オーケストラ・アンサンブル金沢21
サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番;デュパルク/夜想詩曲「星たちへ」;グノー/交響曲第2番

1)サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調op.61
2)デュパルク/夜想詩曲「星たちへ」
3)グノー/交響曲第2番
●演奏
ジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
吉本奈津子(ヴァイオリン*1)
●録音/2009年2月26日 石川県立音楽堂コンサートホール(ライヴ録音)
●発売/ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-12295(2009年8月26日発売) \1500(税込) 

オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)21シリーズの2009年第5回発売は,2009年2月に行われたジャン=ピエール・ヴァレーズ指揮の第256回定期公演のライブ録音である。この公演の最初に演奏されたシャブリエの田園組曲は収録されていないが(是非,CD化発売してもらいたい作品),演奏会の雰囲気を十分伝える内容となっている。

プログラムは,フランス音楽で統一感が取られているが,ドビュッシー,ラヴェルなどの印象派の曲が入っておらず,古典的な形式をもったサン=サーンスとグノーの曲が中心になっているのがポイントである。もう一つの注目は,第1回岩城宏之音楽賞を受賞した吉本奈津子さんの演奏が収録されている点である。アルバムの最初から吉本さんの音が聞こえてくるので,OEKのアルバムというよりは,「半分は吉本さんのアルバム」というCDである。

このサン=サーンスは,冒頭から非常に丁寧にじっくりと演奏した真面目な演奏である。実演の時は,あまり感じなかったのだが,CDとして聞いてみると,かなり慎重な演奏に聞こえる。特に両端楽章で,もう少し気分が揺らぐような自在さが欲しい気がする。その分,安心して聞けるので,古典的な形式感を持つ協奏曲には相応しい演奏といえる。

第2楽章冒頭のしっとりとした主題の歌わせ方も,少々生まじめな感じはあるが,優しい表情は吉本さんらしさを反映しており,好感が持てる。終結部のフラジオレットも丁寧で美しい。また,この楽章を中心として,木管楽器をはじめとしたOEKとの自然な絡み合いが素晴らしい。ヴァレーズ指揮OEKの演奏は,短調の部分でも重苦しくなり過ぎることはなく,この曲のイメージに相応しい透明感としなやかさを持っている。

吉本さんは,第2回石川県新人登竜門コンサートに出演後,オーストラリアを中心に活躍し,今後は,オーストラリア・アデレード交響楽団のコンサートマスターとして活躍されるそうだが,機会があれば,OEKメンバーとの室内楽なども聞いてみたい気がした。

2曲目以降は,OEK単独の演奏である。デュパルクの「星たちへ」は,演奏されることは非常に少ない小品だが,静かな感動に満ちた曲で,「隠れた逸品」と言っても良い。デュパルクもフランスの作曲家だが,この曲については,森の中を思わせるような深遠さがあり,ドイツ音楽的な重厚さも備えている。ソロ楽器が順番に出て来るので,室内楽曲を拡大したような面白さもある。いずれにしてもヴァレーズさんは,OEKファンに素晴らしい曲をプレゼントしてくれた。

最後に収録されているグノーの交響曲第2番は,ビゼーの交響曲第1番に通じるような気楽に楽しめる交響曲である。雰囲気としては,ベートーヴェンの交響曲第7番を思わせる堂々とした響きで始まるが,すぐに明るく快活な響きに包まれ,音楽がスムーズに流れはじめる。この「お気楽さ」は,ヴァレーズさんのキャラクターにもOEKのキャラクターにもぴったりである。

第1楽章には,伝統的な交響曲らしい折り目正しさがあり,その枠を守った上で明るく機敏に飛び跳ねている。枠がある安心感が逆に自由さに繋がっているような演奏である。何の不安もなく,音楽に浸ることができる。

第2楽章以降も気持ち良い音楽が続くが,バレエ音楽に出て来るような「キャラクター・ピース」に近い部分もあり,曲の魅力を高めている。第2楽章の静かで親しみやすい歌,さらに魅力的なメロディの出て来る中間部,第3楽章の暗さがあるけれども親しみやすいスケルツォ,いずれも聞き応えがある。第4楽章も魅力的なメロディの連続で全曲を元気良く,粋に締めてくれる。

演奏時間としては,30分ほどあるのだが,その長さを全く感じさせず,曲の良さをストレートに聞かせてくれる。今回のCDを聞いて,ビゼーの交響曲と並ぶ「魅力が詰まった粋な交響曲」として,この曲は,お気に入りの一つにしっかりと登録された。

このCDは,ほぼ一つの演奏会を収録したものだが,前半の吉本さんの演奏部分については,「OEKのCD」という感じではないので,このワーナーのシリーズとは別に,独奏者に焦点を当てた「新人発掘シリーズ(Avexから発売されている菊池洋子さんのCDのようなスタイル)」のような別企画とした方が良いかもしれない。


●録音データ
2009年2月26日に行われた,第256回定期公演を収録したもの。コンサートミストレスは,アビゲイル・ヤングだった。
参考ページ:http://oekfan.web.infoseek.co.jp/review/2009/0226.htm
(2010/02/06)