隙間



 毎夜ベランダに出て、叶わぬ想いにため息をつく。それが“一方的な想い”とわかっているから、いっそう辛い。

 ずっと好きだった。雄二の事。…何年前だっけ…初めて出会った日…




 少し思い出してみようか…あの日を…











 まだ地元に私も雄二も居た頃、毎日のように仲間と顔を合わし、下らない会話をしていた。それが楽しくって。あの頃が一番皆輝いてた気がする。皆が私を「」と呼ぶ。それは雄二も一緒だった。だけど、ちょっと違ってたのは、とっても穏やかに優しく呼んでくれた。

 それを私は当たり前だと思っていた…。
 …雄二がずっと隣に居て、いつまでも私を呼んでいてくれる事を…。

 彼が好きだったから…。




 でもその一年後。私の想いとは関係なく雄二が「東京に出る」と知った。東京の大学に合格したからって。…もちろん私に止める権利はない。だって“彼女”じゃないんだから…。






 結局、何も言い出せずに雄二が出発する日を迎えた、あの寒い日。…皆で見送りに行ったよね…。

 「皆!元気で!」
 「酒井こそ、頑張れよ!」

 雪降るホームにはお互いを励ましあいながら、別れを惜しんでいた私達が居た。汽車の扉から屈託のない笑顔で、その励ましに答える雄二…。…こんなにも、歩幅一つ分が遠いなんて初めて思ったなぁ…あの時は…

 …元気でね…
 …応援してるからね…

 いつも一緒だった仲間の後ろで私は見送るつもりだった…。
 だって近くに行けば、泣いてしまいそうだったから…

 その時、仲間の男の子が私を前に引っ張った。…出発の汽笛が鳴る。「…頑張れよ…」その男の子が小さい声で私に呟く。ふと、皆の顔を見ると全員が優しく笑っていた。

 …隠してたつもりだったけど皆私の気持ちを知っていた。

 私は雄二が乗りかけてる汽車に近づく。何を言えばいいかわからないけど…何か言わなきゃ…「…雄二…頑張ってね…」無理に笑顔を作る。最後位、笑顔で見送りたい…。そう言うと雄二は、汽車を降り私を抱き締めた。


 …!?…。

 「…本当は離れたくない……だから…東京で待ってる…」

 私を抱き締めながら雄二が耳元で呟いた。

 あの抱き締められた瞬間。
 雪で真っ白なホームに私は不思議と、羽が舞っているように思えたよ。
 …雄二…このまま時間が止まればいいね…そんな風に思ってた。




 あれから3年後。私は東京に出てきた。
 …雄二は「ゴスペラーズ」としてテレビに出始めていた。
 そして私は雄二に連絡する事をためらう毎日を送る。

 少しだけ距離が遠のいた気がする…。雄二が待っててくれる…。そう思っていても、テレビの雄二を見てると少しだけ…少しだけ距離を感じちゃうよ…







 そうだ。あの日後押ししてくれた皆は元気だよ。…私も元気かな…













 もう叶いませんか?

 叶わないんでしょうね…この想い。

 でも…もう一度。

 一度だけ。

 あなたの心の隙間

 私に預けてくれませんか?
END

■あとがきと言う名の言い訳
昔書いたものを書き直し。稚拙な文章で顔が赤くなること必死。