まだ身体に染み付いている。

 それは生涯忘れる事のない香り。



彼女の香水




 「酒井がめずらしーなー。」

 男が香水をつけるなんて、もってのほかだった。

 あいつが、大の香水好きで俺の為に買ってきてくれたやつ。

 彼女は、俺がその香水をつけると凄く喜ぶ。その笑顔をいつも見ていたかったから。

 「…まぁな」









 ずっと彼女と一緒だと信じてた。
 俺の未来図には、彼女がいつまでも微笑んでいるんだと思ってた。

 でも、それはあっけなく結末を簡単に迎えてしまった。

 「もう寂しい思いしたくないから…」

 その彼女の言葉が全てを物語っていた。









 「…あっ…」

 彼女が消えた今も、俺の心は彼女を探している。

 「…今更…馬鹿だよな……」

 彼女と同じ香水を使う女性なんて山ほどいるはずなのに。
 街中ですれ違う同じ香りの女性を見るたびに、心が騒ぐ。

 それは、俺の身体に彼女の香りが染み付いてしまっている証拠。





 同じ香りに振り向く。

 ほつれてしまったプライド。





 初めて愛した人だから。

 全てを記憶している。

 彼女の身体も。

 彼女の声も。

 彼女の笑顔も。



 そして彼女の香水の香りまでも。

END

■あとがきと言う名の言い訳
ショートショート。最近お気に入りの曲で「同じ香りで振り返る午後 ほつれてしまいそうなプライド」って詩がありまして。相変わらずアイドルアイドルですが。そこから得ました。 ○BGM  LOVE SONG/20th Century