番外編
 
今まで高橋君(仮)をご愛読していただき、誠にありがとうございます(と言っても終わるわけじゃないのよ)。さて、くらりの中でも人気コーナーの高橋君(仮)なのだが、順調に終わりに近づいている。このまま終わってしまうと、ちょっとまずい。そこで今回の高橋君(仮)はちょっと脇道にそれるとしよう。

 2月13日。私と星也は話し合っていた。勘のいい方ならもうお気付きだろうが、明日のバレンタインデーについて熱く話し合っているのだ。
「お前明日チョコ何個もらえると思う?」
「んー、まぁ今までの経験から相場は五、六個かな」
「へー。じゃあ俺といい勝負じゃん」
「おっ、言ったな。そんじゃどっちが多くもらえるか勝負しようぜ」
などという会話は当然するわけもなく、(ある雑誌の統計では、バレンタインのチョコの数を競う男達はチョコをもらえない男ダントツNo.1らしい)物語の主役、高橋君について話していた。
「やっぱやろうよ。おもしろそうじゃん」
「うーん、まぁやってもいいかな。じゃ人数そろえようぜ」
私達はある作戦に向けて人数をそろえることにした。結局集まったのは、焼肉屋で生肉をタッパーに詰め込んだマサカズ君、同級生の携帯を逆折りにし、川に流した小林君、毎日すごい寝癖で学校に来る荘司君、月に一回、給食で牛乳の代わりにジョアが出るのだが、そのジョアを使って私と一発芸をやろうと本気になって考えていた深井君の四人である。みんなが集まったところで、私からみんなに発表した。
「えー、明日はバレンタインなので、高橋君にチョコを作ってあげよう」
それを聞いた瞬間、みんなの目の色が変わった。ある者は笑いだし、ある者はチョコは俺が買ってきてやる、と超太っ腹になったりした。話し合いの結果、学校が終わり次第荘司の家でチョコを制作することになった。

「星也おそくねー?」
夕方の五時。学校から直接帰る予定だったのだが、星也は買うものがあると言って一回家に帰ったのだ。すでに板チョコをはじめ、チョコを作る環境はすべて整っていた。みんな台所に集まり、星也の帰宅を待った。
約30分後。ようやく星也が来た。
「お前おそすぎだよ。何買ってきたんだよ」
「これだよ。マジで高かった。千円ぐらいした」
そういって星也が見せてくれたものは・・・下剤だった。
「お前・・・本気かよ」
「うん」
まさか買ってくるとは、である。しかし、買ってきたからには有効活用しようということで下剤も入れることになった(犯罪である)。
まずは板チョコを細かく砕き、ボウルに入れ溶かした。ここらへんの知識はマンガなどで吸収したものであるので、かなり適当である。ふと横を見ると星也が下剤を粉状にしていた。かなりシュールな図である。
チョコが全部溶け、少しなめてみると悪くはなかった。しかし調味担当のマサカズの手により、チョコは悪夢と化す。まずマサカズは、大量の砂糖を入れた。トロトロしていたチョコが一気にザラザラという感触になった。
「おい、これやばいよ」
「大丈夫、次はこれを入れよう」
そう言ってマサカズがチョコに入れたものは、黒酢だった。チョコレートはザラザラからギトギトへと変化し、見るも無惨な物体となった。その後、マサカズはバターを入れ、多少マシになったように見えたが、おそらくは口にした誰もが嘔吐するであろうチョコとなった。結局このチョコは試作品1号とされ、型に入れ冷凍庫に入れられたものの、見放される存在となり、マサカズは調味係を満場一致でクビとなった。
さて、次のチョコを作らなければならないのだが、板チョコはもうない。そこで荘司の家にあるチョコレートを片っ端から集め、どんどんボウルの中に詰め込んでいった。あとは試作品1号で学んだ失敗を活かして作った。そして下剤の登場である。
「あのさぁ、」突然星也が私に声をかけた。
「これ、成人は一回で四粒服用しろって書いてあるんだけどさ」
「うん、でいくつ入れたの?」

「三十粒」
「!!!」
それ、死ぬんじゃ?という思いを胸に、半ば粉状にならずに固まりのまま残った下剤をチョコの中に入れ、丁寧に混ぜ合わせた後、猫の形をした型に流し込み冷凍庫に入れた。その際、試作品1号を取り出しみんなで回し食いしていたが、私は遠慮しておいた。そして後は荘司に任せ(彼は包装担当)私達は家路についた。
 次の日、毎回遅刻してくる荘司が鬼のように早く学校に来た。この作戦の重大さをよく理解している。そして昼休み、高橋君が校庭で遊んでいる間にカバンにチョコを入れた(この時目撃者多数。だが標的が高橋君なのでみんな何も言わない)。私達の仕事は終わった。後は高橋君がチョコを食べて腹が痛くなってくれれば本望である。
 しかし次の日、高橋君は元気に学校に現れた。私達は即刻集会を開き、なぜヤツが無事なのか議論しあったが、結局「あいつの胃は強かった」という結論が出て私達は解散し、2月20日の一般入試に向けてひたすら勉強するのであった・・・

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