前の彼女の事を引きずっているのはわかっていた。
付き合って一ヶ月。その間ずっと村上さんの気持ちは見えなかった。その原因が私にもあるかもしれない。彼の事を引き止められなかったのだから。だから悩みに悩んで、もう会わないと決めた。そして、その決心が鈍らないうちに電話で…電話で別れを告げよう。こんな別れ方卑怯かもしれないけど、会って話せば辛くなる。
私は、これが最後だと言い聞かせ携帯のメモリーを呼び出した。
彼を呼ぶコール音がやけに長く感じる。
『もしもし』
「…村上さん?……です…」
『どうした?』
「今大丈夫ですか?」
『あぁ』
「…私実家に帰る事になって…」
『…何で?』
「家の仕事手伝うのに…」
『…嘘だろ?』
「…だからお別れをと思って……」
『でまかせばっか言ってんじゃねーよ…信じるとでも思ってんのか?』
「…」
『お前の声聴いてりゃわかる』
「…」
『…俺が悪いんだよな…お前気付いてたんだろ?』
「…何がですか…」
『言わなくてもわかるだろ』
「…」
『…俺がお前を真正面から…見てねーって…』
「その先は聞きたくない」
『…それでもお前が傍にいてくれれば忘れられると思ったんだ…まじで…』
「…」
『…俺が悪いんだから…引き止める権利はねぇよな…』
「…」
『いつ帰んだ?』
「…一週間後…」
『そっか…』
「…風邪ひかないでくださいね…」
『お前もな…元気でやれよ…』
「…うん」
『…じゃぁな』
「…あ…最後に…あたしを名前で呼んでもらえますか……」
『……………ごめんな…』
別れはいとも簡単で、気付いたら私は携帯を握り締めたまま泣いていた。
この時間で全てが終わった。私の全てが…
彼の最後の声を。
心に刻んで…。
「郵便です!」
「はい!ちょっと待ってくださいね!」
出発を二時間後に控えた私の部屋にはボストンバックだけがある。皮肉なもので、誰かが私を呼び止めるように郵便物が届いた。
玄関に出て葉書を受け取ると、郵便局の男は急いで出て行った。その葉書の裏には、見たことのある癖のある字で〜へ〜と書かれてた。…もしかして…村上さんから?…
私の予感は的中した。
あれだけ泣き明かした一週間なのに。
それなのに、涙が止まらない。
私の目から落ちた涙で、葉書のインクがにじむ。
「…最後の恋人……なんてね…」
〜へ
いつかお前が寂しくなったら東京に戻ってこい。死ぬまで待っているから。
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