絶句してカーリー男は飛び起きた。
よく見ると、男は意外にもファッショナブルに皮ジャンを着こなし、見かけと不釣合いなほど小鳥のようにつぶらで澄んだ瞳をしていた。
恵子はこの男の取材価値を確信し、質問を続けた。
「おいくつですか?」
「二十歳。」
「ご職業は?」
「寝たきり青年実業家です。」
「はっ?!」
「またの名をロックンローラーと言います。」
「ミュージシャンの方ですか?」
「まぁそんなもんですけど、そんじょそこらのポップス野郎と一緒にせんといて下さい。あいつらロックンロール、ロックンロール言うて、ひとつもホンマのロックンロールしてへん!ホンマのロックンロールは3コード一本です!!…あっ…すんません、偉そうに言うて…」
「いえいえ。え〜と、では日頃はどのような活動を?」
「四年前に初ライブ演った時、マディウォーターズのフーチークーチーマンを歌ったら緊張して声が裏返ってしもうて、ブルースどころかヨーデルみたいになってしもうて…。ほんでガッカリ落ち込んでからまだライブしてませんねん。」
「マディ…?フーチークー…??」
「知りませんか?若者の間では今、ゴダイゴの次に有名でっせ!」
「吉田、知ってる?」
「い、いえまったく…」
吉田はすぐにでも帰りたそうである。
「とすると…この4年間は何を…?」
「え〜っと、友達の家に鹿を放り込んだり、行きつけの墓の墓石盗んで運び込んだり、それから… あっアレッ!?なんじゃこりゃ〜!か、かゆい!かい、かい、かゆい〜!」
男は突然、狂ったようにカーリーヘアをかきむしり始め、恵子と吉田は一瞬何が起こったか分からなかった。が、全てが把握できた時、彼らは我が目を疑った。
男の頭からなんと、無数の毛虫がボロボロと落ち始めたではないか!
2人がカーリーヘアだと思い込んでいたその男の髪は、ベンチの上に生い茂るケシの木から落ちて付着していた毛虫の大群だったのだ!
「なんじゃこりゃ〜!せっかくテレビ出とんのに〜。かゆ〜!かゆ〜!たまらんわ〜。」
恵子と吉田は…しばらく固まってしまった。
「かゆ〜!かゆ〜… う〜ゲホホッ、ほんで何の話でしたっけ?」
毛虫を全て払い落としたその男は、本当はモヒカン頭だった。
しかも皮ジャンのそで口からは、精巧な虎の入れ墨が見え隠れしていた。
恵子は、既にこの映像が教育テレビでは絶対使えないことをはっきりと自覚しつつも胸の高鳴りを押さえきれず、話を続けることにした。
吉田はと言えば、全身の毛穴から汗を吹き出し、ギリギリの精神状態でカメラを回し続けている。