プロレスラー列伝8
ビンス・マクマホンJr.
1945年生まれ。ということはジミー・ペイジよりひとつ下。
金持ち、というところに共通点はわずかに見出されるものの、
かたや腰痛で悩み、かたやレスラーと戦い流血し、決め技は「億万長者エルボー」。
腰が痛い、ジミーちゃん
資産は11億USドル。「フォーブス」にも載っている、正真正銘の億万長者。
ビンスについて書くにあたり、途方にくれてしまうものがある。
彼、ビンス・マクマホンJr.は立志伝中の人物である。
立派な装丁の本になって、その一代記が本屋に並んでいても、
決して不思議ではない、ひとかどの成功者なのである。
それを、こんな軽いコラムでまとめてしまっていいのかと。
あるいは経済学者に助力を求めた方がいいかも知れぬ。
しかしまあ、ビンス・マクマホンは経営者であると同時に、実践者でもある。
従業員と乱闘して、流血している経営者。
流血するビンス
まさに体を張った経営と言えるだろう。
殴られるビンス
こんな経営者は他にいるまい。
先ごろのストーンコールドの離脱劇では、真面目な経営者であり、理念を持つオーナーの側面がバレてしまったが、
ストーリー中のビンスは、いつもマヌケである。
性懲りもなく女性従業員と浮気を繰り返し、権力を振りかざし、
女性従業員と浮気
そして反骨の従業員(ストーンコールドなど)にギャフンと言わせられるベタな役割を演じてきた。
しかし、ビンスの実像は――――
実の父親(離婚した母方で育ったので)とはいい加減大きくなったところで再会し、
その父親(ビンス・マクマホン・シニア)の家業であるプロレスに魅せられることになる。
シニアは当時、NYエリアの一地方団体に過ぎなかったWWFのプロモーターをしていた。
家業を継ぎたいというジュニアに、父は
「良かろう。しかしそれはおまえの金でやるんだ。団体は売ってやる。 10年後までに金を返せなかったら返してもらう。
もちろん利息ももらうぞ」
という過酷な条件を出した。
ジュニアはアイデアマンでもあった。
ハルク・ホーガンを大々的に売り出し、「ハルカ・マニア」は社会現象と言われるまでになった。
ハルク・ホーガン
もちろんWWFは急激に発展を遂げ、ジュニアは期日より大分前に父に借金を返し終わった。
名実ともにWWFのオーナーとなったビンス・マクマホンJr.は卓越した経営能力を発揮。
それまでのプロレスは、TVではさわりの部分しか映さず、「いいところは会場まで来て見て下さい」方式だったのが、
PPV(ペイ・パー・ビュー:有料のケーブル放送)の
導入により、
ちゃんとお茶の間(アメリカであるのかは疑問だが)に居ながらにしてして、クライマックス部分も鑑賞できるようになった。
しかもケーブルにより、今まで東海岸地区のローカル団体だったWWFは、一躍全国区の人気者にのしあがった。
もちろんレスラー同士の抗争を盛り上げ、盛り上げして、PPVまで持っていくためには、優秀な脚本が欠かせない。
それは今までの「八百長かどうか」などという論議を超越した
プロレス版アメリカン・ソープ・オペラの世界に視聴者を誘った。
またアメリカ人自体に、「これはショーなんだ。ショーは多いに楽しまなくちゃ」
という意識とノリがあったのも事実。
すべて順調に行くと思われたその時期、強力なライバルが現れた。
TV会社に後押しされたWCWである。
WCWはWWFの看板番組、「マンデー・ナイト・ロー」の大向こうを張り、
同じ曜日、同じ時間帯に、その名も「マンデー・ナイトロ」(考えてみると、すごいネーミングである)をぶつけてきた。
しかもハルク・ホーガンをはじめとする、有力レスラーを大量に引き抜いていってしまい、
WWFは視聴率競争で苦境に立たされた。
その時期を乗り切り、WWFがストーリー部分で今ひとつ面白くないWCWを抜くことが出来たのは、
救世主とも言うべき「ストーンコールド」の登場と、彼と抗争する「悪のオーナー」ビンスのキャラクター設定だった。
ストーンコールド
暴れん坊のストーンコールドと、悪のオーナーの対決。
これが全米中の共感を誘い、WCWは衰退。
ついにTV会社にも見放され、マクマホン家の軍門に下ることになる。
二人で乾杯
やはりWWFは、ビンスがTVに出てこないと面白くないのである。
しばらく他の事業に手を出して忙しかったビンスが、TVからフェードアウトしてしまったことがあった。
当然、視聴率は下がったらしい。
ビンスの家族、マクマホン一家は、総出でTVに出演している。
妻のリンダはWWF経営総責任者。
しかし浮気相手のトリッシュとよろしくやるため、ビンスに薬を盛られて廃人同様になり、車椅子で会場まで来たことがある。
ビンスのため、車椅子になってしまった妻・リンダ。(後ろは浮気相手のトリッシュ)
また、旦那の浮気の現場を押さえるのと、旦那にローブローを浴びせるのが得意である。
逆襲してローブローを浴びせるリンダ
跡取息子のシェインは、なかなかやる奴である。
レスラーと伍して戦い、15mの高さの金網の上からタイブして生還した。
シェインの15mダイブ
父親から自立するために、衰退したWCWその他の団体の株を買い、父に向かって戦線を布告。
10人マッチで勝ち残った方が生き残るというものでシェインは負けて
今はフェイド・アウトしている途中である。(日本には来てましたね)
一人娘のステファニー。
彼女はこのシリーズに何遍も登場しているので、ご存知の方も多いと思うが
清純な娘だったのが、父親のむちゃくちゃな指示で何遍も誘拐され、
人代わりしたように、あばずれで根性の曲がった女になってしまった。
HHHと極悪夫婦をしていたが、偽装妊娠がばれ離婚されてしまう。
極悪夫婦に激怒するビンス
世界中に中継される中、「あんたのが短い」「いやお前のがガバガバだった」という、
マイク・パフォーマンスを前夫との間に展開。
そして今はWWFマットを追放中。という設定である。
マクマホンの子供達
WWE(改名しました)のストーリーは、なんといってもマクマホン一家の
お家騒動がメイン・ストリームなんである。
見るからに言うことをきかなそうなレスラーを心服させているのは、
「レスラーのことを知らないヤツが団体を経営してもうまくいかない。だからレスラーが経営者にならなくては」
という理論で失敗した日本の団体から見れば、
「では経営者がレスラーになればよい」
という、まさに
コロンブスの卵的な発想ができてしまうビンスなればこそである。
ビンスの活躍ぶり
プロレス映画「ビヨンド・ザ・マット」の中でこんなシーンがあった。
大流血して手当てを受けているレスラーのそばで
「あそこからのダイブは、もう少し派手にやっても良かったな」とか言いながらビンスが話し掛ける。
そのレスラーがムッとしないのは、あるいは「じゃあおめえがやってみろよ」とか思わないのは、
カメラがパンしてみると、実はビンスも試合でつけられた額の傷を縫って貰っているからなのだろう・・・多分。
あんなに体を使った経営をしているオーナーが他にいるだろうか。
しかもビンスは、リングでおしっこをちびったり、ケツを丸出しししたり、
下手なダンスを踊ったり、ベッドシーンまで演じたりの、八面六臂の大活躍。
ダンス(80年代風)
99年にはとうとう世界王者にまでなってしまった。
得意技は「億万長者エルボー」なるものらしい・・・。
チャンピオン・ビンス
共に黄金時代を築いたストーンコールドを失ったビンスは、
なんだかとても淋しそうだ。
しかし時は流れる。
今のピンチを救い、再び軌道に乗せられるのはやはり経営者たるビンスしかいなかろう。
億万長者のがんばりに期待したい。
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