オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第2期
ヴィヴァルディ:四季、アルビノーニのアダージョ他
1)ヴィヴァルディ:協奏曲集「四季」
2)バッハ,J.S.:G線上のアリア
3)アルビノーニ(ヴェルテン編曲):アダージョ ト短調
●演奏
ルドルフ・ヴェルテン指揮オーケストラ・アンサンブル金沢
サイモン・ブレンディス(ヴァイオリン*1)
●録音/2003年4月8日〜10日 石川県立音楽堂コンサートホール
●発売/ ワーナー・ミュージック・ジャパンWPCS-11726(2004年2月25日発売) \1000(税抜)


オーケストラ・アンサンブル金沢1000第2期の中の1枚。定期公演をはじめ各種公演に頻繁に登場しているルドルフ・ヴェルテンとOEKによる初めての録音である。このシリーズ5枚中,唯一,ライブ録音でない演奏だが,他の録音も入念な編集作業が行われているので,大差は感じられない。むしろ,ライブと言っても通じるような勢いの良さがこの録音にはある。

ヴェルテンとOEKは,バロック音楽からオペラ,現代曲まで,多彩なプログラムを演奏してきたが,この録音にも,その柔軟性に富んだ才能が見事に収録されている。基本的にはヴィブラートを控えめにし,スッキリとした感覚を出しながらも,多彩なアーティキュレーションとダイナミクスの変化を自由自在に駆使した,新鮮味溢れるバロック音楽となっている。緩急の差も明確につけているが,不自然な感じがしないのが素晴らしい。スマートさと斬新さを兼ね備えている点で,最近のバロック音楽の標準といっても良い演奏となっている。

有名な「春」の冒頭は,快適なビート感を伴って,すっきりと始まる。ソロの部分になるとテンポが少し落ち,生き生きとしたアドリブ風の掛け合いになる。嵐の部分の左右の掛け合いのステレオ効果も面白い(恐らく第1,第2ヴァイオリンは対向配置になっているのだと思う)。独奏のサイモン・ブレンディスのヴァイオリンは,非常にキレが良く,聞いていて胸がすく。

第2楽章のヴィオラによる犬の鳴き声の部分は,いろいろな場所からズレて聞こえてくるのが斬新である。第3楽章は春霞を思わせる音色が美しい。装飾音の付け方のセンスも粋である。長い休符を使った名残惜しさも印象的である。

「夏」は,緩急の差が非常に強く付けられている。後半の畳み掛けるような部分の迫力が素晴らしい。カッコウの声も非常にクッキリと描写されている。このコントラストの強さは,イタリアの夏の日差しの強さと影の濃さをイメージさせてくれる。この「夏」に限らず,全曲が非常に明確に演奏されており,とても分かりやすい描写音楽となっている。

「秋」はスタッカートのキレとレガートの対比が面白い。眠りの描写の後の,楽しげな狩のムードとも明確に対比が付けられている。

「冬」は,弦楽器の不協和音とチェンバロによる不気味な雰囲気で始まる。この表現力が素晴らしい。この後に出てくる,ブレンディスのソロは相変わらずキレが良く新鮮である。第2楽章のラルゴでは,通奏低音にオルガンの音が入っているようである。その上にヴァイオリンがシンプルな歌を歌う。

このような感じで,どの部分を取っても新鮮で,時にはかなり大胆な表現を含んでいるのだが,それが大げさで奇をてらった表現に聞こえない点が素晴らしい。そのことは,ヴェルテンの解釈が確固とした自信に基づき,OEK団員に浸透していることとブレンディスをはじめとする各奏者の技術水準の高さによると思う。

もう一つ,この録音で素晴らしいのは解説書である。1000円のCDにも関わらず,ヴィヴァルディが作曲の際にインスピレーションを得たとされるソネットの全文が対訳で掲載されている。私がこれまで持っていた「四季」のCDには,こういう情報は載っていなかったので,とても参考になった。

余白に収められた,G線上のアリアとアダージョの方は,全般に穏やかな表現で奇を衒ったところはない。G線上のアリアは,特に落ち着いたテンポによる標準的な演奏となっている。

アダージョの方は,ヴェルテン自身による編曲であるが,よく聞かれるジャゾット編曲のものと大きな違いはない。途中いろいろな楽器がソリスティックに活躍し,後半,大きな盛り上がりがバーンと出てくる点も同じである。この部分は非常にドラマティックな響きを出しているが,基本的にはG線上のアリア同様,着実に進んでいく演奏となっている。

以上のように,ヴェルテンとOEKによるバロック音楽集のCD第1弾は,見事な成功だった。OEKは,これまでバロック音楽のCDをほとんど行ってこなかったが,これを聞いて,OEKの新しい魅力と適応力の高さを感じた人も多かったと思う。是非,第2弾を期待したい。

■演奏・録音データ
2003年4月に収録されている。今回のシリーズでは唯一ライブ録音ではないものである。ヴェルテン指揮OEKによるヴィヴァルディの四季は,2001年4月27日に金沢市観光会館で行われた第102回定期公演で演奏されたことがある。この時のヴァイオリンもサイモン・ブレンディスだった。ヴェルテンがOEKの定期に初めて登場した演奏会だった。(2004/04/18)