うちには気まぐれな猫が一匹。

 いや、正確には「猫が一人いる。」

 雨の日は、いつにも増して気まぐれで。



うちの猫。



 「うわぁ…雨降ってる…。何か雨の日って気分が滅入るんだよね…。」

 雨ねぇ…。俺としては好きなんだけど。雨のお陰で仕事が、なくなったりするから。

 と、言っても、そんなことは滅多にない。
 どうも俺達は晴れ男らしいのか、数時間後には晴れるから。

 俺の部屋には薄暗い光が差し込み彼女が白いカーテンを邪魔くさそうにしながら、窓の外を見ている。
 俺はといえモスグリーン色をしたソファーに座り、雑誌に目を通していた。


 「今日は?仕事?」
 「そうです。今日も明日も明後日も仕事ですよ。」
 「大変ですねぇ。何の仕事?雑誌?テレビ?」
 「いや、イベント。しかも屋外。」
 「じゃぁ、中止じゃないの?今日雨だよ?」
 「…何か忘れてない?」
 「あ…君達は晴れ男でしたね。」

 そう言って彼女は、また窓の外へ視線を戻し、笑った。
 外は、雲が広がり太陽は隠れている。そして静かに雨の音だけが聞こえてくる。

 〜このまま雨だといいのに〜

 部屋には、雨の音と俺が本をめくる音だけが響く。
 ソファーと向かい合うように窓がありその窓の前で彼女は外を見ながら立ち尽くす。
 カーテンは閉めたまま。

 「ねぇ、雨だねぇ。」
 「…雨ですねぇ。」
 「仕事何時から?」
 「今何時?」
 「今昼の12時。」
 「じゃ、あと3時間後。15時。15時に、ここ出る。」
 「あ、そう。」

 聞いておいて、興味なさそうに返事をする彼女。
 そして、俺の右横にゆっくりと腰を下ろしガラスで出来ているテーブルの上からテレビのリモコンを手に取る。それでも、俺は本と向き合ったまま。

 「何読んでるの?」
 「インターネットの。」
 「あ、そう。」

 さっきと同じ返事。

 「何かしましょうか。」
 「いえ、そのままでいいですよ。」

 せっかくの時間をこのままでは申し訳ないと思い雑誌をテーブルの上に置く。
 そんな俺の好意を、知ってか知らずか彼女は、あっさり断る。
 そして無邪気にテレビを見ながら、笑い声をたてる。

 それなら、また本でも… そう思い、また俺が雑誌に手を伸ばそうとすると彼女は横に座る俺の肩に頭を預ける。

 「やっぱり、何かしましょうか?」

 伸ばしかけた腕を引っ込めて、もう一度俺は彼女に聞いてみる。
 そう言うと、起き上がり背筋を伸ばした彼女の短い髪が、小さくパサっと音をたてる。
 そして、俺の顔を横からじっと彼女は見る。

 「何かついてますか?」
 「いいえ。」

 〜じゃあ、何でそんなに俺を見るんだ?〜
 そう思うと、少しだけ彼女の行動が面白くて笑ってしまい、目をそらす。

 「何か、あたし面白いことでも言った?」
 「いいえ、別に。」

 彼女は、不思議そうな顔をして、俺の顔を覗くもんだから
 「いいえ。」とは言ったものの、肩で笑ってしまう。

 「ねぇ、何?何なの?」
 「何でもないって。」
 「じゃあ、何で笑うの?」
 「うーん…君は猫みたいですねぇ…。」
 「何で?」
 「猫って、何をするにも気まぐれなんだよ。突拍子もないことするし。」
 「んじゃ、こんなことも?」

 彼女の最後の言葉の意味がわからなくて、「は?」と聞き返そうと思ったと同時に不覚にも俺はソファーに押し倒されてしまった。その瞬間に、彼女は俺の上に身体を乗せながら俺の顔を見て不敵な笑みを浮かべる。ようやく、彼女の言葉の意味を理解する俺。

 やはり、この人は猫のようです。

 「そうですねぇ…猫ですねぇ…。」

 俺も、つられて微笑みながら彼女の問いに答える。
 俺も彼女も足がソファーからはみ出し、宙に浮いている。
 俺はさらに頭もはみ出て、束ねた髪が、ユラユラと頭の上で浮いている。

 「何かしたい。」
 「さっきは、別に。って言ったじゃないのさ。」
 「言ってない。」
 「言いましたよ、あなた。」
 「言ってない。」
 「はいはい。もうわかりました。言ってません。」
 「何しよ?」
 「何しますか?」

 こんな体勢になりながら、わざとらしく聞く俺。

 「…むっつりスケベ…」
 「は?」
 「この前、ライブで『酒井は、けっこうむっつりスケベ』って言われてたでしょ。」
 「いつ?」
 「黒沢さんの誕生日の日のライブで。」
 「あぁ…言われましたねぇ…。」
 「…まだ3時間ありますよ。」

 俺の上に、身体を乗せながらテレビの上にある時計に目をやる彼女。
 そして、またじっと俺の顔を見る。

 〜神様。昼から僕達は何をしてるんでしょうかね?〜

 そっと、彼女の柔らかい唇が俺の唇に重なった。

 「このままじゃ、頭が辛いんですけど。」
 「あ、そう。」

 お構いなしの彼女と、体勢を入れ替える。今度は俺が上。

 「猫。猫は気まぐれで困りますよ。ほんとにね。」

 そう言いつつも、今度は俺から彼女の唇に重ねる。


 「そんな猫が好きなんでしょう?」

 唇と唇のあいだから、彼女は笑って言葉を漏らす。


 「…かもしれませんねぇ…」


 確かに。そんな、猫が俺は好きですよ。
 そんでもって、そんな俺はむっつりスケベですよ。
 むっつりでけっこう。


 このまま、15時までうちの猫と遊ぶのもいいでしょう?





 〜神様。やっぱり僕は朝から何してるんでしょうね?うちの猫が悪いんですよ…〜
END

■あとがきと言う名の言い訳
何も言う事はありません(笑)猫って猫嫌いの私にはこんなイメージで。
これ、ぽんでもいけるかなと思ったけど、やっぱり酒井さんにしておきました。