ナレーション入りのクラシック音楽CDあれこれ

私は,変なCDを集めるのが好きなせいか,いつのまにか語り入りのCDがかなりたまってきました。今回は,その中からナレーション入りCDをいくつかご紹介しましょう。語りの入る曲は,いずれも20世紀の曲だというのが面白いところです。20世紀以前の曲では,サン=サーンスの「動物の謝肉祭」に入ることもありますが,これは,オリジナル版では入らないものですので,後で勝手に入れているということになります。結論から言うと,語りが入ると,そちらの方に耳が行ってしまい,演奏はどうでも良くなってしまうのが問題なのですが,その分個性的な珍盤とも呼べるものも多くなるのも事実です。

(1)プロコフィエフ/ピーターと狼,ブリテン/青少年の管弦楽入門
山田一雄指揮日本フィル
池田秀一,中野慶子,楠トシエ,友竹正則,熊倉一雄,小池朝雄,トニー谷(以上「ピーターと狼」)倍賞千恵子(ブリテン)

「ピーターと狼」の語りは普通1人でやるのですが,これは,何と役柄に応じて声優を7人も使っています。そのメンバーがなかなか豪華で,映画「ラジオの時間」を思わせるようなラジオドラマ的な雰囲気があります。ピーターの声の人はアニメのガンダムの声優だそうで,そう言われてみるとアニメの吹き替えのようでもあります。山田一雄さんの指揮も非常に丁寧です。カップリングは倍賞千恵子さんのマジメな語りによるブリテンです。

(2)プロコフィエフ/ピーターと狼,ブリテン/青少年の管弦楽入門,プロコフィエフ/組曲「キージェ中尉」
アンタル・ドラティ指揮ロイヤル・フィルほか
ショーン・コネリー(語り)

これはショーン・コネリーが語りを担当しています。ジェームス・ボンド時代のコネリーということで,非常にクリアで格好良い響きです(もちろん英語なのでよくわからないのですが,典型的なイギリス英語だと思います。)。(1)と比較すると全然別物のようです。ただし,オーケストラの音はかなり歪んでいます。

(3)ブリテン/青少年のための管弦楽入門ほか
渡辺暁雄(語り)/日本フィル

これは指揮者が語りも担当しています。こういうCDもいくつかあり,バーンスタインのものが代表的ですが,この渡辺暁雄さんのものも良い味を出しています。皇族の方がお話になられているような高貴な感じの語りです。録音は1960年代の前半ということで,(1)に比べるとかなり貧しい感じの音です。録音は悪くないのですがオーケストラ自身が貧しい感じです。それが,かえって高度成長期にかかろうとする当時の日本を反映しているようなところがあり,貴重な記録でもあります。このCDには,おもちゃの交響曲などがカップリングされているとおり,小学校の教材用として作られたものです。実は,私が子供の時,この演奏と全くおなじ演奏をレコードで聞いたことがあります(現在でも私の家にこのレコードは残っています。シングル盤のサイズで33回転という変なレコードでした)。私が最初にクラシック音楽を聞いた原体験ともいえる演奏で,懐かしいものがあるのでCDでつい買ってしまいました。

(4)プロコフィエフ/ピーターと狼ほか
クラウディオ・アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団
坂東玉三郎(語り)

これは録音,演奏の面ではいちばん良いのですが(なんといってもアバドの指揮ですから),語りが異色です。歌舞伎の女形の坂東玉三郎が声色を使い分けて熱演しています。少々演出過剰で,聞いているとかなり疲れますが,その後,このCDは再発売されていないようなので,珍盤として貴重なものかもしれません。

(5)プーランク/ぞうのババール
忌野清志郎(語り)高橋アキ
ピーター・ユスティノフ(語り)ジョルジュ・プレートル指揮パリ音楽院管弦楽団

この曲は,プーランクがブリュノフという人の童話に音楽をつけたものです。そのお話を忌野清志郎が朗読するという,これも変わったものです。ただし,この語りは少々堅過ぎるぐらいに真面目で朴訥です。ふつうのお父さんが子供に読み聞かせをしているという線を狙っているようです。このCDには,フランス語の語りのものもカップリングされているのですが,こちらの方は,ピーター・ユスティノフが担当しており,貫禄たっぷりです。(2)のコネリーといい,外国語で聞くと何でも大人っぽく聞えてしまうのは気のせいでしょうか?

(6)ストラヴィンスキー/兵士の物語
岩城宏之指揮,観世栄夫,観世寿夫(語り)

これまた異色の語りです。能楽の観世栄夫・寿夫が語りを担当しています。これは子供向けではありません。べらんめぇ調というか江戸ッ子のような話し方は,何となく落語を彷彿とさせます。岩城さんが指揮をしているバックの奏者たちは,当時のNHK交響楽団のトップ奏者たちです。

(1)(3)(6)はいずれも1960年代から1970年代前半に国内で作られたCDなのですが,その当時の企画力の斬新さには感心します。現在は,クラシック音楽もビジュアル中心になりつつありますが,ラジオドラマのように耳からだけ訴えてくる物語というのも再評価されても良いような気がします。

その他に,ピーターと狼には坂本九が語りを担当したものもあります。私が子供の頃FMで聞いたことがあるのですが,是非もう一度聞いてみたいものです。