オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第2期
山口恭子/一ノ瀬トニカ/猿谷紀郎:作品集
1)山口恭子/だるまさんがころんだ(1999)
2)一ノ瀬トニカ/美しかったすべてを花びらに埋めつくして・・・(1995年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品)
3)猿谷紀郎:碧い知嗾(ちそう)(2003年度オーケストラ・アンサンブル金沢委嘱作品)
●演奏
岩城宏之指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢
高木綾子(フルート*2)
●録音/2003年4月24日[1, 2],2003年9月19日[3] 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11723(2004年2月25日発売) \1000(税抜)


オーケストラ・アンサンブル金沢1000第2期の中の1枚。このシリーズ中,2枚が岩城宏之音楽監督の指揮の現代日本の作品集である。このCDは,その中の1枚で若手作曲家の作品集となっている。収録時間は35分ほどしかないので,もう1枚の作品集と合わせて1枚に収録できそうなものだが,やはり,アルバム全体のコンセプトとしては2枚に分けた方がそれぞれにCDの個性が出ることになるだろう。

今回収録されている作品はどの曲もタイトルが印象的である。初めて曲を聞く人にはタイトルを見て,どういう音楽が出てくるのかを予測する楽しみがある。曲の内容もタイトルと比例しているようなところがある。いちばん詩的な感じのタイトルの一ノ瀬さんの作品はいちばん物語性を感じさせるし,難しい漢字を使っていちばん読みにくい猿谷さんの作品はとらえ所がないようなところがある。山口さん作品もその名のとおり,人を食ったようなところがある。

山口さんの作品は,もとはもっと大きな編成のために書かれた曲であるが,音のキレ味の良さのある今回の演奏も悪くない。「ダダダダダダダ」という暴力的な音の連続が出て来た後,静寂が出てくるというパターンが続く曲で,音量やタイミングの対比の面白さがある。タイトルからすると,もっとユーモアのある曲かと思ったが,意外に真面目な「現代音楽」になっている。静かな部分になると会場のノイズが少し入っている。このことも含め,ライブの臨場感の感じられる演奏である。最後は,フッと途切れるように終わるが,子供の遊びが終わるような寂しさがある。いずれにしてもタイトルがあることでいろいろとイメージが広がる曲といえる。

一ノ瀬さんの作品は,1996年のOEKの定期公演で初演されている。終結部でフルートが演奏しながら客席に下りていき,退場するというパフォーマンスの入る曲なのでライブの方が楽しめる曲ではあるが,全体にタイトルどおりの詩的な気分があり,映画音楽などに近い,親しみやすさを持った曲となっている。

曲の最初から高木綾子さんのフルートの瑞々しい響きがドラマのドラマのヒロインのように出てくる。オーケストラに出てくるザザザザ...という葉っぱのざわめきのような音も心地良く響く。ただし,この辺は,やはりライブで聞いた時の方がもっと気持ち良く感じた。あらためてCDで聞いてみると,中間部などは,意外に現代音楽っぽい部分が多い。フルートは途中,強い音を出したり,優しい表情を出したりかなり変化に富んでおり,聞き応えがある。鈴の音とピアノの音が加わってくる後半部は,現実から離れて行くような浮遊感とファンタジーの世界を強く感じさせる。高木さんが同じ音型を繰り返し吹きながら退場していった終結部は,このCD録音でもうまく雰囲気が捉えられている。録音機器によるフェードアウトではなく,音が自然に遠く消えて行く感じが面白い。

猿谷さんの作品は,2003年のOEKの定期公演で初演されている。この当時,猿谷さんはOEKのコンポーザー・イン・レジデンスを務めていたが,それ以前からOEKは猿谷さんの曲をよく取り上げており,CD録音するのは3曲目のことである。いずれもタイトルが難解であることが共通している。今回の作品の初演をライブで聞いた時は,捉え所のない印象を持ったがCDで聞いてみると,一ノ瀬さんの作品とは逆になかなか気持ちの良い響きがあると感じた。特にオーボエをはじめとする木管楽器の音が印象的だった。ただし,都会の喧騒がだんだんと大きくなっていって,イライラ感がだんだん募って行くような構成の曲なので,個人的にはあまり繰り返し聞いてみたい曲ではない。

■演奏・録音データ
2002年4月24日に行われた第140回定期公演,同年9月19日に行われた第147回定期公演のライブ録音を主テイクとして,スタジオで編集されたもの。9月19日の演奏会の後半では,このシリーズに収録されている武満徹の「系図」の室内オーケストラ版が演奏された。

コンサートマスターはCDには明記されていないが,1,2の方がサイモン・ブレンディス,3がマイケル・ダウスである。猿谷紀郎は2003年度のOEKのコンポーザー・イン・レジデンスであり,この日の演奏が初演だった。他の2曲は初演ではなかったが,一ノ瀬作品はOEKが1996年3月8日に行われた第56回定期公演で初演を行っている。この時のフルートは小泉浩だった。山口作品は,1999年にデュッセルドルフで初演されている。

■参考ページ

オーケストラ・アンサンブル金沢第140回定期公演(岩城指揮/03/04/24)
オーケストラ・アンサンブル金沢第147回定期公演(岩城指揮/03/09/19)
(2004/04/18)