12.一通の手紙
 
そんなわけで、高橋君は約3時間ほど両国駅周辺をウロウロしていた。私と星也が帰った後でさえ、星也の携帯に何通もの愛川さん宛のメールが届いたという。星也はそのメールをことごとく無視し、寝たらしい。しかし、星也のこの行動が後々まずい事となる。
 次の日、早速謝罪のメールを出した。
【昨日はごめんなさい!両国駅がどこだかわからなくて、迷っちゃったんです・・・何回もメール出したんですけど、全然繋がらなくて・・・本当にごめんなさい!!】
 ちなみに千葉の柏市からなら、総武線に乗っていればイヤでも両国駅に着く。迷えという方が難しい。だが、愛川さんはおっちょこちょいなのである。高橋君もわかってくれるはずだ。
 しかし、彼からの返事は意外なものであった。
【あ、そうなんだ。別に気にしてないから】
 やけに冷たいのだ。語尾に句読点を入れていないことから、かなり不機嫌ということが伺える。私と星也は危険を察知し、返信するのをやめた。奴は疑っているのかもしれない・・・。
 それからしばらく経った(といっても一週間ぐらいだけど)。そろそろメール出さなきゃまずいよなぁ、自然消滅ってのはブラックメールで一番やっちゃいけないよなぁ、と思っていた丁度その時である。星也から私宛にメールが届いたのだ。タイトルもついている。
題 「あいつから来たんだけどとりあえず読んで」
 タイトルだけで凄みを感じる。私は早速メールを読んだ。

 
ある一通の手紙がとどいた。
それがきっかけで『希』という素敵な女性にめぐり逢えた。
時に、疑うことさえあった……。
手紙のやりとりをしているうちにそれは消えた……。そしてそれと共にもう一つ
のこともこれからも永遠に続くであろう。―『希』という一人の女性を信頼し
、信じていくということを……。
自分は顔も姿も見えない人を好きになってしまった……。
でも、後悔はない。
き//


 気持ち悪い。
率直な感想である。やたらと改行しているため、文章が最後まで収まらず、「き」で終わっているのも笑える。メールを手紙と解釈しているところも、現代人っぽくなくていい。しかもこの文章から察するに、花火大会以前から愛川さんの存在を疑っていたらしい(花火大会以降はメールしなかったから)。
 このメールにより、高橋君は愛川さんにぞっこんということがわかり、余計な心配をせずに済んだ。このメールに対し返信はしなかったが(どう返信しろというのだ)ここまで信じている奴を裏切っていくと思うと、笑いが止まらなくなってしまった。                    13へ続く

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