BACK FOR GOOD



 そういや、こんな唄を聴いた事があった。



 カーテレオから流れる、優しい声に。

 お前を思い出す。




 「てつや…全部…捨ててね…」

 あいつが言う「全部」。
 それは、俺との思い出で。

 一緒に撮った写真も。

 マグカップも。

 口紅も。

 全部捨てろとは言う。



 「あ…あぁ…。」


 出会いも偶然なら、別れも偶然。
 そんなもんだよな、恋愛なんてさ。

 これも、また唄のネタになると思えば、お安いもんだよ。








 「最近さ…村上、おかしくない?」
 「…あんたも、そう思ってたか。」

 黒沢と酒井が、髪の毛をセットしながら鏡越しに二人で俺を見ている。

 「うるせえよ。」

 そう返したところで、二人は、そ知らぬ顔をして、また鏡とにらめっこ。







 俺の鞄の中には、一枚のMDディスク。

 との思い出。







 「てっちゃん、いい唄だね、これ。」

 独り身になってから、時間の潰し方を忘れた俺は北山の家に。
 との思い出を曲にして、北山の反応をうかがう。

 「これって…実体験なわけ?」

 北山の鋭い洞察力に、思わず無言になってしまう。

 「愚問だったね。でも、いいよ。僕がピアノで弾いてみるからさ、適当に詞つけてよ。」

 北山の部屋に置かれているピアノには。
 たくさんの譜面が置いてあって。
 その真っ白な譜面に、北山はMDコンポから流れる「俺の思い出」を譜面に書き起こす。

 それが一通り終れば、北山はピアノの前に。
 俺は、その横に。










    WHAT EVER SAY?

    君が残した口紅も。

    君が使っていたマグカップも。

    君と僕が写っている写真も。

    全てがそのままなんだ。

    この部屋は。

    だからお願いだ。

    どうか僕の元へ帰ってきてほしい。










 「いいじゃない、その詞も。」

 ピアノでメロディーを奏でながら、笑顔で呟く。




 まぁな。

 …との思い出だぜ?

 悪いわけがないじゃない?








 風が冷たかった。

 風が痛かった。

 車の窓から流れこむ風に、自分の傷ついてる部分がわかる。

 北山に遊びに誘われたけど。

 と別れて一ヶ月。

 まだ、そんな気にはなれなくて。






 「あっ…」






   WHAT EVER SAY?

   君が残した口紅も。

   君が使っていたマグカップも。

   君と僕が写っている写真も。

   全てがそのままなんだ。

   この部屋は。

   だからお願いだ。

   どうか僕の元へ帰ってきてほしい。






 滑らかに俺の口から出た、さっきの詞。

 そうか。


 自分でも不思議だった。

 俺らしくないけど、俺っぽい詩。

 けど、心ん中じゃ、俺の詩じゃない事はわかってて。

 でも、もう完全に思考回路が止まってるから。

 思いついた詩。

 あんなにスっと詞が思い浮かんだのは。

 これを聞いたからか。






 「ちくしょうっ!」



 車は急ブレーキをかけ。

 車道の脇に、ぽつんと止まり。

 あとから流れる車のテールランプだけが俺の背中を突き刺し。


 そしての事を思い出す。


 カーステレオからは、を思い出させる曲。


 俺の手の中には、と二人で選んだペアリング。





 「…頼むから……帰ってきてくれよ…」






 そして俺はまた夜な夜なの事を思い出しては。

 あの唄を聴き続ける…
END

■あとがきと言う名の言い訳
元ネタ/TAKE THAT 『BACK FOR GOOD』聴いてみそ。いい曲だぞ。コーラスも出来るんだぞ。アイドルって言うんじゃねー<雄二