オーケストラ・アンサンブル金沢1000 第1期
外山雄三;徳山美奈子;西村朗

1)外山雄三/管弦楽のためのディヴェルティメント
2)徳山美奈子/交響的素描(加賀と能登の歌による)
3)西村朗/樹海−二十絃とオーケストラのための協奏曲
4)西村朗/鳥のヘテロフォニー
●演奏
岩城宏之指揮 オーケストラ・アンサンブル金沢,吉村七恵(二十絃筝*3)
●録音/2002年10月11〜13日(1,2,4),2002年3月14〜16日,石川県立音楽堂コンサートホール  \1000(税抜)

オーケストラ・アンサンブル金沢1000第1期の中の1枚。岩城宏之の主要レパートリーである現代日本人作曲家の作品を集めている。ここに収められた曲は,いわゆる「現代音楽」的な難解な作品というよりは,具体的なイメージを聞く人の中に起こしてくれるような,分かりやすい作品である。特に,最初の2曲は,民族音楽的な要素を持っている。日本人の耳によく馴染んでいる叙情性と力強さのニ面を味わうことができ,聞いていて気持ちよくなる。

外山雄三のディヴェルティメントは,一言で言ってしまうと,有名な「管弦楽のためのラプソディ」の二番煎じのような作品である。いろいろな点で共通するところが多い。全体が3つの部分からなっている点,管楽器(特にフルート)が活躍する点,日本民謡を素材にしている点,クライマックスはたくましいリズムで盛り上がる点,などが上げられる。しかし,この「二番煎じ」は全然退屈しない。ラプソディ同様に大いに楽しめ,盛り上がる作品となっている。

この曲は「ラプソディ」よりは小編成(トロンボーンなし)で,急・緩・急というバランスの良い古典的な構成を取っているので,OEKには大変相応しい曲である。指揮は,この曲の委嘱者であり初演者であり作曲家の友人でもある岩城宏之だという点も注目である。いきなり,「ドンドンパンパン」とホルンで始まるのもおおらかだし,フルートが「ピーッ」と横笛のような感じで決めるのも格好よい。2楽章もフルートの味のある響きが堪能できる(ちなみにこの楽章のみは1999年に岩城指揮OEKでレコーディングを行なっている)。3楽章での打楽器とコントラバスを中心とした逞しいリズムも素晴らしい。アッチェレランドも聞き応えがある。全曲を通じて「和風」を満喫させてくれる楽しい曲である。

徳山の作品も岩城の委嘱による和風の作品である。時間的,構成的にも外山の作品と共通する点が多い(こんな言葉があるのかわからないが「三番煎じ」ということになる)。この曲を定期公演で聞いた時は,最終楽章の迫力が非常に印象に残ったが,CDで聞いてみるとしなやかさと瑞々しさが印象的に残った。同じ「和風」といっても,作曲者の世代の違いが表れているのかもしれない。

各楽章とも石川県各地の民謡を素材にしている。1楽章はわらべ歌を扱いながら,非常にスマートにまとまっている。2楽章の山中節では,オーボエ〜チェロのソロが美しい。オーボエの音は人間の声のように聞こえるし,チェロの音色は,「風の盆」といった雰囲気である。3楽章の和太鼓風の土俗的な響きが格好良い。それでいてのんびりとした雰囲気があるのは,石川県の県民性(?)を反映しているのかもしれない。このCDでは,叩きつけるような太鼓の音が大変良く収録されているのも魅力である。この曲は,OEKのアンコール・ピースとして委嘱された作品だが,それだけにOEKの数多い委嘱作品の中でももっとも親しみやすい曲と言える。

西村の「樹海」もOEKのために作曲された曲である。二十弦筝という邦楽器を使っている点では和風ではあるが,他の3曲と比べるとやや難解である。曲の中では,やはり吉村七重の筝の演奏が聞きものである。筝の音が美しくも神秘的に響き,何となく,ハンガリーの民族楽器のツィンバロンのような雰囲気も漂う。後半には特殊奏法の必殺技が連続している。ヒタヒタと迫ってくるような弱音や熊蜂の飛行を思わせるような部分など,不思議な世界に浸ることができる。

最後の「鳥のヘテロフォニー」は,OEKのレパートリーとして完全に定着した曲である。OEKのコンポーザー・イン・レジデンス制度の最大の成果と言える。過去,何度も再演されているのは,この曲の持つエネルギー感と響きの面白さが聴衆を捉え続けているからである。特にギスギスした鳥の声の響きがあちこちから飛び交ってくる様子は大変聞き応えがある。所々出てくる,ストラヴィンスキーを思い出させるような野性的なリズム感も新鮮である。中間部のSF映画の宇宙空間を思わせるような響きも面白い。次第に頭の中がトリップして来るようである。

OEK自身この曲のレコーディングを行うのは2度目のことである。現代音楽の中では非常に珍しいケースと言える。この曲は生で聞くと緊張感と凄みがヒシヒシと伝わってくる曲である。その意味では,今回のライブ録音の方が1993年録音のスタジオ録音盤よりも魅力的だと言える(クールで非情な味を持つ1993年も素晴らしいが)。

■録音データ
2つの演奏会のライブ録音が中心となっている。1,2,4曲目は2002年10月13日の定期公演で演奏されている。この公演はOEKの中国公演の壮行演奏会だった。3曲目だけは2002年3月16日の公演で演奏されている。録音データを見ると複数の日付が書いてあるので,ゲネプロでの演奏も使用していると思われる。両演奏会ともコンサート・ミストレスはアビゲール・ヤングだった。

■演奏時間の比較
外山の「ラプソディ」「ディヴェルティメント」と徳山の交響的素描との演奏時間の比較をしてみる。ディヴェルティメントと交響的素描の構成が似ていることがわかる。ディヴェルティメントは編成的にはラプソディよりは小さいが,曲の長さの点では約倍の時間となっている。
  第1楽章 第2楽章 第3楽章 合計
ディヴェルティメント(岩城/OEK,2002年) 3:11 5:12 3:58 12:21
ディヴェルティメント(岩城/OEK,1999年)    5:31      
ラプソティ(岩城/NHK響,1961年)            6:36
徳山/交響的素描 3:49 4:28 3:48 12:05

「鳥のヘテロフォニー」の2回の録音を比較してみる。今回の演奏の方がライブということもあって,2分ほど速くなっている。CDの注記によると,今回のレコーディングでは,「作曲家の了承を得て,オリジナル譜の楽器編成から若干の変更がされています」とのことである。比較した感じでは,全体に新録音のテンポの方がやや速目であるが,終結部近く以外ではそれほどテンポの違いは感じられない。録音の方は1993年の方が音がダイレクトに生々しく収録されている。新録音の方は生々しさよりも会場全体の響きが感じられ,よりソフトな感じがある。
  演奏時間
岩城/OEK(2002年録音) 17:40
岩城/OEK(1993年録音) 19:39

■参考ページ
オーケストラ・アンサンブル金沢第129回定期公演M(岩城指揮/10/13)
オーケストラ・アンサンブル金沢第117回定期公演PH(岩城指揮/林英哲他/03/16)
(2003/03/12)