具もなく、外壁のペンキもはげかかった空家のようだから、さらに空間をこしらえようとする意図が理解不能。空家の中で「手紙読んでくれ〜♪」と歌うのも解らんな。スティーヴン・キングの小説の舞台みたいでもある。ここはユタ州か?
庭に出ると、そこには多量の人物彫像が。首もげてるのもあるぞ。ああ、怖い。その隣で得意の1回転をかます王子。往年のキレがないな。真面目にルームランナー使った方がいいかもしれない。ここでも2人は中途半端に距離を開けて歌うのがイラつく。最後は、あちこち傷んだ家屋を下から映して、もう一度よくわからん恐怖心を煽る。大林宣彦初期の珍品「HOUSE ハウス」を思い出した。王子が云々より、こんなディレクターを連れてきた奴が悪い。
そんなこんなで一部王子マニアの皆様、思いつきのしょうもない映像分析の駄文におつき合い下さいましてありがとうございました。ほとんどが一杯やりながらの精神状態だった故、推敲すらしていない、誤字脱字だらけの悪文乱文でまことに申し訳ない。翻ってカッコいいのが「Rockin' at midnight」のみ(あのズボン裾がキマるのは、王子の他にはルパン三世ぐらいだろう)というのも寂しいものがありますが、ZEPの再結成というビッグマネーほいほいの一大イベントをポイして自己の確立を目指す王子には、今後一念発起の映像作品を一発当ててもらいたいものです。
プラトンさん、どうもありがとうございました。(ゆう)
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