柏屋ぴよ吉's モスクワ旅日記 2003.9.5-9
9月7日
 朝食は前日ディナーをあきらめた21階のレストランでバイキング形式。料理自体はウラジオストック航空の機内食に献立も味もよく似ていた。蕎麦の実を炊いたものもあったし・・ロシアのMTV(アニメのビデオクリップで面白いのをやっていた=有料放送らしく、部屋のTVでは映らない)を観ながら食べた。

 食後、廊下のホールで「太古の響き」動線のチェック。花子龍の動き、"珠"役の座長の動きを修正して3回ほど練習して完了。「舞」の稽古をする二人を残して部屋へ。年は誤魔化せないので無理はしないようにいたわる事も必要。バラエティ番組をやっているチャンネルでおじさん二人組のちょっと面白いコント(モンティ・パイソン的なのも・・)を観る。住吉氏が帰ってきた。私はストレッチをして一眠りすることに。 
 劇場へ行く時間が来た。鼓空の方たちはシンセの事もあって、既に出発。空は雲はあるが晴れている。出がけにホテルを出た所の赤の広場近くの歩道で俯せに押さえられ捕まっている男性を見る。何か不審な点があったのか、武器か爆弾でも持っていたのか?横目で見ながら劇場に向かう。・・途中、屋台で筒状のパンにソーセージが入っているホットドッグを食べ、イコン(キリストやマリア、聖人などを描いた木製の素朴な壁掛け)屋でキラキラと派手な小さなイコンをおみやげ用に買い求める。ロシア正教の色彩は日光東照宮とかに似て原色とか金銀とか派手好きな感じがする。日本でも建築当時は派手な物が多かったはずだ-広島の六口島の耕三寺にあるレプリカ宗教建築群を観るとよくわかる-が、何時の頃からか色の剥げたもの・くすんだものを有り難がるようになった。宗教は心の中でも博物館入りしたのか?・・それとも自然崇拝の伝統が原色や金箔より、木肌とか乾漆の風合いを好んだのか?・・色々な事を考える。イコン屋の女性店員は「Can you speak English?」に首を振ったので、ウィンドウのイコンを買うのには、座長の身振り言語的表現力に助けられた。現物を取ってもらい、店員さんに電卓で値段を教えてもらう(この後の買い物も英語の通じない所ばかりで、ほとんどはこの形式だった)。街角にステンシルで吹き付けたような「お尋ね者 殺人者 J・W・ブッシュ」の落書きがあり、住吉氏の要請で写メール撮影。

 マールイ劇場へ到着。守衛の人に入れてもらうのにちょっと時間が掛かる。フェスティバル全体のフィナーレ・リハがあるという事だったのだが、予定が押して無くなったとのことで時間が出来たので住吉氏・玉取座長と3人で買い物に行く事にする。出る時に守衛さんに「私たちの顔覚えて置いてね」と念を押す。
 キオスク(駅の売店の名はここから来た=常設的な屋台と言ったらいいのか?)を冷やかしたり、劇場周りのあちこちをショッピング。表通りから入った中庭的な広場を囲むマーケット的な所を発見。CD、ミュージック・テープ、海賊版のPCソフト(Adobe一式みたいな)やジブリ物なんかのDVD、小物、食物、たばこ、酒、花、ファッションからアダルト・グッズの店まであった。ロシア版"ペントハウス"の古本(日本で開いてみたら規制が日本以上で、ただの綺麗なヌード雑誌でした・・)、頼まれたロシア版ラッキーストライクとか買いこむ。

 この"モスクワ・デイ"というのは夏の終わりの土日二日間で行われる年1回、モスクワっ子が羽目を外して楽しむ日だという。各交差点、広場毎にステージが組まれ、ダンスや、音楽、曲芸・・色々な出し物をやっている。ただ、会場にはフェンスがあり、出るのはともかく、入るには厳重な検査を受けなくてはならない。ゲートでブザーが鳴ったら、何が鳴ったのか取り出して見せなくてはならない。あらかじめ金属製の物とかはテーブルに置いておくのだが、時にバックルとかに反応することもある。 
 座長がどうしても"本物のコーヒー"が飲みたいというので(機内とかホテルとか総てネスカフェだったので・・) 3人でウロウロ探してカフェレストランを見つけた。メニューが英語もあるので助かる。ウェイトレスの女性も英語を解するようだ。私はプルーン入りボルシチとカプチーノを戴く。2品来なかった物を含めて請求されてたかも知れないが時間が無かったので不問に付して出る。帰り道がわかるかな?と一瞬不安に思ったが、よく見ると、ぐるっと回って劇場の横の通りに来ている事に気づく。徒歩2〜3分の位置だった。

 19時過ぎに劇場へ戻る。守衛の人も覚えて・・くれてなかったのか、名前を名簿で確かめて入れてくれた。二人は着替えとメイクにかかり、私は舞台へと階段を下りて龍のセッティングを先に済ませて楽屋へ帰る。廊下にいい味の楽屋番のおばあちゃんがいるので会釈して通る。

 楽屋に鼓空さんの曲が響いてくる。仕上げを急いでようやく舞台袖へ。私たちの出番まで短いような長いような待ち時間・・拍手は良い感じで起こっている。
 復調したシンセサイザーの重低音が響き始め、竹元氏のレインスティックが湧き水のように流れ出す・・・「太古の響き」。"珠"役の玉取座長が上手からゆっくりと中央に進む。きっかけの音を待ってぴよ吉と住吉氏の龍(能や狂言にある日本古来の"見立て"表現で獅子の花子に角と髭と鯉のぼりを取り付けた物)も下手袖から舞台に現れる。龍の雄叫びのように赤田氏のSAXが炸裂する・・瞬間、驚きと興奮の気配が客席から伝わって来た・・・口の隙間から覗く客席はフロアから4階席めで8割方以上埋まっている、ほとんどはロシア人のお客様のようだ、若い人も多い。
 曲のクライマックス、刺激的なリフレインの速度に乗り、珠を追ってうねうねと宙を舞う(イメージとしてね!)龍・・・一旦舞台袖へと消えた後、舞台中央へ走り出て花子を肩にお辞儀をした時受けた拍手と歓声は忘れられない・・「ブラボー!」・・苦労が報われた瞬間だった。
 引っ込んでひよこに着替える。乙倉さんのMCがあって、座長と住吉氏が二枚扇で踊る「舞」。ちょっと緊張気味にも見える。お客様の反応、客席の空気はいい。完全振り付けなので記憶との戦いだよね・・私には出来ませんです、はい。

 3曲目「仲間」になり、ぴよ吉が満を持して登場。どっと湧く客席を「手を叩こ」ポーズで回って見る。拍手を送ってくれるお客様たちのきらきらした瞳。見上げるヨーロッパ風の階上席・・「マールイにいるんだ!」という感慨が沸き上がってきた。
 舞台に戻って三人で踊る。抑えたつもりでも飛ばしすぎたのか・・あるいは単にスタミナ不足なのか・・後半はきつかったが、辛そーに見えないように最後の極めまで頑張った。これも"絶賛"級の拍手と歓声を戴く。別に踊りだけじゃなくて、主役の鼓空さんへの拍手なのだろうが、「この人たち全員がさくらではないのか?」と一瞬疑ってしまうくらいのもの・・嬉しかった。

 全体のフィナーレに他の出演者の代表と鼓空さんの曲でお客さんへのお別れをして、モスクワでのステージは総て終了。記念写真を撮って片づけにかかる。
 といいつつ、最初に私が向かったのはトイレ。本番前にきざしていたので、ギリギリのタイミンゲでセーフだったりした間に合って良かった・・。

 太鼓・ドラム等を片付けて、搬入口から外のバスへ積み込むまでには、かなりの時間が経過していたのだが、外に『出待ち』のお客様たちがいると赤田さんが教えてくれる。日本語を学んでいる学生さんたちのグループだったらしいのだが、乙倉さんや、赤田さん、鼓空メンバーにサインを求める姿があちこちに・・。抱きつかれた赤田さんの幸せそうな姿。劇場から出てきた座長も女の子まみれになっている。・・・若干、着ぐるみアクターの悲哀をかこっていた私だが、集合写真の時、肩に顔を乗せてきた娘がいて、無邪気な親愛の情の表現なのだなと国民性の違いを思った。日本人がシャイなのだろうね。

 素朴・素直でいてマイペース、忍耐強いが勤勉ではない・・というのがロシアの国民性のような気がする。気候・土地、社会体制・歴史が育んできたものではないかしら?
 まだまだ街の人通りは減っていない。ライトアップされた建物群。日本と違ってやけに低い位置で爆発しているように見える打ち上げ花火・・街が基本的に"石造り"だから? ・・そして昼間も見たが街角で熱烈なキスを交わしているカップルの姿、仮設のレストラン、噴水・・・祭りが続いている街を車窓から眺めている内にバスはホテルに到着した。

 太鼓を梱包してゆく。花子も往路で不安のあった蓋の形状に工夫して梱包作業。仕上げて一旦部屋へ。みんなはバーへ向かったが、私は風呂やトイレに行きたかったし、バーで過ごすには疲れすぎていたので部屋に残って日記を書くことにした。
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