「酒井がめずらしーなー。」
男が香水をつけるなんて、もってのほかだった。
あいつが、大の香水好きで俺の為に買ってきてくれたやつ。
彼女は、俺がその香水をつけると凄く喜ぶ。その笑顔をいつも見ていたかったから。
「…まぁな」
ずっと彼女と一緒だと信じてた。
俺の未来図には、彼女がいつまでも微笑んでいるんだと思ってた。
でも、それはあっけなく結末を簡単に迎えてしまった。
「もう寂しい思いしたくないから…」
その彼女の言葉が全てを物語っていた。
「…あっ…」
彼女が消えた今も、俺の心は彼女を探している。
「…今更…馬鹿だよな……」
彼女と同じ香水を使う女性なんて山ほどいるはずなのに。
街中ですれ違う同じ香りの女性を見るたびに、心が騒ぐ。
それは、俺の身体に彼女の香りが染み付いてしまっている証拠。
同じ香りに振り向く。
ほつれてしまったプライド。
初めて愛した人だから。
全てを記憶している。
彼女の身体も。
彼女の声も。
彼女の笑顔も。
そして彼女の香水の香りまでも。
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